恋の訪れは猫とともに   作:プロッター

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前回に引き続き、試合パートです。
あらかじめご了承ください。


Megumi’s longest day 2

 スマートフォンで試合中継を観ている桜雲は、『うーん』と口の中で唸る。

 今は大洗連合が廃遊園地へ移動し、それを大学選抜が追っているところだ。

 この時点で両者の車輌数は22輌と24輌。大学選抜チームの練度は決して低くはないし、紆余曲折があったとはいえ社会人チームにも勝ったのだからむしろ高い方だ。

 その大学選抜相手にここまで持ちこたえているから、大洗は善戦している方だと個人的に桜雲は思う。

 それにカールを撃破したことで、試合の流れも大洗に流れ始めている。

 

(どうなるんだろ・・・)

 

 試合の流れは、読めなくなってきていた。

 

 

 廃遊園地のシャッターで閉じられた東通用門の前に、大学選抜の16輌が待機していた。

 

『こちら南正門・安中(あんなか)。陽動開始します』

「了解」

 

 南正門に陽動として回っていたアズミ中隊の戦車が、陽動を始める。煙幕を使って大所帯でいるように誤認できているだろうが、雨上がりで土煙が上がりにくい状態なので、すぐに気付かれるだろう。

 だが、ほんの少しの時間だけでも大洗の戦力をそこに引き付けることができればそれでいい。

 そして、仮に南正門が陽動だと気付いても、本命は西裏門と勘違いする可能性も高い。

 結局のところ、この狭い東通用門の優先度は大洗側からすれば低い方だろう。

 

「真鶴、始めて」

『了解』

 

 南正門の陽動に気付くまでの時間を愛里寿が想定し、陽動作戦を始めてから8分後に東通用門からの侵入を始めるようにあらかじめ決まっていた。

 メグミが指示をすると、T28のエンジンが低く唸り、そしてシャッターを105mm砲で吹き飛ばした。

 

 

「さあ、行きましょう」

 

 T28の車長・真鶴は、ゆったりとした口調で指示を出す。T28が前進し、廃遊園地の敷地内に足を踏み入れる。シャッターを破壊した際に生じた煙が収まってはいないが、このT28の装甲ではどんな戦車の砲撃も無力だ。気にせず進める。

 やがて煙が晴れると、真鶴にとっては懐かしい戦車がそこにいた。

 

「あら、クルセイダーにマチルダ。チャーチルまで・・・懐かしい」

 

 その顔触れを見て、くすくすと上品に笑う。

 真鶴は聖グロリアーナ女学院出身で、在学中は『ロンネフェルト』という名前を戴き、マチルダⅡに搭乗していた。

 聖グロリアーナほどの財力があれば、クロムウェルやセンチュリオンなどのより強力なイギリス戦車を多く配備することだって可能だ。しかし、後援組織のOG会が過干渉してくるせいで思うように新しい戦車を配備できなかった。

 今もまた、この場にこれしかいないのを見るに、その状況もまだ変わっていないようだ。

 

「全く、嘆かわしいこと」

 

 やれやれと肩を竦めるが、そんなことなどお構いなしに向こうは発砲してくる。

 すると、やたらと近寄ったり遠ざかったりたまに発砲したりとアグレッシブな動きを見せるクルセイダーが目につく。

 

「随分やんちゃな子ね」

 

 そのクルセイダーを撃つように指示するが、照準が定まらず撃破できない。攪乱させるのが狙いか、それとも特に何も考えていないのか。真鶴は、誇り高き聖グロリアーナ戦車隊のメンバーなら前者だろうなと思った。

 ようやく大洗も東通用門が本命だと気付き増援をよこした時には、既にT28は大分侵攻を終えていた。

 そしてついに、T28が通用門前の通路を抜けると、後ろから続いていた15輌ものパーシングとチャーフィーが雪崩れ込んでくる。

 

「こちらメグミ中隊。東通用門突破。予定通りZ地点に向かいます」

『了解』

 

 侵入が済んだことで、メグミは遊園地の外で戦況を俯瞰する愛里寿に報告する。

 ここからの作戦は、大洗の戦車を分散させて、1輌ずつ撃破することだ。協力されると精鋭ぞろいの大学選抜でも苦戦するが、大洗の1輌ごとの戦力はさほど脅威ではない。分散させれば、勝つことは十分可能だ。

 

『よし、行くぞ!』

『一気に攻め立てるわよ』

 

 ルミとアズミの士気が高い言葉に、メグミは自然と笑った。

 

 

 西裏門から侵入を図るルミ中隊の4輌は、ベニヤ板で作られていた壁を粉砕してゲートをくぐる。

 

「敵影無し」

 

 車長・末広(すえひろ)が周囲に気を配る。

 ゲートを突破した後も、敵の戦車は見受けられない。

 

「・・・対岸にも敵影無し」

 

 だが、西裏門付近に敵の姿が一切見えない。どうやら、西裏門に張っていたであろう連中も、東通用門から本隊が侵入したと聞いてそちらへ行ったようだ。

 それでも末広たちは、警戒を緩めることなく1列縦隊になって池の上にある橋を渡る。

 その時、パーシングの装甲をどこからかの砲弾が掠めた。

 

「敵発見!」

 

 歩道橋のような高いところにある通路に、チハがいた。恐らくあれが撃ったのだろう。真っ向勝負を仕掛けることに定評がある知波単が奇襲とは珍しいが、ひとまずあれは撃破しよう。

 ところが、何かが切れるような音がすぐ近くで聞こえた後、パーシングの動きが急に止まった。

 

「履帯を切られた模様です!」

「どこから?」

 

 操縦手が報告するが、今さっき見回した限りでは近くに戦車の姿はない。角度的にあの上の通路のチハでは打ち抜けないし、どこかに隠れているのだろうか。

 

『こちら最後尾・韮崎(にらさき)!履帯切られました!』

「また?」

 

 一体どこから撃ってきているのだ。こうも簡単に履帯を切られるなんて。

 そして、先頭と最後尾のパーシングが動けなくなったことで、間の2輌も身動きが取れない。上側の通路にいたチハも狙い辛い場所にいて、何もすることができない。

 間にいるパーシングの車長・播磨(はりま)はどうしたものかと考えていたが、すぐそばの池から何かが飛び出してきてびっくりする。

 

「え、チハ!?」

 

 飛び上がってきたのはチハだった。突然敵が目の前に現れたことに驚き、砲塔を旋回するように指示するが、その前にチハにターレットリングを撃ち抜かれて撃破された。

 

「くそっ、チハ如きに!」

 

 播磨が忌々し気に吐き捨てる。

 そしてチハはその後ろにいた寄島(よりしま)のパーシングも狙おうとしたが、そちらは先に砲塔旋回を済ませていたので反撃することができ、撃破はされなかった。

 

「まさか知波単が遊撃戦とは・・・」

 

 撤退する知波単の戦車たちに向けて砲撃しながら、末広は意外に思う。さしもの知波単も、この大舞台で突撃一辺倒では勝てないと悟ったのか。

 とにかくこのことは、愛里寿に伝えるべきだ。

 

 

 一方で、本隊を率いて侵攻しているメグミたちは、中々敵を撃破できずにいた。

 敵は分裂されることを最初から危惧していたのか、まとまって大学選抜を迎え撃っており、思うように分断できない。

 

「こちらメグミ中隊、敵部隊と交戦中。縦深防御により、敵の分散は困難と思われます」

『攻撃を続けろ。作戦を変更する際は伝える』

「了解」

 

 思ったように敵を撃破できていない。この状況は大学選抜にとっても士気が下がる要因となるだろう。

 メグミはそう思いつつ、チャーチルを狙うように平戸に指示を出す。

 

 

 

『こちら南正門軍、北へ敗走中!』

『西裏門軍、履帯修復完了!敵は予想外にも縦深防御によって、遊撃戦を仕掛けています!』

 

 南正門で陽動に就いていたチャーフィーの加賀と、西裏門から侵入したパーシングの末広がそれぞれ愛里寿の下へ連絡してくる。

 センチュリオンの通信手の信濃は、それまでの選手たちの報告から園内の大まかな戦車の位置をタブレットに入力し、その情報を愛里寿に伝える。

 加賀と末広の連絡を聞き、信濃の情報を見た愛里寿は無線機を手に取る。

 

「作戦を変更する。分散が嫌なら望み通りにしてやろう」

『『了解!』』

 

 

 

 新しい作戦を聞いたメグミは、すぐにどうするかを考える。

 

「真鶴、お化け屋敷前の戦車を西側の路地に追い込んで」

『了解』

「西側路地に展開してる戦車は後退、路地を開けて。中央ドームを反時計回りに回らせるように誘導!」

『はい!』

「残りの戦車は敵を追撃。でも極力撃破は避けて、YO地点に誘いこむように」

『分かりました!』

 

 メグミが指示を出すと、早速メグミの中隊と、指示を聞いていたアズミとルミの中隊が動き出す。西側通路にいた戦車は指示通り後退して道を開け、ドームを回るように砲撃を交えて誘導させる。

 加賀のチャーフィーは、後ろから付いてくるティーガーとT-34を誘導するようにスピードを上げて、しかし振り切らない程度に蛇行して進む。

 メグミたちが追撃する敵戦車はドームを狙い通り反時計回りに進んで行く。

 

『こちら新宮(しんぐう)、行動不能!敵部隊は東のYO地点へ向かってます!』

相馬(そうま)、こちらも走行不能です・・・』

「了解。作戦通りよ、よくやったわ」

 

 YO地点へ誘い込むまでの間に2輌撃破されるが、これも作戦の内だ。2輌相手に撃破させることで、相手にわざと余裕を持たせる。無論、気付かれるかもしれないが、後ろから散発的ではあれど追撃をしているので止まることはできない。

 そしてついに、YO地点―――野外劇場まで大洗の半数以上を追いやることに成功した。

 この場所は半円形になっていて、一方には外壁が聳えている。元々客が座る場所はすり鉢状になっていて、ステージは上から見下ろす形だ。

 そこへ大洗の戦車は次々に追いやられ、この野外劇場をぐるりと囲うようにパーシングとT28が並ぶ。

 その時、後ろから知波単の戦車4輌が突撃してきた。どうやら仲間を助けに来たらしい。

 

『後方より知波単車4輌接近』

「新発田、矢巾!それぞれ左右にズレて道を開けて!」

『了解』

 

 メグミが指示した2輌が横に逸れると、空いたスペースに知波単の戦車が突っ込んでいき、追い込まれた他の車輌と同じ有様になった。

 さらに後ろから、南正門にいたティーガーとT-34、そして隊長車のⅣ号戦車が駆けつけるが、加賀のパーシングが牽制砲撃をして近づけさせないようにする。

 

『包囲完了』

 

 アズミが得意げに告げる。

 戦車が這い出る隙など無いぐらい包囲できている。これなら逃げられない。

 

「一方的過ぎて心苦しいわ」

 

 メグミが小さく笑いながら言う。

 今この場には、実に16輌もの大洗の戦車が囲まれている。この車両を全て撃破できれば、大洗の戦力も大分落ち、最早勝ったも同然だ。

 

『後は私たちに任せてください!』

 

 ルミが自信満々に声を上げる。

 この戦車を全て撃破できれば、もう愛里寿も出陣することなく試合を終えられる。

 

「全車両、微速前進。包囲網を狭めるわよ」

 

 これだけ隙の無い包囲網ができれば向こうも逃げ出せないが、距離があるのでまだ狙いにくい。特にクルセイダーなんて、隙を狙ってうろうろと動いていた。だから、ゆっくり前進して包囲をより密にしつつ、距離を近づけて撃破しやすいようにする。

 メグミが指示を出し、早速動き出そうとしたところで、外から何か巨大な金属物が落ちるような音が聞こえた。

 

「?」

 

 どこかで誰かが発砲したのかと思ったが、まだ音は続いている。

 戦車のものとも違うような金属と地面が擦れるような音。そしてどこか一定のリズムで叩くような地響き。

 

『なんだ?』

 

 ルミも流石に不思議に思ったのか、声を上げる。

 気になってきたので、メグミがキューポラから顔を出すと。

 

「観覧車!?」

 

 ガラガラと音を立てて、野外劇場に向かって転がってきたのは、なんと観覧車だ。いくら廃遊園地で老朽化が進んでいるとはいえ、あれほどの巨大かつ頑丈なものが落ちてくるか。絶対に大洗の誰かの仕業に違いない。

 

『退避行動!』

 

 ルミがいち早く全体に指示を出すと、足の遅いT28と、観覧車の進路上の戦車だけが後退して避けようとする。

 そして観覧車は、野外劇場の縁にあるブロックに当たってバウンドし、野外劇場を横切る。大洗の戦車はその観覧車をギリギリで回避したらしく、1輌も撃破されていない。

 とりあえず、この勢いで観覧車は外に出るだろうし、通り過ぎて行ったらまた包囲網を元に戻そうとメグミは考えた。

 だが、先ほどまでうろうろしていたクルセイダーが観覧車に向けて発砲しだし、観覧車が向きを変えて転がり出す。それで、そこにいたほぼ全ての大学選抜の戦車が回避行動をとるために、包囲を崩してしまう。

 

「退け退け!」

「こっち来ないで!!」

「余計なことしやがって!」

 

 そして最後には、大洗のファイアフライが観覧車の頂点を撃ち抜いて向きを正確に変え、野外劇場の外へと追い出す。それに大洗の戦車が続き、全ての車輌が逃げてしまった。

 

「中隊を再編成、すぐに追うわよ!」

 

 観覧車にあっけに取られていた戦車たちにメグミが檄を飛ばす。それで、他の戦車も冷静さを取り戻して、大洗の戦車を追う。

 結局、あれだけ手間暇かけて包囲網を作り上げたのに、撃破数は稼げなかった。それどころか、あそこへ追い込むまでに2輌消耗してしまったので全体的にはこっちが損だ。

 それと、あれだけの包囲網を抜け出したことで大洗の士気は高まっているだろう。しかし逆に、大学選抜はあれだけやってただの1輌も撃破できなかったから士気は下がってしまうかもしれない。

 兎に角、まだ挽回するチャンスは十分ある。翻弄されるのはもうこれっきりで、大洗を倒すことにした。

 

 

 アズミ中隊は残り2輌となっていたので、ルミ中隊から1輌増援を貰っていた。

 序盤の追撃で2輌、南正門の陽動で3輌やられてしまったので、バミューダ3姉妹の中では一番損耗が激しい。しかしそれも奮戦しての結果なので、恥じるべきことではない。

 

「もうこれ以上は好きにはさせないわよ・・・」

 

 アズミが意気込みながら、昔ながらの商店街エリアを残り輌と共に走る。彼女たちは、クルセイダー、ルノーB1、Ⅲ号突撃砲の3輌を追っていた。反撃してくる様子はないが、それは逆に好都合だ。

 しかし。

 

『えっ、何!?』

『壁が撃ってきた!』

 

 突然、先頭を行く橿原のパーシングが撃破された。『壁が撃ってきた』という言葉の意味は分からなかったが、よく見ると前方に、背後のレンガの壁を模したパネルを付けたⅢ突がいた。

 

「欺瞞作戦なんて姑息な・・・!」

 

 後ろから続く韮崎のパーシングがⅢ突を狙うも、砲弾はそれて本物の壁に当たった。

 そして商店街エリアの角をいくつか曲がると、韮崎のパーシングが、同じように自動販売機の看板でカモフラージュを施したⅢ突に撃破された。

 

「何てこと・・・」

 

 立て続けに2輌も撃破されたことに、アズミは思わず声を洩らす。

 

 

 アメリカの西部劇を模したウエスタンエリアでは、メグミ中隊のパーシング3輌がT-34/85、ポルシェティーガー、三式中戦車チヌと交戦していた。

 中央の大通りを大洗の3輌が走り、その両隣の通りからパーシング2輌で挟撃している。

 

「もうすぐT字路。そこへ来たら、一気に片を付けるわよ」

『了解!』

『はい!』

 

 矢巾がウエスタンエリアの地図を見ながら、他の2輌に伝える。

 序盤の追撃戦で滅多打ちにされたT-34がここまで残っていることには驚いたが、今度こそここで撃破する。

 T字路に差し掛かり、共に戦っていた新発田、相生(あいおい)と合流し、大通りを見る。

 

「あれ?」

 

 だが、大通りにはT-34しかおらず、さらに傍の建物から何かが壊れるような音と煙が上がっていた。

 

「後ろだ!」

 

 建物を戦車が突っ切っていると気付いた新発田は、砲手に攻撃に備えるように伝えるが、大洗のポルシェティーガーが先に新発田のパーシングを撃破してしまった。

 

「このっ!」

 

 矢巾がポルシェティーガーを狙って発砲するが、T-34が躍り出て砲弾を逸らし、返す刀で矢巾のパーシングを撃破した。

 

「せめてチヌだけでも・・・!」

 

 残ってしまった相生のパーシングはチヌを狙って攻撃するが、キレのいいドリフトを追い切れずに撃破されてしまった。

 

「すみませんメグミ隊長!ウエスタンエリアの小隊、全滅です!」

『分かった。お疲れ様』

 

 

 

 

 ドイツ軍の計画にあった超重戦車・ラーテを模したアミューズメントエリアで、ルミ中隊の末広と寄島は、八九式中戦車・知波単学園の車輌と交戦していた。

 相手の戦車の性能からそこまで苦戦しないだろうと思っていたのだが、ちょこまか動き回っていて狙いが定まらない。

 

「さっきの履帯の恨み、ここで晴らしてくれるわ」

 

 末広は西裏門から侵入した時に履帯を切られたことを根に持っていた。切れた履帯を繋げるのは大変なので、その労力の対価としてこの旧世代の車輌から白旗を貰う。

 

『なんでこの戦車、アヒルの風船つけてるんですかね?』

「考えたら負けよ」

 

 ずっと疑問に思っていたことを寄島が告げた。

 今戦っている大洗の戦車は、どれもなぜか黄色いアヒルの風船を着けている。これが何の意味があるのかは分からないが、これでは周りが見えないだろうに。

 すると、前を行く戦車の集団が左右にばらけて、正面には景品のおもちゃらしきぬいぐるみが山積みになっている。

 その中でひときわ大きなアヒルの風船が弾けて、末広のパーシングに何かが当たる。

 

「カモフラージュとは味な真似を・・・」

 

 末広は奇襲に失敗したチハを追い、寄島はもう一方の集団を追う。

 だが、末広の目の前にまたアヒルの風船を被った戦車が現れて、動きを妨害してくる。

 

「このっ!」

「構うな!前を狙え!」

 

 砲手が相手をしようとするが、砲身が長すぎて撃破が狙えない。これは相手にせずに、前を逃げる別のチハを狙った方がいい。

 だが、その直後にそのアヒル風船を被った戦車が発砲し、ターレットリングを撃ち抜かれて白旗が揚がった。

 

「しまった!」

 

 一方寄島は、大洗の戦車が階段を上って外へ出ようとしているのを追い、同じように階段を上る。そして、滑り台を下りようとするが結構角度があることに気付き、下りた先には砂場があった。

 

「砲身が刺さるぞ!旋回してダメージ回避!」

「はい!」

 

 砂場に砲身が刺さるとすぐに立て直せないし、不調を来すかもしれない。滑り台を下りる間に、寄島の指示に砲手が従って砲塔を左に旋回させて砂場に着地した。

 そして大洗の戦車を探そうとしたら、向こうから姿を見せてきた。それも、八九式と九五式だ。

 しかし、この2輌は並んでパーシングに体当たりを仕掛け、しかも砲身を挟んで動けないようにしてきた。

 

「小癪な!前後に動かして、砲塔回せ!振り払うぞ!」

 

 操縦手が操縦桿を使って履帯を前後に回し、砲手が砲塔を強引に回そうとするが、中々動かない。

 そして別方向から砲撃音が聞こえて、パーシングの動きが止まった。

 

「こっちが本命か・・・!」

 

 寄島は後ろにいたチハ新砲塔を見て舌打ちする。どうやらパーシングの動きを止めている間に、ターレットリングを撃ち抜かれたようだ。

 あの突撃一辺倒な知波単が、こんな突飛な作戦を思いつくとは、と寄島は思う。誰かの入れ知恵だろうか。

 

 

 高い生垣・ボカージュでできた迷路を、ルミのパーシングが葛城(かつらぎ)と共に走る。ここに大洗の隊長車のⅣ号戦車とヘッツァーが逃げ込んだので、それを追っているのだ。

 先ほどから、大学選抜の戦車の撃破情報がひっきりなしに飛んできていて、ルミは焦っていた。大洗の戦車を撃破したという情報が、まったく来ていないことが焦りを助長させている。

 

『こちら葛城!Ⅳ号戦車発見!』

 

 迷路を動くルミの下に、葛城からの連絡が入った。

 

「Ⅳ号の砲塔はどっちを向いてる?」

『正面です!』

「よし!この道幅なら、砲塔の旋回はできない。後にピッタリついたら絶対に離れるな!」

『分かりました!』

 

 この狭い迷路でⅣ号の後ろを取れたのはファインプレーだ。離されないようにして、真っ直ぐの道になったところで撃てばいい。それまでは弾は温存だ。

 ここで大隊長車・Ⅳ号を撃破できれば、相手の士気は大分落ちるだろう。それならば、まだこちらにもチャンスがある。

 ところが、少ししてから戦車の撃破音が聞こえた。

 

「!?」

 

 ルミがキューポラから身を乗り出すと、黒煙が上がり、さらに白旗の揚がる音も聞こえた。

 Ⅳ号をやったのか。

 

『すみませんルミ隊長!撃破されました!』

 

 だが、聞こえてきたのは残念な報告。ルミは、車高の低いヘッツァーがここにいるのを思い出し、奇襲も考えられるのだと冷静に考え直した。

 

「パーシング、チャーフィー、各1輌増援を要請する!」

 

 ルミの要請に応じたのは、メグミ中隊の応援に向かおうとしていた富里(とみさと)のパーシングと、遊撃の任に就いていた茂木(もてぎ)のチャーフィー。

 

「数の利を生かして囲い込め!車高の低いヘッツァーの待ち伏せに注意しつつ、まずはⅣ号だ!」

 

 応援に来た2輌に伝えるが、如何せん戦う場所が場所だ。迷路なせいで曲がり角が多く、おまけに生垣の背も高いせいで他の戦車の動きが見えない。

 Ⅳ号戦車の姿を見つけて追いかけても、曲がり角をいくつか過ぎれば姿を見失って見当違いの方向に行ってしまう。あのⅣ号の操縦手は相当腕がいい。

 そしてルミが角を曲がると、発砲された。

 Ⅳ号に見つかった!?と肝が一瞬冷えたが、撃ってきたのはまさかの応援に来た茂木のチャーフィーだった。

 

「コラ!気を付けろ!」

『あー、すみませーん!』

 

 びっくりさせられたのでちょっと乱暴に注意すると、茂木は気の抜けた謝罪の言葉を返して後退する。

 それにしても、とルミはパーシングの上に立って辺りを見回す。Ⅳ号と距離が離されていた。しかも、迷路の構造を俯瞰的に見ているかのように動きに迷いがない。

 

「こちらを見通しているかのような動きだ。天性の勘なのか・・・」

 

 背伸びして、迷路の構造をじっと見る。丁度、Ⅳ号の行く先には袋小路があった。

 

「ならば、袋小路に追い詰めるか」

 

 パーシングの動きを止めさせて、ルミが戦車の上に立ちながら茂木のチャーフィーと富里のパーシングを指示する。別ルートを使ってチャーフィーをⅣ号のルート上に配備して、パーシングで後ろから追撃し、袋小路に行くように誘導する。

 そして狙い通り、Ⅳ号が袋小路に入った。

 

「よし、追い詰めた!」

 

 ルミが嬉しそうにガッツポーズをとったが、直後に富里のパーシングが横合いから砲撃を受けて撃破された。

 

「何!?」

 

 双眼鏡を覗き込むと、迷路を見渡せる高台にヘッツァーが陣取り、そこから砲撃していたことが分かった。ヘッツァーは移動し始め、Ⅳ号も撃破された富里のパーシングを押しのけて脱出を図る。

 

「茂木、迷路から撤退するぞ!」

『了解!』

 

 ここでの戦いは不利すぎると察したルミは、大人しく撤退することにした。

 だが、ルミの中での疑問はどんどん膨れ上がってきている。

 

「なぜだ・・・?勘がいいってレベルじゃないぞこれは・・・」

 

 Ⅳ号の迷いのない動きといい、生垣越しにパーシングを狙い撃ちしたヘッツァーといい、動きが良すぎて違和感を覚えるぐらいだ。女の勘で済まされるものではない。

 ふと辺りを見回すと、ジェットコースターの上にいる何かに気付く。双眼鏡を取り出し、そこを見るとアンツィオ高校のCV33がいた。しかも、双眼鏡でこちらを見ている乗員まで。

 

「あいつらが!」

 

 ルミは無線機を手に取り、あのジェットコースターの上にいるCV33を撃破するように伝えた。

 

 

 

「一体どういうことよ?こんなに撃破されるなんて・・・」

 

 レンガ造りの城塞のような建築物で、メグミは聖グロリアーナ、サンダースの戦車たちと交戦しながら額を押さえる。

 

「アズミ、ルミ、そっちはどう?」

『こちらアズミ。私の中隊はみんなやられたわ・・・』

『こちらルミ。アズミに同じね・・・メグミはどうなの?』

「私は後T28とパーシングが1輌だけ・・・」

『後はチャーフィー3輌と隊長のセンチュリオンだけか・・・』

 

 精鋭の大学選抜が、たったの9輌しかいない。この前のくろがね工業戦では最終的に5輌になってしまったが、高校生相手にここまでやられるとは。

 

「向こうは残り何輌?」

『カール小隊全滅時のBTを最後に報告は上がってないわ。ってことは・・・』

『・・・・・・まだ22輌?』

「そう言うことになるわね・・・」

 

 メグミがくくると、アズミとルミ、そしてメグミのパーシングの乗員も重苦しい表情になる。

 数時間ほど前から大洗の車輌を1輌も撃破できておらず、どころかこちらが一方的にやられているのだから。

 

『まさかここまで高校生がやるなんて・・・』

『小賢しいったらありゃしない!』

 

 アズミが驚くように声を洩らし、ルミは苛立たし気に声を上げる。

 

『・・・どうする?』

 

 アズミの言う『どうする』とは、どんな作戦で挑むか、ということではない。

 後方にいる隊長の愛里寿に増援を求めるか、と訊いているのだ。

 大洗と大学選抜の差は15輌。愛里寿のセンチュリオンはまだ遊園地の外なので、実質今は22対8で戦うことになっている。この戦力差をメグミたちだけでひっくり返すのは難しい。

 ならば、天才少女と謳われる愛里寿に助けを求めるのも1つの手だろう。だが、メグミは素直に頷けない。

 

「ここで隊長に泣きつくなんて・・・」

 

 年上としての、副官としてのプライドが働いてしまう。

 これまで愛里寿は1発も撃っておらず、ずっと後方で隊の指揮を務めていた。敬愛する愛里寿に助けてと求めるのが、どこか釈然としない。

 

『でも、自分たちの面子ばかり言ってたら・・・!』

 

 アズミの言うことももっともだが、メグミはそれでも悩む。

 その時。

 

『やってやる、やってやる、や~ってやるぜ♪』

「え?」

『イーヤなあーいつをボ~コボコに~♪』

 

 通信に割り込んでくる歌声。あどけない子供の声で、やたらと物騒な曲を歌う。

 一瞬何が起きたと思ったが、その歌声は愛里寿のものだ。そしてこの曲が、彼女が贔屓にしている『ボコられグマのボコ』というキャラクターのテーマソングだということも分かる。

 

『隊長が歌い出した・・・!』

『ということは!』

 

 先ほどとは打って変わって嬉しそうなルミとアズミの声。

 愛里寿が意味もなく歌ってそれを通信に流すなどあり得ない。そしてその歌詞は、戦う様を表している。

 つまり、参戦するということだ。

 

「中隊前進!」

 

 メグミが無線機に、声を弾ませて指示を飛ばす。最早中隊と言える規模でもないが、景気づけには丁度いい。

 

 メグミの指示を受けて、真鶴はT28の操縦手に前進指示を出す。

 この城塞の向こう側にはサンダースのシャーマンシリーズと、聖グロリアーナの戦車が待ち構えている。

 この廃遊園地に侵入した時も最初に遭遇したのは聖グロリアーナの戦車だったので、どうにも運命的なものを感じる。

 

「さて・・・向こうは私たちが門をくぐれないと思っているでしょうし、少し驚かせましょうか」

 

 城門の先には橋が伸びているが、その手前にある城門はT28の車幅よりも履帯2つ分狭い。

 

「第2履帯、切断」

 

 あくまで優雅に指示を出すと、通信手が何かのスイッチを押す。直後、車輌の外から何かが破裂するような音が立て続けに聞こえて、音を立てて外側の履帯が外れた。

 元々、T28の外側の履帯は運搬用に着脱可能だ。それに手を加えて、爆砕ボルトを仕込んでスイッチ一つで試合中いつでも外せるように仕組んだのだ。

 前進すると、T28は問題なく城門を通り抜けることができた。これには流石に大洗側も驚いたようで、後退を始める。シャーマンシリーズとチャーチルは真っ先に姿をくらまし、マチルダⅡも物陰に潜んでこちらを狙い出す。

 

「皆さん意気地なしですこと」

 

 T28は、レンガ造りの橋を渡り始める。

 

 

 商店街エリアを行くアズミは、T字路でクルセイダーとルノーB1が左右に曲がっていくのを見て停車を指示した。

 突き当りには『たぬき食堂』という看板を掲げた寂びた食堂があるが、なぜかハンバーガーショップの内装が見える。

 

「それはない」

 

 流石にこんなバレバレの欺瞞には誤魔化されない。

 冷静に発砲指示を出すと、ハンバーガーショップを模した看板が砕け散り、後ろにいたⅢ突が撃破された。

 

 

 

「そーっと行くんだぞ。そーっと・・・」

 

 ルミから連絡を受けたチャーフィーの足利は、操縦手にゆっくり進むように言う。

 今チャーフィーが進んでいるのはジェットコースターの上り坂。この上の部分に、大洗と大学選抜の動きを監視してそれを味方に伝えるGPS役の車輌がいるらしい。

 こんな場所に上るとはどんな戦車だと思ったが、その車輌の名前を聞いて、実際に頂上について目にして納得した。

 

「久しぶりだな、CV33・・・」

 

 懐かしそうにその戦車の名前を呟くと、CV33の上に立って戦況を俯瞰していたツインテールの隊員が慌てて戦車に戻る。

 足利はアンツィオ高校出身だ。在学中は隊長クラスの地位にはいなかったが、CV33を乗り回していたので戦車の操縦や、機動力を活かした戦いには慣れていた。スカウトされた今ではこうして、大学選抜で機動力の高いチャーフィーの車長を任されている。

 

「悪いけど、愛里寿隊長に叱られたくはないからね」

 

 OGとして後輩と戦うのは楽しくもあるが、心苦しいという気持ちが強い。アンツィオは特に仲間意識が強いからなおさらだ。

 だが、怒った愛里寿の恐ろしさは既に知っている。くろがね工業戦には参加していなかったが、又聞きでも分かったぐらいだ。怒られるぐらいなら、自分がじっと堪える方がずっとマシだ。

 

「お、逃げるか。そう来ないとね」

 

 CV33はジェットコースターのレールに沿って下り始める。あの細いレールの上を走るとは、随分と器用な操縦手だ。

 だが、丁度レールの幅が、チャーフィーの履帯と履帯の間の幅と同じだったのでレールに嵌めるようにして滑り降りていく。

 

「おおおおお・・・!」

 

 足利だけでなく、チャーフィーの乗員全員が声を上げる。疑似的にジェットコースターに乗っているようなものなのだから、自然と声が上がってしまう。

 その間でも砲手がCV33を狙って砲撃するが、こんな不安定な状態では当たるはずもない。焦らず、落ち着いて撃破するように砲手に伝えた。

 

 

 

「11時の方向、敵戦車5輌」

 

 西裏門より廃遊園地に入ったセンチュリオン。キューポラから半身を出す愛里寿は、ホテル近くの斜面にある花壇に戦車が隠れているのに気づいた。

 

「速度は落とすな。合図で反転しろ」

「了解」

 

 感情の籠っていないような指示に操縦手の霧島は応える。砲手の大和は、ペリスコープで敵を確認したが砲塔は旋回せず、発砲もしない。

 敵戦車が花壇を飛び出して土手を下り始めるが、センチュリオンの乗員は臆さない。

 

「反転」

 

 センチュリオンが5輌を通り過ぎたところで合図が出る。霧島は素早くセンチュリオンの向きを反転させて、5輌に砲身が向けられる形になる。

 

「撃て」

 

 発砲指示。大和は既に照準にチハ(旧砲塔)を捉えていた。狙いすまされた砲撃は命中し、白旗を揚げる。

 

「6時の方向に1輌」

 

 愛里寿の指示は端的だが、それで大和と霧島には意味が通じ、霧島はセンチュリオンを素早く超信地旋回させ、大和は砲塔を少し旋回させる。超信地旋回をすることで、砲塔の旋回時間を最低限に収めるのだ。

 わずか数秒で方向転換し、大和は後ろにいたチハ(新砲塔)に狙いを定める。三笠は既に装填を終えていたので、躊躇わずに撃つ。撃破できた。

 

「4時の方向1輌。旋回」

 

 指示を聞き、霧島が再度超信地旋回をして、4時の方向にいるチハ(旧砲塔)の砲撃を躱す。砲塔を旋回させて大和がさらに発砲し、これも撃破する。

 そこへアヒルの風船を被った八九式と九五式が挟み込んで発砲するが、霧島は最初にこの2輌が接触した時点で後退を始めていたので被弾はしなかった。

 そして、後退して距離を取ったところで九五式を狙撃する。

 道路に戻ったところで八九式が突撃を仕掛けてきたが、状況を見ていた霧島は前進して八九式の横に出る。大和は正確に側面を狙撃して横転させ、撃破した。

 

「行くぞ」

『はい』

 

 何事もなかったかのように、愛里寿が告げる。乗員も、息切れ一つせずに返事をし、中心部へと向かう。

 

 

 

『九七式中戦車2輌、同新砲塔1輌、九五式軽戦車1輌、八九式中戦車1輌行動不能』

 

 あっという間にセンチュリオンが1輌で5輌も撃破したのを見て、観客席が驚きの声に包まれる。

 そのセンチュリオンの無双とも言うべき戦いを観ていた桜雲も、口を開けていた。

 あのセンチュリオンの人間離れした動きは、夏の練習やくろがね工業戦でも見たことがあったが、それでもやはりすごい。

 何度見ても、あの動きには戦慄するしかない。

 

 

 レンガ造りの橋を悠然と渡るT28。物陰からマチルダⅡやシャーマンが発砲してくるが、痛くも痒くもない。

 その時、目の前の橋が崩落を起こした。

 

「何?」

 

 自然に落ちたものではないだろう。とすれば、どこからかの狙撃だ。

 真鶴が周囲を見回すと、城塞の上あたりにファイアフライがいるのが見えた。恐らく角度的に、あれの仕業だろう。

 

「進みなさい」

 

 だが、この程度の穴では戦車は落ちないので構わず進むように指示を出す。

 そういえば、と真鶴は思う。あのファイアフライに乗っているのは、確か高校戦車道でもトップクラスの砲手だったはずだ。そんな選手が、何の意味もなく橋に穴を開けるだろうか。

 

「・・・・・・もしや」

 

 真鶴が、答えを1つ考えた瞬間、戦車の下から砲撃音が聞こえて、T28の車体が一瞬持ち上がる。真鶴を含めた乗員全員がびっくりすると、後ろのエンジンが苦しそうな音を洩らす。

 そして、爆発して白旗が揚がった。

 

「ああっ!?」

 

 T28の最大装甲は300mm。だが、T28の底面の装甲は僅か25mm。

 ファイアフライの真の目的は、橋の下にいた戦車にT28の底面をさらけ出させること。そのために、穴を開けたのだ。

 

 

「まさか、T28までやられるとはね・・・」

 

 メグミはあらかじめ呼び寄せたチャーフィーと共に、橋の下にいるチャーチルを挟み込む。

 チャーチルは片方の履帯を橋のアーチにかけて無理矢理上を向いていた。そして、先ほどのファイアフライが穴を開けた影響で瓦礫がチャーチルの周りに落ちていて、動けなくなっている。

 そんなチャーチルを、メグミのパーシングとチャーフィーは砲撃し、撃破した。

 

「ちまちましているのは性に合わないわ。集まりましょうか」

『いつも通りの』

『バミューダアタック!』

 

 ここまで削られては中隊も何もない。アズミの言う通り、いつものようにバミューダアタックで片を付ける。アズミとルミも、考えることは同じだったようだ。

 

若狭(わかさ)、あなたは残党車輌の始末に回って」

『了解!』

 

 メグミは、最後に残った自分の中隊のパーシングに指示を出し、アズミ、ルミと合流地点を決めてそこへと向かう。

 

 

 一方、ジェットコースターでCV33を追う足利のチャーフィーは、いつまでたってもらちが明かないので、同じチャーフィーの加賀に協力を求めた。

 観覧車がある丘の下に通っているトンネルを抜け、緩やかな上り坂に差し掛かると、段取り通り坂の頂上に加賀のチャーフィーがいるのを見た。

 

「これでおしまいだ」

 

 CV33も加賀のチャーフィーに気付いたのか、機銃を撃ち始める。しかし当然ながら、チャーフィーは8mm機銃程度では撃破できない。

 しかし、突然チャーフィーが黒煙を上げて後ろに下がり始めた。

 

「何!?」

 

 どんなラッキーパンチでも、チャーフィーが8mm機銃でやられるはずがない。とすれば、どこからかの砲撃があったと考える方が現実的だ。

 どこから撃ってきた、と辺りを見回したところで足利のチャーフィーも撃破された。

 その瞬間、足利は観覧車のあった丘にM3リーが止まっているのが見えた。恐らくは、あれが撃ったのだろう。

 

「隊長!」

 

 だが、そのM3の後ろから愛里寿のセンチュリオンが近づき、そして発砲してM3を撃破して走り去っていく。

 先ほど、全体通信で愛里寿の歌を聴いた時は『ついに来たか』と気持ちが昂った。何せ、自分たちの頼れる隊長が参戦すれば、怖いものなど何もないから。

 愛里寿の強さと恐ろしさは、同じ大学選抜チームとして身をもって知っている。これだけ劣勢になっていようとも、愛里寿がいれば戦況は一気にひっくりかえせると、足利は信じていた。

 

 

 メグミたちバミューダ3姉妹は、西洋風の建築物が並ぶ街並みで合流し、愛里寿の下へと向かおうとする。

 だが、それを食い止めるようにシャーマンシリーズ3輌が向かってきていた。

 

「一気に蹴散らして、隊長と合流するわよ」

『了解!』

『OK!』

 

 向かってくるシャーマンたちを見て、メグミは不敵に笑う。アズミとルミは、メグミの呼びかけに快く答える。

 

(かかってきなさい、3人とも)

 

 心の中で、メグミはシャーマンに乗っているであろう自分の後輩たちに告げる。

 

「バミューダアタック、パターンG!」

 

 こちらに向かって突っ込んでくるシャーマン3輌をやり過ごし、メグミたちはそれぞれぶつからないようにドリフトして向きを変え、後ろを見せるシャーマンたちに砲を向ける。

 M4A1シャーマンは停止して冷静にこちらを狙おうとしていたが、バミューダアタックを前にして停止するなど自殺行為に等しい。結局、何もできずにルミのパーシングに撃破された。

 

「パターンS!」

 

 今度は少しタイミングをずらしながら、同じスピード・角度でドリフトし、敵の照準を乱すパターンを繰り出す。

 シャーマンファイアフライはこちらを狙うように砲塔を回していたが、どれを狙えばいいかが分からず、ついには明後日の方向を撃ってしまう。そこをメグミのパーシングが狙撃して撃破した。

 

「パターンTでフィニッシュね!」

 

 残るはM4シャーマンのみだが、3方向を囲むようにメグミたちは回り込む。そして、唖然としているM4シャーマンを3輌で一斉に攻撃し、撃破した。

 

「まだまだ鍛錬が足りないわね」

 

 去り際に、擱座するシャーマンシリーズ3輌に向けてメグミは笑って言葉を投げた。

 

『目標、中央広場』

「『『はい!』』」

 

 敵チームの大将がいるのは、色々な遊具のある中央広場。その場所を聞いて、メグミたちは武者震いをする。

 敵のツートップは、島田流と双璧を成す西住流の姉妹。まだ彼女たちが撃破されたという情報は入っていないので、愛里寿の言う通り廃遊園地の中心である中央広場にいるはずだ。

 西住流と戦ったことなどこれまでなかったから、直接対決できることが、不謹慎かもしれないが楽しみだった。

 

 

 

「中央広場に急げ!」

「クルセイダーが邪魔です!」

 

 一方で、江戸をモチーフとしたエリアを走る茂木のチャーフィーは、面倒な事態に陥っていた。堀の反対側を走るクルセイダーが、執拗にこちらを狙っているのだ。まるで張り合うように走っていて、チャーフィーが速度を増減してもそれに合わせてくる。

 チャーフィーもやられっぱなしというわけではなく、ちゃんと撃っているのだが中々当たらない。

 その時、クルセイダーから一層大きな唸り声のようなモーター音が聞こえてきた。

 

「何です?」

「調速機を外してスピードを上げたんだ。先回りするつもりだろ」

 

 俗にいうリミッターを外して、最高速度の上限を解放したのだ。先回りに注意するように操縦手と砲手に伝える。

 だが、茂木は堀を飛び越えるクルセイダーの姿が目に入った。

 

「えっ!?」

 

 最悪なことに、チャーフィーの砲塔は先ほどまでクルセイダーが走っていた堀の反対側に向いている。そしてクルセイダーの砲は、チャーフィーを捉えていた。

 クルセイダーは発砲し、チャーフィーは黒煙を上げて停車し、白旗を揚げた。

 クルセイダーも無事ではすまず、石垣に激突して横倒しになり、こちらも白旗を揚げた。

 

「何て奴だ・・・」

 

 茂木は呆れたように声を洩らす。

 調速機を外したのは、堀を飛び越えるほどの勢いを得るためだった。ある意味で先回りというのも間違ってはいなかったが。

 聖グロリアーナとは思えない、荒っぽい戦い方だ。

 キューポラから身を乗り出すと、横倒しになったクルセイダーから、ワインレッドのタンクジャケットを着た赤髪の少女が転がり出るのを見た。

 

「うあー・・・やりすぎましたわ・・・。アッサム様に怒られる・・・」

「・・・何なの?」

 

 暢気に呟く赤髪の少女を見て、思わず茂木は質問じゃないような質問を零す。

 すると赤髪の少女は、茂木を見てニッと笑い。

 

「聖グロ一の俊足、ローズヒップでございますのことよ!一緒にお茶でもいかが?」

 

 

 

 

「中々いませんね・・・」

「隊長がもう10輌近くやっつけたみたいだしね」

 

 残党処理としてノロノロと園内を走る若狭のパーシングだが、その残党がなかなか見つからない。敵に遭遇しないのは良いことなのだが、まだ全車両撃破されたという報告はない。

 西住姉妹の戦車は恐らく愛里寿とメグミたち副官3人が撃破するだろうが、それ以外はできるだけ若狭が倒すべきだと思う。

 するとその時、CV33が進路上に割り込み機銃を撃ってきた。

 

「CV33です!」

 

 操縦手が声を上げる。8mm機銃を連射するが、当然ながらパーシングの装甲など抜けるはずもない。だが、それが分かっていても鬱陶しかった。

 

「この・・・って、あれ?」

 

 砲手が砲身を下に向けるが、CV33がいる位置が俯角の外側、しかも砲口よりも内側にいるせいで狙えない。

 それを分っているのかCV33は機銃を撃ち続けていて、若狭はそれがムカついた。

 

「豆戦車を踏みつぶせ!」

 

 操縦手に速度を上げるように言うと、CV33は向きを変えて蛇行しながら逃げる。そのせいで狙いが定まらず、おまけにウィークポイントも限られているので中々撃てない。

 ボンプル高校出身の若狭は、在学中にアンツィオ高校と戦った記憶がある。その時も、CV33が身軽さを活用してまるでゾンビのように何度倒しても復活してきて、実に鬱陶しかったことを思い出す。それが、余計に若狭を駆り立てる。

 だが、一瞬前を走るCV33がふわっと浮いたと思うと、池を水切りの要領で跳ねる。

 

「停止!」

 

 若狭の指示で、操縦手が急ブレーキをかける。水の上を跳ねるなど、軽いCV33でしかできないような芸当だ。パーシングには到底できない。

 

「ふぅ・・・」

 

 何とか手前で止まることができたが、直後に後ろから撃たれて池に落ちた。

 

「うわぁ!?」

 

 後ろを見ると、ルノーB1がいて砲口から白煙を上げていた。CV33に気を取られていて気づけなかった。

 だが、そこへセンチュリオンが姿を現し、CV33とルノーB1を立て続けに撃破した。

 

「うわ、流石隊長・・・」

「やりますね・・・1発で仕留めるなんて・・・」

 

 若狭たちは、愛里寿のことはもちろん尊敬している。

 だがそれと同じくらい、センチュリオンの乗員も尊敬していた。愛里寿の抜きんでている能力に従って、忠実に命令を遂行するのだから。

 

「頼みます、センチュリオンの皆さん・・・」

 

 

 

 万里の長城を模した建築物がある広場でマチルダⅡを撃破したバミューダ3姉妹だが、後ろから大洗の戦車が3輌追ってきているのに気づいた。車種はポルシェティーガー、ティーガーⅡ、そしてT-34。

 

「バミューダアタック、パターンR!」

 

 メグミの合図で、最後尾のルミを除くメグミとアズミのパーシングがそれぞれ左右に円を描くようにドリフトする。そして、大洗の戦車めがけて発砲し、また一列縦隊に戻る。

 しかし、先頭は腐ってもポルシェティーガー。パーシングのスライド気味の砲撃も受け流された。仕方ないので撃破を諦め、速度を上げて振り切ることにする。

 

『先頭はポルシェティーガーだ。あの足じゃ追いつけない』

「そうだけど・・・」

 

 ルミはそういうが、メグミは後ろからずっと狙われ続けるという状況が怖い。

 そして、少しして後ろの方から何か大きな唸り声のような音が聞こえてきた。メグミが気になって振り返ってみると、土煙のようなものが見える。

 

『速度上げろ!なんかポルシェティーガーのスピードが上がってきてる!』

 

 最後尾のルミが慌てふためいた口調でまくしたてるが、とにかくメグミたちも速度を上げてどうにか振り切ろうとする。

 だが、ポルシェティーガーはモーターの過負荷で炎上し大破したものの、ルミのパーシングは逃げきれなかった。何とか応戦しようとするも、T-34に砲身の向きを変えられてしまい、そこをティーガーⅡに撃ち抜かれて撃破された。

 それでも、仇を討たんとメグミとアズミがそれぞれT-34とティーガーⅡを撃破した。

 

『ごめん、油断した』

『お疲れ、後は私たちに任せて』

「勝ってみせるわ」

 

 ルミの無念な声に、アズミとメグミは力強く返事をして中央広場へと向かう。

 いよいよ西住流との対決、正念場だ。

 

 

 中央広場にやってきた愛里寿のセンチュリオンは、広場の中心でゆっくりと旋回しながら西住姉妹が乗るⅣ号戦車とティーガーⅠを狙う。その途中で西住姉妹の砲撃がセンチュリオンの側面装甲を掠るが、愛里寿は気にも留めない。

 そして、西住姉妹が初弾を掠り傷とはいえ当てたことにメグミとアズミは驚いた。以前やっと命中させたメグミでさえ、当てるのに時間がかかったというのに。

 Ⅳ号とティーガーが広場の外周を走り、メグミとアズミはそれを追う。プラスチック製のイスとテーブルも蹴散らして、追撃する。

 

「アズミ、あんたはティーガーをお願い。私はⅣ号をやるわ」

『了解』

 

 富士山を模した展望台の下のトンネルにティーガーが入り、アズミのパーシングはそれを追う。Ⅳ号はトンネルの前で右に曲がりその展望台の斜面を進む。メグミのパーシングがそれを狙うが、当たらなかった。

 

 トンネルを抜けたところで、ティーガーが横向きに停車する。アズミのパーシングはティーガーの横っ腹にぶつかって動きを止められた。

 

「何のつもり?」

 

 ただ動きを止める行動をアズミは疑問に思ったが、すぐにこれが足止めということに気付いた。

 

「後ろ!」

 

 アズミが声を上げて振り返ると、トンネル出口の上にⅣ号がいた。前のめりになったところで発砲し、アズミのパーシングの上面装甲を砕いて白旗を揚げさせる。Ⅳ号は発砲の衝撃で後ろに下がり、落ちそうになるが踏みとどまった。

 

 

「あんな手を使うとはね・・・」

 

 メグミは少し離れた場所からそれを見て、呆れるような感心するようにそう言う。

 だがそれでも、メグミはティーガーを狙うように平戸に伝えた。Ⅳ号の近くにはセンチュリオンがいて、丁度戦っているからだ。

 だが、流石は西住流。ティーガーはその砲撃を避けて移動を開始し、メグミはその後を追う。

 追撃するが、ティーガーはまるで後ろに目がついているかのように避け続ける。

 広場を追いつ追われつ走っていると、ティーガーが前を向いたまま発砲した。そして、その砲撃は何かに当たって白い煙を上げ、そこへティーガーは突っ込む。メグミのパーシングもその煙に突っ込み、視界が煙に阻まれた。

 

「・・・?」

 

 だが、その煙の中で何か大きなシルエットが出現して、メグミは前のめりに目を細める。

 その直後、舟のような巨大な物体がメグミのパーシングと正面衝突し、パーシングが激しくスピンし、壁に叩きつけられる。先ほどティーガーが撃ったのは、バイキングと呼ばれる船の遊具だったのだ。

 

「深江!体勢を立て直して!」

 

 すぐに命令を出す。

 だが、メグミの指示も虚しく、砲撃の音とともに衝撃がメグミたちを襲った。

 

「あ・・・・・・」

 

 外から『しぱっ』と、白旗の揚がる小気味よい音が聞こえた。

 それは、最近の公式戦では久しく聞いていない、自分の戦車が撃破された証。メグミのパーシングは、行動不能になった。

 

「やられちゃった・・・」

 

 相手が西住流の後継者という特別な人間とは言え、自分よりも幼い高校生にやられるのは少し悔しい。

 だが、嘆くのは試合が終わってから、桜雲と話す時でも遅くはない。

 今は、目の前で繰り広げられている、敬愛する愛里寿と、西住流姉妹の戦いを見届けるべきだ。

 

 

 桜雲は固唾を呑んで、試合の行く末を見守っていた。

 画面には、激しい撃ち合いをする愛里寿のセンチュリオンと、西住姉妹のⅣ号戦車とティーガーが映されている。

 時に遊園地の遊具を使い、時に体当たりを仕掛ける戦車同士の戦いに、観客たちは瞬きさえ忘れそうになるほど目の前の試合に集中している。

 桜雲だって、口の中の水分が飛びそうになるほど、集中していた。

 

 

 

「向こうも中々耐えますね」

 

 センチュリオンの砲手・大和が、善戦する西住姉妹を見て告げる。何度か当たっているのだが、傾斜装甲や追加装甲に阻まれて撃破には至っていない。

 それでもその言葉が楽しそうなのは、戦い甲斐のある相手と戦えていることが嬉しいからだ。

 

「どうしますか?」

 

 三笠が砲弾を装填しながら愛里寿に訊ねる。

 こうしている間も、操縦手の霧島は華麗な操縦捌きで西住姉妹の攻撃を躱し、砲手の大和が少しでも狙いやすいように車体の向きを調整する。

 愛里寿はキューポラから身を乗り出して、周りの状況を確認する。遊具の大半は破壊されて使い物にならないが、まだ1ついいものが残っていた。

 

「10時の方向に発砲。2時方向に転進して外周を回ってメリーゴーランドを突っ切る」

 

最低限の指示だったが、それでセンチュリオンの乗員は理解した。

 ちなみに通信手の信濃だが、味方が全員やられてしまったために手持無沙汰な状態になっていた。よもや、公式戦でセンチュリオン以外全滅などという事態になったことがないから、新鮮な気持ちだ。

 

 センチュリオンが発砲し、Ⅳ号とティーガーが狙い通りに向きを変える。

 その隙にセンチュリオンは外周を回り、メリーゴーランドを突っ切ってⅣ号に体当たりを仕掛けた。

 体当たりを喰らってⅣ号の向きが変わり、センチュリオンがその後ろを取る。

 

「よし!」

「行ける!」

 

 キューポラから身を乗り出して試合を観ていたメグミと対馬が、ガッツポーズをとる。

 勝った。

 

「・・・え」

「なんで?」

 

 だが、センチュリオンは発砲しなかった。

 その理由は、対馬からは見えなかったが、メグミには見えた。

 

「・・・・・・クマの遊具」

 

 

 

「え」

 

 大和は、ペリスコープがいきなり焦げ茶色一色になってしまって困惑した。

 

「・・・っ!」

 

 愛里寿も、突然クマの遊具が横切ったのに驚いて、一瞬判断が遅れた。

 やがてクマの遊具が通り過ぎて、ペリスコープが元の景色を映すと大和は慌てて発砲した。だが、後部装甲をわずかに掠める程度に終わってしまう。

 

「・・・すみません」

「次で決めるぞ」

 

 大和が謝るが、愛里寿は気にせずに敵を見る。

 Ⅳ号とティーガーは、展望台に上ってこちらの様子を窺っている。センチュリオンがその2輌に向かい合うように向きを変えると、その2輌は階段を下りてセンチュリオンの下へと前進を始める。

 階段を下り切ると、センチュリオンも前進を始める。後ろにつくティーガーがⅣ号に近づきすぎな点が少し気になったが、愛里寿は用心する。

 恐らくⅣ号が発砲した後で、センチュリオンが応戦し、そこを後ろのティーガーが狙い撃つつもりだ。

 

 メグミは、Ⅳ号とティーガーを穴が開くほど見つめるが、そこでティーガーがⅣ号に向けて発砲した。

 

「え!?」

 

 だが、Ⅳ号は黒煙を上げることも爆発することもなく、速度を上げてセンチュリオンの下へと突進する。あれは、空砲だ。

 

(マズい―――)

 

 センチュリオンもそれを見て慌てたのか、足を奪うために履帯を狙って発砲し、履帯と転輪を粉砕した。

 だが、それでもⅣ号の勢いは衰えずにセンチュリオンと衝突する。そこでⅣ号は発砲し、センチュリオンに命中させて後ろへと吹き飛ばす。

 

「・・・・・・」

 

 声にならない声が、口から洩れた。メグミだけのものではなく、隣で観ていた対馬、別の角度から観ていた平戸達他の乗員も、同じだった。

 先ほどメグミのパーシングから上がったものと同じ、『しぱっ』と白旗を揚げる音がセンチュリオンとⅣ号から聞こえた。

 

『センチュリオン、Ⅳ号、走行不能!』

 

 

 

 試合の結果を見届けて、桜雲は溜息を吐く。

 メグミたち大学選抜は、大洗に負けた。

 普通の試合だったら悔しいと思うが、この試合は色々と思うところが多くあるので、素直に悔しいと思うこともできない。

 だが、桜雲はメグミに労いのメールを送ることを忘れはしなかった。

 そして、そのメールにはもう1つ、文章を付け加える。

 

 

 

「あー、負けたか・・・」

「愛里寿隊長、初敗北ね・・・・・・」

 

 閉会式を終えて、戦車の回収に向かいながらルミとアズミは首や肩を回しながら、疲れを吐き出すように呟く。

 アズミの言う通り、愛里寿が隊長に就任してから、初めて大学選抜は敗北した。それまで敗北は何度も経験しているが、やはり慣れるなんてことはないし、悔しいという気持ちがなくなることもない。

 

「・・・さて、まずは戦車の回収よ」

「その後でミーティング。次は勝つためにね」

 

 だが、負けてそのままへこたれていては、精鋭ぞろいの大学選抜チームの名が泣く。今は悔しさをこらえて、次の機会で勝つために少しでも成長できるように動く。悔しさを吐き出すのは、酒の席だけで十分だ。

 

「ほら、メグミも行くわよ」

「あ、うん」

 

 メグミはスマートフォンで何かを見ていたが、それをポケットに仕舞ってアズミたちと合流する。

 

「・・・・・・メグミ、何かあったの?」

「え、何が?」

「何がって・・・」

 

 ルミがメグミの顔を指差して。

 

「なんでそんなにやけてるのさ」

 

 メグミは、笑っていた。

 その理由は、先ほど見ていたスマートフォン―――桜雲からのメールにあった。




ようやく劇場版パートは終了です。
お付き合いいただき、ありがとうございます。

次回から本編に戻りますが、
あともう少しで今作も完結となりますので、最後までお付き合いいただけると幸いです。

感想・ご指摘等があればお気軽にどうぞ。
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