〜Aへの扉〜/兵器達に心という名の花束を   作:電波少年

20 / 21
本当に久しぶりです。

双動はヒートメタル、ルナトリガー再販して...


第20話 Yへの誘惑/美貌に狂って

「「「わー!かわいいーー!!!」」」

 

 

「やめろー!気安く撫でるんじゃねぇ!!」

 

 

 

時刻はヒトキュウマルマル。

 

 

風都鎮守府の食堂はにわかに盛り上がっていた。

 

 

「でも驚いたわね。まさかあの翔ちゃんに弟さんがいただなんて」

 

 

「まったくだ。それにしても兄にそっくりだ」

 

 

足柄と那智が興味深そうに少年を見つめる。

 

 

 

「それにしても...司令官さんはどこに行っちゃたのでしょう...?」

 

 

羽黒が小さく首を傾げた。

 

 

 

 

 

時刻は数時間前まで遡る。

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

翔太郎が目を覚ますと、そこは風都鎮守府の医務室である。

 

 

元々この鎮守府の医務室はほとんど使われていなかったこともあり荒れに荒れていたが、翔太郎が妖精さんたちに依頼し、部屋を直していた。

 

 

「あ、提督...ですよね?」

 

 

そう言いながら歩いてきたのはいつものセーラー服の上に白衣を羽織った明石である。

 

普段は工廠にいる彼女であったが、工作艦ということから艦娘の治療にも精通しており、医療にも秀でていた。

 

 

「お、おぉ。明石か」

 

 

「はい。

 

そ、その...随分と可愛らしくなりましたね」

 

 

そう言われて翔太郎は医務室の鏡を見る。

 

 

そこには検診用の青いガウンを着た、黒髪の気の強そうな少年の姿があった。

 

 

それはまさに10年ほど前の左翔太郎の姿だった。

 

 

 

「ゆ、夢じゃなかったのか...

 

老人の次は子供かよ...」

 

 

「前にもこんな経験が?」

 

 

「まぁな。

 

前と違って子供になっただけだから記憶力や身体能力はそこまで落ちてねぇみたいだが...

 

 

なんせ体が慣れねぇ...」

 

 

そう言って翔太郎は手を開いて閉じる。

 

 

 

「っとそうだ!

 

龍田はどうした!?あいつもドーパントに襲われちまったんだ!」

 

 

「龍田さんなら大事はありませんよ。

 

ちゃんと治療して、今は自室で天龍さんに看病されながら眠ってます!」

 

 

「そ、そうか...ならよかったぜ」

 

 

「まったくもう...こんな時に周りの心配ですか?」

 

 

「あったりまえだ。

 

おれはこの鎮守府の提督。

 

お前たちを守り、この街を涙を拭うハードボイルド探偵...

 

 

だけどこの姿じゃ威厳の欠片もねぇぜ...」

 

 

 

そう言って肩を落とす翔太郎。

 

 

 

「くっそぉ〜...こんなんじゃ俺のハードボイルドさがガタ落ちだ〜...」

 

 

 

『そもそも元々提督にハードボイルドさが足りないのでは...

 

いえ、これは心に閉まっておきましょう』

 

 

 

明石は心の中でそう呟いた。

 

 

 

「ですが、提督。これから一体どうするおつもりですか?」

 

 

「...それは考えてなかったな。

 

まさかドーパントに子供にされただなんて馬鹿正直に言うわけにもいかねぇし...」

 

 

「じゃあとりあえず...提督に弟さんがいたことにしてみては?」

 

 

「まじかよ...でもそれしかねぇな」

 

 

 

すると医務室の扉をノックする音が聞こえた。

 

 

 

「吹雪と伊良湖です」

 

 

「おう、入んな」

 

 

 

子供特有の高い声がすると、吹雪と伊良湖が「失礼します」と一礼しながら入室する。

 

 

「司令官...ですよね?」

 

 

「そうだよ。正真正銘ハードボイルド提督の左翔太郎だ」

 

 

「あれ?お二人はなぜこの子が翔太郎さんだと...?」

 

 

「そういや言い忘れてたな。

 

吹雪は前に鎮守府が襲撃された時に、伊良湖は色々とあって俺が『仮面ライダー』だってことは伝えてある」

 

 

「本当にビックリしたんですからね」

 

 

 

吹雪はジトっとした目で翔太郎を見る。

 

 

 

「あ、あの!提督!

 

私、間宮さんと一緒に最中作ってきたんです!

 

まだ前の時ほど美味しくは作れないし、形も歪ですけど...

 

それでも私、提督に食べて欲しくて...」

 

 

 

伊良湖はそう言いながら最中が入った包み紙を翔太郎に差し出す。

 

 

翔太郎はそれを受け取ると、ぱくりと口に入れる。

 

 

確かに伊良湖の言う通り前作ってもらったものに比べると、少し甘すぎで形も不格好だ。

 

 

それでも

 

 

 

「...最っ高に美味いぜ。

 

 

ありがとな、伊良湖」

 

 

「....!!

 

ありがとうございます!!」

 

 

 

その最中はとても暖かいものだった。

 

 

 

「あの〜提督?

 

カッコつけてるとこ悪いんですけど、その可愛い見た目じゃとてもハードボイルドには見えませんよ?」

 

 

 

「な、なんだと〜...?

 

 

まぁいい。すぐに元の姿に戻ってやるからな!」

 

 

 

翔太郎はそう叫ぶとピョンとベッドを飛び降りる。

 

 

「ちょっ、ちょっと提督!

 

まだ寝てなきゃダメですよ!」

 

 

「別にどこも怪我なんざしてねぇんだ。動いてもなんともないしな。

 

それより今から龍田のところに行かなきゃならねぇ。今回の『事件』について色々と聞かなきゃならないこともあるしな」

 

 

「...分かりましたよ。

 

とりあえず、いつものお洋服ですよ」

 

 

明石は机の上の畳んであった洋服を翔太郎に差し出す。

 

ヤングドーパントのビームを受けた翔太郎は体だけでなく、何故かその時来ていた服まで小さくなっていた。

 

 

「おう、すまねぇな」

 

 

「あ、あと...これも必要になりますよね」

 

 

明石は医務室の机から何かを取り出す。

 

 

それは翔太郎が『仮面ライダージョーカー』

に変身するために必要なロストドライバー

とジョーカーメモリ、その他メモリガジェット一式だった。

 

 

「まぁ使わないで済むならそれが一番なんだが...持っておかない理由も無いしな。

 

お前たちは先に行っててくれ。俺も着替えてすぐに向かう」

 

 

「分かりました。先に皆さんの所に行ってますね」

 

 

 

そう言って吹雪達は医務室をあとにした。

 

 

 

 

「よし...」

 

 

 

翔太郎はいつもの服(子供サイズ)に着替え、メモリとガジェット一式を装備すると、まず龍田の部屋へと向かった。

 

 

 

───────────────────────

 

「天龍、龍田。いるか?」

 

 

「待ってろ。今開け.......誰だ?」

 

 

天龍は首を傾げる。

 

 

眼帯をつけた気の強そうな少女の前には、自分たちを統括する提督にそっくりな子供が立っていた。

 

 

 

「ガキがなんでこんなとこに...?」

 

 

 

『やべぇ...天龍がいるのすっかり忘れてた...』

 

 

言葉につまる翔太郎。

 

 

明石の言われた通りに弟と言えばこの場を凌げるかもしれないが、おそらく部屋に入ることは出来ないだろう。

 

 

だが

 

 

 

「いいのよ天龍ちゃん。その子を入れてあげて」

 

 

 

部屋のベッドで横になっていた龍田がむくりと起き上がっていつものように笑みを浮かべながら翔太郎のことを見ていた。

 

 

 

「いいのか?」

 

 

 

「えぇ、大丈夫よ〜」

 

 

 

「わかった。

 

ただし俺も同席させてもらうぜ」

 

 

 

「構わないかしら?」

 

 

 

そういつもの笑みを絶やさず翔太郎に聞く龍田。

 

翔太郎はあまりメモリに関することに艦娘たちを巻き込みたくはなかったが、この状況ではどうしようもない。

 

 

 

「構わないぜ」

 

 

 

彼は渋々承諾すると部屋に入る。

 

 

 

 

 

「で、お前は一体誰なんだ?

 

 

その格好...なんかすげー見覚えあるんだが」

 

 

 

「もうこうなったら言い逃れなんか出来ないわよ。

 

白状しちゃいなさい、

 

 

 

『提督』」

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

龍田の言葉に衝撃的な顔を浮かべる天龍。

 

 

 

だが天龍はカラッとした笑みを浮かべると

 

 

「ハッハッハ。

 

何冗談言ってんだ龍田。こんなガキが提督なわけねぇだろ。

 

確かにこのクソ生意気そうな顔は似てるけど」

 

 

 

 

小さくなった翔太郎の髪の毛をグシャグシャにする。

 

 

 

 

「こ、こいつ〜...誰がクソ生意気そうだ!

 

 

大体生意気さで言ったらお前も大概だろ!」

 

 

 

「何だとこのガキンチョ!」

 

 

 

 

「ハイハイ2人ともそこまでにしなさいね〜」

 

 

 

 

 

言い争う天龍と翔太郎を仲介する龍田だったが、彼女自身も天龍にどう説明したらいいか戸惑っている様子である。

 

 

そして翔太郎はそんな龍田の意を汲んだのか口を開く。

 

 

 

「確かにこんなガキの頃の見た目の俺が、あの泣く子も黙るハードボイルド提督だなんて信用出来ないかもしれないが...

 

 

龍田の言っていることは真実だ。

 

 

とにかく今日起きたことを全て話す。聞いてくれるな?」

 

 

 

 

「...分かったよ」

 

 

 

 

そう同意した天龍に翔太郎は、

 

エステサロンに行ったこと、

 

店員が『ドーパント』という化け物になって龍田を襲ったこと、

 

自分が『仮面ライダー』となって龍田を守ろうとしたが子どもの姿にされドーパントには逃げられたことを全て話した。

 

 

その翔太郎の話を聞いた天龍は目を閉じたままうんうんと頷く。

 

 

 

「そうかそうか...って信じられるか!

 

大体なんだその『どーぱんと』とか『かめんらいだー』って...」

 

 

 

「だから今説明した通りだよ。

 

そういえば、青葉が俺が来た次の日に書いた新聞読んだか?」

 

 

「あぁ。あの真っ黒なやつが写った写真のやつだろ......

 

 

ってまさかあれが?」

 

 

 

「そうだよ。天龍が言う『あれ』の正体が何を隠そうこのハードボイルド提督、左翔太郎だったのさ」

 

 

そう言って翔太郎は胸を張る。見た目も相まって何とも子供らしい仕草である。

 

 

 

 

「ま、まじかよ...信じらんねぇ...」

 

 

 

「本当のことなのよ。

 

さっき提督が言ったように、私がその『ドーパント』っていう怪物に襲われた時、

 

 

それを助けてくれたのが提督だったの」

 

 

 

「その通りだ。お前ら以外にも、吹雪や明石、伊良湖はこのことを知ってるぜ」

 

 

 

「なんか未だに信じらんねぇ...」

 

 

 

いきなり多くの情報を理解しようとした天龍の脳ミソはショート寸前といった様子だ。

 

そこに龍田も

 

 

 

「私もよ。

 

でも私は実際にあの怪物や、提督が変身したあとの姿を見てる。

 

自分の目で見たんだから信じない訳にはいかないわ」

 

 

 

と答える。

 

 

 

 

「まぁ...なんだ。色々聞きたいこともあるだろうが、まずはあのドーパントを追わなくちゃならねぇ。

 

 

龍田、お前が知ってる限りの情報をおれに教えてくれ」

 

 

 

翔太郎の言葉にいつもの笑みを崩さぬまま向き直る龍田。

 

 

天龍も交えて、

 

 

 

小さな探偵の捜査が始まった。

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

「提督。行くわよ〜」

 

 

「分かってるっての」

 

 

 

 

翔太郎はそう言いながら靴の先で地面をコンコンと叩く。

 

 

「龍田、『例のモノ』は持ったか?」

 

 

 

「えぇ。ちゃ〜んと明石さんから預かってきたわよぉ」

 

 

 

 

龍田は右肩に細長い箱をかけている。

 

 

 

正門に行く途中でほかの艦娘に見つかり、食堂に連れていかれ散々可愛がられたものの、なんとか逃げおおせることに成功した翔太郎だった。

 

 

 

 

翔太郎は一刻も早くこの事件を解決するために、まず自身の正体を知る吹雪、明石、伊良湖に協力を依頼した。

 

 

商店街を含めた街の人間から少しでも『yui』という人間の情報を集めるために、彼らは別れて操作をすることに決める。

 

 

その結果、明石は翔太郎の戦闘をサポートする新ガジェットの開発のために鎮守府に待機することになり、実際に聞き込みを行うのは、天龍と吹雪、龍田と翔太郎の2組となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてあらかた聞き込みを終えて、4人は街の広場に集まっていた。

 

 

「どうだ?天龍と吹雪の方は?」

 

「それが...」

 

 

「ちょっくら物騒な話を耳にしたんだよ」

 

 

「物騒な話?」

 

 

 

「はい。

 

実は、最近この風都に住む若い女性の行方不明者が多発してるみたいなんです...

 

 

中には自分の娘がもう何週間も帰ってきてないって泣いてる人もいて...」

 

 

 

 

「まさか...」

 

 

 

「みたいだな」

 

 

 

 

翔太郎と龍田は目を合わせると、お互いに納得のいった表情で頷く。

 

 

 

 

「な、なんだよ...2人して頷いて...」

 

 

 

 

 

 

 

 

「これを見てもらえるかしら?」

 

 

 

そう言って龍田が取り出したのは、エステのチラシだった。

 

 

店の説明の下に、それぞれのプランと料金が書かれていた。

 

 

 

「恐らくだが、あの女が持つメモリの力、『ヤングメモリ』は若返りの能力。

 

そして、その力でこの『アンチエイジング』のプランを行ってたに違いねぇ」

 

 

「あ、あんちえいじんぐ?」

 

 

「老いに対抗して若返ることよ~。

 

まぁ明らかにあれは普通の『アンチエイジング』の治療ではないけれど」

 

 

聞き慣れたことの無い単語に戸惑う天龍に龍田が説明する。

 

 

 

 

「そして、もうひとつ分かったことがある。

 

 

それはこのチラシが送られた側に共通点があることだ」

 

 

 

「共通点?」

 

 

 

「そうだ。このチラシが送られてくるパターンは2つ。

 

1つは60代以上の女性。

 

まぁこれは分かるな。

メモリの特性上、年老いた女性をターゲットにするのは話が通る。

 

そしてもうひとつのパターンは、若い女性相手にだ。」

 

 

 

 

 

 

 

「お見事ね、ちびっこ探偵さん」

 

 

 

 

 

 

「...!! お前は」

 

 

 

 

 

翔太郎たちの前にはサングラスをかけた長身でスタイルのいい女性が立っていた。

 

 

 

「『yui』さん...」

 

 

 

 

「あら、確か龍田さんだったかしら?

 

 

前はごめんなさいね。

 

 

あなたのような美しい女性を傷付けるようなことをして」

 

 

 

「答えろ、アンタの目的はなんだ」

 

 

 

 

「目的...?

 

ウフフ...面白いことを聞くのね」

 

 

 

 

yuiは小さく微笑を浮かべる。

 

 

 

 

「目的なんてただ一つ。『純粋に美しい』ものを永遠に私のものにすることよ」

 

 

 

 

「ど、どういうことなんですか?」

 

 

 

「あら?あなたも随分と可愛らしいわね。

 

その飾らなさがあなたの素朴さを一層引き立ててより素晴らしい『美しさ』を引き出しているわ」

 

 

「お、お褒めに預かり光栄です...」

 

 

「コラ!ウチの仲間口説いてんじゃねぇぞ!

 

それに、どういう意味だ。

 

『永遠に私のものにする』ってのは」

 

 

 

少し嬉しそうに頬をかく吹雪の前に翔太郎が立つ。

 

 

 

「簡単よ。私の元で飼ってあげるの。

 

 

私の自宅には美しい女の子が数人いるわ」

 

 

 

「な!まさか失踪事件ってのは...」

 

 

 

「その通りよ。可愛い眼帯のあなた。

 

 

その子達を攫ったのは私。

 

 

 

若い美しい女性を、全員私の手の元に置くのが私の夢なの。

 

 

どんなに輝く宝石も、どんなに素晴らしい絵画でも、私の心を潤すことは無かったわ。

 

 

 

私の心を唯一潤すことが出来たのは、『美しい女性』だけよ。

 

 

 

あの子達も無料のエステのチラシを渡しただけでホイホイとやって来ちゃって...」

 

 

 

yuiはクスクスと上品そうに笑う。

 

 

 

 

「こりゃ驚いたぜ...

 

凄腕エステティシャンがまさかの人さらいだったなんてな」

 

 

 

「人聞きの悪いことを言わないで頂戴。

 

これは正当な対価よ。

 

私が若返らせた女性はこの風都だけでも数十人...この街に来る前にも私は多くの女性を若返らせてあげたわ。

 

 

それだけ人を幸せにしてあげたのだから、私自身も幸せになる権利はあるはずよ」

 

 

 

 

そう微笑を浮かべ続けるyuiに対し、翔太郎は少しダボつく帽子を被り直しyuiに向き直る。

 

 

 

 

 

「なるほどな。アンタの言いたいことはよーく分かった。

 

 

 

 

確かにアンタがやってることは一概に悪とは言いきれねぇ。

 

 

女性とは常に美しさを欲する生きもんだ。その美しさを取り戻してやってるアンタはその人達にとっちゃまさに救世主かもな。

 

 

 

けどな、だからといって他の若い女性を攫うなんてことが通るわけねぇだろ!

 

 

所詮お前の行動なんざ自己満足にすぎねぇ。

 

 

いくら人を幸せにしたところで、他の人の幸せを理不尽に踏み躙って自分が幸せになる権利なんかねぇんだよ!」

 

 

 

 

「よく言ったぜ!提督!

 

たまにはハードボイルドなとこあるじゃんか!」

 

 

 

「よせやい。そんなに褒めても何も出ねぇよ」

 

 

「本当にねぇ〜。

 

これで小さくなかったら完璧だったのだけれど」

 

 

 

「それは言わねぇ約束だろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた...本っ当にムカつくわ...

 

 

お話は終わり、消えなさい」

 

 

『ヤング!』

 

 

 

「おっと、そっちがその気ならこちらも黙ってる訳にはいかねぇな」

 

 

 

 

yuiがメモリを起動し戦闘が避けられないことを確信した翔太郎はロストドライバーを装着する。

 

 

 

『ジョーカー!!』

 

 

 

 

「いくぜ...変「ちょ、ちょっと待ってください提督!!

 

その姿で変身出来るんですか!?」

 

 

 

「そんなことは変身してから考えりゃいいんだよ!

 

 

変身!」

 

 

 

「答えになってませんよ〜!!」

 

 

 

『ジョーカー!!』

 

 

 

 

翔太郎の小さな体を、黒い粒子が覆う。

 

 

 

 

 

 

「や、やりました!変身出来てます!!

 

 

 

 

 

 

小さいままですけど」

 

 

 

仮面ライダージョーカーは現在の翔太郎のサイズそのままの変身となってしまった。

 

 

 

「俺一人だとやっぱそのまんまか...」

 

 

 

 

『だが前のジジイになってた時とは違う。

 

あん時よりは体が随分軽く感じるぜ』

 

 

 

 

「どうやら変身はできたみたいね...

 

でも体格は子供のまま。

そんなんじゃなにもできないわよ」

 

 

 

 

「どうかな?

 

やって見なきゃ...わかんないぜ!」

 

 

 

「ッ...!」

 

 

 

 

 

ジョーカーは飛び出すと、ヤングドーパントに膝蹴りを加える。

 

 

 

だが

 

 

 

「軽いわ!」

 

 

 

ヤングドーパントはその蹴りを防ぐと、回し蹴りを放つ。

 

 

 

「おおっと!あっぶねぇ!」

 

 

 

ジョーカーは放たれた蹴りをいなし、カウンターのパンチを打ち込む。

 

 

 

だがそのパンチもヤングドーパントには有効だとはならない。

 

 

 

 

「なるほどね...

 

小さくなったおかげで小回りは効くようだけど...

 

そんな軽い攻撃じゃ私は倒せないわよ!!」

 

 

 

 

「うぉっ!」

 

 

 

ヤングドーパントの鋭い手刀を間一髪でジョーカーは躱す。

 

 

 

 

 

 

「やっぱダメじゃねぇか!

 

ちっちゃくなってるせいでまるでパワーが出てねぇぞ!」

 

 

 

「司令官...このままじゃ...」

 

 

 

 

2人の戦いを、天龍と吹雪が見守る。

 

 

『ダメだ!助けに行きてぇが...ここでいっても足でまといにしかならねぇ!』

 

 

天龍は艤装をつけていない艦娘である自分の無力感に歯噛みする。

 

 

 

 

 

「天龍ちゃん。ちょ〜っとだけこれ持っててくれない?」

 

 

 

「うおっ。って龍田...?」

 

 

 

天龍の元に手渡されたのは先程まで龍田が持っていた木箱であった。

 

その蓋は空いている。

 

 

 

 

そしてその中身は龍田の手に握られている。

 

 

 

 

 

「確か...こうやるのよね」

 

 

 

『メタル!』

 

 

 

───────────────────────

 

〜数時間前〜

 

 

これは目覚めた翔太郎が龍田、天龍と話し合ったそのすぐ後のことであった。

 

 

 

 

「龍田、お前に渡したいものがあるんだ。

 

着いてきてくれねぇか?」

 

 

 

「渡したいもの〜?何かしら〜?」

 

 

 

龍田は小さな翔太郎の後ろを歩く。

 

 

 

2人は工廠にたどり着く。

 

 

 

 

「着いたぞー、明石ー!」

 

 

 

「あ、はーい!ちょうど今出来上がりましたよーー!!」

 

 

 

そう元気よく答えた明石は、細長い木箱を方に抱えながら小走りで翔太郎の元へと向かってきた。

 

 

 

「お約束のものです!

 

完璧な仕上がりですよ!」

 

 

「あの〜、提督。これは?」

 

 

 

「龍田、これをお前に預かってもらいたいんだ」

 

 

 

そう言って翔太郎は木箱を開ける。

 

 

その中に入っていたのは、龍田の艤装にそっくりな薙刀である。

 

 

 

「これって...私の艤装かしら?」

 

 

 

「その通り。そしてこれもセットだ」

 

 

 

翔太郎は懐から『メタルメモリ』を取り出す。

 

 

 

「この武器は『メタルシャフト』。

 

俺も使っていた武器を明石に龍田専用にカスタマイズしてもらったものだ。」

 

 

「特殊合金を使用し、強度と軽さを両立しました!

 

そして特筆すべきはこの『メモリスロット』です!

 

ここにメモリを装填することで、提督の変身する仮面ライダーと同等の『マキシマムドライブ』を使用することができるんです!」

 

 

 

「マキシマム...ドライブ...?」

 

 

 

「まぁ...そのなんだ...

 

龍田には少々危険な役目を負わせることになっちまう。

 

俺の体を見てわかる通り、今の俺は駆逐艦たちと同じくらいの体格だ。

 

 

恐らくこのまま変身しても碌なパワーは出ねぇし、そもそも変身できるからすらもわからねぇ」

 

 

「確かにその通りね...

 

でもあの怪物を倒すなら別にこの武器に拘る必要は無いんじゃないかしら〜?

 

私たちが普段使っている艤装でも戦えるはずよ」

 

 

 

「それはダメだ。

 

確かに艤装は強力だ。余程強いドーパントじゃなければ倒せるかもしれねぇ。

 

 

だがドーパントには少々面倒な特性があってだな...」

 

 

 

そこに難しそうな顔をした明石が口を挟む。

 

 

 

「提督の仰られた通り、艤装の威力をもってすれば今回のドーパントなら撃破できるでしょう。

 

しかし、その方法だと威力が強すぎてドーパントの変身者が耐えられません。

 

 

最悪、死に至ることも...」

 

 

 

 

「そこでマキシマムドライブだ。

 

メモリの力で中身を殺さずメモリだけを破壊することができるって訳だ」

 

 

 

「そういう事だったのね〜...」

 

 

 

「本来周りを巻き込むようなやり方は絶対にしたくは無かった。

 

ただ今回はこれしか方法がねぇ」

 

 

 

 

「任せて頂戴。

 

そもそも私は艦娘よ〜?

 

前の提督の元じゃ遠征ばっかりで碌な戦闘なんか無かったら体が訛っちゃってたの。

 

 

天龍型二番艦の誇りにかけて...必ずやり遂げてみせるわ〜」

 

 

 

「龍田...」

 

 

 

いつもの緩やかな調子で答えた龍田であったが、その目には確かに闘志が映っていた。

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

『ここに、装填してっと...』

 

 

 

『メタル!マキシマムドライブ!!』

 

 

 

龍田はメモリが装填されたメタルシャフトを構える。

 

 

 

 

 

彼女の目の前では、ジョーカーを倒すのに躍起になったヤングドーパントが暴れている。

 

 

 

 

「このっ!!

 

 

チョロチョロ避けて...ほんっとウザイわ...!」

 

 

 

 

「へっ...悔しかったら当ててみな!」

 

 

 

ジョーカーと龍田の目が一瞬合う。

 

 

 

龍田はニコリと微笑み、それを見たジョーカーは回避をやめいきなりドーパントに飛びついた。

 

 

 

「なっ!離しなさい!!」

 

 

 

「やなこった!

 

今だ龍田! やっちまえ!!」

 

 

 

龍田は地面を蹴り、一瞬でドーパントに接近する。

 

 

 

「あ、あなた!」

 

 

 

「yuiさん?

 

美しさに溺れ非行を冒したあなたの罪...たっぷり数えなさい」

 

 

 

 

そして龍田の鋭い突きが、ドーパントを確実に貫いたのだった。

 

 

───────────────────────

〜風斗鎮守府〜

 

 

 

『こうして龍田や天龍たちの協力により、今回の事件は幕を下ろした。

 

 

龍田にメモリブレイクされたことで、俺の体は元に戻った。

 

 

ただそのせいでyuiの治療を受けた女性たちは皆元の年齢の姿に戻ってしまった。

 

 

彼女たちはyuiが人ならざる力を使っていたことすら知らなかった。可哀想だが、仕方の無いことだった。

 

yuiに監禁されていた少女たちも怪我はなく無事家に返された。

 

 

だが今回自分が最も驚いたのは、メモリが排出されたyuiにだ。

 

龍田の一撃をくらったyuiは、ドーパントから人間の姿に戻るとみるみる老け込み、先の美貌は何処へやらしわくちゃの老婆の姿になってしまった。

 

彼女を連行した照井によると、yuiの本当の年齢は76歳であり、

 

 

 

 

 

 

彼女は『ある影のようなもの』からメモリを渡されたらしい。

 

 

この風都に蔓延るガイアメモリ犯罪について、何かしらのキーになるだろう』

 

 

 

 

「よし...と...」

 

 

翔太郎はローマ字でいつものように報告書を作ると、それを封筒にしまった。

 

 

 

「にしても...今回もハードな事件だったぜ...」

 

 

 

一息ついた翔太郎は、コーヒーでも飲もうか

 

 

と考えたその時だった。

 

 

 

 

「提督〜?入るわよ〜」

 

 

 

龍田のゆる〜い声がドア越しに聞こえる。

 

 

 

「おう。入んな」

 

 

 

「おじゃまするわね〜」

 

 

 

龍田は部屋に入ると、いつものニコニコした顔を急に真顔に変え、

 

 

 

 

「提督。今回は私を助けてくれて、本当にありがとうございました」

 

 

ぺこりとお辞儀をした。お辞儀につれて龍田の頭の輪っかも下がる。

 

 

「よせよ。俺は提督として...いや『仮面ライダー』としてやるべき事をやっただけさ。

 

それに龍田や他のみんながいなきゃ、今回の事件は解決出来なかった。

 

 

ありがとな」

 

 

 

そういって手を差し出す翔太郎。

 

 

 

龍田は一瞬驚いたような顔をするも、すぐに微笑んで翔太郎と握手を交わす。

 

 

 

 

『本当に...本当に怖くなるくらい、優しい人。

 

 

道具でしかなかった私たちを、一人一人の人間として...自分が守るべき風都の人間として見てくれる。

 

 

前の提督と時は、自分が生きてることすら分からないくらいで...もう艦娘でなんかいたくない、なんて思っちゃってたけど...

 

 

この提督の元でなら...私も、少しは...』

 

 

 

 

「......い。おーい。龍田ー?どうしたー?」

 

 

 

「っ!?な、なんでもないわよ〜」

 

 

 

「おっ、龍田にしちゃあ珍しい驚き顔だ。

 

 

あとで天龍にでも話してやるか」

 

 

 

「ちょ、ちょっと提督〜?

 

あんまり調子に乗っちゃうと、お触りしてなくてもその手、切り落としちゃうわよ〜?」

 

 

 

「うおっ!怖っ!龍田が言うと嘘に聞こえねぇんだよなぁ...」

 

 

「まったく...そんなんだからハーフボイルド言われちゃうんですよ〜」

 

 

 

「な、なにィ〜...それだけは言わせねぇぞ!」

 

 

 

「きゃー!助けてー。天龍ちゃ〜ん」

 

 

 

 

「おーい龍田ー!どこに...って提督てめぇ龍田に何してやがんだぁ!!」

 

 

 

「て、天龍!聞け!龍田が俺の事をハーフボイルド呼ばわり

 

 

「ほんとのことじゃねぇか。

 

カッコつけてる癖にポンコツなとことか特にな」

 

 

「お、お前まで〜...!そもそもお前だってカッコつけのくせにポンコツじゃねぇか!

 

 

前だって卯月にイタズラされてた時に

 

 

 

「わー!馬鹿!龍田の前で余計なこと言うんじゃねぇ!」

 

 

 

「何それ〜?提督〜、それ聞きたいわ〜」

 

 

「実はな、卯月が仕掛けたバナナの皮に、こいつ漫画みたいに...

 

 

 

「やめろー!!!」

 

 

 

 

風都鎮守府からは、今日もギャーギャーと騒がしい声が聞こえてくる。

 

 

以前とは打って変わって、この街には優しい『風』が吹くようになった。

 

 

 

 

『私...天龍ちゃんや提督に会えて...』

 

 

 

 

龍田はそんな言葉を胸にしまうと、翔太郎と天龍の騒がしいやり取りをいつも通りニコニコした顔で見守るのであった。

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

「ヤングの女が大本営に捕まったらしいですぜ」

 

 

 

「あぁ、そのことか。さっき『シャドウ』から聞いたよ。

 

 

そして予想通りだが、『T1メモリ』では艦娘に対して効果を発揮出来なかったようだ」

 

 

「て、ことは」

 

 

 

「あの切れ者の園崎のことだ。

 

 

事前に手に入れたT1メモリから、艦娘を守るための細工をしていたのかもしれないね」

 

 

 

「そういや『パンサー』の野郎は?

 

そろそろじゃないですかね?

 

 

 

「そういえばそうだったね。

 

 

『アナザー』。迎えに行ってあげてくれ」

 

 

 

「へいへい。畏まりました」

 

 

『アナザー!』

 

 

小さな背丈が一瞬にして異形へと変わる。

 

 

 

異形は自身の前に扉を開くと、それをくぐって行った。

 

 

 

「T1メモリでは効果なし。

 

 

 

だが

 

 

 

 

『テラー!!』

 

 

 

『T3』...これならば、きっと風都を...いや世界を手中に収められるだろうさ」




『ヤングドーパント』
『若さ』の記憶を内包したメモリ。紫色の光線を放ち、命中した相手を若返らせる。メモリの使用者もその力によって見た目や運動能力も若い時のものとなる

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。