〜第1迎撃部隊〜
「無線が...繋がりません!」
「みんな、なんとか耐えるのよ!」
第1迎撃部隊は混乱の渦に包まれていた。
いきなり海上が凍結してしまい、足の艤装も凍りついてしまったため動くことが出来なくなってしまった。足の艤装を外して氷上に上がるも、滑ってしまいとても砲撃の反動に耐えられない。
砲撃を放ってもタ級は全ての砲弾を凍らせてしまい、ダメージを与えられない。
かと言って接近し過ぎれば、自分たちが氷像にされるのは目に見えている。
「霧島、損壊状況ハ?」
「はい、第1迎撃部隊はかなりの艦が大破。
空母は艦載機を飛ばそうとしても、燃料が凍結してしまい発艦不可。私たちの燃料もこのままではいずれ...」
「ワーオ...Very dangerネー...」
金剛が辺りを見回すが、一帯がスケートリンクのように凍っており、もはや海上を滑るのは不可能。
どう見ても迎撃を続けられる状況ではない。
すると誰かが焦ったような声で叫ぶ。
「4時方向より、空母ヲ級が接近!!
艦載機を発艦させています!!!」
「ここでヲ級?
まずい...対空射撃もできず回避行動もできないんじゃ...」
霧島は最早何も考えられなかった。海上が凍結させる深海棲艦がいるなど、データどころか聞いたことすらない。
そして次に来るであろう、爆撃に対し、体を硬直させるが
ヲ級の飛ばした艦載機は艦娘達に対して一切攻撃を加えず、動けなくなった艦娘を砲撃しようとしていたタ級に爆撃を始めた。
「what?」
金剛がキョトンとした顔をする。目の前のタ級は爆撃を回避したり、投下される爆弾を凍結させたりで身を守っている。
それに明らかにこちらに接近してくるヲ級は艦娘たちに敵意を抱いているように見えなかった。
空を覆う50機以上の艦載機はタ級に次々に攻撃を仕掛ける。
そしてヲ級は凍結された艦娘たち、その中でも赤城に接近していく。
「あ...あなたは?」
深海棲艦とコミュニケーションを取る事など不可能だということはよく分かっていた。
だが目の前の不可解な行動をとるヲ級を見て、赤城は口を開かずにいられなかった。
しかしヲ級は赤城の質問には答えなかった。
その代わりに手に持った杖で赤城を遮る。
『これ以上進むな。後退しろ』
とでも言うかのように。
その様子を見ていた金剛はそんなヲ級の意志を汲み取ったのか全員に告げる。
「Hey、everybody!タ級とヲ級がfriendly
fireしている今がチャンスネー!
今のうちに撤退するヨー!!」
そんな金剛の声を聞いて霧島がハッとする。
「...動ける艦は動けない艦の撤退を手伝ってください!!
今からこの足元の氷が張っていない場所まで移動し、そこから着水して一旦鎮守府に戻って体制を建て直します!!
全艦、撤退開始!!」
『りょ、了解!!』
すると動ける艦娘たちは動けない艦娘を支えながら足元の氷で滑らないように撤退を始める。中には足元の凍りを砕いて、両足が凍ったまま移動させられる艦娘もいる。
タ級は逃げようとする第1迎撃部隊を追撃しようとするが、ヲ級が放った艦載機がそれを許さず、タ級を爆撃し続ける。
その爆撃の処理に追われてタ級は迎撃部隊を追撃できない。
ヲ級が放った艦載機の中には艦娘の足元に機銃を放って氷を砕いて、明らかに味方のような行動をする機体もある。
赤城も撤退し、その途中で一瞬だけ後ろにいるヲ級を見るが
「赤城さん!早く!みんな行っちゃうよ!」
瑞鶴に呼ばれ、仕方なく撤退することになった。
〜第2迎撃部隊〜
「足元が...凍る?本当にそんなありえない話があんのかよ?」
「分からないわ。でも今は大淀さんからの報告を信じるしかない」
そんなことはありえないと言った様子の摩耶に鳥海は冷静に諭す。
「みんな!さっき金剛さんから入電が入ったわ!第1迎撃部隊が撤退してくるはずだから人手が足りていない場合、何人かは撤退中の護衛を手伝って!
残ったものはその特殊なタ級を倒しに行きます!」
第2迎撃部隊の隊長を任された神通が全員に叫ぶ。
「もう夜戦がしたくてウズウズしてきちゃった!ヤッセッン!ヤッセッン!」
「ちょっとあなたは黙っててくれる?」
夜戦が楽しみすぎて興奮する川内に冷たく言葉を放つ大井。
だが川内ですらその額には一筋の冷や汗のようなものが見える。第1迎撃部隊からの入電を受けて、まだ見ぬ深海棲艦に対して全員は少なからず警戒を強めている。
そしてその時だった。
「後ろから、接近する影が...
ってアレ提督!?」
「そう、提督が接近...って提督!?」
全員が目を見開く。そこには「おーい!」と声を上げながら手を振る風都鎮守府提督、左翔太郎の姿があった。
「誰かー...ってまた故障しやがった!このポンコツエンジンめ!」
翔太郎は船のエンジンをガツンと殴るが、ジンジンとした痛みが右手に伝わるだけだった。
「何しに来たんですかー!?
早く鎮守府に戻ってくださーい!」
「そこでいちばん早い艦娘は誰だー?」
神通と翔太郎は離れた場所で口に手を当てて少しでも声が遠くに届くようにしながら会話する。
「第2迎撃部隊でいちばん早い子は吹雪ちゃんでーす!!」
「えっ!?ど、どうしたんですか!?」
吹雪が自身を指さしながらビックリしている。
「わかったー!おーい、吹雪ー!
ちょっと来てくれー!!」
「な、なんなんですか一体〜!」
吹雪は部隊を離脱すると少し後ろの翔太郎の元へ向かう。
「て、提督ったら本当に何しに...ってあれは第1迎撃部隊!?」
疑問符をうかべる神通の目の前には、撤退してきた第1迎撃部隊の姿があった。
どの艦も少ながらず損傷を受けており、轟沈寸前の艦まである。
それを見た神通は直ぐに思考を切り替えると部隊に指示を出す。
「みなさん!損傷している艦が思ったより多いです!よって第2迎撃部隊は全艦で第1迎撃部隊の撤退の支援に努めます!
全艦、行動開始!!」
『了解!!』
神通の指示により第2迎撃部隊の艦娘たちは次々に第1迎撃部隊の損傷した艦娘たちに向かっていく。
普段は大人しい神通だったが、戦場では誰よりも凛々しく頼りになる存在だった。
そして吹雪はボートにいる翔太郎の元にたどり着く。
「サンキュー、吹雪。助かったぜ」
「そんな、私も司令官のお役にたてて...って何してるんですか!?」
「細かい話はあとだ!とにかく今は俺を深海棲艦のところへ連れてってくれ!」
「ええ!連れてけってどうやって!?」
「それはお前に任せるよ!いいから早く!」
「え、ええっと...背中は艤装を展開してるし...じゃ、じゃあ失礼します!」
「うおっ!!??」
吹雪はぺこりと頭を下げると、翔太郎をお姫様抱っこのような形で持ち上げた。
『お世辞にもハードボイルドとは言えねぇが...今はそんなこと言ってる場合じゃねぇな』
翔太郎は頭をブンブンと降ると
「吹雪、頼むぜ!全速力だ!」
「りょ、了解!」
吹雪は翔太郎をお姫様抱っこしたまま全速力で海上を滑り出す。
一瞬で援護をする艦娘たちの横を通り過ぎると、そのまままっすぐタ級の元へと向かっていった。
護衛をしながらそれを見ていた睦月と夕立は
「翔ちゃんと吹雪ちゃん、何してるんだろ?」
「ぽい?」
と首を傾げるのだった。
〜氷上〜
タ級は1人氷の上をゆっくりと歩いていた。
ヲ級は第1迎撃部隊の撤退が成功すると、艦載機に爆撃をさせてタ級を妨害しながら自身も足元の氷に穴を開けて深海へと姿を消して行った。
「カンムス...コロス...カンムス...コロス...カンムス...コロス...」
タ級は壊れたテープレコーダーのように同じ言葉を口から吐き続けていた。
その頃翔太郎と吹雪は氷上についていた。
「すまねぇな、吹雪」
「いえ、でも私...これからどうしましょう」
『いっけね...それ考えてなかったな。だけど1人で帰らせるのも危険すぎるな...』
「よし!吹雪、ついてきてくれ」
「わ、分かりました!護衛命令、承りました!!」
吹雪はピシッと敬礼する。その初々しい態度に翔太郎は少し頬を緩めると吹雪を横につけて歩き出す。
「それにしても...本当に凍ってますね...」
「あぁ。これならお前達みたいに海上を滑って移動するんじゃ捕まっちまうわけだ」
「ですが遮蔽物などは一切ないのですぐに敵に見つか
「吹雪、危ねぇ!!」
「え?」
翔太郎は吹雪を抱えて前に飛んだ。その数秒後、翔太郎達がいた氷の床が消し飛ばされていた。
そして目の前には戦艦タ級が歩いて来ていた。
「ほう...これが深海棲艦か...こんなに美しいレディが下半身下着一丁とは感心しねぇな」
「ニンゲン......カンムス...コロス、ニガサナイ!!」
タ級が右手を真上に掲げると、その手から青い光線が空中に放たれる。
するとその光は四方八方に広がり、タ級を中心として氷のドームが形成された。
そしてその中に翔太郎と吹雪は閉じ込められてしまった。
「し、司令官!私たち閉じ込められちゃいましたよ!!」
「ほぅ、外から中が見えない特設リングを用意してくれるとは、中々おあつらえ向きじゃねぇか」
「そんなこと言ってる場合じゃないですよ!」
翔太郎はゆっくりとタ級に歩み寄っていく。
「落ち着け、吹雪!今からお前はなるべく俺から離れて回避に専念しな」
そう言うと翔太郎は自身が持っているメモリガジェット3つを全て出すと、吹雪の周りに投げる。
そしてバットショット、スパイダーショック、スタッグフォンはそれぞれ変形すると吹雪を守るように周りにつく。
「一体どうするんですか!?」
「安心しな。『切札』は常に俺が持ってるからよ」
「切札...?」
すると翔太郎は懐からロストドライバーを取り出し、腰に装着する。
『ジョーカー!!』
ジョーカーメモリを起動すると、腰のロストドライバーに挿入する。
吹雪は翔太郎が何をしているか分からず目をぱちくりさせている。
「戦艦タ級...だっけか?美しいレディでも俺は容赦しないぜ?何たって俺はハードボイルドだからな...」
「ニンゲン...コロス...!」
「...変身」
翔太郎はロストドライバーを展開する。
『ジョーカー!』
だがタ級は艤装から砲撃を放つ。そしてその砲弾は翔太郎の近くに着弾した。
「司令官ー!!!!」
叫ぶ吹雪。だが彼女は次の瞬間驚愕に目を見開くことになる。
なぜならそこには砲撃を受けて傷を負った左翔太郎ではなく、
見たこともない全員黒ずくめの謎の戦士が立っていたのだから。
そして謎の戦士-『仮面ライダージョーカー』
は左手で、タ級を指さし静かに告げる。
「さぁ、お前の罪を...数えろ」
それだけ告げるとジョーカーはタ級に急接近し、飛び蹴りを放つ。
それを食らったタ級は急な攻撃によろける。
タ級を蹴って着地しようとしたジョーカーだが
「ウオっと危ねぇ!そういや足元は氷だったな」
思わず滑りそうになる。
だがそんなジョーカーにタ級は躊躇うことなく砲撃を放つ。
しかし逆にジョーカーは足元の氷を利用する。右手で氷床を押して、加速しその砲撃をスレスレで避けると、その勢いでタ級の足元まですべってゆく。足元の氷床は完全なは平面ではなく、砲撃の跡など所々に歪な出っ張りなどがある。
それを利用してジョーカーは右手で体を押し出すことが出来た。
そしてタ級の華奢な足にローキックを食らわせ、立ち上がる。
タ級はそのまま転倒した。
「さすがにレディを蹴るのは気が引けるぜ...」
だがタ級はキッと目を見開くと右手をジョーカーに向け、その手のひらから冷気を放つ。
「!!やべぇ...!」
ジョーカーはすぐに右に飛んで避ける。
するとつい数秒前までジョーカーが立っていたところに、おおきな氷柱ができていた。
もし少しでも回避が遅れていたらジョーカーは氷漬けになっていただろう。
『あぶねぇ...もし仮に...もし仮にこいつがガイアメモリを使っていたとするなら、恐らく能力は『ウェザー』か『アイスエイジ』...
だが冷気しか繰り出してこないあたり、もしガイアメモリを使っていたとしたら多分『アイスエイジ』だろうな...
だが前戦ったアイスエイジとは比べ物にならないくらいパワーアップしてやがる...』
ここまで冷静な分析が出来るのも、数々の修羅場をくぐり抜けてきた翔太郎ならではである。だが中々タ級に隙ができず、もし自分が隙を見せたならその瞬間に氷漬けとなる。
ジョーカーは中々勢いのある攻撃を繰り出すことが出来ない。
とにかくジョーカーは放たれる砲撃と冷気を躱しつつ、接近するしかない。ロストドライバーでは一応所持している『メタル』と『トリガー』は使えない。
よって今のジョーカーには、接近して格闘をしかけるという以外の選択肢がない。
「このままじゃ埒があかねぇ!どうすりゃいいんだ!!」
いずれ避けるのにも限界がくる。体力が尽きるまでに勝負を決めなくてはならない。
ジョーカーとタ級の戦闘を見ながら吹雪は震え上がっていた。最早駆逐艦の自分が出れる幕ではない。
だが翔太郎が変身しているであろう黒い戦士はだんだんと動きが鈍くなってきている。
低温と慣れない氷の足場が確実に黒い戦士の体力を奪っている。
『私が...なんとかしなきゃ...』
そう考える吹雪の頬を誰かがちょんちょんとつつく。そこには翔太郎が放ったスタッグフォンが吹雪の方に乗っていた。
そして次にバットショットが吹雪が持っている12.7cm砲に乗って、羽をパタパタさせる。
「ええっと...構えればいいのかな?」
吹雪が12.7cm砲を持つ腕をピンと延ばしてタ級に向け、砲身の仰角をほぼ氷床と並行にする。
するとその上の12.7cm砲に乗っていたバットショットが変形して、簡易的なスコープのような形になる。
すると次にスパイダーショックがその2つの砲身に糸をまきつけ、さらに自身とスタッグフォンにもまきつけ、吹雪の腕力と釣り合うくらいの力で地面にしがみつく。
「こ、これならきっと反動は最低限に抑えられる!」
そして吹雪はスコープをのぞき込む。
今のタ級はジョーカーを仕留めることにやっきになっていて吹雪はノーマークである。
だがこの射撃を外せばきっとタ級は吹雪を警戒対象に入れる。そうなれば2度目の狙撃のチャンスは無くなる。
『私が...司令官を...翔太郎さんを助ける!
私たちを、たすけてくれたように!』
「お願い!当たってください!!」
吹雪が引き金を引く。
そして放たれた2つの砲弾は、
見事タ級の体に命中した。
だが駆逐艦の砲撃では夜戦ならまだしも、通常の戦闘で戦艦を落とすことなど不可能である。
だが吹雪はそんなことは百も承知であった。
タ級は吹雪からの砲撃で一瞬視界が途切れたため、ジョーカーを見失った。辺りを見回すもそこにジョーカーはいない。
ではジョーカーはどこに?
答えはひとつ。タ級の真上だった。
そして既にジョーカーは腰のマキシマムスロットにジョーカーメモリを装填している。
『ジョーカー!!マキシマムドライブ!!』
「ライダーキック...!!」
ジョーカーは氷のドームの天井を蹴ると、一気にタ級の元へ右足を突き出して急降下する。タ級は冷気を放とうとするも、もう遅い。
ジョーカーのライダーキックが、タ級の胸を的確に射抜いたのだった。
その後、タ級は爆発し、その体からアイスエイジメモリが排出されると空中で粉々に砕け散った。
タ級は氷床に空いた大穴から深海へと落ちて行く。ジョーカーはそれを見届け、静かに振り向いた。
「司令官!司令官!!」
吹雪はジョーカーの元へと走ってくる。
「よくやったな、吹雪。ナイスアシストだったぜ」
ジョーカーは優しく吹雪の頭を撫でる。
そしてジョーカーはロストドライバーを畳むと、ジョーカーメモリを抜いて左翔太郎の姿に戻る。
「えへへへへ...って司令官さん。私、聞きたいことが山ほどあるんですけど」
「えーと...まぁその何だ。これに関しては秘密にしててくれないか?あのタ級はお前が倒したってことにしてくれ」
「そ、そんなのダメです!不正です!!」
「し、仕方ねぇだろ!俺にも事情があるんだ!!
頼む!」
「...絶対いつかばれますよ...」
「そん時はそん時だ。今回だけは頼むぜ!今度間宮さんのアイス奢るからよ!」
「もう、分かりましたよ...」
「よし、なら吹雪。直ぐにここを出るぞ。
天井を見ろ。あのタ級が沈んだせいで氷が形を維持できなくなってる」
吹雪は翔太郎に言われた通り天井を見上げると、ドームには大量のヒビが入り、穴が空いている場所もある。今にも崩れてしまいそうだ。
「ど、どうするんですか?
砲撃で穴を開けようとしたら多分一瞬で崩れちゃいますよ?」
「あの上の穴から出る」
「届きませんよ」
「どうかな?」
翔太郎はそういってニヤリと笑うと、戻ってきたメモリガジェットの1つ、スパイダーショックを見せる。スパイダーショックはすでに腕時計型に戻っている。
すると翔太郎はジョーカーメモリを起動すると、スパイダーショックに装填する。
「あっ、さっき砲撃する時に糸を出してくれた子だ...」
「よし、いくぞ。吹雪」
「えっ?ひゃう!?」
翔太郎はいきなり吹雪を片腕で抱き上げると、左腕にまきつけたスパイダーショックから糸を放つ。
ジョーカーメモリの力でスパイダーショックはかなりの強靱性を手に入れた。
糸はドームの割れて尖った部分に巻き付けられると、スパイダーショックそのままジョーカーメモリのパワーで糸を巻き上げ、吹雪を抱き上げた翔太郎の体をゆっくりと持ち上げた。
そして翔太郎はドームを崩さないようにそっと穴から体を出すと、そこから勢いがつき過ぎないように、ドームの外に広がっている氷床に着氷した。
「ありがとうございます。それにしてもその腕時計とかさっきのベルトとかなんなんですか?」
「探偵の七つ道具といったところだ。
まぁ今の俺は4つしか持ってねぇけどな」
「よく分かりませんけど...はい、司令官」
吹雪は海の上に立つと、手を広げる。
「またお姫様抱っこか...締まらねぇなぁ」
「贅沢言わないでください!」
「分かってるよ。すまねぇな」
翔太郎はまた吹雪にお姫様抱っこされるとそのまま鎮守府へと戻った。
その後ろで、海上を覆っていた全ての氷が全て砕け散ったのだった。
〜風都鎮守府〜
「入渠の状況は?」
「大破している艦を優先的にさせました。
損傷が特に激しい艦は、高速修復材を使用した上で、疲労回復に努めさせています」
神通からの報告を受けた大淀は翔太郎と吹雪の帰りを待ち続けていた。
『左提督...お願いです。早く、帰ってきて...』
そう願う大淀。だが今の彼女は実質的に提督代理である。その行動には責任が伴っている。
気を取り直した大淀は次の指示を出そうたしたその時であった。
「鎮守府から0時の方向に艦影あり!
あれは...提督と吹雪ちゃんです!!」
鎮守府で動ける艦娘が一斉に港に向かう。
そして数分後、吹雪と翔太郎が無事、鎮守府への帰還を果たした。
「提督!提督!大丈夫ですか?どこかお怪我は!?」
「平気だ。怪我をしている艦娘は?」
「なんとか落ち着きました。それでもまだ第1迎撃部隊の大半が入居していますが」
「翔ちゃ〜ん!アイドルを泣かせるなんてプロデューサー失格だよ!」
「全く焦らせやがって!」
「2人が無事で本当に良かったっぽい〜」
みんなが一気に翔太郎と吹雪の元に駆け寄る。
「いいかお前らよく聞けぇ?
吹雪があの戦艦タ級を1人で撃破した!」
『ええっ!?』
港に集まっている艦娘たちは一様に驚く。
「ちょっ、司令官!?」
「みんな!吹雪を胴上げだ!」
「ちょっと皆さん!?ひゃ、ひゃああ!?」
『ワーッショイ!ワーッショイ!』
そして吹雪は港に出てきた艦娘全員に賞賛され、胴上げされることとなった。
その後降ろされた吹雪は翔太郎に駆け寄り、翔太郎だけにしか聞えない小さな声で話しかける。
「司令官...私こんな形で褒められても全然嬉しくないです」
「何言ってんだ吹雪。実際お前の砲撃が無いと俺は今頃氷漬けだ。お前のおかげで俺が...いや、俺だけじゃない。
お前がこの風都鎮守府のみんなを、この風都という街を救ったんだ」
「わ、私が?」
「そうだ。よくあそこで勇気を振り絞ってくれたな。かっこよかったぜ、吹雪」
そういってまた優しく吹雪を撫でる翔太郎。
翔太郎に撫でられる吹雪は少し認めきれないと言った様子だったが、諦めたように目を閉じ、翔太郎に撫でられるその感覚に頬を緩ませるのだった。
〜数時間後、鎮守府の中庭〜
翔太郎は中庭に艦娘たちを集めていた。なお昨日の宴会に参加しなかった艦娘は来なかった。
「みんな!今日はよく頑張った! 全員無事でここに集まれて本当に良かったぜ。
てことで新しい寮が完成だ!
私物とかは全部妖精が移動させておいてくれた。今日は全員ちゃんと疲れを取って、明日また元気な姿を見せてくれ!
じゃあ解散!」
すると艦娘たちはワクワクしながら新しい寮へと入っていく。寮の見た目はピッカピカの新築になっていた。
すると翔太郎のもとに大淀が来る。
「今日は本当にお疲れさまです、提督」
「おう、大淀もお疲れさん。今日はちゃんと疲れを癒せよ」
「分かりました。あっ、でも報告書はちゃんと書いておいてくださいよー!」
「分かってるっての。じゃあな、ちゃんと寝ろよー」
そういって翔太郎は鎮守府へと戻っていく。
しかもやけに嬉しそうに、軽やかな足取りだった。
ただそんな翔太郎を見つめていた影が2人。
「なーんか怪しいわね...」
それを見ていたのは瑞鶴と翔鶴。翔鶴はすぐに新しい寮に戻ろうとしたのだが、瑞鶴が『何か匂うわ...』といって翔太郎を見張っているのだ。
「別に何も怪しい所なんてないわよ。早く戻りましょう」
「ううん!絶対何か変!普段あんなハードボイルドとか言ってカッコつけてるやつが気持ち悪くピョンピョンと飛び跳ねてるのもおかしいし...」
「まさかまだ信じてないの?吹雪さんがタ級を単独撃破したってこと。さすがにそれは失礼じゃ...」
「べっ、別に信じてないってわけじゃないけど...普通ありえる?夜戦でもないのに駆逐艦が戦艦を単独で撃破するなんて...
しかも海は氷が張ってて、魚雷も撃てない...そんな状況じゃ絶対に駆逐艦じゃ戦艦を倒せっこない。
それに翔鶴姉だって気になってる事、あるでしょ?」
瑞鶴は翔鶴を横目で見る。
「あの...ヲ級のことを言っているの?」
「だっておかしいもん。あれは仲間割れなんかじゃない、完全に私たちを助ける気だった。第1迎撃部隊のみんなだって絶対おかしいと思ってる。でも多分考えたくないだけ。
みんな今日は疲れてるだろうし」
「それは、私も...気になってるけど」
「別にヲ級のことは聞き出せるとは思ってない。でも誰があのタ級を倒したのかはちゃんと聞かないと気が済まない」
「...分かったわ。提督のあとを付けましょう」
そして2人は翔太郎の尾行を始めた。
〜執務室前〜
翔太郎が今たっているのは執務室の前。だがその扉は前のボロボロのものとは違い、焦げ茶色のオシャレなものに変わっている。
「なら...約束のものは後日渡すぜ」
翔太郎はドアの前にたつ妖精達に話しかける。
「はやくしなさいよね...もうわたしたちはくたくただからねるわ」
「おやすみーしょうちゃーん」
「あぁ、また明日な」
そういって妖精達は自分たちの寝床に戻っていく。
それを確認して翔太郎は執務室へ入る。
「翔鶴姉、今の見た?」
「えぇ。妖精さんと何か話してたわね。なんか約束のものとか言っていたけど...」
「なにか怪しい取引に違いないわ...
というか今の私たち、なんか探偵みたい!」
2人は忍び足で執務室の前につく。
そして瑞鶴は執務室の扉を開けて、驚く。
あれだけボロボロで汚かった執務室が、清潔感のあるオシャレな空間になっていた。
部屋は2つになっており、入口がつながっている部屋は緑の壁に、
奥の部屋は壁は白と黒のチェック柄になっており、床は木製のままだが、全て張り替えられている。
奥の執務机は真っ黒なものになっておりその上にはタイプライター。
他にも部屋にはビリヤード台や赤いソファなどが綺麗にまとまっており、独特な雰囲気を作り出していた。
「ん?翔鶴に爆撃娘じゃねぇか?リフォーム仕立てだから間違っても爆撃なんてするんじゃねぇぞ?」
「誰が爆撃娘よ!爆撃されたいの!?」
「だからすんじゃねぇ!」
「ま、まぁまぁ二人とも落ち着いて。
でも提督、これは?」
瑞鶴は見渡す。だがどう見ても鎮守府の執務室には見えない。
「あぁ。前の執務室は随分と汚かったからな。妖精たちにお願いして、俺がいた探偵事務所を再現してもらった」
「執務室をこんなふうにしてしまうだなんて...」
「でも、ちょっとオシャレかも...」
「あと今日からここは執務室だけじゃないぜ」
それを聞いた2人はキョトンとした顔で翔太郎を見つめる。
「外に出て、隣の看板を見てみな」
2人は言われるがままに部屋の外に出て扉の横の看板を見る。
そこには
『鳴海探偵事務所-風都鎮守府出張所』
と書かれていた。ちなみに右下に小さく『兼執務室』と書かれている。
「今日からここは鳴海探偵事務所の風都鎮守府出張所だ」
「し、執務室を探偵事務所にしていいわけないでしょ!?」
「これも艦娘のメンタルケアのためだ。
ほら、元帥からの司令書だ」
瑞鶴はそれを受け取る。確かにそこには出撃免除の旨と艦娘のメンタルケアを義務付けるという内容が書かれていた。
「さぁ、鳴海探偵事務所へようこそ。お嬢さん方。依頼ならこのハードボイルド探偵、左翔太郎が聞かせてもらうぜ?」
そういって翔太郎は帽子をクイッとあげるのだった。
アイスエイジドーパント
氷河期の記憶を内包したガイアメモリ、アイスエイジメモリを使用して変身。
絶対零度の冷気を放出することができる。
また、空気中の水分を氷結させて武器化することもできる。
もしかしたらこの物語でも『世界の破壊者』が出るかも...?