後編も書き上がり次第投稿いたします。
しかし、ルリ・ファミリーと言う題名なのに前編では肝心のルリが出てこないことに……
2019/5/06 追記
前後編を統合いたしました。
ふよふよと空を飛んで目的地であるトンカシティを目指す一隻の飛行庭。
その操舵輪を現在アルティが握っている。
彼女の後ろ姿はどこか嬉しそうに映る。
問題が解決しそうなのもあるのだろうが、それ以上に久しぶりに家族たちに会えるのが嬉しいのだろう。
(早くトンカに着かないかなぁ……)
その彼女の想いが飛行庭に届いているかはわからないが、ゆっくりと、しかし確実にトンカシティへと近づいていっているのだった。
そうして、時に談笑し、時に操舵を交代しながら、しばらく進んでいくと前方に一つの島が見えてくる。
トンカシティがある島、名前もそのままトンカ島だ。
「皆さん、トンカが見えてきましたよ」
この時、操舵を握っていたのはキリエであり、トンカ島が見えてきたことを現在休んでいる皆に告げる。
すると中で待機していた全員が次々と出てきて、口々におぉー、やっと着いたなどのことを零していた。
「でも、アルティさん」
「どうしたの?」
「今更ですが、長距離航行用の飛行帆くらいはつけておいても良かったのでは?」
「うぐっ」
そのキリエからのツッコミに、アルティは思わず胸を押さえる。
彼女自身思うところはあったのだろう、言い訳とは解りつつも言葉を零す。
「だって、この頃忙しくて、トンカに行く余裕なんてなかったんだもん。 一応以前注文はしてたからもうそろそろ完成はしてるとは思うけど……」
その言葉に今度はミコトから、生暖かい視線と共にツッコミを入れられる。
「……アルティ、何を言ってるの。 一月も前に飛行帆が完成したって連絡は来てたわよ」
「…………えっ?」
その言葉を聞いたアルティは、ギギギ、と錆びたブリキのような動作でミコトの方を向く。
そしてそのアルティの様子に、やっぱり忘れてたか、と半分呆れ半分嘆きの状態でミコトはさらに追撃の言葉を告げる。
「アルティ、あなた、その連絡届けてくれた整備員の方に、こちらに持ってきて装着しましょうか? って、訪ねられた時に『トンカに行くことがあると思うのでその時にお願いします』って答えてたじゃないの」
その言葉を聞いたアルティはしばし無言になり、そのやり取りを思い出したのか。
「あ、あぁぁぁ!! あの時のこと!? あれって飛行帆のことだったの?!」
「……むしろそれ以外に何があると思ってたのよ、あなたは」
「アルティ……。 やっぱりしばらく妾たちに任せて、ゆっくり休んだほうがいいのではないのか?」
「アルティさん、流石にそれは擁護できませんよ……」
三者三様に心配され、生暖かい目に晒されたアルティは流石に耐えきれ無かったようで。
「あうぅ~~~~…………」
上空千メートルにその悲痛な叫びを木霊させた。
最も同情する御魂は誰も居なかったが。
アルティの悲痛な叫びの少し後、一行は無事にトンカシティへと到着し、飛行庭を発着場にドッキングさせた後に、地上へと降り立った。
最もアルティに関しては、精神的に無事とは言い難い状態ではあったが。
その様子を見たミコトは、やれやれとしながらも、このままでは埒が明かないと思い、先に飛行庭の改造をお願いしにマイスター達のところに移動しようとしたが、そこに一組の男女が現れる。
「おぉ、あんたたちやっと来たか」
「まったく、待ちくたびれたわよ。 ルリ様も首を長くして待ってるし、さっさと来なさい。 ……所で、なんで工房主さんはそんなに煤けてるのよ?」
「気にしなくていいわ。 それよりもお久しぶり、フェネアン、シュレム」
ミコトにそう声をかけられた両名、シュレムと呼ばれた男性は軽く手を上げて挨拶し、フェネアンと呼ばれた女性は、アルティの頬を指でぷにぷにと押しながら、本当にこれ放置していいの? と、視線で問いかける。
「いいのよ。 それよりも二人とも丁度よかったの」
「丁度よかった?」
「私はこれから用事があるから、アルティを含めた他の子たちの案内をお願いできる?」
その言葉に、二人は目をパチクリとさせるとお互いの顔を見て頷きあう。
「それはいいんだが、ミコト。 あんたのその用事ってのは一体何なんだ? ルリ様はあんたに会えるのを一番の楽しみにしてるからな。 俺が変われるんだったら変わるんだが?」
その言葉にミコトは、別にたいした用事じゃないと答えようとして。
「お~い、フェネアン、シュレム。 やや、これはミコトさん」
「あら、貴方は、丁度よかったの。 今から向かおうとしてたのよ。 でも二人とお知り合い?」
その人物、先程飛行庭内で話題に登っていた整備員であり、疑問に思ったミコトが問いかけると、それに対してフェネアンが答える。
「あぁ、彼を探してたのね。 彼は私達と同じ仲間よ、それで理解できると思うけど」
「なるほど、そうだったの」
その答えで理解したのかミコトは相槌を打つ。
そして間がいいのか、悪いのか、先程まで煤けていたアルティがやっと精神的に落ち着いたのか、フェネアンたちがいることに気付く。
「あれ? フェネアンさんにシュレムさん? いつの間にここに?」
「あぁ、工房主さんやっと気付いたのね。 さっきまで煤けてたから何事かと思ったわよ」
その言葉を聞いてアルティは再び意識をあちら側に飛ばしそうになるが、なんとか踏ん張り言葉を返す。
「え、えぇ、ちょっといろいろありまして……。 それはそうと、フェネアンさん、それにシュレムさん。 あたしのことは、アルティって呼び捨てでいいですよ」
「そう? なら、アルティって呼ばせてもらうわね」
そうフェネアンが答えると、改めてよろしくね、と手を出しつつ言う。
その手を出した意味に気付き、アルティも手を出して二人は握手をする。
その後、シュレムと同じようなやり取りをしていると、アルティが元に戻ったことに気付いたのか、整備員と話していたミコトがこちらにやってくる。
「あら、アルティ。 やっと戻ってきたのね」
「ミコトちゃんと、整備員さんお久しぶりです」
「とりあえず飛行庭改造の打ち合わせは終わったわよ。 ルリとの話し合いの間には終わらせられるらしいから、私たちは改めてルリのところに向かいましょう?」
「そうなんだ。 それじゃ整備員さん、後はよろしくお願いします」
そう言って、アルティは頭を下げると皆と共にフェネアン、シュレムについて行った。
飛行庭発着場を出ると、なだらかな坂に並ぶ住宅街や、そこかしこに浮遊し街中を警備しているマリオネットたち、そしてそれらとはまた違うブリキ人形のようなものと共に訓練している歩兵や二足歩行ロボに搭乗しているパイロットたちが目に見える。
ここが都市国家であると同時に、飛行庭の唯一の生産地であり、そしてこの世界において失われた過去の技術『キカイ』を継承した工房都市トンカである。
その街並みを暫く進むと、思い出したかのようにシュレムがキリエに話しかける。
「そういえばよ、メイドさん」
「? 何でしょうか?」
「いや、そのよ、セレスさんのこと、ありがとな」
そう言いシュレムはキリエに頭を下げる。
それでなんのことかわかったキリエは、いえいえと返答する。
というのも、以前アルティの蘇生が成功した後、御魂たちがそれぞれの道を歩みだす時に、この二人、フェネアンとシュレムもまた冒険者家業を再開させるというのを、キリエは風の噂で聞いたのだ。
だがこの二人お世辞にも冒険者に向いているとは言い難く、以前も無謀な行動をした結果ルリに助けられ、そのままルリを主と仰ぎ共に行動していた。
今回再開する際に、ルリ自身もお目付け役として同行するらしいが、彼女自身身内にはとことん甘い性格なのを不安に思ったキリエは、御魂の中でも生真面目で礼儀正しいセレスを、アルティからの荷物を配達して、と偽りの依頼を出して派遣したのだ。
確かにこの二人のことを考えたためでもあったが、そもそもセレスとルリに対する悪戯心での行動でもあったため、改めて感謝を述べられるとやりづらいのかもしれない。
そういったやり取りをしながら進んでいると、目的地に到着したのか案内人二人の足が止まる。
そこには豪邸とまでは行かないが、一般的な家屋よりは豪華であろう一軒家が建っていて、そしてその家の前には一人の女性が浮いていた。
金髪のセミロングヘアに黒を基調とした大人しめなワンピースを着て、背中に小さく赤黒い翼と、頭上には禍々しい形の紅い光輪を掲げたその女性こそが、先程シュレムが言っていたセレス、その人である。
どうやらセレスも外出していたらしく、今戻ってきたようだ。
そして全員に気付くとニコリと微笑んで声をかけてくる。
「あら、二人ともお帰りなさい。 それとアルティさん、お久しぶりです。 他の皆さんもお元気でしたか?」
「わーいわーい! セレス、久しぶりなのだー!」
そう言いながら、メイはセレスの元へトテトテと走り寄っていき、思い切り抱きついた。
セレスは驚くものの、きちんと受け止めてメイの頭を良い子良い子、と撫でる。
「にゅふふ~、それにしても……」
メイはそう言いながら、セレスとキリエを見比べる。
二人はその意図がわからずに首を傾げていたが。
「メイさん、どうしたんですか?」
「なんというか、二人を見ていると相変わらずどちらが【ドミニオン】で、どちらが【タイタニア】なのか、初対面の人は分からないんだろうな、と思ったのだ!」
そう言われ苦笑する二人、見に覚えがありすぎるのだろう。
以前御魂になった者は見た目が変化する、と書いたのは覚えているだろうか。
そもそも、このアクロニア世界群には、3つの世界と、4つの主な種族が存在する。
まず世界についてだが、これは地上と称されるエミル界、天界と称されるタイタニア界、そして地底もしくは地獄と称されるドミニオン界の3つである。
この3つの世界、本来は平行世界であり、はるか昔にエミル界で建造された施設【天まで続く塔】と呼ばれる次元エレベーターの誤作動により、偶発的に移動できるようになった世界群だ。
そして結果的にではあるが、この接続が後に種族間戦争である資源戦争を引き起こすことにもなる。
次に種族についてだが、これはある意味わかりやすいだろう。
エミル界に住まう人間種であるエミル族、タイタニア界に住まう天使に似た種族タイタニア族、ドミニオン界に住まう悪魔に似た種族ドミニオン族、この3つの種族が基本となる。
そして4つ目の種族、この世界群の外から現れた侵略者であり、機械種族のデウス・エクス・マキナ、通称DEM種族、この4つの種族が主な種族となる。
他にも古の民や、精霊、モンスターなども住んでいるがそこは割愛する。
そこを踏まえて件の二人の容姿を見てみると。
まずはキリエ、彼女の背中から生えている天使のような翼と、本人の慈愛を浮かべたほほ笑みを見てタイタニア族とよく勘違いされるが、臀部から生える悪魔の尻尾が指し示すように、彼女の本来の種族はドミニオン族である。
次にセレス、彼女の赤黒い翼や禍々しい光輪から悪魔的と連想され、よくドミニオン族と勘違いされるが、彼女の光輪は本来天使の輪っかそのものであり、そのことが指し示すように彼女の種族はタイタニア族である。
と、そこでシュレムが、メイに対して否定の言葉を告げる。
「まぁ、そっちのメイドさんはどうかは知らないが、セレスさんが間違われることは少なくなってきたんだぜ。」
「そーなのかー?」
「ああ、俺たち三人とルリ様で冒険者をやってただろう? そのおかげか知らないが、全員それなりに有名になってるのさ。 セレスさんの場合は『見た目ドミニオンに見える、タイタニアの大鎌使いの女性』って感じでな」
その話を聞いて吃驚したのか、セレスはシュレムに問い詰める。
「えっ! ちょっと待ってくださいシュレムさん、その話初耳なんですけど!」
「そりゃそうだろう、こういった噂は得てして本人の耳には入らないものさ」
そう言ってシュレムは軽く流す。
その時どこからか、パンパン、と手を叩く音が聞こえる。
皆がその音が出た場所に注目するとそこに居たのはフェネアンだった。
そして皆が自身を見たことを確認したフェネアンは、周囲を見渡した後に言葉を続ける。
「はいはい、世間話はここまで! ルリ様も、きっと待ちくたびれてると思うから、さっさと家に入りましょう」
そう言うと彼女は我先にと、目の前の一軒家に入っていく。
それに続いて他の面々も、慌てて入っていくのであった。
家に入った後、アルティ一行は応接室に通されると、そこには丈の短い和服と羽織を着た艶やかな黒髪をツインテールに結んだタイタニアの少女がいた。
彼女こそがアルティの家族の一人で、今回の目的の人物でもあるルリである。
そしてその対面にはもう一人、恰幅の良い男性が居た。
アルティたちに気付いた恰幅の良い男性は少し、驚いた仕草をした後にルリに話しかける。
「おや、ルリさんのお客人ですかな? これは長居をしてしまったようだ、それでは私はここで失礼させていただきます。 今回の提案、色よい返事を期待いたしますぞ」
そう言って恰幅の良い男性は、まずはルリに一礼した後に、部屋を出る際にアルティたちにも軽く頭を下げ部屋を出ていった。
男性が完全に出ていったことを確認すると、ルリは大声を上げる。
「まったく何なのよ、あの男は毎回毎回! フェネアン! シュレム!」
突然ルリに呼ばれた二人は背筋を正して返事をする。
『は、はい!』
「塩撒きなさい、塩!」
二人ともルリの剣幕に慄くが、フェネアンが恐る恐るといった感じで声を出す。
「……あの~、ルリ様? あの人にも悪気があるわけではないので、その、怒りを沈められていただけると」
その言葉を聞いたルリは、それこそ気の弱い者なら失神しかねない眼光で、フェネアンを睨みつける。
それを受けたフェネアンは、ひぅ、と小さく悲鳴を上げながらもさらに言葉を続ける。
「そ、それにです、ね? ミコトたちも来たので、元の調子に戻っていただけると助かりますぅ」
そう半泣きで告げると、流石にまずいと思ったのか、ルリは数回深呼吸をして、気を落ち着かせる。
そこでミコトがルリへと話しかける。
「でも、ルリがそこまで怒るのも珍しいの。 一体どうしたの?」
その言葉に先程の怒りがぶり返してきたのか、ルリは声を荒げる。
「どうしたもこうしたもないわ! あの男『貴女にはもっと相応しい邸宅があるのでは?』
なんて毎回引越しを進めてくるのよ! あたしは、ここが気に入ってるのに!」
そう言ってルリはさらに怒りを募らせていく。
このルリの怒りという爆弾が爆発するかわからない状態を打破すべく、シュレムが刺激しないようにゆっくりとした口調で彼女へ提案を出す。
「あの、ルリ様。 とりあえずの話し合いは俺たちで進めておきますので、気分転換をされてきては?」
そしてさらにセレスとミコトの顔を見てさらに提案を続ける。
「セレスさん、ルリ様のお相手をお願いしてもいいか? それとミコトとメイちゃんも、できれば一緒にしてくれるとありがたい。 最後の詰めの時には、必ず呼ぶから」
その言葉に三人は頷くと、ルリを連れて部屋を出ていく。
それを見送って、フェネアンとシュレムは大きく息を吐いた。
『はぁぁ~』
そしてその後にシュレムはアルティたちに謝罪をする。
「済まないな、いきなり変なものを見せて。 こっちもいろいろあってな……」
「さっきも言ったように、あの人は決して悪い人ではないのよ。 ただ何というか、致命的なまでに空気が読めないというか……」
そう二人は疲れたように言葉を発する。
アルティは二人を気遣うように声を掛ける。
「なんだか、大変みたいだね。 でも一体どうしてこんな事になってるの?」
「……あぁ、そのことについてはいろいろと訳があってだな」
と、シュレムが言いにくそうにしていると、フェネアンが代わりに説明を始める。
「えっと、まず、今トンカっていろいろ複雑な状況になってるのよね」
「複雑な状況?」
アルティはそう言いつつ首を傾げて、キリエを見てみるが、彼女も心当たりはないらしい。
わからない以上は聞いてみるしかないということで、フェネアンに先を促す。
が、当の本人は、あ~、と言いながら頭を抱えていたが、なにか覚悟を決めた様子で話し出す。
「その複雑な状況を説明する前に、いろいろと説明しなきゃなんだけど、まず私たちとアルティたちの出会いについて思い出してもらえるかしら……」
そうフェネアンは気乗りしないながらも、二人に問いかける。
問いかけられた二人は、思い思いにその時のことを思い出していく。
「最初は【ノーザンプロムナード】でキリエさんと出会った時でしたよね?」
「そうでしたね、最初はミアお嬢様を誘拐されて助けるために追跡していたら、実際の目的は私で不覚を取ったんでしたね」
「うん、それであの人の協力があってキリエさん自身も助け出されたんだったよね」
二人はそう思い出しつつ頷きあう。
因みに、あの人とはアルティたちに度々関わっている人の良い冒険者のことである。
そしてアルティはその次のことについても思い出していく。
「確か次は、セレスちゃんの時だったね。 あの時はアクロポリスで、私が誘拐されかけたんだったね」
「あの時だけじゃないけど、本当にごめんなさい」
そう言ってフェネアンたちはアルティに頭を深々と下げる。
その二人の様子に慌てたアルティは、手をパタパタと振りながら声を掛ける。
「ちょ、ちょっと二人とも! そのことに対する謝罪はもう前にも受けたし、それにルリちゃんのことを思っての行動だったんでしょう」
「それでも、というよりは、だからこそよ。 私たちの行動はそのままルリ様の評判にも直結するの。 特にこのトンカにおいてはね」
そう言いつつ、顔を上げたフェネアンはさらにアルティたちに問いかける。
「それで、ここまで思い出してもらったのだけど、おかしいと感じるところはなかったかしら?」
「おかしいところ?」
「そう、おかしいところ」
フェネアンに問われ、二人とも考えてみるが特に思い当たるフシが無いようで首を傾げている。
その姿を見たフェネアンは少しため息を付きつつも、人の良い彼女らでは仕方ないかと思い、さらに問いかける。
「それじゃ、ルリ様と初めてお会いする時のことは覚えてるわよね?」
「? うん、覚えてるよ。 あの時は確か直接的な戦闘もしてたよね。 で、その後ルリちゃんとお話をして仲直りしたんだよね」
「そう、このトンカの街中で御魂を封印する道具を持って、貴女たちと戦ったの。 それで、ここまで言ったのだけど本当におかしいところはないかしら?」
そう再び問うと、キリエはなにか気付いたようだが、アルティは再び首を傾げるだけだった。
再びのその光景を見たフェネアンは肩を落としながら答え合わせをする。
「アルティ、貴女は本当に人が良いわね……。 私たちは今まで誘拐、誘拐未遂、傷害などの犯罪行為を行っているの。 しかも、ノーザンとアクロポリスでは変装らしい変装はしていないから顔も割れてる状態よ。 でも今お咎め無しで冒険者をやってるわよね? おかしいとは思わない?」
そう言われてアルティはハッとした表情になり、納得したとばかりに手を叩く。
「……なるほど、確かに! あれ? でも確かフェネアンさんとシュレムさんは、その時『酒場では出ない冒険者の依頼をこなしてるだけ』って、言ってたよね?」
「……貴女、あの時袋詰にされてたのによく聞こえてたわね。 えぇ、そのとおりよ」
アルティはそう言ってフェネアンに聞くと、彼女はどこか感心しながら同意する。
そこで今まで沈黙を保っていたシュレムが話を始める。
「……あぁ、そのとおりだ。 そしてここから先は、かなりやばい内容になるから他言無用で頼む」
「シュレム……」
フェネアンはシュレムを不安そうな顔で見るが、彼は心配するなとばかりに声を掛ける。
「お前にばかり嫌な役回りを押し付けるつもりはないさ。 それでお二人さん、覚悟は決まったか? 今ならまだ聞かないという選択肢もあるぞ。 あんたらの目的を果たすことと直接関係のない話ではあるからな」
そう言われたアルティは真剣な表情で返答を告げる。
「最後まで聞くよ。 それでルリちゃんの今の状況がわかるのなら」
「そうか、わかった」
その答えに彼も覚悟を決めたのか、深呼吸をした後に説明を始める。
「あの一連の事件、俺達自身の意志でもあるが、同時にちゃんと依頼主も存在したんだわ。 そしてその依頼主は【トンカ政府】だ」
その言葉、ある意味においては特大級の爆弾を投げ込まれたアルティとキリエは驚愕する。
「……えぇ! それってどういうこと!」
「ちゃんと全部話すから、落ち着いてくれ。 ……前に俺たちがルリ様に救われたこと、他にも大勢救われた人間がいることは話したよな?」
その言葉に二人は頷く。
「そしてルリ様は古くから生きている方だって言うことも知ってるよな。 つまり俺たち以前にも大勢の人を救っていらっしゃるんだよ、あの方は」
そこでフェネアンがさらに言葉を続ける。
「そしてその人たちの一部が政府内部に居て、暗躍しているのよ。 全てはルリ様のために、ってね」
「で、でもルリちゃんは偉い人と仲良くなると、その分別れも増えるからなるべく関わらないようにしてたって……」
「ええ、そうね。 ルリ様が『直接』関わった人は行政府内部には居ないわ」
その言葉を聞いて二人はしばし考え込んでいたが、キリエはなにかに気付いたのかまさかといった表情になる。
「……もしかして」
「気付いたみたいね、でも一応聞いてみようかしら。 どうしてだと思う?」
「……政府内部にいる人たちは、かつてルリさんに救われた人たちの子孫なんですね?」
その答えを聞いたフェネアンは正解とばかりに頷く。
「そのとおりよ、そしてあの人たちはご先祖様ができなかった恩返しのために、ルリ様を探し、ここトンカに居を構えてることを知ると、少しづつ、少しづつ、内部に浸透して影響力を拡大していったのよ」
その言葉を聞き、一体どのような執念があればそのようなことができるのか、と薄ら寒さを覚える二人。
そしてそこからはシュレムが再び話し出す。
「それで一連の事件の話と俺たちの話に戻るんだが、はっきりと言ってしまうとトンカから各国への圧力があったんだ。 『現在我が国は、過去に存在した御魂という危険な兵器を封印するために捜索中である。 各国にも捜索チームを派遣するので、邪魔しないでいただきたい。 もしも妨害が見受けられた場合は、その国に対しての飛行庭供給を停止する』ってな」
まぁ実際にはルリ様のもとに連れてくるための嘘だったけどな、とシュレムは言う。
その話を聞いていた二人は、トンカ政府のなりふり構わずぶりに驚愕する。
「なぜ、そこまでの無茶を……」
「それどころかそれは、もうただの脅迫じゃない! そんなことしたら、他の国が宣戦布告をしてくるって思わなかったの?!」
そもそもにおいて、飛行庭とはトンカの東方に位置する孤島【マイマイ島】に存在するバオバブの木、と呼ばれる成長することによって浮力を得る特殊な木を材料に作られる名前のまま、飛行する庭である。
そしてこの飛行庭はアクロニア大陸の外、各島を渡航する際に必ず使用される。
というのも、このエミル界に関しては古の民との盟約というものが存在する。
なぜそのようなものが存在するのかというと、実はエミル、タイタニア、ドミニオン各種族もある事情でこの世界群に移住した来訪者であり、本来住んでいた現地住民である古の民と交渉した際、『陸地には住んでも良いが、そのかわり海に入ることを禁ずる』という盟約を結んだためである。
なのでこの世界群においては、海上を航行する船舶は発展せず、その代用品として飛行庭が開発、普及したというわけである。
「……政府には勝算があったんだよ。 時にアルティさん、飛行庭を最も使っているところはどこかわかるか?」
「さっきの各国に対する供給停止の話を合わせると、まさか……」
「そう、そのまさか。 各国の国防軍や、混成騎士団だ」
混成騎士団とは、東西南北に存在する各国がアクロポリスの中立性を保つため、という名目のもと派遣している軍のことである。
無論そこには各国の思惑や、派遣されるに至った経緯も存在するのだが、それはまた別のお話で。
「そして各国の軍は仲があまりよろしくないことも知ってるよな? 今は多少改善されたらしいけど」
「うん、まぁ。 ある程度改善された経緯も知ってるけど……」
「だが当時はまだ改善される前で、各国が好きに動いていた。 それこそ、連携などという言葉が考えられない程度には。 そしてその状況で、飛行庭の確保ができなくなった場合どうなると思う?」
そう言われてアルティは考え込み、そして彼女は一つの結論に達する。
「あの時にもしもそんな事が起きた場合? そうか、飛行庭は武装されてるものもあるから、最悪軍事バランスが崩壊する!」
「そう、そして他国がそんな隙を見逃すと思うか?」
その言葉にアルティは首を横に振ることで答えとする。
「つまりはそういうことだ。 各国は静観するしか道はなかったってことだ」
そして話す隙を伺っていたのだろう、今度はフェネアンが話し出す。
「そしてここからが複雑な状況の説明になるのだけど……」
「そういえば、元々その説明のための説明だったね。 正直今の時点でもお腹いっぱいなんだけど……」
そう言ってアルティはげんなりとした顔になる。
それを見たキリエは困ったような顔をしながら、まぁまぁと言ってアルティを宥める。
「アルティさん、説明も大詰めに入ったということですから」
「うん、それはわかってるんだけどね……。 ルリちゃんがそんな苦労をしてたとなるとね……」
「いや、その、ルリ様、実は今回のこと何も知らないのよ……?」
そう申し訳なさそうにフェネアンが告げると、二人はぽかんとした顔になり、そして何度も確認をとって事実だと認識すると愕然とした表情になる。
「いやなんでそんな状況になるの?」
「それを今から説明するのよ……」
アルティが呆れたように告げると、フェネアンもまた同じように告げる。
だが彼女に関しては、アルティに呆れたわけではなく、過去の自分たちにその感情が向けられていることが見て取れた。
「で、さっき大まかに話した彼ら、私たちも含めてだけど、わかりやすいようにルリ様を頂点とした家族『ルリ・ファミリー』またはただ単にファミリーと呼んでるんだけど、これには大まかに3つの派閥ができてるのよ」
その言葉にキリエは疑問を呈する。
「……派閥、ですか?」
「そうよ」
そう言ってフェネアンは詳しく説明を始める。
「まずは過激派。 これはルリ様の意志に反してでも、ルリ様の幸せを追求するという派閥よ」
「ちょっとまって。 本人の意志を無視しても、幸せにはならないんじゃ……」
アルティが怪訝そうに告げると、フェネアンは肩を深々と落とし、黄昏れた表情をする。
「……言わないで、今は私たちが一番わかってるから。 本当にあのときの私たちは何をやってたのかしら……」
「え、それって……」
「そうよ、私たちルリ様親衛隊も元々は過激派閥だったのよ。 あなた達と出会ってからの出来事のおかげで、変わることができたのよ」
「……そうなんだ」
フェネアンは黄昏れていながらも、どこか誇らしげにそう話し、説明の続きを始める。
「次に穏健派。 これは主にルリ様の共に暮らし、お世話をしたり、陰ながら支えることのみを追求しようという派閥よ。 そして最後に中道派。 これは過激、穏健どちらにも所属していない人たちのことね」
その時、部屋のドアがキィ、と開き複数人の人影が入ってくる。
が、フェネアンはその事に気づかずに説明を続けている。
「で、最近というか、あなた達との間の出来事がきっかけになって、私たちを含めて多くの過激派閥所属者が他派閥に鞍替えということが起きて、最大派閥だった過激派の影響力が激減してるのよ」
「へぇ、そうなの」
「えぇ、それでさっきのルリ様に引っ越しを勧めていたのも、その派閥所属の人で、ルリ様を使って影響力を高めようとしてるんでしょうね。 それがなければいい人なのだけれど」
「なかなか興味深い話をしているわね。 それで下僕共? もっと詳しい話を聞かせてもらえるかしら?」
「はい! ルリさ……ま?!?!」
そこでようやく自身たち以外に人がいることに気づいた四人は、部屋に入ってきた人影の方を向く。
そこには見事なまでの青筋と笑顔を浮かべたルリと、すまなそう表情をしているルリと共に部屋を出た三人が居た。
「ごめんなさい、ルリさんが二人のことが心配だからってさっき戻ってきたの」
セレスが両手を合わせながらそう謝ってくるが、説明をしていた二人はそれどころでは無いようで、ルリの方に視線が釘付けになっている。
そしてそのルリは、いつの間にか手に持った槍を二人に突きつけて話を催促する。
それに対して二人は正座をして、ペコペコと頭を下げる
「ふむ、これがドゲィザァーというものか……」
それにメイが何故か感心したような態度で告げるが、ルリは満足していないようで最後通牒とばかりに告げる。
「何時までそんな格好しているの、さぁ下僕共さっさと全て洗いざらい話しなさい? 嘘や誤魔化しは一切なしでね!」
その言葉に土下座をしていた二人は、正座した状態でお互いを抱きしめて震えながら、先程アルティたちに説明していたことを告げるのであった。
そして説明を一通り聞いたルリは二人に、とても、そうとても優しい声色で告げる。
「よく話してくれたわね二人とも。 それでもう一つお願いがあるのだけど?」
言葉こそ優しいが、雰囲気に凄みを感じたのか、二人は直立した体勢で震え、全身に汗を流しながら返事をする。
『は、はっ!』
「その過激派閥の幹部連中全員を、今すぐここに連れてきなさい!」
『は、はいぃィィィ!!』
ルリの顔が般若の如く変化し、そう強く伝えると二人は弾かれたように部屋を出ていった。
後にトンカで一つの噂が囁かれるようになる。
その噂というのも、トンカの重鎮や不動産王、経済関係者などの著名人が一つの民家に集まり、その中から少女の怒鳴り声が聞こえたと思ったら、最後には傷心し肩を落とした著名人たちが出てきたというものだった。
そしてその噂との関係は不明だが、同時期にトンカが各国に対して、過去の御魂武器に関しての発言の謝罪の声明を発表、同時に飛行庭の格安整備や販売などの交渉をしたいとの発言を各国大使館に通達し、関係者は首を捻る事となる。
「……はぁ、まったく」
ルリは疲れた顔で肩を落としながらため息を吐き、他の全員は引き攣った顔でそれを見ていた。
そしてアルティは意を決したようにルリに話しかける。
「ええと、ルリちゃん、お疲れ様……?」
「まったくもって本当にね……。 それでアルティは相談があったのよね?」
「あ、ええと、うん」
そう問われたアルティは、曖昧な返事を返した後に工房の現状を説明し、ルリに人員の融通を打診する。
それを聞いたルリは嘆息した後に答える。
「……なるほどね。 でも正直少し待って頂戴、今回のことで私のしもべたちがどれほどの規模なのかを把握しないといけなくなったから……」
「あ、うん、そうだよね」
「でも安心して頂戴。 ちゃんと調べ終わった後に人はそちらに派遣するから」
「え、でも大丈夫なの?」
アルティが不安そうに聞くと、ルリはまず呆れた顔になり、次に笑顔を浮かべながら答えを返す。
「まったく、何を言ってるのよ。 ……あたしたちは家族といったのは貴女でしょ、アルティ。 なら遠慮なんてしないの!」
そう言いながら彼女の方を優しく叩く。
するとアルティもまた笑顔になり、ありがとうと礼を言った。
その後部屋の中にいる全員である程度の打ち合わせをした後に、慌てて部屋を出ていった二人が帰ってきたため、そこでアルティたちは御暇することとした。
「それじゃ、ルリちゃんまたね」
「えぇ、あなた達も元気でね。 また今度会いましょう」
そして彼女たちは背後から聞こえるルリの怒りの声を背景に飛行庭発着場へと向かい、アクロポリスへと帰るのであった。