「ひ、左さんが提督になられるんですかぁ!?」
キャラにもなく大きな声で驚く大淀に翔太郎はさっきの食堂でのことを頬を掻きながら答える。(ちなみにガイアメモリに関することは何一つ話してはいない)
「ま、まぁそういうことです」
「なんでそんな簡単に安請け合いしちゃったんですか...」
「なんでも何も...この街が泣いてるのに見過ごせるわけねえっての」
と翔太郎は鎮守府の窓から海を見ながら帽子を被り直す。
「しかも左さん、口調戻っちゃってますよ」
「...あっ、いっけね」
「いいですよ、気にしなくて。
しかもあなたが提督ということはつまり私たちの上官になるわけです。上官が部下に対して敬語を使うのもおかしな話です」
そういって大淀は笑う。
『この子...今初めて笑ったな』
翔太郎は目の前の少女が初めて笑ったことがとても嬉しく感じられた。
「あら?翔太郎さん、大淀さん。
こんな所で何されているんですか?」
そう2人に声をかけたのは、白い割烹着をきてどこか優しげな雰囲気をもつ給糧艦-間宮だった。
「間宮さん...そうだ。あなたにも話しておかなければいけませんね...
左翔太郎さんは、今日付でこの風都鎮守府の提督に着任なされました」
それを聞いた間宮は先程の大淀と同じような反応で驚いた。
〜食堂〜
「驚きました...翔太郎さんが、ここに着任されてしまっただなんて」
「まぁ成り行きですよ。
それに...あなたのようなお美しい女性を放って行くだなんて、そんなの神は許してもこの左翔太郎が許しません」
よくもまぁこんなキザったいセリフが出てくるなと思った大淀であったが、言われた本人が顔を赤くして嬉しそうにしているのであえて何も言わないことにした。
「そうだ、間宮さん。先程食事を作る準備をされていましたが」
「はい。食事に関してはここにいる艦娘全員分作り終えました。
作ったと言っても簡単なおにぎりですけど」
そういって間宮は食堂のテーブルを指さす。そこには真っ白なお米で握られたたくさんのおにぎりがあった。
「よかったら翔太郎さんと大淀さんもいかがですか?」
そう提案された翔太郎だったが
「確かに間宮さんの手作りおにぎり。今すぐにでも召し上がりたい気持ちでいっぱいですが、まずはここにいる他の艦娘たちに食べさせてあげましょう。
あ、大淀は先に食べてていいぞ」
「なんか私と間宮さんで対応が違いませんか?
まぁいいです、私も行きます」
そういって大淀は譲らない。
翔太郎は諦めたような顔をすると
「なら決まりだ。間宮さんもわざわざ作って頂いてありがとうございます。
これは全て俺と大淀で届けて来ますよ」
そういうと翔太郎は近くにあった食事運搬用のワゴンに次々とおにぎりが載った皿をのせていく。
「すみません、お願いします。
翔太郎さん、大淀さん」
そう間宮に言われた翔太郎と大淀の二人は艦娘寮へと向かった。
「まずは戦艦寮ですね」
二人は寮に入るが人気はない。恐ろしいくらいに静かだ。
「ここが金剛型戦艦の方々がいるお部屋です」
一応艦娘達の名前を聞かされてはいるが、現状翔太郎が知っているのは名前だけである。
とりあえず翔太郎が部屋の扉をノックする。
「どうもー。おにぎり持ってきだぞー。誰かいるかー?」
「とりあえず入っちゃってもいいんじゃないですか?」
「い、いや。さすがにレディーの部屋に勝手に入るのはな...」
そんなやり取りをしていると部屋の扉が勝手に開かれた。
そこに居たのは、茶髪のロングヘア、黒髪のロングヘア、眼鏡、茶髪のショートとそれぞれ個性的な見た目をしている。そして全員が巫女のような格好をしている。
そして彼女らの横には4つのティーカップ、そしてそのカップには紅茶が注がれていた。
するとその3人をかばうように茶髪のロングヘアの女性が翔太郎の前に立ち、土下座した。
「申し訳ありません。命令を破って勝手に嗜好品を嗜んでいました。
責任は全て私にあります」
「金剛お姉様!顔を上げてください!
悪いのはお姉様だけではありません!!」
後ろにいる女性たち、恐らく姉妹?なのだろうが彼女たちは長女であるだろう女性を必死に庇っている。
それを見かねた翔太郎は金剛と呼ばれた女性の前にゆっくりと膝をつくとその肩に手を当てて優しく話しかける。
「顔を上げてください。お嬢さん。
私はあなた達に罰を与えようなどと思ってここに来た訳ではありません。
私、本日ここに着任した風都鎮守府提督、左翔太郎と申します。
以後お見知りおきを」
あまりのクサさに大淀は呆れている。金剛の後ろにいる妹達も不思議そうな目で翔太郎を見ている。
そして金剛は顔を上げ、ジッと翔太郎の顔を見つめる。
『やべぇな...こんな美人さんに見つめられるだなんて、きっとこの俺のハードボイルドさに...』
「やっと...見つけまシタ...」
「え?」
キョトンとした顔で金剛を見つめ返す翔太郎。
そして
「やっっっと会えまシタ!!!!
あなたこそワタシが探し求めていたテイトクデース!!!!
バァァァァニングゥ!ラァァァヴ!!!」
そう叫んで勢いよく翔太郎に抱きついた。
「おわぁぁぁぁ!!!!
い、痛い !!!マジで痛い!!!
折れる!!折れるってぇぇ!!!」
翔太郎は金剛に抱きつかれながら悶絶している。
「お姉さまぁ!!??」
素っ頓狂な声を上げて茶髪ショートの子が金剛を引き剥がそうとする。
結局金剛の妹三人と大淀の4人係で無理やり翔太郎から金剛を引き剥がす羽目になった
「ハァ...ハァ...
し、死ぬかと思った」
地面にぐったりと寝転ぶ翔太郎。
その横で金剛は顔を手で覆いながら小躍りしている。
「やっと出会えまシタ!!
ショウタロウがワタシの追い求めていたテイトクデース!!!
さぁ、今から一緒にバーニングラブしまショウ!!」
「わー!!タンマタンマ!!!
今は飯を持ってきただけだから!!」
美人な女性に目がない翔太郎が女性からの抱擁を断るという異常事態ではあるが、大淀がそこにスっとフォローを入れる。
「えー、コホン!
ここにいる左翔太郎さんは今日付でこの風都鎮守府に着任されました。
今は寮にいる全艦娘に間宮さんに作って頂いたおにぎりをお配りしています」
「ほ、本当にこの人が提督なんですかぁ!?」
「どうしました?比叡さん」
「ダダダダダメです!!却下です!却下!!
確かに前の提督は本当にひどい人でしたし、あの人が居なくなったのは嬉しいですけど...」
「けど...?」
「この人が提督になったら...お姉様が取られちゃうじゃないですかー!!」
そう叫んで一人で色々と妄想してクネクネしている金剛の横で、頭を掻きむしりながら、「行かないでー!おねーさまー!!」と叫んでいた。
「す、すみません。騒がしい姉たちで」
そう謝るのは眼鏡をかけた理知的な印象な女性である。
「いえ、気にしないでください。
っとそうだ、お名前をお聞きしても?」
「はい。私は金剛型4番艦『霧島』と言います。
そしてこっちは3番艦の『榛名』です」
「よ、よろしくお願いします!
榛名です...」
榛名はおどおどした態度で翔太郎に頭を下げる。
「頭を上げてください、榛名さん
食事を持ってきましたから、姉妹のみんなで食べてください」
榛名は頭を上げて翔太郎を見る。榛名に優しく微笑む翔太郎。
すると榛名はいきなり泣き出してしまう。
「えっ!ど、どうかしましたか、榛名さん」
「あーっ!榛名を泣かせましたねー!」
と翔太郎に噛み付く比叡。
「な、泣かせてねーよ!!
だ、大丈夫か?榛名」
「はい、榛名は大丈夫です。
左さんみたいな優しい提督が来てくれて...私、嬉しくて...」
榛名は目を擦りながら静かに泣いている。
「榛名さん」
名前を呼ばれた榛名は顔を上げる。
すると翔太郎は右手の人差し指で榛名の目尻に浮かんだ涙を拭った。
「あなたのような美しい女性に...涙は似合わない。あなたの涙も、この街の涙も...
全て、この左翔太郎が拭ってみせましょう」
あまりのキザったらしさにそのやり取りを見ていた霧島と大淀は苦笑いを浮かべる。
「テイトクーッ!!!最っ高にCOOLネーッ!!!
ワタシ、ズッーとテイトクについていくヨー!!!」
金剛が翔太郎にいきなり抱きつき、本日2回目の翔太郎の叫び声が上がった。
「イッテェ〜...本当に死ぬかと思ったぜ...」
翔太郎は腰を叩きながら片手でワゴンを押していた。
「仕方ないですよ...
それにしても提督...どっからあんなセリフが出てくるんですか...」
「フッ...愚問だぜ、大淀。
俺みたいなハードボイルドな男は、考えなくともああいう言葉が出てきちまうのさ。
とくに...泣いている女性を見ちまったらな」
またもキメ顔を見せる翔太郎。
「でもまぁ...良かったです。比叡さんもああ言ってはいましたが、本当に嬉しそうに笑っていましたし...」
「で、次の艦娘は...」
「次で戦艦の艦娘は最後です」
「ん?こんなものなのか?」
「戦艦は数が少ないんです。本当はこの鎮守府には戦艦が六艦いたんですけど...」
「けど...?」
「前の提督の無茶な運用のせいで、その戦艦-長門さんは轟沈してしまったのです...」
「...!!!
轟沈ってのは...」
「はい。人間でいう...『死』です...
そして今から行く艦娘-陸奥さんは、その轟沈してしまった長門さんの妹です...」
二人の間に気まずい空気が流れる。
大事な人が死ぬ事の悲しさは翔太郎は痛いほどよく分かっていた。
それもその原因が自分にあるのだとしたらなおさらだった。
そんなことを話しているとあっという間に陸奥が住んでいる部屋の前につく。
話し合った結果、まず大淀が部屋に入る許可をとることとなった。
~~〜~~~〜~~
『いいですね、翔太郎さん。陸奥さんは大変お美しい人ですけど...絶対さっきみたいな軽口は口にしないでくださいね』
『あぁ、分かってるよ。俺だってそれくらいは弁えてるっての』
〜~〜~〜~〜~~
まず大淀が部屋の扉をノックする。
「陸奥さん、いらっしゃいますか?
お食事をお持ちしましたよ」
「あら...大淀さん?」
そう言って部屋から出てきたのは、茶髪の少し癖のあるボブカットに黄緑色の瞳。服装は和風デザインのへそ出しノースリーブのトップスに黒の超ミニスカート。
『おっと...こいつは予想外だ...
これはいくらなんでも...目に毒ってもんだ...』
翔太郎は大淀の言いつけどおり、あまり口を開かないことしていたため無言で部屋の外にいた。それに陸奥の服装はあまりに扇情的なものであり、視界に入れるのはあまり良くないと判断したからということもある。
「あの、大淀さん。
そちらの方は?」
「あっ、この人は「どうも、陸奥さん。私は私立探偵を営んでいます左翔太郎と申します。色々あって元帥にこの鎮守府の提督を任されてしまい、今日付で着任しました。」
結局翔太郎は我慢できずに自己紹介をして、帽子をとると、恭しく頭を下げた。
「新しい...提督...?」
そこで大淀は陸奥に前の提督は大本営によって更迭され、新しい提督として翔太郎が着任したことを伝えた。
「そう...あいつはもういなくなったのね...
長門...
あともう少し、早ければ...」
陸奥もまた目尻に涙を浮かべている。
「ごめんなさいね。かっこ悪いとこ見せちゃって...
これじゃあビック7の名が泣いてるって、長門に怒られちゃうわ」
「いえ...心中お察しします。
大事な人が亡くなって残された者の気持ちは、俺も痛いほどよく分かります」
「フフフ...優しいのね。
どうやら本当にいい提督さんみたいね」
涙を拭った陸奥はそう悪戯っぽく笑うと、あえて両腕で胸をぎゅっと挟み、それを翔太郎に見せつける。
『うぉぉぉぉ...
こ、これはヤバいぜ...』
危うく鼻血を吹き出してしまいそうになったが、そんなことをしようものならハードボイルド失格である。
翔太郎は何とか平勢を装うと、帽子を改めて被り直す。
「と、とにかくよろしくお願いします」
「えぇ。でも、提督?硬っ苦しいのは無しにしましょ?
喋り方もいつも通りにしていいのよ?」
「な、なんで喋り方のことが」
「お姉さんにはなんでもお見通しなのよ」
そういってウィンクしてみせる陸奥。
「そうか。
ならお言葉に甘えさせてもらうぜ。
よろしくな、陸奥」
「えぇ。よろしくね、提督。
いや、翔ちゃん♡」
陸奥は先程のように悪戯っぽく笑うと、翔太郎の頬にキスをした。
その後翔太郎は顔を真っ赤にした後ぶっ倒れてしまった。
それを見た陸奥は楽しそうに微笑み、会話を聞いて廊下に出てきて、翔太郎には飛びつこうとした金剛を妹達が3人係で押さえるといった形になった。
そして翔太郎は大淀に揺り動かされて起きると、気を取り直して空母達が住む寮へと向かった。