まさかこのシリーズが1年以上も続く”大長編”になるなんて・・・とても驚きです。
思い返せば昨年の春、学校での勉強会中に先生の目を盗んで書き始めたのが、全ての始まりでした。
『スタディサプリで勉強する』という名目のもと、学校のWi-Fiにアクセスし、自習室で一人、気持ち悪い笑みを浮かべながらキーボードを叩いていました。とても懐かしいです。
しばらく書いていないのでだいぶ腕が落ちていると思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。
――――此処に来てから、一体どれくらいの時間が経ったろうか。
牢の壁にぽっかり空いた小さな覗き窓の向こうでは、日が暮れ、日が昇り、また日が暮れて、そうかと思ったらまた日が顔を出し始めて……
……こんなに長い間留守にして、団の皆は、きっと心配してるだろうな。
懐かしい顔が瞼の裏をよぎる。
ごめんな、ビィ。
ごめんな、ルリア。
ごめんな、ジータ。
ごめんな、皆……
――――でも俺、
「団長さん、ほら、あーんですよ、あーん。」
「あ~~んっ!うん!おいちぃ~~!!」
ここの生活が楽しくてやめられそうにない。
「いやー、リーシャの料理は旨いなぁ!ほんと、君はいいお嫁さんになるよ!」
「もう、団長さんたら、褒めても何も出ませんよ。それに……私はもう、あなたのお嫁さんですよ?」
「あは、そうだったね。」
――――拘束が厳しかったのは最初だけで、信頼関係が出来てからは手枷も外れ、結構自由が増えた。
牢屋の中にもソファとか机とか生活用品を増やしてくれたし、何よりリーシャが身の回りの世話を全てやってくれるので、めちゃめちゃ快適だ。俺は息をしているだけでいい。
「・・・ごめんな、リーシャ。俺は君のことをずっと勘違いしてたよ。」
自身の状況を振り返り、俺は改めて、リーシャに謝罪したくなった。
彼女はこんなに俺のことを思ってくれていたのに、どうして俺は今までそれに気づかなかったんだろう?
「いいんですよ団長さん。それよりも私は今、団長さんとこうして居られて、とっても幸せです。」
リーシャは頬を赤く染めながら、そっと俺の手を握った。優しい、温もりのある手だった。
「俺もだよ、リーシャ・・・」
胸の中が温かい気持ちでいっぱいになって、俺はやさしく微笑む。
――――もしも今、俺の立たされている状況を他人が見たら、きっとこう言うだろう。『異常だ』と。
誘拐され、監禁され、束縛されているにも関わらず、彼女と共に居られることに幸せを感じるなんて、狂っていると。
だが俺に言わせてみれば、そんな意見は全く取るに足らない。
リーシャが俺を誘拐するのも、監禁するのも、束縛するのも、彼女が俺を他の誰よりも愛してくれているからなんだ。
身に余るほどの大きな愛を、俺に注いでくれているからなんだ。
これほど大きな愛を受けて不幸だなんて思う輩がいるとすれば、そいつらは真実の愛を知らない、本当に哀れな連中だと思う。
「ありがとう、リーシャ。」
俺はリーシャに感謝した。
彼女は俺に全てを教えてくれた。
真実の愛とは何か。
本当の幸せとは何か。
普通に生きていたら気づけなかった大切なことに、彼女が気づかせてくれたのだ。
「そ、そんなに見つめないでください団長さん・・・照れちゃいますから・・・」
「あ、ああごめん・・・」
お互いに頬を染め、恥ずかしさのあまり顔を逸らした。
そしてそのまま、柔らかな沈黙が二人を包む。
――――だがしばらく経ったとき、リーシャが突然、何かに気づいたように「あっ」と小さく声を漏らした。
「どうした?リーシャ。」
「そういえば、そろそろお薬の時間ですね。」
「ああ、いつも飲んでる薬か。もうそんな時間になったんだな。」
「団長さん、これを飲んでください。」
リーシャは懐から白い錠剤を取り出して俺に渡した。
「・・・そういえば、ずっと疑問だったんだけど、これってなんの薬なの?毒とかじゃないよね?」
「大丈夫ですよ、ただの媚薬なので、体に害はありません。」
「なるほど、じゃあ安心だね。」
渡された水とともに、俺は錠剤を流し込む。
ヤンデレは好意対象に危害を加えることがあるというから警戒していたが、リーシャに対しては杞憂だったようだ。
ま、そりゃそうか。愛しのリーシャが俺に変な薬を飲ますなんて、常識的に考えてあり得ねえもんな。
「さて・・・・・・それでは団長さん、私は少し席を外しますね。」
――――俺が薬を飲み終えたのを確認すると、リーシャは徐に立ち上がり、牢の出口に向かって歩き出した。
「ん?なんだ?どこかに行くのか?」
「ええ、ちょっとお出迎えに・・・・どうやら、お客様がお見えになったようですから。」
そういうと、リーシャは窓の外を見据える。彼女の視線の先には、小さな騎空艇の影があった。