―――そのころ、グランサイファーのサロンでは、ヴェインが一人、頭を抱えて震えていた。
「う、うぅ・・・団長・・・裸エプロン・・・変態・・・うぅぅぅ・・・」
先ほど聞いた、聞いてしまった、身の毛もよだつおぞましい言葉の数々・・・彼はそれを、必死に忘れようとしていた。
と、そこへ、不意に軽やかな足音が聞こえてきた。ジータだ。コーヒーでも淹れに来たのだろう。
「あれ?」
ヴェインのただならぬ様子は、すぐに彼女の目に留まった。
「ヴェイン?どうしたの?震えてるみたいだけど・・・」
「はっ!じ、ジータ副団長!!」
ヴェインは雷にでも打たれたように立ち上がり、ジータに駆け寄って彼女の両肩に手をかけた。
「き、聞いてくれ副団長ッ!!団長が・・・団長が・・・」
「お兄ちゃんが・・・?」
「団長が裸エプロンで変態なんだぁぁぁぁぁっ!!」
「え?!お兄ちゃんが裸エプロンで変態?!」
ジータは不覚にも、その光景を想像してしまった。
そして・・・
「うぐッ!!・・・かはっ・・・・」
史上稀に見る甚大な被害を被った。
「う・・・やばっ、早くポーションを・・・」
床に倒れ込んだ彼女は、携帯していたポーションを震える手で取り出し、一気に飲み干す。
「んぐっ・・んぐっ・・んぐっ・・はぁ。危なかった。」
そして彼女は思った。
兄は一体、どんなテロ行為を企てているのかと・・・
「あっ、ジータ!それにヴェイン!!」
と、その時、サロンの入口の方からグランの声が聞こえてきた。
随分と切羽詰まった様子の彼は、二人の方へと真っ直ぐに駆け寄る。
「あ、お兄ちゃん。」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!
「ちがぁぁぁぁう!!誤解だッ!!誤解だッ!!誤解だぁぁぁぁぁぁっ!!」
とまあそんな感じに一通り怒号が飛び交ったところで、グランは改めて、二人に向き直った。
「そんな事より、二人とも、リーシャを見なかったか?!」
「え?リーシャ?さあ、私は見なかったけど・・・部屋に居ないの?」
「部屋はさっき行った!しかし居なかった!!畜生、なんだってこんなタイミングの悪い時にっ!!」
「うーん、じゃあ、私は知らないなぁ。」
「ヴェインは?!ヴェインは何か知ってるか!?」
「知らないっ!俺は何もっ!!裸エプロンなんて聞いてないっ!!」
「もう忘れろぉぉぉぉ!!まあいい。知らないならしょうがない。ただ、もしリーシャを見つけたらすぐに俺に教えてくれっ!!緊急事態なんだ!!」
「え?あ、うん。分かった。」
「頼むぞ!!俺はもう一度、リーシャの部屋を確認しに行く!!」
彼はそれだけ言い残すと、怒涛の勢いで去っていった。
ただならぬ兄の様子に、ジータは若干の不安を覚えた。
(緊急事態・・・いったい何事なの?)
「あ、副団長。それにヴェインさんも。こんにちは。」
「ああ、リーシャ。」
振り返ると、そこにはリーシャの姿が。いつの間にかは分からないが、きっとグランとは反対側の入口の方から入って来たのだろう。
「そうだリーシャ。お兄ちゃんが探してたよ?今リーシャの部屋に行ったから、できれば早めに行ってあげて。」
「団長さんが・・・そうですか。思ったより音を上げるのが早いですね。」
「え?」
「いえ、何でもありません。お気になさらずに。」
そう言って、リーシャは笑顔を浮かべた。
だがその顔は、どことなく狂気じみているように見えた。
「・・・ところでリーシャ。」
「はい?」
「その、手に持ってる白い袋は何?」
リーシャが右手に持つ、小さな紙袋。
普通なら気にも留まらないことなのに、この時のジータにはそれが無性に気になった。
「ああ、これですか?シャオさんに頂いたお薬です。」
「薬?何か、病気にでもかかってるの?」
「病気・・・ええまあ、そんなところです。」
(恋の病・・・とでも言いましょうか。)
リーシャは心の中で小さく呟いた。
「あっ、そうだジータさん。」
「ん、何?」
「確か予定だと、明日ポートブリーズに燃料補給で立ち寄る筈でしたよね?」
「うん。そうだけど・・・」
「私、その時に配達業者に荷物を出したいので、少し待っていてもらえませんか?」
「ああ、うん、分かった。ラカム達にも伝えとくね。」
「お願いします。それでは、私は団長さんの所へ向かいますね。」
リーシャは、にっこり微笑んだ・・・
(ついに、計画が動き出すんですね・・・愛しの団長さんが、ついに私の物に・・・ふふふ・・・ふふふふふふふふふふふふ・・・・)