あれは確か、リーシャが入団した頃だったな。そのあたりから、俺の騎空団には新たなルールができた。
『団長の恋愛を全面禁止とする。』
―――何故俺だけなのかは分からない。が、とにかく禁止されている。
そして俺は、この規則に大いに不満がある。
いや、確かに恋愛目的で騎空団やってるわけじゃないけどさ・・・わざわざルールにまでしなくてもいいじゃん?
俺、年頃の男の子だよ?それなのに、恋愛全面禁止はヒドくない?
たまには新しい島より女の子の攻略したくなる時ぐらいあるって・・・
っていうかそもそも、何で団長の俺に無断で新ルールが追加されてんの?しかも俺の一生を大きく左右するような新ルールが。まずそこから意味わかんねえよ。俺の基本的人権どこ行った?
考えれば考えるほど酷いルールだ。
今すぐにでも廃止してほしい。いや、もう百歩譲って改正だけでも構わない。全面禁止じゃなくて、せめて肉体関係は無しとか、そのくらいにしてくれれば納得できる。
ちょうど春だし、春闘と称してリーシャに抗議してみよう・・・
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「ダメです。なんと言おうと、廃止は絶対に認められません。」
春闘当日。気合を入れてあれこれ
「い、いや、しかしですねリーシャ殿っ?!せめてもう少しこう、シバリをゆるーく、ゆるーくしてはもらえないでありましょうか?!自分は年頃であります!!童貞でありますっ!!恋愛全面禁止はさすがに酷なのでありますよぉっ!!」
俺はリーシャの机に両手をついて猛抗議する。
こっちは童貞がかかってるんだ。ちょっとやそっとで諦める訳にはいかない!!
「だめです。廃止も、改正も、どちらも認められません。」
クソっだめだ!今日のリーシャいつにも増して強ぇっ!リーシャマグナにアップグレードしてやがる!!
「なんででありますかリーシャ殿ぉぉぉ!!」
「だめなものはだめです。」
やっぱり認めてもらえない。
「あと、その喋り方止めてくれませんか?全然しっくりこないので。」
「あ、サーセン。」
挙句、普通に怒られた。
「まったく団長さんったら・・・はあ。」
何だよ、そんなでかい溜息つくなよな・・・俺は真面目に抗議してんだぜ?必死なんだぜ?童貞がかかってるんだぜ?それなのに溜息は無いだろ・・・
あーあ、なんかもう、こっちまで萎えてきたわ。
分かりましたよ。禁止でいいですよ、禁止で。どうせ俺なんて、一生童貞で居ればいいんでしょ?
「・・・あのさリーシャ。」
「はい、なんでしょうか?」
「疑問なんだけど、なんで禁止なわけ?」
廃止にしてくれないなら、もうそれでもいい。どうせ俺にはリーシャに勝てるほどの交渉力は無い。
だが、ならせめて、理由だけでも知っておきたい。
俺は派手な恋愛で団に迷惑かけたことは無い。
女の子とイチャついてリア充自慢したことも無い。
まあ、そもそも規則のせいで機会が無かったというのもあるが・・・それでも、人の上に立つものとしてそれなりの倫理観は心得ているつもりだ。
なのに何故?なぜなんだっ!?
なぜ禁止なんだあぁぁぁぁああぁぁぁ!!
「恋愛禁止の理由・・・ですか?」
「ああ。」
「そうですね・・・・・」
その呟きと共にリーシャは椅子から立ち上がり、俺を背にして窓の方に向き直った。
そして静かに一言。
「団の風紀を乱さないためです。」
「いや、だからさ、俺は別に皆に迷惑かけたり、気分を害するようなことはしないって。」
「ええ、そうでしょうね。団長さんは優しい方ですから、むやみに人に迷惑を掛けようとはしないでしょう。」
なんだ、分かってるんじゃないか。別に俺のことを信頼してない訳じゃないんだな。
「でも・・・」
「・・・・?」
「団長さんがそのつもりでも、お相手の方がその通りにしてくれるとは限りませんよ?」
不意に振り返ったリーシャが、鋭い眼差しで俺の目を見据える。
「むしろ、私が心配しているのはそちらの問題です。この団であなたに好意を抱いている者の中には、道理を
「いや、道理を
「本当ですよ。ナルメアさんなんてその典型例じゃないですか。」
「うぐッ、確かに。い、いやでもさ、ナルメアだけだろ?他の子は距離感とか、ちゃんと
「そうですかねぇ?」
「な、なんだそのジト目はッ。」
「本当に、団長さんはそう思っていらっしゃるんですか?」
その瞬間リーシャが放った雰囲気があまりに鋭く、思わず息が詰まるような気がした。でも、食い下がる訳にはいかない。
「ああ。本当だ。そう思ってるとも。この団には良い人たちしかいないよ。」
これだけは団長として断言できる。いや、しないといけない事だと思う。そうだよ、この団にそんな悪い娘がいる訳ない。みんな優しくて良い娘たちだ。
「はぁ。本当にお気づきで無いみたいですね。」
「気づくも何も、それが真実さ。それに・・・」
「・・・?」
「万が一そんな悪い娘がいるってんなら、俺がちゃんと更生してやる。」
「・・・・」
きっぱりそう言ってやると、リーシャはしばらく唖然とした様子で俺のことを見ていた。
が・・・
「ふふ・・・ふふふ。」
突然気味悪く笑い出した。
「ど、どうしたんだよ・・・?」
「ふふふ、いえ、何でもありません。ただちょっと、団長さんて真っ直ぐな人だなぁと。」
なんだ、そんな事か。
「いや、団長として、それ以前に人として当然だよ。」
「わかりました。団長さんがそのように仰るのであれば、規則の方は廃止にしましょう。」
「へッ?」
「団長さんに彼女たちを更生できるのなら、規則なんて必要ありませんよ。自由に恋愛していただいて結構です。むしろ、その方が団の為にもなるでしょう。」
「あ、ああ。ありがとう・・・?」
何々?急にどうした?さっきとは態度が一変したぞ?
え?なんだろう、あんまりしっくりこないけど、とりあえず上手く行ったってことでいいのかな?
「団長さん?ぼーっとしちゃって、どうしたんですか?」
「え!?あ、いや、別に何でも・・・」
「ほら、もう自由ですよ。こんなところに居ないで、好きなように恋愛を謳歌してください。」
「ああ・・・」
そうだよ、何尻込みしてんだ俺!恋愛できるんだ。それでいいじゃないか。何にも疑問に思うことなんてない、俺は自由だ、自由になったんだ!!
「それとも、何かほかに用事でも?」
「ん?いや、特に用事は無いよ。俺はもう行く。急に邪魔して悪かったね。」
「いえいえ。また何かあったら、いつでも来ていただいて構いませんよ。」
「ありがとう。それじゃ。」
踵を返し、俺は部屋の出口のドアノブに手をかける。
そしてその瞬間、不意に喜びが背筋のあたりを駆け抜けた。
―――この先には自由が広がっているんだ。俺の待ち望んだ自由が。
若干の震えを抑えつつ、俺はドアを開け、不自由を後にした。
・・・バタン。
「さて、これで私も自由というわけですね。団長さんが望んだことなんですから、後悔はしないでくださいよ?・・・ふふふ。」