今回、主人公の出番が少なめですがご了承ください。
島田流戦車道の家元・島田千代は、多忙な身である。
本来の役職である家元に加えて、大学戦車道連盟の理事長として、日中長い時間部屋に籠って書類と向き合うこともあるし、都心部の日本戦車道連盟や文部科学省まで足を運ぶこともある。
しかも今は、日本戦車道のプロリーグ設置委員会の副委員長まで任されているので、その多忙ぶりに拍車がかかっていた。
だが、多忙であるということはそれだけ大学戦車道も盛んということだし、こうした忙しい日々も千代は嫌いではない。
それに、千代が、島田流がライバル視する西住流に後れを取らないためにも、のんびりしている暇なんてないのだ。
そんな中での、8月29日。
世間では夏休みがあとわずかということで色々と浮足立っているが、ほぼ年中無休で忙しい千代にとっては至極どうでも良いことだ。そして、今日は仕事を調整して、どうにか休みにすることができた貴重な日でもある。
しかし、その貴重な休みの日は、脆くも午後2時をもって終わってしまった。
「家元襲名、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
普段から戦車道についての話し合いをする事務室兼書斎。
千代の向かい側に座るのは黒いスーツに長い黒髪の女性。西住流戦車道の家元・西住しほだ。彼女と千代は腐れ縁とでも評すべき間柄だが、今この場での2人は日本戦車道2大流派の家元同士。私的な立場で話を持ち出したり、口を利いたりしてはならない。
「急な話で申し訳ないのですが、ここは是非大学強化チームの責任者である島田流家元にも、ご了承いただきたいと思いまして」
「分かりました。こちらもやるからには手加減致しません」
流れるように返事をするが、まだ千代も状況を飲み込めてはいない。ほんの数時間前にいきなり文部科学省から『大洗女子学園の存続を決めるために、大学選抜チームに試合をしてほしい』などと言われたのだから。それから矢継ぎ早に目の前に座るしほと、役人が面会の約束を入れてきたので、実に濃密な数時間だった。
そして、この場でしほから大まかな事情を聞き、自分たちがどうすればいいのかは理解できた。それでも、どうしてそうなるのかは『大人の』千代でも分からない。
だが、戦車道の試合は常に真剣勝負でなければならないのは、千代だって百も承知。それに相手がライバルである西住流となれば、ことのほか手加減するつもりなどない。文字通り、徹底的に叩きのめす覚悟だ。
とはいえ、聞いておきたいこともある。
「時に、西住流家元」
「何か?」
「あなたは今回の大洗廃校の件、納得しておりますか?」
「微塵も」
だろうな、と千代は安心にも似た気持ちになる。
今回のことにしほが大人しく納得していれば、今こうして大洗のために動いているはずもない。それは果たして、前途ある戦車少女の未来を守るためなのか、はたまた自分の愛する娘のためなのか。あるいはその両方かもしれない。
たまに、千代はしほと昔のよしみで酒を飲む仲でもある。その席で、たまにしほが娘と上手く向き合えないことを嘆くこともあるので、しほがちゃんと娘にかける情を残していることは分かっていた。
「そう言うと思ってました」
「・・・・・・・・・」
率直な気持ちを告げると、しほの眼光の鋭さが一段階上がったように感じる。揶揄ったつもりではないのだが。
「ああ、ごめんなさい、茶化したつもりはありません。ですが、お互いに苦労が多いということです」
「・・・違いないですね」
出されていた紅茶を飲むしほ。千代も同じように、紅茶を飲む。
「では、こちらも大学選抜チームに話を通しておきます」
「よろしくお願いします」
お互いに頭を下げて、しほが立ち上がる。
玄関先に留めていたヘリに乗って帰るのを見送ると、千代は建屋の中に戻りながら後ろに控える使用人に指示を出す。
「・・・1時間後に文科省の辻という人が来るから、それまでにあの部屋を片付けておいて頂戴」
「畏まりました」
「私はそれまで、私室にいるから。先に来たらお茶を出しておきなさい」
「はい。それでは直ちに」
若い男の使用人は、先ほどの事務室へ足早に向かっていく。
そして千代は2階の居住スペースへ上がり、私室へと向かう。
「・・・・・・まったく」
周りに誰もいないことを確かめると、千代は独り言つ。
今年の戦車道高校生大会で悲願の全国優勝を果たした大洗女子学園。そこが、8月31日付で廃校になってしまうというのだ。
その理由は、学園艦の莫大な維持費を削減するために文科省が推し進めようとしている学園艦統廃合計画で、大洗女子学園が目立った功績が無くかつ生徒数も減少傾向にあるから。
だが、前年度末に大洗の生徒会は、文科省の役人から『戦車道全国大会で優勝すれば、廃校を免れる可能性がある』と言われ、半ば強引な手を使ってでも戦車道を復活させた。
しかし、苦難の末に優勝をもぎ取っても『廃校撤回は確約ではない』と言われ、さらに生徒たちが抵抗すれば『学園艦の住人全員に雇用先を斡旋しない』とまで脅され、廃校は避けられなかったと言う。
それだけならば、冷淡だが千代たち大学戦車道連盟には何の関係もない話である。
だが、どうしても廃校に納得できない大洗の生徒会長の
結果、彼女と親しい陸上自衛隊の
「・・・・・・・・・」
千代は大人として、島田流を率いる家元として、これまでいくつもの理不尽や困難、果ては屈辱も呑み込んで耐えてきた。
しかし、今回ばかりはさしもの千代も冷静を保っていられそうにない。
本来ならば、大洗という一高校の廃校云々は大学戦車道連盟には何の関係もない話だ。それなのに、文科省の失言で有無も言わさず巻き込まれるなど、いかに戦車道連盟が文科省の下にあると言っても素直には頷けない。
そして千代は、愛里寿のことを考えていた。
先のくろがね工業戦で、『様々な事情』が絡む試合を愛里寿に早々に経験させてしまった手前、当面はそんな試合をさせたくはなかった。
だのに、また世情が絡む試合をさせてしまうことが、千代としては納得がいかないし、胸が痛くなる。
(まさか、こんな形で西住流と戦うことになるとは・・・)
不本意な形とはいえ、西住流の直系の娘が率いるチームと戦うことになるとは思わなかった。それは見方によっては西住流と島田流が直接戦うということになる。
島田流は、西住流をライバル視している。国内のみならず海外にも分家ががあり、忍者戦法として多彩な戦術を擁しているにもかかわらず、戦車道の世界で脚光を浴びているのは西住流であることが多い。そこから、劣等感に似たものを覚えていた。
だから、いつかは島田流が西住流と直接ぶつかり合い、打ちのめす日を望んでいた。それがこんな形で実現するとは、不謹慎かもしれないが好機でもある。
何とも複雑な気持ちだ、と思いながら千代は自分の部屋のドアを開ける。
澄み渡った青空と、どこまでも広がる草原。北海道の夏は涼しくて、風が吹かなくとも関東と比べれば涼しい。実に心地良い気候だ。
そんな穏やかな草原に轟く、砲声。
「あと1輌ね」
「ええ」
キューポラから上半身を出すメグミが、砲声を聞き、目の前に広がる光景を見て呟く。それに返すのは、隣の戦車から身を乗り出すアズミ。
緑の草原が広がるここは、新千歳空港から少し離れた場所にある北海道大演習場。そこには赤く塗られたいくつもの戦車が黒煙を上げて擱座している。その中を悠然と走るのは1輌の白い戦車。それだけを見れば、今ここで行われているのは紅白戦だと分かる。
だが、赤く塗られた戦車はパンター、ヤークトパンター、ヤークトティーガーなどの装甲が厚く火力も高いドイツ戦車ばかりだ。対して、白い戦車はM4シャーマン初期型と、性能はこちらの方が大分劣っている。メグミたちが乗っているのも、同じく白いM4シャーマン初期型だ。
そのうえ、このフィールドで赤く塗られた戦車は20輌いるのに対し、白い戦車はわずか4輌だけだ。戦車の数も性能も、白チームの方が圧倒的に低い。
にもかかわらず、今なお戦場を行く白いM4シャーマン初期型は掠り傷1つ負っていない。そして、残り3輌であるメグミたちは戦闘に参加すらしておらず、20輌近くの赤い戦車は全てあの白いシャーマンが撃破した。
その白い戦車の主は、ほかならぬ愛里寿だ。
「後ろから狙うか。一見有利に見えるけど・・・」
「隊長はその程度じゃやられるはずないわね」
愛里寿のシャーマン初期型を追うように、赤チームの最後の1輌であるヤークトパンターが追う。それを見て、ルミとアズミがこぼした。
シャーマン初期型は砲塔を旋回して撃つことはなく、そのまま窪地を越えて坂を上ろうとする。だが、途中まで上ったところで停止し、履帯痕をなぞるように後退する。追手に坂を越えたと誤認させるフェイントだ。
後を追うヤークトパンターはまんまとフェイントに引っ掛かり、坂を越えようとする。だが、横から現れたシャーマン初期型に驚くように動きを止める。全面固定砲塔なので抵抗することもできず、シャーマン初期型に撃ち抜かれて白旗を揚げた。
これで、赤チームの戦車は愛里寿のシャーマン初期型1輌によって全滅した。
『状況終了』
疲れた様子を塵ほども感じさせない愛里寿の声。
「さすが、変幻自在の戦術」
「『忍者戦法』と呼ばれるだけあるわ」
あらゆる手を使って敵を翻弄して屠っていく島田流の神髄を目の当たりにして、メグミとルミが感心したように告げる。
「日本戦車道ここに在り、と知らしめた島田流戦車道の後継者・・・」
改めて、アズミは愛里寿がどんな人物なのかを再認識する。今回の紅白戦で、まさに千変万化の戦術を披露して20輌もの戦車を相手取る姿を見ると、彼女が如何にすごい人物か、ということを考えさせられる。
「さ、行くわよ」
「了解」
メグミたちも戦車を降り、残りの乗員に撤収作業をするように伝える。そして、ルミの運転する大学選抜の所有する車で愛里寿の下へと向かう。
「しかし、すごい有様だね・・・」
ハンドルを握るルミが、戦場を進みながらひきつった笑みを浮かべる。
装甲の厚いヤークトティーガーや高火力のパンターが、旧型のシャーマン初期型にいともたやすく撃破されているところから、愛里寿の実力が窺える。
撃破された赤チームの隊員たちは、戦車から身を乗り出して『強かったねー』『やばいなー』と、やつれた感じで言っている。
「でも隊長・・・どうして急に『1人で戦う』なんて言い出したのかしら」
今回の紅白戦は、ルール説明の段階で愛里寿の口から4対20に決まっていた。だが、試合開始直後に『手を出すな』と言われて静観に徹した。
「隊員たちに、自分たちで考える力を付けさせるためじゃないかしら?」
「考える力・・・決断力とか?」
「後、行動力もあるわね」
普段の試合では、メグミたちが自らの中隊に指示を出していたので、その配下の戦車は撃つタイミングや回避行動などの最低限の判断ができる程度だ。それより先の、どう動けばいいのかを自分たちで考えさせることはあまり無いから、その力を付けさせるためだろうと、メグミは考えていた。
アズミとルミも、この前のくろがね工業戦の序盤で返り討ちに遭った際、自分たちが指示を出すまでは反撃することぐらいしかできていなかったのを思い出す。
「あとは・・・示威行動の意味もあるかな」
「「え?」」
メグミの『示威行動』と聞いてルミとアズミが腑抜けた声を洩らす。
あのくろがね工業戦で、明智が寝返りを働いたのはチームの全員が覚えている。
あの時明智は、『くろがね工業から内定を貰っているから、くろがね工業とは戦えない』と言っていたが、その前に愛里寿に向けて発砲した。
相手が相手なだけに戦えないのであれば、やりようは他にいくらでもあったはずだ。にもかかわらず、明智が愛里寿に向けて不意打ちを仕掛けたのは、『不意を突けば愛里寿にも勝つことができる』と下に見ていたということだろう。
本当かどうかは分からないが、愛里寿も仮にそうだとしたらと考えて、自分の力を改めて示すために、今回の紅白戦を単機で戦ったのかもしれない。
「まあ、ほとんどのメンバーが隊長のことを慕ってるんだけどね」
「うん」
メグミの考えに、ルミが結論をつける。
そこで、アズミのポケットのスマートフォンがメールの着信を告げた。
「あら・・・」
「何、どうしたの?」
メールを開いたアズミが表情を曇らせたので、メグミが気になって訊いてみた。
「家元から、隊長に電話するように伝えてって」
「あー、電話したのかしら。今まで模擬戦だったし」
今回の集中練習で、大学選抜は東千歳大学合宿所という寮に滞在している。どうやら、そこの愛里寿の部屋へ千代から電話をしたようだ。
「じゃ、私が連れてくよ」
「お願い」
前を向いたまま、ルミが名乗り出たので任せることにした。
やがて、愛里寿のシャーマン初期型の傍に着くと、愛里寿はキューポラから身を乗り出して懐中時計を見ていた。
「隊長?何かお約束でも?」
「気にする必要はない」
突き放すような言葉をメグミに返す。だが、まだ大学選抜のユニフォームを着て、戦車に乗っているのだから態度もまだ隊長のそれなのだ。それは分かっているので、メグミたちも別に傷ついたりはしない。
「先ほど、家元からお電話があったそうです」
「母上から?」
事情を話すと、愛里寿はルミの運転する車に乗って合宿所へと向かって行った。その際、先にミーティングをしておくようにメグミとアズミに伝えて。
「何かあったのかしら?」
「さあねぇ・・・」
合宿所へと向かう車を見ながら、メグミとアズミは顔を合わせて首を傾げる。
だが、後で何かしらの話があるだろうという結論に至り、皆にミーティング用の集会室へ向かうように無線で連絡する。
「話は変わるけど、メグミ?」
「何よ」
「あなたの、彼氏様は来てないのよねぇ?」
本当に唐突に話が変わって、メグミは嘆息する。
メグミは、アズミたちに『桜雲と付き合うことになった』と明言してはいない。だが、メグミの雰囲気が変わったことで勘づかれてしまい、隠すのも無駄だったので否定せずにいたら、こうして茶化されることが増えた。
まったくもって、有難迷惑だ。
「・・・来てないわ。急に北海道までは来れないみたいで」
「まあ、それはそうよね」
答えないと答えないであることないこと言われそうだったので、一応答えておく。アズミもそれで納得はしたようだ。
「応援に来てくれなくて、残念かしら?」
「・・・・・・・・・まあ、ちょっとは」
「あーあ、メグミが羨ましいわね~。それでこんなメグミに好かれる桜雲も羨ましいわね~」
どうあがいても揶揄われるこの現状、本当にメグミにとっては悩ましい限りだ。
と言っても、真剣に嫉妬しているわけでもなく面白がっているだけなのは分かっていたので、嫌ではなかったが。
「ボコミュージアム、ね」
愛里寿との電話を終えて、1つの場所の名前を千代は呟く。
愛里寿は試合を受けることを了承した。その上で、大洗女子学園との試合に勝ったらボコミュージアムのスポンサーになってほしい、とお願いも受けた。
昨日、北海道へ行く日の午前中に、愛里寿は大洗にあるボコミュージアムというレジャー施設へ行った。これまで何度も行っていたので、よほど気に入っているんだろうと思う。
しかしそこは、愛里寿の言う通りでこのままだと廃館になってしまうほど経営状況はよろしくない。そこのスポンサーになるというのも、あまりメリットはないだろう。
だが、愛娘のお願いを無下にするというのも親としての心が痛む。それに、千代としても不本意極まりない世情が絡む試合を愛里寿にさせるのが後ろめたい。
なので、ボコミュージアムのスポンサーになることはひとまず確定とした。
尤も、こういうことをするのは愛里寿がまだ成長しきれていない子供だからだ。成長してからは、甘やかしたりはしないと心に誓っている。
その時、部屋のドアがノックされた。
「何かしら?」
『失礼します。文科省の辻様が、お見えになりました』
「・・・分かったわ」
使用人の言葉を聞き、千代は立ち上がってドアを開ける。
ボコミュージアムのことは一旦置いておき、まずは目下の大洗女子学園との試合についての話が先だ。辻には、聞きたいことが色々とある。
階段を降りて廊下を通り、事務室に入る。先ほどしほが座っていた場所には、焦げ茶色のスーツに群青色のネクタイ、七三分けの黒髪と眼鏡、まさにテンプレートな役人という風貌の男が座っていた。
「お忙しいところ、突然お邪魔してすみません」
「いいえ、お気になさらず」
愛想笑いを浮かべるその男が、文科省の
「先ほど、西住流家元からも大体の話は聞きました」
「そうでしたか」
「ええ。試合の件に関しても、既に大学選抜チームから了承の返事をいただいております」
「ありがとうございます。流石は先生、話が早い」
お世辞は時に嬉しくもあれば鼻持ちならない時もある。今はまさに後者だ。何しろ、この男の失言によって大学戦車道連盟は今回の件に巻き込まれたのだから。
それと、試合の件に関して了承はしたが、まだ試合を行う経緯・・・と言うよりなぜそこまでするのか、という点が分からない。
「試合に関してはご安心を。我々も戦車道に関しては、手加減をするつもりなどありませんので」
「心強いです」
「ただ・・・試合をするにあたって訊きたいことがあるのですが・・・」
「どうぞ、何なりと」
この時、辻は『何なりと』と言ったところで千代の目がすっと細くなったことに敏く気付いた。
「聞けば今回の試合、大洗女子学園とその学園艦の存続を賭けた戦いだそうですね?」
「ええ、仰る通りです」
「昨年度にも大洗を廃校にするという話が上がっていて、今またその話になっていますが・・・」
言葉を切り、少しの間目を閉じる千代。だが、次にその目が開かれた時、なぜか鋭さを増しているように見えたのは何故だろう。
「なぜそこまで、大洗の廃校にこだわるのです?」
「日本戦車道の未来のためです」
まるでそう訊かれるのが分かっていたように、辻は間髪入れずに答える。
元々大洗女子学園には戦車道の経験者はいなかった。だが、黒森峰から転校してきた西住みほを隊長として戦車道チームが発足すると、未経験者しかいないはずなのに瞬く間に急成長を遂げ、高校戦車道最強を誇る黒森峰女学園を破り、全国優勝まで成し遂げた。
その急成長の過程には、他にはない、強豪校ですら知り得ない何らかの方法がある。その方法を、他の戦車道のカリキュラムがある学校で起用すれば、この国の戦車道のベースアップにつながる。
その有力な方法を知る戦車乗りを大洗という一学校だけに収めておくのは、あまりにも惜しい。だから、手っ取り早く大洗を廃校にし、その急成長のプロセスを知っている大洗の履修生たちを各地の学校に振り分けて、全体的な戦力強化を図る。
それこそが、大洗の廃校に固執する理由だ。
「前途ある他の戦車乗りの学生たちに力をつけさせ、将来的に日本戦車道のレベルを上げ、世界に通用する水準まで引き上げるのです」
「・・・なるほど」
辻の力説を聞いて、千代はひとまず納得できた。
しかし、疑念は全て晴れたわけではない。
それどころか、疑念は増えた。
「・・・また、1つお聞きしても?」
「あ、はい。どうぞ」
辻は、先ほどの話だけで納得してもらえると思っていたのか、紅茶に手を伸ばそうとしていた手を止める。
辻が自分に視線を合わせたところで、千代は口を開いた。
「あなたは、大洗を廃校にした後の
「え・・・?」
思いがけない質問だったらしく、辻は一瞬呆けたような顔になる。
どうやら、これについては考えていなかったらしい。千代は内心で『呆れて』話し出す。
「大洗の生徒たちは、全国大会で優勝すれば廃校は撤回される、と信じて戦ってきたようです」
それは先ほど、しほから聞いた話だ。
大洗の生徒会長の角谷杏は、大洗の戦車道チーム全員がそのことを知っていたから(教えたのは準決勝の最中だったが)、廃校撤回を信じて戦い抜いたと言う。
そして、その信じていた道が最初から存在しなかったと言われ、大人しく引き下がることもできないという気持ちは、千代も分かる。
「ですがそれは、あくまで可能性の話で―――」
「たとえ可能性の話であっても、彼女たちからすればそれは一縷の望みでもあったのでしょう」
可能性と確約は違う。それは千代だって分かっている。
だが、まだ自分たちと比べて幼い高校生の身分である彼女たちからすれば、可能性だって絶対だと信じていても、おかしくはない。
「そしてその一筋の希望を目指して、彼女たちは奮闘し、全国大会で優勝を手にした。彼女たちも、それで廃校は撤回されたと確信し、その喜びもひとしおだったでしょう」
脳裏に浮かぶのは、その時の戦車道新聞の記事だ。優勝旗を携えて満面の笑みを浮かべ、感涙を流す大洗のチームのメンバーの集合写真が、鮮明に思い出せる。
「そして今、その希望がそもそも最初から存在しなかったという現実を突きつけられ、脅迫まがいのことまでされて抵抗も許されず、仲間との別れに必要な十分な時間さえ与えられず、そして離れ離れになる・・・」
手の中にある扇子をぱちぱちと鳴らす千代。
辻の口が、堅く閉ざされる。その扇子の音が、部屋の中に異様な緊張感を発生させているように感じる。
「大洗の生徒からすれば、希望を奪われ、自分たちの居場所を奪われ、戦車も、仲間も、友達も奪われる。これだけ横暴とも言うべき仕打ちを受けていれば、信じてきた戦車道に背を向けることだって考えられます」
目を閉じて、扇子を鳴らす。
「どうにかこぎつけた試合でも、我々大学戦車道連盟が勝利し、大洗の廃校が決まれば、生徒たちは全国各地に振り分けられます。ですがその後で、彼女たちが戦車道に見切りをつけて辞めてしまうかもしれない」
気持ち強めに、扇子をぱちんと鳴らす。
そして千代は、目を開き、これまで以上に鋭い眼で辻を見て。
「その時あなたは・・・どうするつもりですか?」
息を呑む辻。計画の穴を突かれたこと、そして千代が発する怒気のような雰囲気に気圧され、思わず姿勢が後ろに下がる。
「・・・その時は、強制的にでも戦車道を―――」
「そんな力任せのやり方で、彼女たちの力を引き出せるとでも?」
何とか見つけた答えさえも斬り捨てる。
再び黙り込む辻を見ながら、千代は続ける。
「大洗を勝利へと導いた隊長・西住みほは、元々西住流が後ろについている黒森峰女学園の副隊長でもありました」
「・・・」
「その彼女が、なぜ西住流本家のある熊本から遥か遠くの大洗にいるのか・・・なぜ黒森峰での戦車道を辞めたのか。それは分かりますか?」
この時点で、この場の主導権が千代に渡ってしまったことに辻は気づく。だが、時すでに遅し。今は千代の質問に答えなければ、確実に自分が格下に見られると感じ取った。
「・・・黒森峰の環境が合わなかったから、でしょうか」
「ええ、それもあるでしょう」
去年の全国大会決勝戦での『事件』は、千代も知っている。だから直接的な原因は『環境が合わなかったから』ではないのだが、それも一つの答えだろう。
であれば、だ。
「黒森峰の環境が合わなかった西住みほが大洗に転校し、素人のチームを率いて全国優勝を成し遂げたのは、大洗が西住みほの実力を発揮できる環境だったから、というのも1つの理由です」
「・・・・・・」
「そして、その素人のチームが一致団結して優勝できたのも、やはり大洗という自分たちの環境、居場所をこよなく愛していたからこそでしょう」
そこで辻は、千代が何が言いたいのか、そして自分が何を失念していたかに気付いてしまった。
「彼女たちが愛し、才能を開花させ、力を発揮できる居場所を奪ってしまうとどうなるか。それは分かりますね?」
「・・・・・・」
「その大洗の生徒会長が、わざわざ文部科学省と戦車道連盟本部にまで足を運び、撤回を求めたのを見れば、どれだけ自分たちの居場所を愛していたのかも分かるはずです」
目を細める千代。反対に目を見開く辻。
「・・・あなたが今の立場に至るまでには、多くの苦労や努力があったのでしょう。その過程で、納得できないことにも首を縦に振り、大人しく従わなければならない局面も多かっただろうと思います」
ここで話の流れが変わったように感じたが、どう考えても張り詰めた空気を払拭するための雑談とは思えない。
「それは私も同じです。大人になった以上、納得できないことや腑に落ちないことに対しても、従わなければならない機会が多くあります。そして、その流れに逆らわず、定められた場所にいなければならない。それが大人というものですからね」
『納得できないことや腑に落ちないことに対しても従わなければならない』というのは、今の大洗の状況、そして試合を受けざるを得ない大学戦車道連盟の現状も指していた。
小さく息を吐く千代。
「ですが、私たち大人と、大洗の生徒たちには、決定的な違いがあることにお気づきですか?」
辻は何も言わず、千代の言葉を待つ。
「彼女たちは、納得できないことにもハッキリと『納得できない』と言える、
辻の視線は下に落ち、テーブルの上に置かれた紅茶に向けられる。湯気はまだ少し経っているが、飲む気など全く起きない。
「彼女たちが成熟した大人であれば、大洗を離れても使命を全うしようとするでしょう。ですが彼女たちは、まだ身も心も成長しきれていない子供。私たちとは違い、嫌だと思うことにも背を向けることができる立場にあるんです」
辻は、大洗の生徒たちが自分たちの思惑通りに動き、転校先でも戦車道を続け、計画の着点である日本戦車道のベースアップに貢献してくれるものと思い込んでいた。
だが、それは理不尽なことだろうと飲み下さねばならない大人の目線での話だった。
千代の言う通り、大洗の生徒たちは子供でしかない。納得できないことに自由に抗い反論でき、簡単に背を向けることだってまだ許される。
それが、大人になってしまった辻には読めなかった。
「・・・ですが、それは全て可能性の話です」
ここにきて、千代の話そのものを否定してきた。
それはつまり、反論することができないということだ。
「ええ、全て可能性の話ですよ。ですが、全く考えられない話というわけでもありません」
千代の言葉には、現実味がある。全ては推測、可能性の話と突っぱねることもできない。
そろそろいいか、と千代は考えてころころと笑う。扇子で口元を隠し、上品に。それで、千代の纏う空気も柔らかくなった。
「・・・私たち戦車道連盟は、所詮は文科省の傘下にある組織です。そちらの決めた方針にどうこう言える立場ではありませんでしたね。無礼をお許しください」
「いえ・・・・・・貴重なご意見ありがとうございます」
辻は、最低限のマナー発言を返す。
この時、千代の言葉の裏に『もし事が失敗しても戦車道連盟は責任を取らない』という意味があったのに、辻は気づけた。
だが、既に計画は後戻りできない場所にまで来ている。
残された道は大学選抜が勝って大洗が廃校になるか、大洗が勝って廃校がなくなるか、この2つしかない。
辻は、後者は確実に避けたかった。ここまで事態が拗れたのは辻の不用意な発言のせいでもあるから、これで計画が頓挫すれば辻もただでは済まない。更迭で済めばまだ良い方で、下手をすれば首が飛ぶ。
だから、何としても大学選抜に勝ってほしかった。千代の話もあながち推測とは言えないが、それでも戦車道を辞めないという可能性に賭けるほかなかった。
「重ねて言いますが、試合に関してはどうぞご安心くださいな。手加減をするつもりなど、毛頭ございませんから」
千代の話を聞いたせいで、心強いはずのその言葉も、今の辻にとっては皮肉にしか聞こえなかったが。
その日の夜。合宿所の集会室で愛里寿とバミューダ3姉妹が主体となってミーティングをしている中。
「急な話だが、翌々日の8月31日に試合が決まった」
愛里寿の唐突な報告に、隊員たちがざわめく。わざわざ北海道くんだりまで来たのはあくまでも集中練習のためであり、試合をするためではない。
試合をするとなればそれ相応の準備が必要なのに、いきなり明後日試合だと言われても困る。
「相手は、大洗女子学園」
そして、その対戦相手を聞いて、ざわめきがどよめきに変わる。
相手は、以前戦った社会人でも、自分たちと同じ大学生でもない、年下の高校生。
だが、その学校の名前を知っている者も多い。今年の高校生大会で、奇跡のような快進撃を見せた学校なのだから。
「・・・・・・」
メグミたちバミューダ3姉妹は、ミーティング前にその話を聞いていたので動じはしない。
しかし、最初にその話を聞いた時は『どういうこと?』と素直に思った。一体なぜ、こんな急に立場の違う自分たちが試合をしなければならないのかと。
「また、どうしてこんなことに・・・」
「文科省のお達しらしいけど、さっぱりよ」
ルミとアズミも猜疑の念は隠せないようだが、メグミだってそうだ。国の命で試合をすることなど初めてだし、ましてやその相手が一高校ともなれば。
「こちらには、30輌で戦うようにとのことだ。よって、全員が参加することになる」
愛里寿がメグミたちに目配せをする。頷いた3人は、用意された資料―――大洗の戦車のスペック表を隊員たちに配る。
だが、それを受け取った隊員たちの口から次々に『え?』だの『は?』だのと呆けた声が洩れだす。
それもそのはずで、大洗の戦車はたったの8輌しかない。おまけにどの車輌も、一癖も二癖もあるようなものばかりで、お世辞にも強そうとは思えない。
隊員たちは、こんな寄せ集めのような車輌で大学選抜に挑むのかと、こんな車輌だけで全国優勝できたのかと、疑惑と驚愕が渦巻く。
「試合は恐らくフラッグ戦になる。よって、これより大洗戦での作戦会議を始める」
困惑する隊員たちをよそに、愛里寿は話を進める。
メグミたちもそうだが、愛里寿だっていきなりこんな試合を組まれたことに納得できていないはずだ。それでも隊長として、覚悟を決めて、冷静になろうとしている。
愛里寿が覚悟を決めたのならば、自分たちもぐちぐち言ってられない。
試合を行う経緯には色々と言いたいことがあるが、まずは試合の作戦を考えるべきだ。
大学選抜に入ってからフラッグ戦をすることはほとんどなくなったが、フラッグ戦は殲滅戦と戦い方が全然違う。それに、大洗が様々な奇策を弄して優勝したのはメグミたちも調べてあるから、綿密な作戦は必要なのだ。
今日の夜は長くなりそうだと、メグミは内心残念がる。寝る前あたりに、桜雲と少し電話で話したいと思っていたから。
結局、その日の作戦会議が終わったのは、予定を2時間オーバーした後だった。
翌日、作戦会議で決まった作戦の段取りを確認しつつ、実際に試合に参加する車輌―――パーシングやチャーフィーなどで模擬戦を行い、作戦に問題が無いことを確認した。
ところが、その日の夕方のミーティングで面倒なことが起こった。
「失礼します」
ミーティング中の集会室に、堂々と入ってきたスーツの男。
愛里寿に代わってメグミが応対をする。
「文部科学省の辻と申します。この度は、急な試合を組ませてしまい大変失礼いたしました」
「いえ。それで、何か?」
こんなところにアポなしで来たのだ。何かしらの用事があるのだろう。
「明日の大洗女子学園との試合について、我々文科省からの要請と、ルール変更があります」
「・・・伺います」
愛里寿がミーティングを中断して、辻の前に立つ。辻は、小脇に抱えていた茶封筒を愛里寿に差し出す。
「その封筒の中に、今回の試合で使用していただきたい車輌の資料があります。ご確認を」
「その車輌はどこに?」
「すでに、北海道に到着しています。詳細については資料を」
なぜか、車輌についての情報を言わない辻。
「ルールの変更とは?」
「明日の試合は、殲滅戦で行います」
辻が顔色一つ変えずに告げた事実に、集会室にいるほぼ全員の表情が驚愕に変わる。
「ですが、こちらは30輌に対して大洗は8輌で―――」
「今後開催される予定のプロリーグでは殲滅戦が基本ルールになっていますので、それに合わせていただきたいのです」
アズミの主張は遮られる。
続けて、メグミが問う。
「その情報は、大洗には伝えたのですか?」
「いえ、あちらが北海道に到着してから伝えるつもりです」
「戦車道の規約には、開催地及びルールに対する異議申し建てのために、試合開始まで24時間の猶予が与えられるはずですが?」
試合が始まるのは明日の10時。今の時刻は16時過ぎ。既に試合開始まで24時間を切っていた。
戦車の数も性能も圧倒的に不利な大洗が、この条件に納得するはずがない。大洗の肩を持つという言い方も少し妙だが、流石にこれは厳しすぎる。ルールを変更しない方が規約には抵触せず、大洗が不利になることもない。
「今回の試合は、前例に無い急に決定したものですので、超法規的措置も致し方ないと判断しました」
だが、にべもない答え。
「それでは明日の試合、よろしくお願いいたします」
そしてそれ以上の意見も許さず、辻は踵を返して集会室を出て行ってしまった。
「・・・・・・ミーティングに戻る」
愛里寿が言ったので、メグミたちも渋々室内に目を戻す。その愛里寿の手には、茶封筒の中に入っていたらしき資料があった。
「明日の大洗戦が殲滅戦になったことで、作戦を見直す」
隊員たちが溜息を洩らすが、こればかりは仕方がないとメグミは思う。自分だって、大きな溜息を吐きたい気分だ。何しろ、昨日時間をかけて練った作戦がお釈迦になってしまったのだから。これで振出しに戻ってしまった。
「文科省から使用するように言われた車輌もあるので、編成も再度考え直す」
「何の車輌ですか?」
ルミが問うと。
「カール自走臼砲」
愛里寿の告げた車輌の名前に、集会室内の空気は困惑一色となった。
カール自走臼砲。主砲口径600mmとバカみたいに圧倒的な火力を持つものの、自重のせいで動きが非常に鈍く、かつ装甲も薄いので運用するメリットがほとんどないとされるゲテモノ兵器。使い勝手の悪さはT-28など比べ物にならないぐらいだ。
そして、オープントップということで戦車道連盟でも長い間協議し、試合には参加できない車輌のはずだ。
「認可されていないはずでは?」
「認可証が同封されていた」
ルミが資料を受け取ると、確かにカール自走臼砲を戦車として認め、戦車道の試合での運用を許可する証書がクリップでついていた。そして、肝心のカールのスペックを見ると、確かに色々と改造が施されている。
「これを運用するにあたり、各中隊の編成と乗員、車輌の内訳を変更する」
隊員たちは首を横に振ったり溜息を吐いたりして、『嫌だ』という気持ちを表現する。
大学選抜からすれば、文科省の無茶ぶりで自分たちが苦労しなければならないのだから。メグミとアズミ、ルミだって同感なので、咎める気など起きずむしろ同情する。
そして、そう思うのは隊員だけではなく、愛里寿も同じのようで。
「・・・・・・・・・はぁ」
あの愛里寿が、溜息を吐いた。普段は、隊員たちの前では凛々しく気丈に振舞い、溜息1つ零すこともない愛里寿が。
それだけで、今回のことが愛里寿にとっても多大なストレスとなっていることが分かる。
「・・・いっそのことカールで文科省を砲撃してやろうかしら」
「やめときなさい。足がついて家元から叱られるわ」
自分たちの尊敬する愛里寿をこうも落ち込ませた文科省に腹を立てたルミとアズミが、本気半分で冗談を言い合う。
メグミだって、できることなら文科省に抗議をしたかった。こんな条件での試合など、最早試合の体を成していない。
それでも自分たちは、既に成人を越えた大人である。だから、上が決めたことに関して反発することも、抗うことも簡単にはできなくなってしまっている。
今だけは、自分が大人になったことが悔しかった。
「言っちゃなんだけど・・・最早試合じゃなくて、弱い者いじめだね・・・」
夜、電話で話を聞いた桜雲は、思った通りの感想を述べた。メグミから『どう思う?』と意見を求められたのだが、その表現が一番しっくりくる。
『うん、私も同意見・・・。抗議しようにも、相手はお役人だし』
「国が相手じゃ難しいよね・・・。なんでそんな試合するんだろう?」
『それはこっちが聞きたいわ。国の命令で試合をして、しかもそれが平等とは程遠い条件なんて、後味悪いだけよ』
電話の向こうのメグミは、相当疲れているようだ。聞いた話によれば、ただでさえ急に試合を組まれて、フラッグ戦だと思って1から作戦を考えたのに、今日になって急に殲滅戦と言われ、挙句カールを使うように言われて編成まで変えたのだから。無理もない。
「疲れてるみたいだけど、大丈夫?」
『ええ、何とかね・・・ふぁ』
言った傍から、あくびをするメグミ。相当グロッキーなようだ。
そんなメグミが、桜雲は心配だ。
「・・・今日は、早めに寝た方がいいかもね。どんな形でも、明日は試合なんだし」
『まあ、そうなんだけどね・・・』
「?」
何か意味ありげな言い方に、桜雲が首を傾げると。
『昨日話せなかった分、桜雲と話したいし』
何気ない一言のつもりだろうが、それだけで桜雲の胸は温かくなるし、顔に熱が集まってくる。
自分とメグミは、既に付き合っている身なのだ。そういうことを言われてもおかしくはないし、勘違いをすることもない。だが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
『1日2日会えないだけでこんなにも恋しくなるなんて・・・知らなかった』
畳みかけるようなメグミの言葉。だけど、それが不快ということはない。
桜雲だって同じ気持ちだ。
「・・・僕だって、メグミさんが恋しいよ」
『ほんと?』
「うん。でも、明日はメグミさんにとっては大事な日だから、自分のことを第一に考えて」
なるべく、諭すように優しく、桜雲はメグミに話す。
「次会う時に、またいっぱい話そう。その時まで、その気持ちは取っておいて」
『・・・・・・うん』
小さく返すメグミ。
「明日の試合、戦車道連盟が中継するんだっけ」
『え、ええ。民放じゃ流れないって言ってたかな』
「・・・じゃあ、それを観て応援させてもらうよ」
『了解』
そこで少しの間、無音の状態が続くが、先に口を開いたのはメグミだ。
『それじゃあ、次会う時は覚悟しといてね』
「え?」
『いっぱい話すから』
からかうような言葉に、桜雲は笑う。
「それじゃ、明日は頑張ってね」
『ありがとう。おやすみなさい』
そして、電話が切れる。
スマートフォンを机に置くと、桜雲は手元に置いてあった『もの』を見る。これは、メグミには言っていない。
明日の自分にとって、重要なカギとなる。
(さて、僕も寝ようかな・・・)
明日のために、早めに寝ようと思ってベッドに足を向ける。しかし、そんなところでスマートフォンが震える。パターンはメールのものだ。
こんな時間に珍しいと思ってメールを開くと。
「・・・・・・・・・え?」
次回もまた劇場版パートで、大学選抜目線での試合の話を描かせていただきます。
今回以上に蛇足となりうると思いますが、最後までお付き合いいただければと思います。
あらかじめ、ご了承ください。
感想・ご指摘等があればお気軽にどうぞ。