「いっつ...」
と声を漏らし、翔太郎はのっそりと立ち上がった。そして隣に落ちていたダブルドライバーとジョーカーメモリ、そしてトレードマークの黒い帽子を拾い上げる。
「...俺は、たしか...」
なぜ自分が海岸で寝ていたのかを思い出す。
そして彼は全てを思い出す。
「そうだ。俺とフィリップはドーパントを追い詰めてあと少しのところで、あの変な扉みたいなのに...」
『確かフィリップは今回のドーパント-アナザードーパントは別の世界に飛ばす能力を持ってるとか言ってたな...
ってことはまさか俺だけ、別の世界に来ちまったって言うのか!?』
そこで彼は大切なことに気づく。彼のかけがえのない相棒-フィリップがそこにいないのだ。
「ってフィリップ!
おーい!フィリップー!!
ったくあいつ、どこいっちまいやがったんだ...」
ビートルフォンで通話をかけるも繋がらない。
「あっ!」
と翔太郎は手をポンと打つ。
彼は先程拾ったダブルドライバーを腰に装着する。
『これならフィリップの方にもドライバーが装着されるはず。あいつがなんかしらのメモリを入れてくれりゃあ、そのまま変身してあいつと会話ができるはずだ。』
そしてドライバーを装着して5分ほど待ったが、ドライバーはうんともすんとも言わなかった。
「だーッ!!考えててもしょうがねぇ!まずは行動だ!」
と翔太郎は歩きだそうとしたところであることに気づく。それは海岸から見た風景。
それは今まで自分が嫌という程見てきた、風都から見える景色とほとんど同じだった。
だがなにかが違う。今は曇ってるからだとかそんなことではない。
「街に流れる風が...濁ってやがる...」
嫌そうな顔をする翔太郎。だが今はあれこれ悩んでも仕方ないと海岸を移動する。
そして商店街へと移動する。
そしてどこもかしこも驚くくらい風都とそっくりである。
道行く通行人もどこか暗い顔をしている。
それが気になった翔太郎はとりあえず話を聞いてみることにした。
「あのー、ちょっといいですか?」
「誰だアンタ...」
と40代くらいの男は気だるそうに翔太郎を見る。
「ここがどこか分かりますか?」
「どこって...ここは風都だよ」
「ふ、風都!?ここが!?」
と翔太郎は驚いたように声を上げる。
正直どこか嫌な予感はしていた。だがこんな暗く、流れる風が濁っている街が風都だとはとても信じることは出来なかった。
「話は終わりか?俺はもう行くぞ...」
「ま、待ってくれ。この辺に...鳴海探偵事務所っていう探偵事務所は...?」
「探偵事務所...?そんなもん聞いたこともねぇな」
そこで翔太郎は事務所の住所を伝える。
すると男は顔を青くし、プルプルと震え出す。
「ここって...鎮守府がある所じゃねぇか」
「ちんじゅふ?」
と聞いたことも無い言葉に首を傾げる翔太郎。
「お前...鎮守府を知らないのか?」
コクリと頷く翔太郎に男はため息をつく。
「なら今すぐこの街を去りな。こんな所にいてもなにもいいことなんざないぜ」
と言うと男はスタスタと歩いていってしまった。
「鎮守府って...あの馬鹿でかい建物か...」
と翔太郎は隣にある建物を睨む。
すると翔太郎はその建物から何かを感じた。
形容しがたいどす黒い何かがその鎮守府といわれる建物から溢れ出てきているのを感じる。
「間違いねぇ...あの建物から感じる何かが、この街を泣かせてやがる」
そう確信した翔太郎は鎮守府へと歩みを進める。
〜風都鎮守府-執務室〜
「また敗北だと!?
何度言ったらわかるんだ貴様らは!!」
と白い軍服に身を包んだ太った男は目の前の少女を殴りつけた。
少女は声も出さず、それに耐える。
「貴様らは兵器だ!人間の道具だ!!いくら使い潰しても代わりはいる!!
自分たちで使った分の資源は、自分たちで取り戻してこい!!」
と提督と言われた男は手近にあった灰皿を青い袴を履いた女性に投げつける。
そして兵器と呼ばれた少女たちはフラフラになりながら部屋を出ていく。
「おい!遠征にいかせた艦隊はまだ帰ってこないのか!!」
「あ、あと少しで帰還するかと...」
「フン!!使えん道具共め...」
と不満そうにつぶやくと男は引き出しを開ける。そこにはCというアルファベットが書いてあるガイアメモリが入っていた。
その頃翔太郎は鎮守府といわれた場所のすぐ近くまで来ていた。
「にしてもこの建物...どこが入口なんだ?」
と鎮守府の入口を探していた。
鎮守府という建物はあまりにも広くて大きく、簡単に入口が見つからなかった。
すると彼の目の前には大きな1つのビニール袋を両手で持ち、割烹着を来て赤いリボンをつけた大人の女性がふらつきながら歩いていた。
翔太郎はその女性を一目見るともはや条件反射のようにその女性に近づき声をかけた。
「どうも、美しきレディ。私は探偵をしている、左翔太郎という者です。
よければその袋、私が持たせていただきましょう」
とスっと手を伸ばす翔太郎。
「い、いえ!そんなの悪いです!!」
と女性は先に行こうとするが、おぼつかない足取りから思わず躓いてしまった。
「危ない!!」
と翔太郎はすぐにその女性を前に入り込み、倒れないよう支えた。
「す、すみません」
「いえ、気にすることなどありません。さぁ、荷物をこちらに」
と翔太郎はビニール袋を受け取り、その女性の横に並んで歩きだす。
「本当に申し訳ないです...
初対面の方に荷物持ちをさせてしまうだなんて...」
「いえいえ。気にすることなんてありませんよ。あなたのような美しい女性がこんな重い荷物を持つのは似合いません。
こういうのは男の仕事ですよ。
それにしてもラッキーでした。私もこの建物に用がありまして、まさかあなたがそこに務めているだなんて。
そうだ、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
とキメ顔で返す翔太郎。
改めて美しいと言われた女性は顔を少し赤らめら早口に返す。
「わ、私は給糧艦の『間宮』と言います」
「それでは間宮さん。いくつかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
そう言われた間宮は「えぇ、どうぞ」と首を縦に降る。
「ではまず...『鎮守府』とは一体何をしているところなんですか?」
「え?」
と間宮はキョトンした顔をする。
「い、今何か変なことでも?」
と翔太郎は恐る恐る聞き返す。
「え!いや、その...本当に鎮守府が何かご存知ないのですか?」
翔太郎は「お恥ずかしながら」と苦笑する。
そして翔太郎は聞かされた。今世界には深海棲艦という謎の生物が蔓延っており、貿易ラインが寸断されていること。それらを世界から救うために少女の姿をした兵器-『艦娘』が開発されたこと。
彼女らには昔日本が戦争をしていた際に建造された船の魂が宿っているらしい。
目の前の『間宮』と名乗る女性もその『艦娘』だということ。
そしてその艦娘を管轄し、深海棲艦と戦うために設置された各拠点のことを、『鎮守府』
と言うことを。
『なるほど...どうやら本当に俺がいた世界とは違うみたいだな。
とにかく...まずは元の世界に戻る方法を探らなきゃな』
と翔太郎は考えたところで、1つ間宮が教えてくれたことで引っかかったことを尋ねる。
「待ってくれ、間宮さん。まさかあなたのような美しい女性が、兵器のように扱われて、戦わされているのか?」
「...はい。少なくとも、うちの鎮守府では、私達は使い捨ての兵器同然の扱いをうけています」
「そんなことが...」
と翔太郎は歯噛みする。そもそも少女を戦わせるというだけでも人道に反している行為だ。それをあまつさえ兵器として扱うというのは翔太郎からすれば全くもって許せないことだった。
そんなことを話しているといつの間にか鎮守府の入口に着いていた。
「ここが入口か...」
「はい。わざわざ持って頂いて申し訳ございません」
と頭を下げながら翔太郎から袋を受け取ろうとする間宮。
「いえ、これを置かなくては行けないところまで持っていきましょう。
どの道私はここに用があってきましたから」
「そ、そこまで翔太郎さんにご迷惑をおかけする訳には...」
「おっと、待ちな。」
と門の中から兵隊のような格好をした男がでてきた。どうも汚らしい見た目であり、下卑た笑身を浮かべている。
「随分とお熱い感じじゃねぇか。兵器のくせによ」
と男はニヤニヤ笑いながら翔太郎と間宮に近づく。
「ったくお前ら艦娘は身体だけは一級品だからなぁ。
なぁにちょっとヤることヤったらすぐに帰してやるよ。
あとお前はさっさとどっか行きな」
と男は翔太郎をシッシッと手で払う。
「すみません、翔太郎さん。私は大丈夫ですから...早く逃げてください」
と間宮は翔太郎を逃がそうとする。
そして男が手を間宮に伸ばし、その肌に触れようとした時、
その腕を翔太郎が掴んだ。
「おいてめぇ...自分が何してんのか分かってんのかぁ?
ここで憲兵様に逆らうたぁいい度胸してんななぁ」
と男は翔太郎を睨む。
「その汚い手で間宮さんに触れんなよ。
この美しい肌が、お前の汚い手垢だらけの手で汚れたらどう責任をとるつもりだ」
と憲兵に言い放つ。
「んだとコノヤロウ!!!」
と顔を真っ赤にした憲兵は翔太郎に殴り掛かる。
「危ない!
翔太郎さん!!」
と間宮が声を上げる。
だが翔太郎は落ち着いてその拳を躱すと、掴んでいた腕を男の背中に回しそのまま固めてしまった。
「いででででで!!」
と憲兵は叫ぶ。
「早く間宮さんの目の前から、この『風都』から去りな。
お前みたいなやつがいると、この街の涙が拭えねえ!」
と言うと男を門の外に突き飛ばした。
男は「ひぇぇぇ!」とフラフラになりながら鎮守府から逃げ出して行った。
「つ、強い...」
間宮は驚愕していた。一直線のパンチて会ったとはいえ、相手は訓練を積んだ憲兵である。それを一撃で戦意喪失させてしまうのは強いという他になかった。
「お目汚しをさせてしまい申し訳ありません、間宮さん。
ささ、早く行きましょう」
と翔太郎は間宮の手を取る。
間宮はそこで顔を赤くする。今まで触れた男の手とは違う、どこか温かくて安心できる、優しい手だった。
だが翔太郎は間宮の手を取って数歩歩いたところで立ち止まってしまう。
「し、翔太郎さん?」
不思議そうな顔をする間宮。
すると翔太郎は帽子を目深に被ると、
「どこに置きに行けばいいんですかね」
と恥ずかしそうに言うのだった。
その後翔太郎は間宮に招待され、鎮守府にある食堂へと向かった。
「ここでいいですか?」
「はい。本当にすみません、何から何まで」
「いえいえ。間宮さんがお気になさることではありません。にしても、ここが食堂ですか...」
と翔太郎は辺りを見回す。どう見ても施設はボロボロであり、人っ子一人いない。
「なんというか...随分歴史があるというか...」
「食堂はほとんど使えなくて...
少なくとも私以外の艦娘の立ち入りは禁止されているんです...」
「え?
じゃあどこで食事を?」
「私達は出撃、遠征を除いて基本は部屋から出ることを許されていないんです。
怪我をしてもそれを治すことすら許されず、傷の度合いが深くてもう使い物にならなくなったら囮のように使われて...」
そこまでいうと間宮は泣き崩れてしまった。余程ここで辛い思いをしてきたのであろう。
だが今の翔太郎はその話をただ聞いて立っていられるほど冷静ではなかった。
「間宮さん。
ここの責任者はどこにいるんです?
ちょっと『お話』をしようと思いまして」
と翔太郎は優しく話しかける。
「ま、待ってください!!
提督に直談判するだなんて...絶対殺されてしまいます!!」
「いえ、そういう訳にはいきません。
ここが風都である以上、ここは俺の庭です。
私は...この街を泣かせる悪党を許しておくことができません」
翔太郎は真剣な目で間宮を見つめる。
「そこで何をしている、給糧艦。」
そんな言葉が食堂の入口から放たれた。
そこには白い軍服に身を包み、煙草を咥える太った男の姿があった。
「て、提督...」
「おい給糧艦、ワシの飯はどうした。
すでに10分も遅れているぞ」
「も、申し訳ありません!
すぐに作ってお部屋に持っていきます!!」
「ったくこれだからこの兵き...
「おい、オッサン」
提督と言われた男の言葉を翔太郎が遮る。
「アンタ、今間宮さんに提督とか言われてたよなぁ?」
「誰だ貴様は?憲兵はやつを捕えなかったのか?」
「憲兵?あぁ、あの薄汚い野郎か。
あいつなら汚い手で間宮さんを触ろうとしたから少しお説教しといてやったよ。
それに...俺もアンタに『お話』があってここに来た」
「し、翔太郎さん!」
間宮は翔太郎を止めようとするがもう遅い。
「ほう...その不遜な態度、気に入らんな。
いいだろう。
付いてこい。執務室に案内してやる」
提督と言われた男は食堂を後にする。
それに付いていくように翔太郎も食堂を出ようとしたが、それを間宮が呼び止める。
「まってください!翔太郎さん!!」
「間宮さん。あなたはここにいる艦娘たちのために温かい食事でも作っておいてあげてください。
すぐに戻りますから」
そう言って翔太郎は微笑むと、男の後を追うように執務室へと向かった。
〜執務室前〜
「ここだ。入ってくれたまえ」
そういうと男は翔太郎を執務室に招き入れる。
翔太郎が執務室に入るとそこには眼鏡を掛け、青いヘアバンドをつけた長く黒い髪の女性がたくさんの書類にハンコを押していた。
ろくに寝ていないのだろうか、目の下には隈ができている。
「おい、席をはず「どうも、綺麗なお嬢さん。私は風都を愛する探偵、左翔太郎と言います」
男が女性を追い出そうとする前に翔太郎がすぐさま女性に駆け寄り声をかける。
「あ、あなたは?」
とキョトンとした顔を翔太郎に向ける黒髪の女性。
「おっと失礼。
実は今からあなた達の上司さんと『お話』をさせて頂くことになっていまして、少しの間席を外して頂くことは可能ですか?」
「は、はぁ...分かりました」
そう不思議そうな顔をした女性は提督に目を合わせないようにして部屋を出ていく。
「左...翔太郎...」
眼鏡をかけた女性-『大淀』は翔太郎の名前を呟くとすぐに執務室の前を去った。
空いた窓から入ってきた風はいつもの気持ち悪いものではなく、どこか暖かくて優しい感じを大淀に与えた。
〜執務室〜
「あいにく客室は使えなくてな。
立ち話にはなるだろうが、我慢してくれたまえ」
そういうと男は執務室にある提督が座るための椅子に腰掛ける。
執務室は金色の家具など高価そうなものが沢山置かれており、正直に言って趣味が悪い以外に表現の仕様がない。
「それでは『お話』とは何かな?」
「んなもん一つだ。
ここにいる艦娘たちに対してアンタがやったことは聞いた。
そもそもあんな女性を戦わせてるってこと自体許せねぇけどよぉ、さらにそれを道具のように扱うってのは、どうも頂けねぇ」
「フッ...兵器をどう使おうとそれは所有者の勝手だ。
しかもあの給糧艦に話は聞いたのだろう。今我が国は存亡の危機に陥っている。そんな時に人権だ何だを気にしている暇はない。
兵器は兵器らしく使ってやるというのは当然のことだろう」
「なるほどな...よーく分かった。
お前みたいなやつがいるから、今この街は泣いてるんだな...
おいオッサン!今すぐこの街を去りな!!
お前がいるだけで...この街の風が汚れちまうからな」
翔太郎はハッキリとした口調でそう告げる。
「貴様、本気で言っているのか...?
ワシを敵に回すことは、国家を的に回すということだぞ」
「国家がどうとかそんなことは関係ねぇ!
俺は今お前にこの街から出ていけって言ってんだ!」
翔太郎は怒りを隠さず男に叫ぶ。
すると男はニヤリと笑うと、執務室にある大きな木製の机の引き出しを開ける。
そしてそこからあるものを取り出す。
「その発言、今なら撤回することを許してやる。床に額を擦り付けてワシに土下座しろ」
「土下座をするのはお前の方だぜ。
今すぐ艦娘と...この街に謝罪しな!」
「後悔...するなよ!!」
男は青筋をむき出しして、机から取り出したあるものを見せる。
「な...!お前、それは!!」
「貴様はすぐに後悔することになる...
だが全てはワシを怒らせた貴様の責任だ!」
コックローチ!
男が取り出したのはガイアメモリだった。
「馬鹿野郎!!
お前それが何かわかってんのか!!
使えば手遅れになるぞ!!」
「黙れ!!ワシを怒らせおって...死をもって償え!!」
そして男は軍服を捲る。そしてその醜い腹には生体コネクタが打ち込まれていた。
男は躊躇いもなく腹の生体コネクタにコックローチメモリを突き刺す。
「ウッ...ウオォオォ!!!」
叫び声と共に男の体は、醜いゴキブリ-コックローチドーパントへと変化した。
次回、ついに変身です。