まさかの半年ぶり。
今回の作品は完全なる番外編です。これが書きたくて本編の文化祭が桃太郎になったんだよ。ホントだよ。
むかーしむかーしのとある国に。母親が死んだ父子家庭の娘の家に子連れの後妻が嫁いできたそうな。
後の父曰く、
「あの頃の自分はどうかしておったのです」
と泣く泣く語り。
とうの娘は、
「親父、マジ女見る目ない」
とたいそう憤慨したそうな。
そしてその嫁、夫のいぬ間は好き放題。家事の全ては娘にやらせ、連れてきた二人の娘たちと召使い扱い。娘に新しい衣服も与えず、贅沢も娯楽も与えませんでした。それどころか、私腹を肥やすために財産を好き勝手浪費し、足りないと見るや娘の許可もなく家のものを売り払う始末。そうこうしているうちに父親も心労でポックリ逝き、そのまま遺産までも食いつぶす始末。
もはや娘に味方なし。継母と二人の義姉達にいびられこき使われる日々に涙を流す。
そんな娘をご近所さんは、灰かぶり姫、『
「待てやコラ!!」
なんでしょう?
所々ほつれた部分が目立つ衣服(ワンピースです)を着た少n……少女、シンデレラが床を拭いていた雑巾を叩きつけて叫びます。
「なんで俺がシンデレラ!? 普通王子様とかじゃないのか!?」
なんと厚かましいのでしょう。しかし、ピッタリでしょう? ほら。
「シンデレラ! 何をサボっているんですか!!」
「お母様!?」
扉をバーンッ! と開け放って現れたのはこの家の継母こと、真季奈お母さんでありました。
「だからなんなのこの配役!! ヒロインが主人公虐める意地悪キャラ……ってベストマッチじゃないかこの野郎ぉおおおおおおお!!!」
「お母様に向かって野郎とはなんですか!!」
パーーーンッ!! 継母の腰の入ったビンタッ!
「ありがとうございます!!」
の配役に不満を漏らすシンデレラでしたがそんなことなどお構いなしにと今日も継母のビンタが彼女を虐めます。
と、そこへ。
「シンデレラ! 私のスーツはクリーニングから帰ってきているか!?」
「シンデレラ!! 私のバイトのメイド服は用意できているんだろうな!!」
二人の意地悪な姉たちも現れました。どちらも良く似た顔立ちの、しかしサイズが違う黒髪の女性たちで、
「千冬姉ぇとマドカじゃん! この義理の家族、ガチの身内しかいねぇえええええええええええええ!!!!」
織斑家、ではなく。シンデレラの家のリビングで夕餉が始まりました。豪華な料理がテーブルに並び、椅子は三つ。その傍らにはダンボールがぽつんと一つ床に置かれていた。
「まぁ羨ましいですねシンデレラ! 一人だけ専用のテーブルがあるなんて!!」
「なんて見え透いた家庭内格差!! いっそ笑えや!!」
「プーーークスクス!!」
「チクショウ絶好調か!」
「イエーイ! ギンガナーーム!」
真季奈はそれはもういきいきとしていた。この作品が始まって一番じゃないかと思えるほどに愉しく、テンションが爆上がりである。
まさに水を得た魚の如し。
故に、織斑一夏……シンデレラへの継母からのいびりは苛烈を極めた。
窓の淵に指を這わせれば積もった埃を指摘し、作らせた料理は例えどんなに美味しくても満足のいくまで作り直させる。トイレ掃除は一日三回。庭の草むしりは終わりが無く日が暮れるまで続く。手があく暇などあるはずなど無く、あってもその時間は継母への奉仕の時間になるだけで。
「シーンデーレラーッ! 肩がこったので揉みなさい!!」
「ハイハイただいまこんちくしょー!!」
そんな生活が幾日か過ぎて、シンデレラこと一夏はこの状況についていくつかのことに気づいた。まず、このおかしな現状に自分以外誰も気づいていない。この世界が『シンデレラ』だということにだ。家族は自分を娘だと思っているし、血縁だと思っていない。しかも、時代設定? なにそれ美味しいの?と言わんばかりに中世っぽい世界観に現代日本の文化を持ち込む始末。アンタら、ちょっとは自重しろと言いたいがグっと堪える。じゃないと、掃除機を使えないしトイレが水洗じゃなくなる……ような気がする。
そうしたある日に、その日は唐突にやって来た。
「娘たち! 婚活パーティーですよ!!」
「はぁ……そうですか」
「っしゃぁあああああああ!!! いよっしゃぁあああああああああああああああああああ!!!」
どこからかっぱらってきたのか、継母の手に握られていたのは王家の刻印が印された布告状だった。あれ? ちょっと血みたいな染みついてない? 気のせいだよね? 何してきたの!?
そこに記されていたのは王城より布告された、女性限定参加の『王城パーティー』の詳細である。
継母たち三人の反応はそれぞれ。
継母こと真季奈は不敵な笑みを浮かべて、私何か企んでますと顔に貼り付けている。
マドカこと意地悪な姉その二は興味なさげ。そこはシナリオ無視で本人の性格が出ている。
千冬姉ぇこと意地悪な姉その一は……うん、察して。
俺? 興味ないっすよ? なんで男の身で旦那さん探さなきゃなんないのさ。しかもお相手はこの国の王子様でしょ? 配役だれだよ。
「さぁ娘たち! ドレスはこの街の仕立屋から一番いいのを足元を見まくって用意したから早くこれを着なさい!」
止めてやれよ可哀想だろ仕立屋さん。
継母が取り出したのは三着の見苦しくないレベルに豪奢なドレスだった。
「もちろん請求はシンデレラにツケときましたから!」
可哀想なのは俺だった!! いくらなんだよそれ!? ローン効くよな!?
継母のいびりは地味に辛いものが多いです。
「シンデレラ! もちろん貴方の分のドレスはありませんよ!」
「ありがとうございます! 借金が一人分減りました!」
「も、もちろんパーティーにだって連れていきませんからね! 悔しいでしょう!!」
「あ! このパーティー、会費が一人三万円じゃねぇか!? 誰が行くかこんなもん!!」
「豪華な料理が楽しみですね! 貴方は留守番して残飯でも食べてなさい!!」
「カレーは二日目からが美味しいんだよなー」
「わたしの分も残しておきなさい!!」
リビングで自慢を繰り返す彼女をシンデレラは身もせずに台所に向かう。
真季n…継母がグヌヌと悔しそうにしているが気にしない。興味の湧かないパーティーで俺の気を引こうとしても、その手には乗らないのだ。
「ふーーーーんだっ!!! もういいです! こうなったらわたしが王子を口説き落としてこの国乗っ取ったらぁあああああああ!!!」
「いや待たんかい!!」
一気に興味が湧いたよチクショウッ!!!
しかし、すでに遅し。
継母は姉二人を引き連れ、王城へと向けて既に姿を消していた。
「行動力ありすぎだろうオイ!」
リビングを振り返るも誰もいない。先程までの騒がしさが嘘のような静寂がその場を包む。
マズい、これはマズいぞ。
つい何時ものノリで継母こと真季奈をあしらっていたが、ここは『シンデレラ』の舞台。認めたくはないが、自分はシンデレラなのだと思い知る。
真季奈の、『継母』のシンデレラ虐めに『織斑一夏』への執着は薄い。愉しそうにしてはいるが、それはあくまでも本人の性格と配役がベストマッチしているだけのこと。ならば、その行動も『物語』に沿って、しかし、彼女の個性が侵食してしまうほどに進んでいく。
「これ、どうなるんだ?」
『シンデレラ』とは、不幸のどん底少女が王子様に見初められて幸せになるというストーリーだ。
だが自分はそれ程不幸でもない。いや、世間一般から見ればそうかもしれないが、自分としてはそうでもない。慣れたものだし。そういう意味では既に物語の展開としては破綻している。
最悪、マジで継母の王家乗っ取りもありかもしれない……真季奈ちゃん継母、若い姿のままだし……。
というよりも、それは自分が気に食わない。
「真季奈をポッとでの王子に取られてたまるかい!!」
ならば行動あるのみ! 物語を軌道修正、テコ入れである。
お話のとおり、シンデレラとして王城のパーティーに乗り込んで継母よりも先に王子をかっさらってやればいい。
と、いうわけで。
「魔女の人ーーーッ! 早く出てきてくださーーい!!」
他力本願である。だって自分、無一文の『灰かぶり姫』ですもの。でもいいじゃないか。これもシナリオ通りだし。
『呼ばれて飛び出て魔法使いデウスさん!!!』
「お前かい!!!」
台所の窓をぶち破って、そこから現れたのは黒い毛並みの柴犬ことデウスであった。彼はその毛皮と同じ色の黒いローブにトンガリハットを被り、手(前足)には先端にドクロがついた魔法のステッキを持っていた。
お前、魔法使いじゃなくて魔王だろそれ。
『さぁ! 哀れで愚かで幸の薄き少女シンデレラよ!!』
「泣くぞおい」
人んちの窓をぶち破っておいての言い草に腹を立てるが今は脇に置いておく。気持ち的にイラっとしても、ここは魔法使いことデウスの協力が必要なのだ。
『お前がこの聖戦に赴くための、素晴らしい一張羅を用意してやる!!』
ん?
そう言った魔法使いの言葉の意味に首を捻るよりも早く、その呪文は綴られた。
『チンチラホイ!』
ドクロの杖を呪文と共に振ると、ポンッ! という音と光と共にシンデレラの衣装が変わる。
「まぁ、なんて素敵な『
『アラホラサッサ!!』
さらに振ると。
「まぁ、なんて素敵な馬車」
シンデレラの目の前にはそれはもう見事に武装された装甲馬車オーキスが。
『バイバイキーン!!』
最後に杖を振ると。
「まぁ、素敵な従者」
馬車を操る二人の従者……ISで完全武装したスコールとオータムが現れました。
「オイ待てや」
そこでとうとう一夏がツッコンだ。
「お前らパーティーの意味わかってる!?」
完全武装である。王子とパーティーでレッツ・ダンシングするどころかレッツ・パーリィーしそうな格好である。
『さぁゆけい!! 見事デュノア城を陥落させ、真季奈の嫁入りを阻止してこんかぁああああああああああい!!!!』
「お前そっちが目的か!? って、ちょっと待てデュノア!?」
ところ変わってここは王城。
国力が世界三位の国、デュノア王国のお城デュノア城。
その大広間には国中の娘達が集っており、その視線は一人の人物に注がれていた。
デュノア王国の第二王子、シャルル・デュノアにである。
「異議あり!!!」
「どうしたシャルル?」
突然、天に向かって叫び出した弟に声をかけるのはこの国の第一王子にして、シャルルの兄である。名前はまだない。
「おかしいよね!? なんで僕が王子!? これシンデレラだよね!?」
「お前は何を言っているんだ?」
「ですよね!」
彼女と兄との間で何度もされたこのやり取り。しかしその疑問に答えてくれるものは誰もいない、疑問にすら思っていない。
そう、シャルルことシャルロットもまたこの『配役』に疑問を持つイレギュラーなのであった。
「そもそも、継母に虐められるいたいけな少女って言う配役は僕にピッタリだと思うんだけど!? それで王子は一夏!! 本編でたいして掘り下げなかった男装シャルルの設定をこんなところで掘り下げなくてもいいじゃない!!」
「シャルル?」
「なんでもないです!!」
愚痴たっていいじゃない! 味方もいないんだから!!
そう、いないのだ。
周りの人達は皆この物語のキャストで。自分は『王子様』という部外者だ。助けを求めたところでそれこそ『話にならない』。
「そもそも、助けだって……どうすれば……?」
集まった女性たちを見渡す。そこにいるのはどうにも見たことのある……あって当たり前のIS学園の女子たちだった。ただし全員しっかりと配役に染まっている。
つまり、見事なまでの役無し少女たちである。
ちなみに。
「箒に鈴にセシリアにラウラ、簪に会長が居ないのは意外だなぁ……」
なんということか。実は密かに期待していた学友達の姿もなかった。これではますます助けもなさそうで……ん?
「待って、そういえば……一番の問題児が居ない!?」
それに気づいた瞬間!
「「「王子様はどこじゃぁーーーーーーーーー!!!」」」
「真季奈!? それと織斑先生にマドカ!!」
彼女達はやってきた。それもフル装備で。
「あれはIS!? なにやってるの!?」
着ているドレスは生地が少なく肌地が多く。ISの装甲の動きに邪魔にならない仕様で。そんな仕立てに誰がしたと、聞いてやっては仕立て屋の店主が影で泣く。
何をやっているかって?
「殴り込みです!」
「なんでさ!?」
『シンデレラ』ってこんなお話だったっけ!?
王子様の元に殴り込んでくる三人の女達。そんな配役いただろうか?
ん? 待って、三人組?
「ま、まさか……意地悪な継母とその姉達!?」
「なぜ我が家の家庭事情を!?」
物語の登場人物から真季奈たちの正体をピタリと言い当てたシャル。この状況、いろんな意味で言葉が出なかった。
真季奈に虐められるシンデレラってまさか!?
考えちゃいけない、しかしそういうわけにもいかない。
だって、シンデレラに誰がなったのか、わかっちゃったんだもん!!
「おいシャル! あの素敵な女性は何者だ!?」
「兄さんは黙ってて! というか真季奈にまた一目惚れしたの!?」
駄目だこの兄、趣味が悪すぎる。
「さぁ王子様! この国ごと貴方を貰い受けます!!」
「助けて一夏ぁあああああああああああ!!!」
涙目で叫んだ王子様の声は……届くかな?
タイトルのとおり前編です。続きはまた。後編はそのうちに。
『織斑一夏』はバーサル枠。それもGP-01系なので、馬車は装甲馬車オーキスとなりました。
童話にキャラを投入するのは愉しいですが、基本ぷらもんは配役にひねくれたキャスティングをします。なので男だろうとドレスを着せます。
没キャスト
継母:束
姉1:クロエ
姉2:ラウラ
シンデレラ:真季奈
王子:一夏
これだと多分パーティーが開かれる前に婚姻届が出されちゃうので話がすぐに終わる。
あと、家庭内ヒエラルキーが 真季奈>>>>>超えられない壁>束>クロエ>ラウラ なので、むしろ虐められるのはラウラになりかねないので没に。
後編は、「ドキドキ! デラーズ王国式城塞落とし! これで王子もイチコロだ!」作戦です。