大分難産でしたが、ようやく書き終わったので投稿いたします。
ヒスイとの商談の翌日、アルティの工房を俄に騒がしくなっていた。
フェネアンとシュレム、そして二人に引き連れられたライブスタッフ用の人員や、冒険者たちが到着したのだ。
「すまねぇ、社長さん。またせたな」
「ごめんなさい、アルティ。あっと、社長って呼んだほうが良いのかな?」
そう言って軽く頭を下げるシュレムと、後頭部を掻き、苦笑いを浮かべながら告げるフェネアン。
なお、人員の受け入れに関しては、件の約束のようにファミリーの棟梁であるルリが中心になって行っており、恙無く進んでいる。
「いえいえ、二人ともこんなに早いと思ってなかったから、ビックリしちゃったよ。大変だったでしょう? ありがとうね」
アルティもまた二人に告げると、そのまま頭を下げる。
アルティの行動に、二人は照れながらも慌てたように彼女に頭を上げるように促す。
二人の慌てた姿に、アルティが軽く吹き出すと、二人もつられたのか、吹き出して三人で軽く笑う。
三人のその光景に、遠くで人員受け入れをしていたルリは訝しげな表情をしながらも、黙々と受け入れ作業をしているのだった。
その後、ルリを中心とした受け入れ作業も終わり四人は休憩をしていた。
「それにしても、本当に人が来るのも早かったし、受け入れもあっという間に終わっちゃったね。びっくりしちゃったよ」
アルティがルリ達三人に告げると、ルリは得意満面な笑みを浮かべ、シュレム、フェネアンの二人は、ルリを見ながら苦笑を浮かべる。
「まぁ、ルリ様がかなり張り切ってたから、ファミリーの皆もルリ様を失望させないようにと、いつも以上に張り切って、と言うよりも張り切りすぎた結果だな」
「あら、下僕。なにか問題があるのかしら?」
ルリがアルティに対して苦笑しながら話していたシュレムに告げると、彼は曖昧な表情を浮かべながらも、申し訳なさそうに告げる。
「いや、ルリ様、問題はないんですがね。ですが、以前ルリ様に絞られた連中が悲壮感を漂わせながら行動してるのを見てると、自業自得とわかってはいても流石に可哀想に見えちまいまして……」
「本当に自業自得じゃないの。当人の意思を無視して行動したらどうなるか、身を持って知れたのだから、むしろ良かったじゃないの。私以外だったらどうなっていたことか」
憮然としながらも、どこか心配したようにルリは喋る。
その事に気づいたフェネアンは、少し可笑しそうに笑いながら話を打ち切るように促す。
「まぁまぁルリ様。彼らのことは置いておいて、先ずはライブのことを優先しましょう。アルティもそれでいいわよね?」
話を振られたアルティは、うんうん、と頷きながらフェネアンの提案に乗る。
「そうだね、ライブを心待ちにしてる人達も多いし、開催できるように頑張ろう!」
アルティが力強い表情で、握り拳を作りガッツポーズをしながら告げると、他の三人も彼女の意気込みが伝わったのか、真剣な表情をしながら頷き、そのまま会議に入り、人員の配置はどうするか、開催時期はどうするか、などのライブの大まかなスケジュールを決定するうちに日が暮れて、そのまま解散することとなった。
そして、先の会議から数日後。
その後も何度かに分けて会議を行いながらも、それと並行して会場の設営やチケットの制作、並びに販売のための下準備を行うことになっていた。
アルティは今回のライブの主役である、ローレライとフォルテの二人と軽い打ち合わせを行っていた。
「それで二人とも、今回のライブお願いするわけなんだけど、なにか要望とかあるなら言ってほしいな」
「……ん~、要望ですか」
ローレライは人差し指を唇に当てながら、可愛らしく首を傾げて思案する。
フォルテもまた考え込んでいるようで、難しい顔をしながら唸っている。
その時何かを思いついたようにローレライは何かを閃いたような、はっとしたような顔をして手をぽんと叩く。
「そう言えばライブの時間を決めてなかったような? それなら、夕方に開催したいですね~」
「夕方に?」
ローレライの言葉にアルティが首を傾げると、ローレライはその疑問に答えるべく口を開く。
「そうです、この前のライブは昼間行いましたけど、仕事で忙しくて行けなかったから、もうちょっと遅い時間か、皆が参加しやすい祝日に開催してほしいって要望がファンの方からきてまして」
「そう言えば、ファンレターでも書かれてたね。アルティちゃん、なんとかなるかな?」
フォルテもまた、思い出したかのように手をぽんと叩き、アイティに質問する。
二人の言葉にアルティも納得したようで、ウンウン、と頷き。
「それじゃあ、それで調整してみるよ」
二人にそう告げると、足早に今回人員を総括しているルリと、会場を提供するアンディの下へと向かうのだった。
そして、アンディとルリの二人の下に辿り着いたアルティはローレライとフォルテから聞いたことを伝える。
「…………と、言うことなんだけど、大丈夫かな?」
「わたしの方は特に問題ないわよ。アンディの方はどうなのかしら?」
ルリはアルティの質問に、安心させるように頷きながら大丈夫と意思表示をして、アンディの方を向くと、そこには何故か漢泣きをしているアンディのの姿があり、思わずといった感じに表情を引き攣らせる。
そのルリの姿を見たアルティもまた、何事かと思いアンディの方を向き、そしてルリと同じように顔を引き攣らせつつも、恐る恐るアンディへと声を掛ける。
「……あの、アンディさん? 一体どうしたの?」
その声で我に返ったのか、アンディは服の袖で顔をゴシゴシと乱暴に拭くと、感極まったように大声を出す。
「僕は今、猛烈に感動している!!」
突然大声を聞かされた側、特に話しかけるために近づいていたアルティからすると耐え難いものだったようで、咄嗟に耳を手で覆ったものの、それでも防ぎきれなかったのか躰をふらつかせている。
その事に気づいていないアンディは、体を小刻みに震わせて更に声を出す。
「ローレライさんがそこまでファンのみんなのことを考えていたなんて!」
「いや、フォルテくんも似たようなこと言ってたんだけど……」
アルティがそうツッコミを入れるものの、自分の世界に入っているのか、もしくはただ単にその声が聞こえてないのか、アンディはそのことには気付かずに善は急げとばかりに行動を開始する。
「こうしては居られない! ローレライさんの想いを無駄にしないためにも、伝えなきゃこの想い!」
「え、あの、ちょっと、アンディさん?」
アンディは大声でそう叫ぶと、猛ダッシュでその場から離脱していく。
後に残されたのは、アンディを呼び止めようとして腕を前方に突き出した形で呆然としているアルティと、アンディの奇行を見て深々とため息をつくルリの二人だった。
しばらくそのまま固まり続けるアルティだったが、心配したルリに肩を揺すられて正気に戻る。
「ちょっと、アルティ。いい加減戻ってきなさいな」
「……え、ああ、ルリちゃん」
アルティが正気に戻ったことにルリは内心安堵しているが、そのことを噫にも出さずに普段の調子で彼女に問いかける。
「……それで、アンディのあの調子だとあちらも問題ないようだけど、二人のお願いを聞くってことでいいのよね?」
「あ、うん、その方向で調整お願いします」
アルティからの答えを聞いたルリは了承したと頷くとともに、彼女の背中を優しく押して声をかける。
「それじゃアルティ、詳しい日程は後から皆で相談するとして、まずは他の人に変更があることを伝えてきなさいな。わたし達に確認取りに来たってことは、まだ事務方には伝えてないんでしょう?」
ルリの言葉を聞いたアルティの顔がどんどん青褪めていく。
どうやら今事務として頑張ってくれている三人、即ちミコト、キリエ、セレスのことを思い出したようだった。
おそらく報告が遅れて怒られることを想像したのか、アウアウ、と挙動不審になっていく。
それを見たルリは苦笑いを浮かべながら、アルティへと発破をかける。
「ほらほら、アルティ。此処で立ち止まって無為に時間を無駄にしてたら、それこそミコトから雷が落ちるわよ。早く行ってきなさい」
「うんわかった! ありがとう、ルリちゃん!」
その言葉で此処に留まるのは愚策と判断したアルティは、ルリに感謝の言葉を述べると決意をした表情で走り出す。
なおその決意とは三人、主にミコトから怒られないようにするためといったある意味情けないものではあったが。
そしてルリは微笑ましそうな顔でアルティの背中が小さくなるまで見送っていた。
事務所で工房やライブ関連の書類整理や、備品の発注などの業務が一段落し、しばしの休憩を取っていた三人は、唐突に部屋に現れて謝り出すアルティに困惑していた。
彼女に謝られる理由が皆目検討のつかない三人は、まずアルティを落ち着かせて、その後に謝る事について問いただして理由を理解すると、キリエとセレスの二人は苦笑いを、そしてミコトは困惑した顔のままで自身の額を揉み解した後に、ツカツカと無言でアルティに近づくと、彼女の両頬に腕を伸ばして気持ち軽めに引っ張る。
ところでミコトが御魂であることは以前語ったが、彼女の御魂武器は大剣、正確には大太刀に分類される刀であり、華奢な体つきに見える彼女がそれを得物として振るえる以上、それ相応の膂力があるわけで。
つまり、どういうことかと言うと……。
「あぅぅ、
あまりの痛みにアルティは涙目になりながら、ミコトの腕をタップして残り二人に助けを求める。
だが助けを求められた二人も、わざわざ虎の尾を踏みたくないのか、もしくは先程の理由に思うところがあったからか、触らぬ神に祟りなしとばかりにその救援要請を黙殺する。
その事でさらに涙目になるアルティだが、その時ミコトの表情に変化が起きる。
先程まで能面のような無表情であったが、アルティを見てニコリと微笑む。
それを見たアルティは、その表情に希望を見出したのか引き攣った状態ではあるが笑顔を浮かべるが、次の瞬間。
「ふぎゅぅぅう」
ミコトは両頬を掴んでいた腕をくるくると回した後に、一気に左右に引っ張りつつ解放。
引っ張られていた頬こそ解放されたものの、流石に最後の一連の行動の痛みに堪えたのか、アルティは痛みを抑えるかのように両手で頬を押さえつつしゃがみ込む。
アルティはしばらくそのまま痛みを堪えていたが、少し痛みが引いて周りを見る余裕ができたらしく、恐る恐るミコトを見上げるとそこには。
「…………」
無言で腕組みをしつつ仁王立ちする、戦神もかくやという雰囲気を醸し出すミコトの姿があった。
(あ、これ、終わったかも……)
ミコトを見上げたまま、表情を引き攣らせどんどんと顔が青ざめていくアルティと、それに反比例するように、事情を知らぬ者が見たならば爽やかな笑顔を見せながらも、烈火の如く怒る感情が見え隠れしているミコト。
その日、事務所からまるで活火山が噴火したよう少女の怒声と、微かに聞こえる別の少女の平謝りする声が聞こえたという。
まるで荒御魂と見紛うほどに感情を爆発させたミコトを、なんとか鎮めることに成功したアルティ達三人であったが、それで全員、ミコトも含めて疲労困憊となりライブの日程については、翌日改めて主要メンバーを集めて決めることにしてその日は解散となった。
一夜明けて、工房内にある会議室にアルティを始めとする主要メンバーが集っている。
その中には当然ミコトの姿もあったが、一晩立ったことで冷静になったのか昨日の怒りが嘘のように静まっている。
それでもやはり恐怖が残っているのか、アルティは時折ミコトの顔色を窺っている状態であり、ミコトもまたその事に気付いているが特に気にした様子もなく澄ました表情で席に座っている。
「それでアルティ、ローレライたちの話ではファンの人達が参加しやすい時間、夕方ないしは休みの日が良いって要望があったのね?」
ミコトに問いかけられたアルティは一瞬小さく震えて反応するものの、特に怒られているわけではないと理解するとその質問に答える。
「う、うん。二人の話だと、この前のファーイーストのライブの時にそんな意見をもらったって言ってたよ」
「……そう、なら考慮しないわけにもいかないわね」
アルティの答えを聞いて、ミコトは思案顔になりながら部屋にかけてあるカレンダーを流し見る。
そのカレンダーを見た時に何かに気付いたのか、彼女は小さな声で呟く。
「そう言えばもうすぐエイプリルフールだったわね……」
ミコトの呟きに、他の面々もカレンダーを見て、今が三月中旬であることを確認すると各々納得の表情を見せる。
「そうでしたね、もうそんな時期なんですね」
「時間が立つのって早いですよね」
キリエとセレスもうんうん、と頷きながら雑談に興じる。
そもそも彼女たちがなぜエイプリルフールについて話しだしたかというと、此処数年アクロニアでは誰が始めたのかは不明であるが、エイプリルフールにイベントを開催するのが通例になっているためであり、現在はアクロポリス評議会が主なスポンサーとしてアイドル総選挙や、同人誌即売会などを開催している。
「でも、今年はイベントについて何も聞こえてきませんね?」
「あら、そうなの?」
キリエがイベントの情報が出ていないと告げると、ルリが不思議そうに聞き返す。
その問いに追随するようにミコトもまた口を開く。
「わたしの方でも聞いた覚えはないのよ。アルティはどうかしら?」
「あたしも聞き覚えないよ?」
この場にいる全員聞き覚えが無いようで一様に首を傾げる。
そこでミコトが何かを思いついたのか、ルリに対してとあるお願いをする。
「ねぇルリ、今あなたのところに手が空いてる人っているかしら?」
「うん? いるとは思うけどどうしたのよ?」
「その人に伝えてギルド元宮に行ってもらいたいのよ」
「ああ、そういう事ね。ならある程度融通の利く人間、フェネアンとシュレムを向かわせるわ」
ミコトのお願いの意味を理解したのか、ルリは無線機を取り出して二、三言告げると返答が帰ってきた後に、満足そうに頷くと無線機を片付けてミコトに再び話しかける。
「二人とも今丁度近くにいたらしいから、すぐに向かうそうよ。そのうちまた連絡があると思うわ」
「了解したわ。あるがとう、ルリ」
ミコトは感謝の言葉を告げると軽く頭を下げる。
ルリはミコトのその行動に軽く手を上げて笑いかけることで返答とする。
「それじゃ、二人の確認待ちだけど、取り敢えずはエイプリルフールに開催を想定して浜試合を続けましょうか」
ミコトの言葉にこの場にいる全員が頷き同意する。
そこからは、改めてライブでの人員配置や現在の準備状況の報告での確認などといったことをして話を進めていく。
一通り話し合いが終わって後は二人からの報告が来るのを待っていると、ルリの無線機に反応があった。
ルリは落ち着きながらも、素早く無線機を手に取って応答する。
「それで結果はどうだったの? うん、そうなのね。上出来よ、よくやってくれたわね。後でまた詳しい内容を伝えに行くからよろしく伝えておいてくれる?」
ルリが応答している間、他の面々は固唾を呑んで見守っていたが、彼女が話している内容から良い知らせであるというのがわかってソワソワし始める。
そして応答が終わった彼女は再び無線機を片付けると皆を見回して先程の内容を改めて告げる。
「エイプリルフールのイベントとしての許可が降りたわ。それに評議会の方も乗り気だったそうよ」
ルリの言葉を聞いた面々はそれぞれ喜びの歓声を上げる。
そのまま騒がしくなるが、パンパン、と拍手の音が聞こえて、全員の視線がその音の出処、ミコトのもとへと集中する。
「ライブの日程も決まったことだし、今日は解散してそれぞれの仕事を終わらせましょうか。アルティもそれでいいわよね?」
「うん、そうだね。皆、今日はありがとう。お疲れさまでした」
アルティが告げると、皆思い思いに話をしながら退室し、それぞれの持場へと向かう。
アルティとミコトもまた、評議会と話をするためにギルド元宮へと向かうのであった。
アルティたち二人が赴いたギルド評議会との話し合いも恙無く終わり、その後は評議会をも巻き込んでの一大イベントとして準備を進めていき、特に何も問題は起きずにライブ当日を迎えることになった。
なお当初はアンディ所有の飛行庭が会場の予定であったが、評議会から場所の提供されて専用のコンサート会場で開催することになり、更に多くの入場者、並びにライブ関係者が入ることとなる。
そして現在ライブ開催まで後少しといった時間帯、アルティは舞台裏でローレライたちと話していた。
「ローレライちゃん、大丈夫?」
「大丈夫ですよ~。モウマンタイというやつです、泥舟、もとい大船に乗ったつもりでお任せあれ。……おや? でも伝承的な意味ではどちらでも最終的に沈没するような……?」
「ねぇ、本当に大丈夫なの?!」
「ふふふ、ジョークですよ、マーメイドジョーク」
ローレライがアルティをからかって遊んでいると、安心させるようにフォルテが声をかける。
「あはは、アルティちゃん落ち着いて。大丈夫だよ、俺たちは何度もやってるからさ。だから安心して、ね?」
アルティに語りかけながら、ふにゃっとした人好きのする笑顔を浮かべて安心させようとするフォルテ。
その甲斐あってか、アルティは落ち着きを取り戻したようで彼女もまた笑顔を浮かべる。
その時、舞台から音楽とライブが始まる旨の放送が聞こえてくる。
「おおっと、始まりますね。じゃ、いってくるのだぜ」
「うん、行こうか。アルティちゃん、行ってくるよ」
二人はアルティに軽く告げて舞台へと向かう。
アルティもまた笑顔を浮かべて二人に激励の言葉をかける。
「二人とも頑張って! 行ってらっしゃい!」
その言葉にふたりとも振り返りも歩みも止めずに、片腕を上げることで答え舞台へと上がっていく。
二人が舞台に上がり前を見渡すと、そこには観客席を埋める人々の姿があり、皆思い思いに過ごし、気が早いものに至ってはすでにサイリウムを振っているものまでいた。
ローレライは人々の注目を集めるために、マイクを使い喋りだす。
「お~、いぇ~、皆さん乗ってますか~」
演技で気怠げな表情をした彼女から発せられた言葉に反応した人々から、まるで会場が揺れんばかりの歓声が響き渡る。
その会場の反応を聞いたローレライは、一拍置いた後に再び会場に向けて話し出す。
「会場は温まってるみたいですねぇ。それじゃ、前置きもいらないでしょうし行きますよ~。【いえす!らぶりー♪ますたー☆】!」
彼女の曲名の掛け声と共に軽快な音楽と、フォルテの伴奏が響き渡る。
そして彼女が花開くような笑顔とともに愛する者に送るような甘い歌を歌い始めると、先程までの喧騒が嘘のように静まり返り、会場には彼女のどこまでも響き渡るような美しい歌声と音楽のみが木霊する。
歌を歌いながら、パフォーマンスとしてひらり、ひらり、と舞いながら彼女が会場を見渡すとリズムに乗っているのか、サイリウムの光が整然と、そして美しく光の軌跡を描く。
それを見た彼女は会場は問題なく盛り上がっていると理解して歌うことに集中する。
最初の一曲を歌い終わった後も彼女は、明るく元気な曲、時には哀愁漂う寂しげな曲などを歌い、時にはファルティにバトンタッチして彼の、ローレライとはまた違う美声の歌や一人でのギター演奏のアピールなどを行い会場の人々を沸かせ続ける。
そして会場の人々が時間を忘れるほどに盛り上がっているが、それでも時間は有限でありライブは終盤に近づいていく。
二人は額に汗を滲ませながら、また一曲歌い終わると会場に向けて声をかける。
「えぇ~、時間が立つのは早いもので、次が最後の曲になります」
ローレライのその言葉に、会場から残念そうな声やどよめきが響き渡る。
「まぁまぁ皆さん。まずは聞いてくださいな。最後の曲です【さよならランデヴー】」
彼女が曲名を告げると同時に会場を優しげな曲が包み込む。
そして彼女の口から紡がれるのは、別れと再会の誓いを込めた願い。
それは会場の人々に向けたようにも、どこか遠くへと旅立ってしまった人に向けたようにも聞こえてくる。
ただ、ただ、ともにあるのが嬉しかったと、まるで愛の告白をしているような曲であった。
観客にとって短くも長い一曲が終わり、ローレライとフォルテが頭を下げて終わりを告げると、会場から惜しみない拍手と歓声。そしてアンコールの声が響き渡る。
そして次第にアンコールの掛け声が増えていき、それは会場を揺れているかと錯覚するような大きさにまでなる。
「おやおや、そんなにまだ聞きたいんですか? これは困りましたねぇ」
ローレライは困った困ったと言ってはいるが、彼女の言葉とは裏腹に表情には笑顔が張り付いており、まだ歌う気満々のようであった。
そしてフォルテの方を見ると彼もまたやる気があるようで彼女の方を見て軽く頷く。
それを見たローレライもまた軽く頷くと、観客に向けて話し出す。
「それじゃ、もう一曲だけ行きますよ~!」
彼女のその言葉に今度こそ会場が割れんばかりの歓声に包まれる。
「今度こそ最後の曲です! 【ラヴ・マイ・フレンズ】!」
彼女の気合の入った掛け声とともに、どこか優しくも寂しい音楽が会場に響き渡ると同時に、ローレライの身体全体が淡い水色に光り輝き始め、足元には円を幾重にも施した魔法陣のようなものも浮かび上がる。
それは彼女にとっての、
そして彼女の口から紡がれるは本来出会うことのなかった二人、その出会いの
その歌に込められた想いの凄まじさに観客はサイリウムを振ることすら忘れ、ただ、ただ、聞き惚れて完全なローレライの独擅場となっている。
彼女が最後まで、そして静かに歌い終わると、しばし時が止まったかのように静寂であったが、観客たちが次第にざわめき始め、それは一気に歓声として爆発し、同時に拍手喝采が起きた。
その歓声の中、ローレライとフォルテが観客に向けて話しかける。
「それじゃあ、今度こそライブの終わりです! 皆さん気をつけて帰るんですよ~! ありがとうございました~!」
「皆また会おうね、さようならー!」
そのまま二人は手を振りながら舞台裏に戻るが、その後もしばらく会場から歓声と拍手が鳴り止むことはなかった。
舞台裏に戻りローレライがライブの余韻に浸ろうとした時、アルティが彼女の下へかけて行き、次の瞬間彼女の体に衝撃が走る。
アルティがローレライに抱きついたのだ。
ローレライは、彼女が抱きついたときの衝撃を逃がすために、敢えてその勢いに逆らわずに少し自身の体を傾けることによってその場でくるくると、ダンスを踊っているかのように回転する。
その最中彼女の、アルティの顔を見ると先のライブに感動したのか、もしくはその他の要因か、表情がくしゃくしゃに歪んで目尻に涙が浮かんでいるのが目に入る。
「ローレライちゃん、今日の本当に良かったよぉ~」
アルティはそれだけを告げると、感極まったのか遂に涙腺が崩壊して涙が溢れ出してくる。
その姿を見たローレライは、アルティの頭をよしよしと撫でると安心させるように声をかける。
「ふふふ、だから言ったじゃないですか。大船の乗ったつもりでお任せあれ、と」
「うん、うん!」
彼女の言葉にアルティは何度も頷き顔を上げるとそこには満開の笑顔があった。
そこに他の裏方に徹していた面々もローレライたちのもとに集まり、口々に称賛の声をおくる。
それを受けるローレライは、いつもの軽い調子で受け取り、フォルテもまたにこやかな笑顔で感謝の言葉を述べる
「や、ど~もど~も」
「皆もありがとう!」
その後、皆思い思いにライブの余韻に浸りながらも後片付けに精を出し、片付けが終わった後は今回のライブの成功を祝し打ち上げを行うために帰途につく。
後にこのライブは、特に観客やファンたちにとって評価が高いライブとして後世に伝えられることとなるのであった。
ローレライが歌った楽曲名は、全てゲーム内において実装されていた彼女と、彼女のもう一つの可能性が使用するスキルから引用した架空の楽曲となりますので、そういうものだと理解していただけると幸いです。