さて、これで俺は晴れて恋愛自由の身になったわけだが・・・恋愛って、いったい何をどうしたら良いんだ?
今まではただ漠然と恋愛に憧れてたけど、いざ恋をしようってなるとなかなか難しいな。
やっぱり、告白とかしないとだめなんだろうか?うわっ、やだ、恥ずかしい!!
ストーリーじゃ殆ど喋らないコミュ障の俺に告白は無理ゲーだよ!!
何かもっとこう、女の子の方から勝手に好きになったりしてくれないかなぁ?
いや無理か。俺はどこぞの四騎士様とは違う、世の中そんなに甘くない。
はあ・・・今思ったけど、恋愛ってムズイな。
いや、俺がチキンなのがいけないのか?
「あ、お兄ちゃん。」
「お?」
あれこれ考えながら廊下を歩いていたら、不意にジータとすれ違った。
ああ、そうそう。みんなは知らないと思うから説明しとくけど、ジータは俺の妹だ。そして、現在はこの騎空団の副団長を務めている。
「そんなに深刻な顔して、どうしたの?」
「ん?いや、別に何でも。」
「そう?・・・あっ、そういえば聞いたよお兄ちゃん。恋愛、自由になったんだって?」
「え?ああ。そうなんだよ。」
「おめでと~!念願の恋愛だね!」
「念願って、別にそこまでじゃ・・・」
まあ、念願だったけど。
「なに言ってんの。毎晩部屋でオ〇ニーした後いっつも『はあ、恋愛したい。』って言ってたじゃん。」
ぬおっ!?ぬおっ!?ぬおっ!?
「貴様なぜそれを知っているっ!?」
「部屋隣だから。毎晩毎晩良く飽きないなぁって思いながら聞いてた。」
ぬわんだとぉぉぉぉぉ?!
「うをぉぉぉぉ!!忘れろ!今すぐ忘れろ!!あぁぁぁぁぁぁ!俺のHPがっ!これは致命傷だ、は、はやくエリクシールを・・・」
「ははは、そんな気にしなくても。年頃の男の子にはよくあることだよ。」
ぬぁぁ!傷口に塩を揉み込むなぁぁぁ!!
「まあいいや。とにかく、これから頑張ってね!妹として応援してる。」
「え?・・・あ、お、おう?ありがとう。」
それだけ言い残すと、ジータはスタスタと歩いて行った。
・・・意外にも励まされてしまったな。・・・デリカシーは無いが、良い妹だ。
うん、抉られた傷口は痛むけど、さっきより元気は出て来たかも。
そうだ、焦る必要なんてない。俺の恋愛人生はまだ始まったばかりなんだ、これから頑張って行けばいいじゃないか。
そう心に決めた途端、何だか世界が明るくなった気がした。
頑張ろう。それがいい。
俺は足取り軽く自室に向かい、清々しい気持ちでドアを開いた。
―――ガチャ
「あ、団長ちゃんお帰りなさい。お昼ご飯はまだ食べてなかったよね?お姉さん、団長ちゃんの為に作ってあげたんだ。良かったら一緒に食べ・・・」
―――バタン。
え?何今の?えっ?えっ?
なんで俺の部屋でエプロン姿のナルメアが昼飯作って待ってるの?
・・・あ、そっか、幻か。今のは幻だ。俺疲れてるんだな。
「だ、団長ちゃん?どうして入って来てくれないの?」
いや、やっぱり違うッ!!部屋の中から声が聞こえるぅぅぅ!!
「あ、そっか!ごめんね団長ちゃん、お姉さん勘違いしてた。」
「え?」
「団長ちゃんは普通のエプロン姿より、裸エプロンの方がいいよね。」
「はぁっ?!」
何言ってんだコイツ!?
「は、裸エプロンッ?!?!」
素っ頓狂な声が、今度は背後から聞こえてきた。
この声はまさか・・・ヴェイン?!
「は!ヴェ、ヴェイン?!いつからそこにっ!!」
振り返ってみると、そこにはアバターレベルに顔の青いヴェインが乾いた笑いを浮かべながら立っていた。
あ、これあかんやつやん。
「あ、あははは!そ、そうだよな、趣味は人それぞれだもんな。団長、俺、別にそういうのもいいと思うぜ?うん、応援してる。いやほんと、じょ、冗談じゃないよ?あは、あはははは。そ、そそ、それじゃぁっ!!」
「あぁぁぁ!待ってくれヴェイン!!今のは誤解だ!誤解なんだぁぁぁぁぁぁぁ!!」
渾身の叫びも虚しく、ヴェインは光の速度で消えていった・・・
くそぉぉ、なんだってこんなことに・・・この状況、俺完全に変態じゃないか!!思春期が暴走してると思われるじゃないか!!
「さあ、団長ちゃん。お姉さん着替え直したよ?入ってきて?」
そうだ!今のは全部あいつが悪い!!
メスドラフめ・・・成敗してくれるっ!!
俺はドアノブを引き千切るぐらいの勢いで回し、思い切り戸を開け放った。そして怒りをぶちまけるように叫ぶ。
「おいナルメア!お前いったい何を考えているんだ!!」
「あ、団長ちゃん。ようやく入って来てくれたんだね。ほら見て、団長ちゃんの好きな裸エプロンだよ?」
ナルメアは立ち上がって、くるっと一回転して見せた。
「俺がいつそんなものを好きだと言ったぁっ?!」
「えっ、団長ちゃん、もしかして、裸エプロン嫌いだった?」
「はぁッ!?!?い、いや、別に嫌いとは言ってねえだろうがっ!!」
むしろ好きだぁぁぁぁぁぁッ!!
「じゃあ、好きなんだね?」
「いや、だからその、あれだ、えと、あれなんだよ・・・ええい!そんなことはどうだっていい!!それより、お前は何だってこんなことをやってるんだ!?」
今、危なかった。
「なんでって・・・団長ちゃんが好きだからだよ?」
俺の問いに対し、ナルメアはさも当然のような顔をしてそう答えた。
どうやら質問の意図すらわかっていないようだ。頭の上にハテナマークが飛んでる。
「そういう事じゃなくてだな、俺は限度を弁えろと言ってるんだよっ!」
「限度?」
「そう、限度だ。こんな行動はどう考えたっておかしいだろ?!」
「どこが?」
「どこがって・・・」
「だって、お姉さんは団長ちゃんの奥さんになったんだよ?奥さんなら、夫の帰りを待つのは当然じゃない?」
「はぁっ・・・?」
答えがあまりにミーハー過ぎて、俺はもはや若干の恐怖を感じていた。
狂気だ。狂ってる。間違いなく。
突如悪寒が指先から体幹を駆け抜け、その後を鳥肌が追う。
今の恐怖は、これまで戦闘等で味わってきたものとは明らかに異質だった。
『死の恐怖』じゃない、『先の読めない恐怖』。
「お前、何言って・・・」
「お姉さん聞いちゃったんだ。団長ちゃんが恋愛OKになったって。だからね、団長ちゃんに余計な虫が付く前に、団長ちゃんをお姉さんの物にしちゃおうって思ったの。団長ちゃんも、気持ち悪い他の女に付きまとわれるより、ずぅっと愛し合ってたお姉さんと結婚する方がいいでしょ?ね?」
「.........」
「ね?」
「.........」
「なんで、答えてくれないの?」
「ひっ・・・」
その瞬間、俺は、恐ろしい眼を見た。濁った眼だ。どこまでも深く、深く、濁った眼だ。
「私のこと、愛してないの?」
「う、うわぁぁっぁあああああぁぁっぁあああっぁああああああああ!!!!」
俺は嵐のような勢いで部屋を飛び出して、ただひたすらに走った。
逃げなきゃ・・・死ぬより恐ろしいことになる!!
壁にぶつかり、階段に躓き・・・それでも走った。いや、走れた。逃げるためなら、いくらでも。
―――どこまで来ただろうか?気づくと、暗い部屋の中にいた。
貨物室だろうか、人の気配はない。どうやら、うまく撒けたらしい。
「はあ・・・良かった・・・」
一瞬の安心。でも、すぐに気付く。
そうだ、この船に居る限り、ナルメアには絶対に見つかってしまう・・・
そして見つかれば、きっと恐ろしい目に遭う。
いやだ・・・それは絶対にいやだ!!
何とかしないと・・・仮に見つかっても大丈夫な方法、俺が酷い目に合わなくてすむ方法・・・何かないか?
俺は思考をフル回転させた。これほど必死にものを考えることなんてこれから先無いってぐらいに一生懸命考えた。
―――そして、ついにある解決策を思いつく。
そうだ、リーシャの所へ行こう。そしてもう一度、恋愛を禁止にしてもらうんだ。
そうすれば、俺の身は守られる!!