「事件解決への協力、感謝する」
「頼むぜ、照井。
でも、あんま手荒なことはすんなよ?」
「それは弁えている。こちらもちゃんと法に乗っ取って犯人を扱う」
それだけ言うと照井は近くに止めておいた自身のバイクに乗る。
カンガルーメモリの使用者は、超常現象対策部の車に乗せられる。
〜数十分前〜
「ふぅ、決まったぜ...」
「どうだ、島風。なかなかいい画だったろ?」
ジョーカーとマッハは元の翔太郎と剛の姿に戻っていた。
剛の質問に島風はサムズアップで答える。
翔太郎は地面に伏して気を失っている30代くらいの男を見下ろす。
「こいつは...照井に連れてってもらうかぁ」
「照井...まさか超常事象調査部の部長のことか?」
「なんだ?知ってんのか?」
「当たり前さ。うちの久留間鎮守府と超常事象調査部は昔から仲があまり良くないらしくてな。
でもまぁこっちの鎮守府の提督さんは中々話のわかる人だからな。
人命に関わる犯罪が起きる可能性があるなら、管轄なんて気にしない人だからこそ、俺もここに来れたんだ」
「なるほどな...やっぱり国の役人ってのは大変なもんだ。自営業には分からない辛さってやつだな」
と帽子のつばを触りながら翔太郎は言う。
「て、ことで俺は失礼させてもらうぜ。超常事象調査部のやつらに、俺がここで管轄外の事件に関わったことがバレたら色々と面倒だからな」
「分かったよ。ありがとな、剛。また会おうぜ」
「こちらこそだ。何かまたヤバそうなことがあったら俺を呼んでくれ。マッハで駆けつけるぜ!
さぁ、帰るぞ。島風」
「りょーかい!
そうだ!風都の提督さん。剛を助けてくれてありがとね!」
「おう!そっちも何かあったらいつでも呼んでくれ」
剛はニッと笑うとヘルメットを被る。島風もそれに習ってヘルメットを被ると、二人は剛のバイクに乗ってすぐに去っていった。
「よし...照井に連絡しねぇと」
「ま、待ってください!私をおいてけぼりにしないで下さい!!」
スタッグフォンを取り出し、照井に連絡しようとした翔太郎を明石が大声で遮る。
「な、何がどうなってるんですか!!
カンガルーのお化けみたいなやつがいるし!
提督は変なベルトを付けてるし!
と、思ったら青葉さんの新聞に載ってた謎のヒーローに変身しちゃうし!
一からちゃんと説明してください!!」
「お、おう。そうグイグイくるなって...
まずは落ち着け、な?」
翔太郎は荒ぶる明石の肩を抑えながら、彼女を落ち着かせる。
明石はスウっと深呼吸をすると、少しだけ冷静さを取り戻した。
「......まずは1つお聞かせください。あなたは何者なんですか?」
「...街の涙を拭うハードボイルド探...
「そういうことを聞いてるんじゃないです!
あなたはどこから来たんですか?どうして提督になったのですか?
今私はあなたを提督としてではなく、『左翔太郎』という一人の人間として質問しています。
答えてください、左翔太郎さん」
明石の目は真剣そのものだ。どう考えてもはぐらかせる雰囲気ではない。
翔太郎は困ったような顔をする。
「話せって言われてもなぁ...俺は気づいたらこの風都の海岸にいたんだよ。
そこからのことは一度お前ら全員に話しただろ。信じてくれよ」
「も、もちろん翔太郎さんのことは信じてあげたいですし、あなたが嘘を言っているようには見えませんけど......
あんな光景を見せられたら、誰だって怪しいと思いますよ。
じゃあとりあえずさっき提督が腰に付けてた赤いやつと、あの黒いUSBメモリみたいなやつをみせて下さい」
そういう明石の目は、先程の翔太郎を訝しむようなものではなく、知的好奇心に溢れたキラキラとした目になっている。
「お前...目的変わってるだろ」
「ギクッ!そ、そんなことないですよ!
こ、これはその〜...と、取り調べです!取り調べ!探偵もよくやるでしょう?!」
「あーもう分かったって!
とりあえずこいつを連れてってもらう!」
翔太郎は興奮する明石を止めると、ようやくスタッグフォンで照井に連絡をすることが出来た。
『にしてもあの自分が見知らぬものを調べることにワクワクした顔...
どことなく『あいつ』を思い出しちまうぜ...
待ってろよ、フィリップ。すぐにそっちに帰る方法を見つけるからな』
そんなことを考えると翔太郎はまた帽子を被り直した。
〜現在〜
照井らに犯人を引渡した翔太郎は、そこから去っていく超常事象調査部の車を見送った。
「あとは帰るだけか...
色々と喋らなきゃいけないことが増えちまっまたし...あーめんどくせぇ!」
帽子をとって頭をグシャグシャとする翔太郎。
「めんどくさくても話さなきゃダメです!
でもこの際...提督の経歴に関することを聞くのは見逃してあげますから!」
「分かったよ...さ、乗んな」
翔太郎はハードボイルダーに跨り、ヘルメットを被る。明石もヘルメットを被って、後部座席に乗ると翔太郎に掴まる。
翔太郎はハードボイルダーのアクセルを捻り、鎮守府へと帰って行った。
〜風都鎮守府〜
「あっ、提督だ!」
「ぽいっ!?」
睦月が鎮守府の門の外を指さす。
そこには特徴的なフォルムをしたバイクがこちらに向かってきていた。
少し前に翔太郎と明石はみんなに何も言うことなく鎮守府を出ていってしまった。
心配する艦娘たちだったが、どうやら杞憂に終わったようだった。
バイクがキキキッとブレーキをかけながら鎮守府に入る。
「提督ー!お帰りなさい!」
「もう!私たちに言わないでどこ行ってたっぽい?」
「いくら提督とはいえ無断で外出は感心しないね。みんな心配していたよ」
「悪ぃな、夕立、時雨。ちょっとこいつの試し乗りに行っててな。
そしたら明石が自分もついて行くって聞かなくてよ」
「ちょっ...わ、私は...」
明石はそこで口ごもる。いくら翔太郎の素性についてなるべく聞かないように決めたとはいえ、あのような光景を見せられたのだ。
心の整理ができていなくても無理はない。
「明石さんバイクに乗せてもらったっぽい?!
ずるーい!夕立ものりたいっぽいー!」
「わかったわかった。また今度時間があったら連れてってやるから。
ほら、お前ら。お土産の風都まんじゅうだぞ!」
『わぁ!!』
翔太郎が帰り道で寄った和菓子屋で買った『風都まんじゅう』を差し出すと、近くにいた駆逐艦達が一斉に集まってくる。
ここに集まった駆逐艦たちも同じように翔太郎のことを心配していたのだが、いつも通り
の少しカッコつけた笑顔を見せ、お土産のおまんじゅうを渡された駆逐艦たちはすっかり安心しきっていた。
だがそんな翔太郎に少し違和感を覚えた駆逐艦も少なからずいた。
「やぁ、時雨」
「おや、響かい?キミがボクに話しかけてくるなんて珍しいね」
「あら、ガールズトーク?私も混ぜてもらっていいかしら?」
「私もお願いするわ〜」
会話を交わす響と時雨のもとに、如月と荒潮がやってきた。
彼女らは肉体的にも精神的にも幼い駆逐艦が多い中で、比較的大人びた容姿、精神を持っている。(響は身体は幼いが)
そしてそれ故に洞察力も中々のものである。
「今回の翔ちゃん...なーんか隠し事の匂いがするのよねぇ〜」
荒潮は組んだ右手を頬にあて、わざとらしく考え事をするようなポーズを取る。
「まぁ今更な気もするけどね。彼が『何か』を隠しているのは皆も重々承知だろう」
「あくまで口には出さないけどね。みんな今の関係を、今の環境を維持していたいから。
でも私も今日の翔ちゃんはただ外出してただけじゃないと思うわ」
「その根拠はなんだい?如月」
「簡単よ、響ちゃん。『女の勘』ってやつね」
「フフ...如月が言うと些か当たっているようにも思えるよ。
かく言う私も今回の提督の行動は少し言いようのない不安感を覚えていたけどね」
「まだ私の知らない翔ちゃんの顔...きになるわ〜」
4人は各々の思案を巡らせると共に、心の中ではある1つの『恐れ』を抱いていたが、それを口に出すものはいなかった。
それを口に出してしまえば、
このキザで、ナルシストで、他の誰よりも優しいハーフボイルドなこの男が、
目の前からいなくなってしまう気がしたから。
〜執務室〜
翔太郎は軽い書類整理をしていた。提督になっても探偵のこととあまりやることは変わっていたなかった。
ちなみに明石にはバッドメモリとバッドショットのメモリガジェットを預けていた。
それらは彼女のエンジニア魂を大きく刺激したらしく、どうしても研究してみたくなったらしい。
だがガイアメモリの危険性を知る翔太郎は、当然それについても伝えることにした。
明石はそれを聞いた上で、どうしてもそれらを見せて欲しいと頼み込んだのだ。
なので、明石以外の人物には、絶対これらを見せないという条件で1日だけ預けてあげることにした。
翔太郎はなるべくガイアメモリに関することに艦娘たちを関わらせたくはなかった。
これで翔太郎が知る限りでは、この鎮守府でガイアメモリについて知る人物は、吹雪、伊良湖、明石の3人になった。
そして翔太郎自身もいつまでも自分の秘密を隠し続けられるとは思っていなかった。
いつか、必ず元の風都に帰らなくてはいけない時がくる。
というか、何があっても翔太郎は必ず戻るつもりだった。
だからその時のために、彼は自分が愛する風都の涙を拭ってから去ろうと思っていた。
『そのためにはまずは自分が出来ることをしなくちゃな』
なるべく物事をプラスに考えるようにした翔太郎は、デスクに広がる書類を整理し続ける。
するとその時、執務室の扉が乱雑に開かれる。
「おーっす!提督いるかー?」
「クォラァ江風ェ!!!
扉を雑に開くんじゃねぇ!!!
壊れたらどーすんだ!」
「あぁ悪い悪い!ってそうだ!
提督!アンタが会いたいやつを連れてきてやったぜ!
ほら、ビビらずに入って来いって!!」
「嫌......もう私に構わないでよ」
江風は扉の外にいる人物をグイグイと引っ張っている。
翔太郎からは江風が引っ張っている誰かの腕が見えた。
『俺が会いたいやつ...?そしてその子を連れてきたのは江風...ま、まさかこいつ!』
翔太郎がある1つの予測をたてる。
そしてそれは次の瞬間に的中することになる。
「ちょっと江風!!
提督は私に『山風』を任せて...
って、提......督......」
予測は当たってしまった。
この風都鎮守府には、まだ翔太郎が会っていない艦娘が5人いた。天津風、満潮、霞、曙、山風である。
そして自身が彼女たちに無理やり会って下手に刺激するよりも、親しい仲にある艦娘に説得してもらい、その艦娘に仲介して貰おうという少し回りくどい計画だった。
翔太郎自身あまりこういったやり方は好きではなかったが、相手は前の提督に酷く傷付けられた艦娘たちである。
その身の上を考えれば仕方の無いことであった。
だからこそ翔太郎は、『山風』を海風という優しくて1歩引いた視点で姉妹を見ることにできる艦娘に任せることにした。
だが、その山風は、白露型の中でも最もガサツで荒っぽいであろう江風に手を引かれていた。
結局、山風は江風に力負けして執務室に入れられてしまった。
江風は何故かやり切ったような顔をしており、山風はヒックヒックと嗚咽を上げている。
海風に至っては、さっきからしきりに
「ごめんなさい...ごめんなさい...ごめんなさい」
と頭を翔太郎に下げ続けている。
『最悪の出会いになっちまったじゃねぇか...』
「もうこうなったら仕方がねぇ......
俺は山風に話したいことがある。
海風は江風を連れて帰ってくれ。たっぷりとお灸を据えてやれ」
「了解しました。さぁ江風、帰るわよ」
「え?!な、何でだよ!提督が山風に会いたがってるから連れてきたのに!
海風の姉貴〜!!」
江風は海風にズルズルと引きずられていった。
執務室の扉がバタンと閉じられ、部屋の中には翔太郎と山風の2人が残される。
「よ、よぉ...俺はこの風都鎮守府の新提督、左翔太郎って言うんだ。
よろしくな」
翔太郎は山風に少し近づくと、握手をしようと右手を伸ばす。
だが腕を近づけられた山風は一瞬で身体を硬直させ、『ヒッ...』と声を漏らす。
「お、おね...がい...し、ます...ぶた、ないで」
「......!!!」
翔太郎は歯噛みする。前の男はこんな少女にまで、暴力を振るったというのか。
心に怒りが込み上げてくるが、それをぶつけたい相手は既に檻の中だ。
翔太郎はグッと怒りをこらえる。
「そうだな...山風。あそこのソファに座れるか?」
翔太郎が事務所の中にある赤いソファを指さす。
そして静かにコクリと頷くと、そこにペタンと腰掛ける。
そして山風が座ったのを見計らうと、翔太郎はコーヒーメーカーが入っている棚を開ける。
だが今回作るのはコーヒーではない。翔太郎は先日、商店街で貰ったココアの粉が入った缶を開ける。
それなりに値の張るものらしいが、誰も買う人がおらず賞味期限が近くなってしまったらしく、半額以下でいいからと勧められたのだ。
この鎮守府には苦いコーヒーが飲めない駆逐艦も多く、そういった艦娘たちに振る舞うために1つは持っておいてもいいだろうと考え、買うことにしたのだった。
彼はすぐに牛乳をぬるいくらいに温めると、それにココアの粉を溶かして、それを入れたマグカップを山風の前に置く。
「ほら、飲みな。甘くて美味しいぞ」
「いらない」
首を振る山風。だが視線は目の前のココアを見つめている。
「そう意地はんなって。これは俺からのおもてなしだ。
色々辛いことがあったんだろ?
だからそれはこの俺がちゃんと聞いてやる。
だからまずはそれ飲んでリラックスしてくれ」
そう優しく語る翔太郎の顔には、一切の邪な考えは見られない。
山風は観念したように、マグカップを持つと、口に運ぶ。
「美味しい......」
「そう言って貰えて何よりだ」
その後山風がココアを飲み終わるまで翔太郎は彼女を見守っていた。
その顔はまるで娘を見守る『父親』のようだった。
〜数分後〜
「zzz......」
「さて、どうしたもんか...」
山風はソファの上で小さく寝息をたてていた。彼女の目に隈ができていたことからあまり寝れていないことは明らかだった。
ココアを飲んで気を落ち着かせたことで、張り詰めていた気が切れてしまったのだろう。
翔太郎は山風に優しくタオルケットを掛けてあげた。
すると事務所の扉からコンコンと音が鳴る。
「いいぞ、入って」
「失礼します」
扉の向こうにいたのは海風だった。
だがその表情はどこか曇っている。
「ちょうど今山風が眠ったとこなんだ。ありゃ相当疲れてたんだろうな」
「提督......」
「ん?」
「提督のご期待に応えられず、申し訳ありませんでした...」
海風は深々と頭を下げる。
そして事務所の床には一滴の雫が落ちる。
「お、おいおい...別に泣くまでのことじゃねぇだろ。顔上げろって」
「ですが......あの地獄から私たちを救い出してくれた提督に、私は...何も出来なくて...」
「ったく、そこまで気負う必要なんざねぇさ。
とにかく山風を笑顔にさせなきゃお前も笑えねえ。
このハードボイルド探偵に任せておきな。依頼人からの依頼は何がなんでもこなさなきゃ、探偵失格だからな」
「...分かりました。提督を信じます。
では、この後はどのようにするおつもりですか?」
「そうだなぁ...山風も寝ちまったし、山風が起きるまでデスクワークだな」
「ならそれをお手伝いさせていただきます。
意外とそういった仕事もこなせるんですよ」
「そっか、ならお願いするぜ」
「はい!了解です!」
海風は今まで一番の笑顔を翔太郎に見せると、二人でデスクワークに励むことになった。
〜工廠〜
「す、すごい...私が今まで見てきたどんなものよりも、精密に作られてる」
明石は思わず唾を飲み込む。
明石は翔太郎からバッドショットとバッドメモリを借り受け、それを解析していた。
「まるで...私たちがいる世界のものじゃないみたい」
明石の目の前のパソコンにな今まで見たことも無いデータが映し出されている。
「これ...もっと研究してみる必要がありそうね」
明石はそう独り言をつぶやくと、夕飯もとることを忘れて研究に没頭するのだった。