ドラグレッダーの出来が凄まじいです。1500円であれだけかっこよくドラゴンライダーキックが再現できるなら購入の価値ありだと思います。
「ったくなんだったんだあいつら」
翔太郎は1人執務室に残ってタイプライターを打っていた。
翔太郎が依頼を受けてやると言ったが、瑞鶴は
「もういいわよ...なんか疲れちゃったわ。
でも今度同じようなことがあったら必ず話してもらうから」
といい翔鶴と共に寮へと戻って行った。
そして時計をちらりと見る。既に日は回っており、月がぼんやりと仄めく。
翔太郎は『houkokusyo』を作り上げると、先程自分で入れたコーヒーを1口飲む。
すっかり冷めてしまっていた。
『もう一度、試してみるか』
彼はダブルドライバーを腰に装着する。だが反応は無かった。
『これは今持ってても仕方ねぇな』
そう思うと彼は机の1番下の引き出しの鍵を開け、そこにダブルドライバーを入れて、鍵を閉めた。
そしてデスクのライトを消すと、寝巻きにも着替えないで事務所のソファに横になり、目を閉じた。
〜次の日〜
大淀は誰よりも早く目覚める。寮を出るとピカピカの壁が真新しい。
『本当に提督には...感謝してもしきれませんね...』
そして顔を洗いパジャマからいつもの制服に着替えると、すぐに執務室へと向かう。
いつも通り執務室の前へと着くのだが、
『あれ?執務室の扉、新しくなってる?』
そして隣に掛けてある看板に気付く。
「鳴海、探偵事務所...風都鎮守府...出張所?」
疑問に感じた大淀だったが、今はとにかく翔太郎に朝の挨拶だと思い、部屋へと入る。
「提督ー。朝です...よ?」
そして大淀の目に映ったのは、前のボロボロの執務室ではなく、独特な雰囲気を醸し出す探偵事務所であった。
「て、提督!?何ですかこれは!?」
「ん?あぁ、大淀か...朝から元気だな...」
そういうと翔太郎は伸びをする。
そして翔太郎は大淀に執務室を妖精に頼んでリフォームしたこと、これから執務室は探偵事務所を兼ねること、そしてこれはメンタルケアの一貫であり仕方ないということを伝えた。
「それでもこんな執務室にしてる提督はいませんよ...」
「でもハードボイルドで中々オシャレだろ?」
「ハードボイルドというのは分かりませんが、オシャレだということには同意します」
大淀はソファに腰掛けていた。翔太郎が朝のコーヒーを淹れてくれるらしく、ご馳走に預ることになった。
「はいよ、左翔太郎特性のハードボイルドブレンドだ」
「い、頂きます」
大淀はコーヒーを口に含む。そのキリッとした苦味が眠気をいい感じに吹き飛ばしてくれた。
「...美味しいです!」
「よし!この淹れ方がやっぱ評判いいな...」
「コーヒー淹れるの練習してるんですか?」
「まぁな。俺の仲間にもっと美味いコーヒーを淹れるハードボイルドな奴がいてな...
そいつを超えるハードボイルドになるために修行中だ」
「そうだったんですか...あ、そういえば報告書は出来ましたか?」
「あぁ。バッチリだぜ」
そういって翔太郎は机に置いていた『houkokusyo』を持ってきて、大淀に手渡す。
「ありがとうございま...ってこれ全部英語...ですらない!?」
その『houkokusyo』は全てローマ字の日本語読みで書かれていた。
「何言ってんだ。どう見ても英語だろ。ハードボイルドな男は報告書をタイプライター使って英語で書くことなんて朝飯前さ」
翔太郎は憎たらしい程のドヤ顔で答える。
「え、えーと提督?『りんご』は英語でなんて言うか分かります?」
「なんだ馬鹿にしてんのか?アップルだよ」
「じゃあスペルは?」
「『A』『P』『P』『U』『L』『U』だろ?」
「......提督。次からは報告書は日本語で作ってください」
「何!?じゃあこのタイプライターどうすんだよ!?これ結構値段したんだぞ!」
「とにかくダメです!報告書はちゃんと日本語を使って書くこと、いいですね!?」
「ちぇっ...分かったよ。にしてもどうすっかなぁこれ。最悪新しいのを買うか...」
「どうしてそこまでタイプライターにこだわるんですか...」
呆れる大淀に対し、翔太郎は「ハードボイルドだからだよ」とお決まりの返答だ。
すると閃いたように大淀が提案する。
「機械のことなら明石さんに頼まれてみては?彼女なら何かしらの対策を」
「本当か?なら朝飯食ったら明石のところに行ってみるか。
とにかく今は腹ごしらえだな。大淀、食堂に行くぞ」
「はい!提督」
そして2人は事務所兼執務室を出ると、朝食をとるために食堂へ向かった。
〜食堂〜
「ふぅ...鳳翔さんの朝ごはんも美味かったぜ」
「ですね。私もおなかいっぱいになりました」
食堂では多くの艦娘たちが雑談にふけっている。みんな昨日の迎撃作戦があり、出撃免除の件もあり今日は休日ムードだった。
「あれ、提督またコーヒー飲むんですか?」
「せっかく間宮さんが入れてくれたんだ。飲むに決まってるだろ」
「カフェインは摂取しすぎると体に毒ですから気をつけてくださいね」
「分かってるさ。ハードボイルドな男は自己管理も完璧なのさ」
そう答え間宮のコーヒーを啜る翔太郎。
その味は照井のものに勝るとも劣らないものだった。
『俺もまだまだ修行不足ってことだな』
すると何やら食堂がザワザワし出す。
「みなさーん!号外でーす!号外ですよー!」
よく見ると重巡の青葉が新聞のようなものを艦娘たちに配っている。
それを不思議そうに見ていると
「あれは青葉さんがご自身でお作りになられている『青葉新聞』ですね。
前の提督の時は作るのを禁止されていたんですけど、左さんが提督になってから作成を再開したみたいです」
「新聞かぁ...どれ、俺もひとつ
『見てこれー!』『仮面...ライダー?』
ブーーッ!!」
翔太郎は口からコーヒーを吹き出す。
「て、提督!何してるんですか!?」
急な出来事に焦る大淀。
「だ、大丈夫だ...」
そして翔太郎はよろよろと立ち上がると青葉に歩み寄る。
「あ、おはようございます、提督!見てくださいよこれ!スクープですよ、スクープ!
提督が着任した日にこの黒い人がゴキブリみたいな化け物を倒してるのを見たんです!」
青葉は興奮気味に翔太郎に新聞を手渡す。
「でもこれ...どうせ青葉さんの作り話じゃない?」
「確かにー。普通に考えたらこんなのいるわけないもんねー」
「ええっ!?そんなー...真実ですよ〜。私この目で確かに見たし、カメラにも収めたんです!」
弁明する青葉を尻目に、翔太郎は青葉新聞を見る。そこの一面には彼自身が変身していたジョーカーがドーパントを倒しているシーンが見事に撮られている。
「ご主人様はどう思います?」
駆逐艦の1人、漣が翔太郎に問いかける。
「そ、そうだな...もし仮に、もし仮に本当にこんなやつがいるのだとしたら...こいつは相当ハードボイルドなやつだと思うぜ」
「すみません、ご主人様。意味がわからないです。
というかなんでハードボイルドだと思ったんですか?」
「な、なぜだろうなぁ...」
「もしかしたらこの黒いやつの正体が提督だったりしてな!」
その場にいた深雪が頭の後ろで手を組みながら答える。
「いや〜、それはねぇよ。うん、ないな」
「でもあながち間違ってないと思うぴょん!」
隣にいた卯月が口を開く。
「だって翔ちゃんって分からないことが多すぎるぴょん!どこから来たのかも言わないし、そんな素性のしれない男がいきなり提督になれるわけないぴょん!」
「た、確かに...」
とその場にいるメンバーみんな納得したように頷く。
「さぁさぁ翔ちゃん!白状するんだぴょん!」
ぐいぐいと翔太郎に詰め寄る卯月。
「ちょっ、ちょっと待て!本当に俺じゃねぇって!」
「どうだかな〜?吹雪はどう思う?」
「えっ、私!?」
深雪が吹雪に尋ねると、唯一真実を知る吹雪はビックリして応じる。そして少し考えたような顔をしたあと、口を開いた。
「わ、私は...違うと思うな。だって本当に司令官がこの『仮面ライダー』ってやつなら...
絶対自分からバラして、
『どうだった?俺、ハードボイルドだろ?』
とか言うはずだから...」
そういうと辺りはシンと静まる。
『ふ、吹雪...さすがにそんなんじゃこいつらは...』
「確かにな〜」
「翔ちゃんならそう言うに決まってるぴょん!」
「だってご主人様ですもんね!」
みんなは一様にゲラゲラ笑い出す。
『こ、こいつら〜...
でも今は吹雪に感謝しねぇとな。もしバレたら面倒事は避けられねぇし、青葉になんてバレた日は一瞬で鎮守府中に知れ渡ることになるな...』
「そ、そうに決まってんだろ!それにこの『仮面ライダー』が俺なら、その滲み出るハードボイルドさで一瞬で俺って分かるはずだからな!」
「やっぱり翔ちゃんじゃ無いみたいだぴょんぴょん!」
「漣、今確信しました!この黒いヒーローは青葉さんのでっち上げじゃなかったとしても、ご主人様ではありません!」
「...一応その理由を聞いておくぜ、漣」
「当たり前ですよ!だってこの黒いヒーローはハードボイルドです。でもご主人様は...
半熟者の『ハーフボイルド』じゃないですか!」
「漣ィ!!!」
翔太郎が漣を捕まえようとするが、ひょいと夜蹴られる!
「きゃー!半熟卵のご主人様が怒りました!」
「もしかしたらその怒りからくる熱で本物のハードボイルドに!?」
「絶対ならないぴょん!」
「お前ら〜...全員お説教だぁ!今から左翔太郎のハードボイルド講座だ!!」
『逃げろ〜!!』
駆逐艦や青葉たちは一瞬にして食堂から逃げ出した。
そしてそれを追いかけるように翔太郎は食堂を出ていった。
その様子を陸奥や赤城たちが楽しそうに見つめていた。
「さっすが翔ちゃん。正真正銘の半熟卵ね」
「やっぱり提督は提督ですね。
あっ、鳳翔さんお代わりお願いします!」
「ワタシはそんなhalf-boiledなテイトクがダイスキネー!」
そして新聞を読んでいた妙高が不思議そうな顔をする。
「それにしても『仮面ライダー』...ですか」
「どうせ青葉の捏造だろう」
「でも正直翔ちゃんって分からないこと多いし、意外とほんとだったりして!」
否定する那智に鈴谷が答えるが、
「まったく青葉さんも困ったものですわ...こんなの子供が見ているアニメくらいにしかいるはずありませんわ」
と食後の紅茶を飲み終えた熊野が呆れたように言うのだった。
〜執務室〜
翔太郎はあの後逃げた艦娘を全員とっ捕まえると、そのまま事務所へ連れて行ってハードボイルドとは何かを小一時間ほど教えようとした。
だが彼女は執務室がオシャレな事務所になっていたことにとても驚き、置かれていたビリヤード台に目をつけた。
そこで翔太郎と艦娘たちのビリヤード大会が行われ、経験と実力の差で翔太郎が勝ってみせた。
散々みんなでビリヤードを楽しみ、漣、深雪、卯月、青葉の四人は寮へと戻って行った。
「あぁ〜つっかれたぁ...さてと...」
翔太郎は椅子に深く腰掛ける。
「あれ...俺何しようとしたんだっけな......
そうだった!タイプライターを明石のところに持ってくんだった」
朝のことを思い出すと、翔太郎はタイプライターを両手で持って、工廠にいる明石の元へと向かった。
〜工廠〜
「おーい!明石ー! いるかー?」
「どうしたんですか提督?ってかそれタイプライターですよね?」
工廠の奥からスパナを持って明石が出てきた。昨日の迎撃の時に破損した艤装の修理を行っていたらしく、額には汗が滲んでいる。
「これをちょこっと改造してもらおうかと思ったんだが...作業中だったか?」
「別にいいですよ。そろそろ休憩しようと思ってましたし、一応見てみるくらいなら」
「分かった。ならその辺に腰下ろすか」
そういって2人は工廠の休憩室に入った。
明石は軽食のサンドイッチをムシャムシャと食べながら、翔太郎の持ってきたタイプライターをマジマジと見つめている。
「それにしても随分古いですねこれ」
「昨日アンティークショップで買ってきたんだよ」
「わざわざ買ったんですか!?どう考えてもパソコンの方が便利ですよ」
「パソコンだとハードボイルドさに欠けるだろうが」
「なるほど...提督らしいです」
明石は適当にタイプライターのキーボードをポチポチと押す。
「普通に動くじゃないですか。これに直すところなんてないと思いますよ」
「直すんじゃねぇんだ。改造してほしいんだよ、改造」
「改造...ですか?」
そして翔太郎は今朝の執務室での大淀とのやり取りを明石に話す。
「なるほど...日本語対応にできなくはないですけど...全部『ひらがな』か『カタカナ』になっちゃいますよ?」
「何?漢字は使えねぇのか?」
「一体どれだけ語数があると思ってるんです!?常用漢字だけでもキーボードに入れたら使うどころの騒ぎじゃなくなっちゃいますよ」
「そうか...困ったな。
前いた探偵事務所でも報告書は全部タイプライター使って『英語』で書いてたからなぁ」
「さすがに難しいですよ...
変換機能つけて電子化しちゃったらそれこそパソコンと変わりませんよ」
「だよなぁ...どうしたものか」
翔太郎はうーんと考え込む。その顔はまさに推理をする探偵そのもの。その顔に少しだけドキッとしてしまう明石。
「ん?どうした明石。俺の顔に何かついてるか?」
「い、いえ!なんでもないです!
でも分かりました。手が空いたら提督が英語で作った報告書の紙を入れるだけで漢字込みの日本語に変換できる機械をつくってあげます!」
「何!?そんなもの作れんのか!?」
「はい!やってみせます!」
「ありがとよ!明石」
その後翔太郎の作る報告書がローマ字のせいで明石が機械を作り直すことになるのはまた別のお話。
「でよ、明石。実はもうひとつお願いがあるんだ...
バイク、作ってくれねぇか?」
「バ、バイクですか?」
「そうそう、バイク」
「資材さえあれば作れなくはないですけど...」
「こんなのだな」
翔太郎は近くにあった裏紙にペンで欲しいバイクのイメージを書いていく。
それはまさに翔太郎の愛車『ハードボイルダー』と同じものだった。
「この色が違う部分は外れるようにしてくれ。で、後ろは緑がバイク、赤い飛行機、黄色いボートを取り付けられるようにして欲しいな」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!いくらなんでも注文多すぎですよ!
バイクだけならできますけど...」
「頼むぜ...なんとか3タイプに差し換えできるようなやつを作れないか?」
「え〜。まぁ出撃がないから昨日損傷した艤装さえ直したらあとはやることないですし、そこまでお願いされたらやってあげなくはないですけど」
「本当か!?」
「でも最初に作ってあげられるのはバイクだけです!さすがに飛行機やボートにするには色々と手間が多すぎます」
「いや、最初はバイクだけで十分だ。とにかくありがとな。助かるぜ」
「でもできるかは分かりませんよ?バイクを作るだなんてやったこともないですし」
「いいんだ、やれるだけやって見てくれ」
「...分かりました!明石に任せてください!じゃあ私はここで失礼しますね!
おーい!夕張ー!ちょっとこれ目通してー!」
明石はピシッと敬礼すると翔太郎が描いたバイクのイメージ図を持って、同じく工廠で作業をしている夕張のもとへと行った。
『明石には頼りっぱなしだな。また今度間宮さんのところでなにか奢ってやるか』
翔太郎はタイプライターを工廠に置いて、執務室へと戻ることにした。
〜執務室〜
「なーにやってんだ?お前ら」
翔太郎は執務室へと戻ると、金剛型4姉妹が事務所でティーパーティーを開いていた。
「アッ、テイトクー!この部屋very coolネー!」
「榛名も素敵だと思います!」
「だろ?このハードボイルドさが分かるとは良い心がけだ...って事務所で紅茶飲んでんじゃねぇ!寮でやれ寮で!建て替えたおかげで広くなったし、綺麗にもなっただろ!?」
「金剛お姉様が提督に会いたいって言うんで執務室に来てみたら、お姉様がとてもこの部屋を気に入られまして...」
霧島が事の顛末を簡単に翔太郎に伝える。
「提督。そもそも事務所って何ですか?」
「何?さてや比叡お前、入口の看板見てねぇだろ」
「看板?そんなのありましたっけ?」
「あるよ。今日からこの部屋は『鳴海探偵事務所-風都鎮守府出張所件執務室』」だ。
「え!?提督、執務室を探偵事務所にしちゃったんですか!?」
「琉兵衛から直々にここの艦娘のメンタルケアをしろっていう命令があってな。これは少しでも悩みを相談しやすくするために仕方なく探偵事務所という形にしたんだよ」
「それ提督が単にこの部屋が欲しかったからでは?」
「ハードボイルドな男は働く環境もハードボイルドにしないといけねぇからな」
翔太郎はそう言いながら被っていた帽子を帽子掛けにかける。
「ったくお前らも飲み終わったら出てけよ?もし依頼人が来たら...」
その時、誰かが突然ドアを叩いた。
翔太郎がドアに向かっていき、開ける。
そしてそこには
「あの、提督。ここが探偵事務所になられたというのは本当ですか?」
「ま、間宮さん!はい、その通りです。昨日からここは鳴海探偵事務所風都鎮守府出張所になりました。まさか間宮さんは?」
「はい、実は私から...探偵である翔太郎さんに依頼人として依頼があるんです」
「...!!待ってました、間宮さんの依頼ならすぐにでもお受けしましょう!
ほらお前ら!どいた!どいた!」
「ひ、ヒドイネー!ワタシタチまだ飲み終わってないヨー!!」
「うるせえ!ここでは依頼人のプライバシーが第一だ!ほら、分かったらすぐに出ていきな!」
「ま、待ってください!間宮さんの依頼が何か、私聞いてみたいです」
「え!?」
比叡の言葉に間宮が驚いたような顔を、翔太郎が呆れたような顔をする。
「あのなぁ比叡、依頼ってのは、依頼する側とされる側の間にしか共有されない情報なんだよ。部外者には聞かせちゃいけないんだよ」
「ぶ、部外者って...私たちだって同じ鎮守府の艦娘です!間宮が何か悩んでいることがあるなら、私たちだって力になりたいんです!」
「ったく聞き分けのないやつだな」
「実を言うと、私自身に何か困ってることがあるわけじゃないんです」
「間宮さん自身じゃない?」
とにかく翔太郎はまず間宮をソファに座らせた。
金剛たちは何を言っても引きそうにないので、間宮も同意のもと諦めて同席させた。
「はい。実は伊良湖ちゃんの事なんですけど...」
「伊良湖が?」
伊良湖は間宮と同じで食堂で働いている給糧艦の艦娘である。元々彼女は間宮に勝るとも劣らない料理の腕の持ち主だったが、前提督の心無い仕打ちにより、料理を作ることがトラウマになってしまい最近は食器洗いや客の応対など、調理以外の仕事をしていた。
「料理に関しては俺もさっぱりで...
こればかりは心の問題だから彼女自身に解決させるしか...」
「いえ、そうじゃないんです。
実は...伊良湖ちゃんの料理の腕が戻ったんです」
「え?腕が戻った?」
「いえ、戻っただけではなく、むしろ前よりも上達しています」
「そこになんの問題が?」
霧島が興味深そうに眼鏡をクイッと上げながら尋ねる。
「実は私....」
〜〜〜回想〜〜〜
「ウウッ...グスッ....」
涙を流し目をこする伊良湖の前には、何かよく分からない焦げ付いた物体が皿にのっている。
「だ、大丈夫よ。伊良湖ちゃん。次に挑戦すればきっと...
「次なんてないですよ」
伊良湖が俯きながら言う。
「い、伊良湖ちゃん?」
「私にもう次はありません!もう私は美味しいお菓子を作ることは出来ないんです!!
お菓子を作れない私なんて...もうここにはいられません!!」
「あ、待って...伊良湖ちゃん!!」
〜〜〜〜
「ということがありまして...」
「なるほど...そのまま走って出ていってしまったと」
「でもさっき間宮さん、伊良湖ちゃんの料理の腕が良くなったって言ってましたよね?」
比叡が尋ねる。当然の疑問である。
「はい。実は伊良湖ちゃんが出ていった三時間後に、伊良湖が戻ってきたんです
『先程は申し訳ありませんでした、間宮さん。でも今なら私、お菓子を作れそうな気がするんです!』と言って」
「それで作らせてみたら...」
「はい、とても美味しい最中を作ってくれました」
「でも別に変なところなんてないネー」
「確かにそうですね。元から料理が出来なかったのならまだしも、伊良湖ちゃんはあの前の提督に冷遇されるまではかなりの料理の腕を持ったいたはずです。
なら急に勘を取り戻したということもありえない話ではないのでは?」
霧島も最もらしい理由を述べて金剛に同調する。
「たしかになぁ...よし、今から伊良湖ちゃんのとこに行ってみるか」
そう翔太郎が言うと、部屋にいた6人は伊良湖のいる食堂へと歩みを進めた。