俺らの街は、機械と動物が混じったかのような、よくわかんない気持ち悪い怪人に襲われている。
でも、まさか、こんな日が来るとは。夢にも思っていなかった。
そしてその度に、赤いマフラーをした、やけにメカメカしいスーツ? を着ているのかどうかはよくわからないが、メカメカしいやつもとい仮面ライダーが来る。
「うおりゃあっ!」
ライオンの顔をしている癖に、無駄に機械チックな身体をしている怪人を、ライダーが思いっきり肘打ちしている。
「がおッッウウうっ!」
怪人が苦しそうな雄叫びを上げるが、ヒーローは御構い無しに続けてドロップキックを放つ。
「こんなところにまで、何故貴様らは襲うんだ!」
ドロップキックの衝動で二人は吹き飛ぶ。
そして立ち上がりながらヒーローは怒りを込めた口調で怪人に問う。
「グッルゥゥゥッ……!」
そんなこと知ったこっちゃあねえと、怪人はうめきながら立ち上がり、そして――
「あ……え……?」
俺に向かって、口から光線弾を放っていた。
「貴様……! 危ない! ひろし君!」
反射すらまともに行えない。徐々に光線弾が俺に迫って来る。
「ひろし君……! くそッ!」
俺は――
一時間も前には、俺は平和に学校生活を送っていたんだよ。まじめに授業を受けて、楽しく友達と話して、ちゃんと小山先生の話を聞いて。なんなら飯だって食えた。
「先生。――仮面ライダー――を名乗っているやつは正義だと思いますか?」
「そりゃあ。こんな怪人が現れる街でも、人間が生きられるのはその仮面ライダーのおかげだろ?」
彼の名前は、
他の人からの評価は知らないが、少なからず俺は尊敬していた。
「仮面ライダーがいるから、怪人が来るということはないんでしょうかね」
仮面ライダーに対しては正義と崇められている一方で不信感も強かった。
怪人を倒してしまうほどのすざましい武力を持つということが恐怖でもあったのだ。
「さあ。俺に聞かれてもねぇ。その考え方を高校でも生かそうよ。ひろし君」
珍しい。どんなにゴミみたいなことを言ってもなんらかの反応を示してくれていた小山先生が、こんなにも軽く流してしまうなんて。
こんな日もあるか
ひろし君とは俺のことだ。15歳。もうすぐ高校生。卒業式では泣かないと推定できる。これといって友達を作らなかったからなぁ。
「さっ、そろそろ給食だから準備して」
そういって小山先生は俺から離れていった。
昼休みは最悪だった。俺は特別多くご飯を食べるわけではない。
多分、牛乳かスパゲティのアサリにでも当たったのだろう。
腹を壊してしまって、ずっとトイレにいた。かれこれ10分以上。
「いでででででででで」
なんで俺がこんな目に……と思いつつぎじきしと刺す腹の痛みには耐えられずに、トイレに篭っていた。
なんて言っている場合じゃなかったのだ。トイレの外でクソでかい騒ぎ声に気がつくべきだった。ガラスが割れる音を聞いて一目散に察するべきだった。
おろかにも緊急事態に気がついたのは放送が鳴ってからだった。
「現在、二階に怪人が出現しています。皆さん落ち着くとかじゃなくて早く逃げて! 下来て! 親御さんが悲しむから!」
などと教頭の悲鳴じみた声を聞いてやっと察した。正直、やばいと思った。
悲しいことにここは二階。下手に飛び出すべきか、トイレで待機するべきか。
窓から飛び出す選択肢はない。
今更になって言うのもなんだが、多分トイレの中に閉じこもっていた方が良かったのだろう。
俺は好奇心に抗議心できなかった。そりゃ見たくなるでしょ怪人とか現状とか。チラッとだけ見たくなるでしょ。
この考え方が馬鹿で、アホで、マヌケだったんだ。
「先生⁉︎」
チラッと覗きこんだら、小山先生がよくわかんないベルトを巻いていて、なおかつ怪人と殴り合っていたんだよ。
「ひろし君! 君はそんなところに……!仕方ない。誰にも言うなよ!」
そう言って先生は非の打ち所がない後ろ回し蹴りを放ち、怪人を奥の方へ吹き飛ばす。
『スキャン! ビーチップ!』
後ろ姿でよくわからなかったが、ベルトに何か赤い、扇型の小さなものを挿れていた気がする。そして腕をベルトに振り下ろして――
「変身!」
耳を疑い、目を疑い、現実を疑った。
『チップ! アタック! バランスofバランス!」
先生の身体に赤いプロテクターが纏わりつく。黄色いラインが通っている。ニュースに載っていた仮面ライダーだ。
「まさか……先生が仮面ライダーなんて!」
ほどなくして、俺は怪人の光線弾に襲われた。死んだかと思った。死んでいなかった。
「……え? 先生? 先生! 何やってるんですか!」
そこには青いプロテクターをした先生がそこにいた。未だに『チップ! スピード! バランスnotスピード!』というサウンドが鳴り響いている。めちゃくちゃ速く変身し直して、俺を庇いに来たのか……?
「君たちを守るのが、教師だから……!」
徐々にプロテクターが外れていく。ダメージのあまり強制的に変身解除させられだのだろうか。
先生が、俺の身体にのしかかる。意思を保つことさえ限界だったか、それとも……それだけはあっちゃならない。今はそんなこと、大事じゃないんだ。
やられるのは、今度こそ俺なんだ。だったら、やるしかないんじゃないか?
「ガルゥゥウァぁあウッウッ!」
怪人が叫ぶ。考えるのは数秒だった。俺は先生からベルトを取り外し、その場に寝転がらせる。
「てめえぶっ殺すからな! よくもこんな聖人に屑を庇わせやがって!」
『ウィルユービーIC!』
ベルトをはめる。覚悟を決めて。よくわからない扇型のなにかがベルトにはまっている。
「へんじいいいいいんんんんんん!!!」
とりあえず腕をベルトに振り落とす。ベルトの前方が少し下に落ちる。
『チップ! スピード! バランスnotスピード!』
俺の身体に青いプロテクターが纏われる。ベルトの横部分には様々な扇型のなにかがホルダーと共に召喚される。
「覚悟しろよ。ライダーパンっっおっでとお!」
勢いよく突っ込んだはずなのだが、スピードタイプのせいだろう。動いだ瞬間にいきなり向かいの配膳台にぶつかってこけてしまった。通りで俺が助かったわけだ。
『スピードナイフ!』
俺がコケたせいか、なんかベルトの機能が発動したらしい。
「ナイフ?」
ぼんやりするのも数秒。俺の右手には、やけにメカメカしいし扇型のなにかを挿れられるような穴が空いてある、さしずめスピードナイフが出現した。
試しにホルダーについている扇型のなにかを適当に選んでナイフの穴に挿れる。
『タイタン! スピードナイフスマッシュ!」
紫の扇型のなにかを挿れると音声が流れた。急に大地が俺の味方になった気がする。
「こいつで仕留める……!」
俺は、怪人に向かって再び走り出す。今度は逃がさない。
「はあああああああああっ!」
「うっ! ぐらあああっっ! ぐらっ! ああっ!」
怪人は俺の攻撃を避けられなかった。スピードナイフが怪人の腹部に突き刺さる。
「ガハッ! ぐわああああっ!」
「危なっ!」
再び光線弾が口から放たれるが、流石スピードタイプ。なんとか避けられた。後ろから破裂音がする。
「これで終わりにしてやる!」
更にスピードナイフを力強く突き刺し、抜き出すと、怪人の腹部から血が吹き出た。テレビだったら規制が入っている。
そして、水素の小爆発と比べ物にならないほど爆発した。
「ガバァッ!」
俺も吹き飛ばされた。周辺のガラスが割れた。
無理矢理変身を解除させられる。
「イテテ……」
なんとか立ち上がり、見上げると、そこには倒れっぱなしの怪人がいた。
「どうすりゃいいんだよこれ……」