〜Aへの扉〜/兵器達に心という名の花束を   作:電波少年

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第5話 Jな提督/縁の下の力持ち

〜空母寮〜

「なぁ大淀、一ついいか?」

 

「どうしました?提督」

 

「いや空母寮に持ってくおにぎり、ちょっと多くないか?」

 

そういって翔太郎はワゴンを見る。そこには戦艦寮に持っていった量よりもさらにたくさんのおにぎりが載せられている。

 

「あぁ、そういうことですね。

空母の人達の中でも一部の人はたくさん食べるので...」

 

「なるほどな。まぁたくさん食べるってのはいいことだ。

飯もろくに食べられないんじゃ何をするにもやる気が起きねぇさ」

 

そういって翔太郎と大淀は空母寮に入る。

 

ここも戦艦寮と同じく閑散とした雰囲気である。

 

 

「この鎮守府にいる空母は...正規空母が計4艦、軽空...」

 

「あーわかった、分かった。俺に正規とか何とか言われても分からねぇって。

 

こういうのはまず実際に顔を合わせて喋った方が早いんだよ」

 

そういうと翔太郎は近くにあった部屋の扉をノックする。

 

「どうもー。新提督の左翔太郎です。

誰かいますかー」

 

 

「提督?」

 

 

するとノックした部屋から声がかえってくる。そして部屋の表札を見た大淀はハッとする。

 

 

「提督!あぶないです!!」

 

「え...うおっとぉ!!!」

 

 

なんといきなり部屋の扉をぶち抜いて小さな飛行機が翔太郎に襲いかかってきたのだ。

 

 

「翔鶴姉に...手出しはさせない!」

 

 

部屋の奥にいるツインテールの少女が怒り心頭といった様子だ。

 

 

「お、おい!待ってくれ...っぶねぇ!!」

 

 

今も尚翔太郎は飛行機に爆撃されている。

 

 

「ちょっ、ちょっと瑞鶴さん!!辞めてください!!提督が死んでしまいます!」

 

「許さない許さない許さな......え?提督?

というかあの気持ち悪いデブ親父は?」

 

「あの人は先程大本営によって拘束されたんです!

いま瑞鶴さんが爆撃している人が、この風都鎮守府の新しい提督です!!」

 

 

「えええええ!!!???」

 

 

「その通り...このハードボイルド探偵、左翔太郎が...ってどわっちちち!!!」

 

見ると翔太郎のベストには火がついており、彼は慌ててベストを脱ぐとバタバタと扇ぐようにしてベストについた火を消火する。

 

 

「さ、さすがに今のは殺されるかと思ったぜ...」

 

「も、申し訳ありません。妹の瑞鶴が...」

 

そう翔太郎に声をかけたのは、おっとりとした雰囲気の銀髪ロングヘアの女性であった。

 

それを見た翔太郎はすぐに立ち上がると、また自分に酔っているような出で立ちになる。

 

「いえ、心配することはありません。

お美しいレディ。

失礼ですがお名前をお伺いしても?」

 

翔太郎は翔鶴の手を取って尋ねる。手を握られた翔鶴は驚いたのか顔を赤くしており、それをすごい形相で瑞鶴が睨んでいる。

 

「は、はい。私は翔鶴型1番艦の翔鶴です。

あの子は2番艦で私の妹の...」

 

 

「瑞鶴よ。さっき間違えっちゃって爆撃しちゃったのは謝るけど...私、アンタのことを認めるつもりはないから!」

 

「ど、どうしてですか?瑞鶴さん」

 

 

大淀は焦ったような様子で瑞鶴に尋ねる。

 

「そんなの決まってるでしょ!いきなり現れて翔鶴姉に色目を使うようなやつが信用出来るわけないじゃない!!

それに提督ならなんでそんな変な恰好なのよ!!」

 

瑞鶴はビシッと翔太郎を指さして言う。だが翔太郎はヤレヤレという感じで口を開く。

 

「このファッションのハードボイルドさが分からねぇとはな...

まぁお子様にはちっとばかし理解し難いのかもな」

 

 

「何ですって!?誰がお子様よ!!この変態男!!」

 

「何ぃ!?誰が変態だ、この爆撃娘!それにこの格好のどこが変なんだ?

どっからどう見てもハードボイルドだろうが!」

 

 

「へーんだ!何がハードボイルドよ!本当のハードボイルドならいきなり初対面の女性の手を取ったりなんかしないわよ!!

アンタなんてグジュグジュの半熟卵、『ハーフボイルド』よ!!」

 

「んだとぉ...?お前までハーフボイルドって言いやがったなぁ!?」

 

「あーら怒っちゃったの?いくらでも言ってあげるわよ、ハーフボイルド提督さん」

 

そういって瑞鶴は意地悪そうにウィンクする。翔太郎は「クーっ!かわいくねぇ!」と地団駄を踏んでいる。

 

大淀はもう見飽きたとばかりに呆れ顔だったが、その様子を見ていた翔鶴は嬉しそうにクスクスと笑っている。

それを見た大淀は尋ねる。

 

「翔鶴さん?」

 

「え!あ、す、すみません。あんなに嬉しそうな瑞鶴、本当に久々に見たので...」

 

 

 

「嬉しくなんかないわよ!!」

 

 

それを聞いた瑞鶴はすぐに訂正する。だが傍から見ても今の瑞鶴は口では翔太郎を馬鹿にしながらも、とても嬉しそうな様子だった。

 

その後翔太郎は大淀と一緒に五航戦の二人におにぎりを渡すと、部屋を出た。

 

「提督?これで少しは懲りましたか?

この鎮守府には姉のことを愛してやまない 比叡さんや瑞鶴さんのような艦娘もいますからやったらめったらにカッコつけちゃダメですよ」

 

「分かってるよ。にしてもあの瑞鶴を見てわかったが、ありゃ中々の重症だな」

 

「重症?」

 

「あぁ。あいつ、部屋の外で俺が言った『提督』って言葉に反応して攻撃してきやがった。ったくあの前の提督がどれだけ酷いことをしてきたのか目に浮かぶぜ...」

 

そういって翔太郎は辛そうな顔をする。

 

「実を言うと、これでもまだマシな方なんです...」

 

「マシってのはどういうことだ?」

 

「前の提督は火力があって主力になりうる戦艦や空母には最低限の対応をしていました。

 

ですが、それ以外の巡洋艦や駆逐艦にはそんな対応もなく食事もろくに取らせず、補給もなし。怪我をしても放置...」

 

「お、おい待て。怪我をして放置ってのは今もか?」

 

「...はい」

 

「なんでそんな大事な事を言わなかったんだ...

今すぐその怪我をしてる子達の治療を...」

 

「できないんです...」

 

「なにぃ?」

 

「艦娘を治療するには基本入渠させなければいいけません。入渠とは人間でいう入浴のようなものなのですが...

今のこの鎮守府の入渠施設は前の提督が放置していたせいで、とても使えるような状態ではなく...」

 

「直せねぇのか?」

 

そういうと大淀はさらに暗い顔になる。

 

「直せない訳ではありません。ですがそれには妖精さんの協力が不可欠です」

 

「妖精さん?」

 

「はい。2頭身でとても小さくてかわいらしいんですよ」

 

「んで、その妖精さんってのはどこに?」

 

「それが...この鎮守府にはいないかと...

まえの提督は妖精さんたちを働かせすぎてしまったせいで、恐らくそのほとんどが逃げてしまって...」

 

 

「おーし、分かった。そのにゅうきょ施設とやらに行くぞ

大淀、案内してくれ」

 

「話聞いてました!?施設の復旧には妖精さんが...」

 

 

だが翔太郎はそんな大淀を遮って口を開く。

 

「妖精さんがどうとかの前に、まず自分から動かなきゃなんも始まんないだろうが。

 

考えるよりはまず行動だ」

 

 

そう言われた大淀は「ハァ...」とため息をつく。

 

「分かりました。案内します」

 

 

 

〜入渠施設〜

 

「ぬおっ!くっせぇ!」

 

入渠施設に入った翔太郎はその悪臭に思わず鼻をつまむ。

 

「この施設を開けるのも久々ですからね...」

 

「だか動かなきゃなんも始まんねぇ。

大淀は残りのおにぎり配ってきてやってくれ。俺は一応ここの掃除をしてみる」

 

「て、提督が掃除をされるんですか!?

しかも掃除をしたところで妖精さんは...」

 

「妖精だってこんな汚いところには嫌だろ。綺麗にすりゃあ1匹位は戻ってきてくれるかもしれねぇ」

 

「もう...分かりましたよ。みなさんには左さんが提督になったということも伝えておきます」

 

 

 

そして翔太郎はマスクを付け帽子を脱ぎ、ワイシャツの袖とズボンの裾を捲る。

 

彼はモップを持つと入渠施設の床をゴシゴシと磨き出す。翔太郎は探偵見習い時代に掃除などをやらされていたので、ある程度のノウハウは分かっていた。

 

だがそれでも入渠施設はかなり広く翔太郎一人では日が暮れるまでは何があっても終わりそうも無かった。

 

『いやいや、こんなことでヘコたれてたらあいつらに笑われちまう』

 

彼は一心不乱にモップを擦る。

今彼はやっと1人で冷静に考える時間を手に入れていた。

依頼のためにドーパントを追い詰めたらいきなりもう一つの世界の風都に飛ばされ、その世界の日本は存亡の危機に陥っている。

 

しかも自分はその日本の防衛施設のトップになったときた。

 

それにこの世界にもガイアメモリが存在している。それを使って悪事を働く人間を初日に会った。

 

『まさかこの世界の風都もガイアメモリに泣かされてるだなんてな...』

 

もしかしたら本当にこれは夢なのでは?もしかしたら今回の事件はナイトメアドーパント辺りにでも化かされているのではと思い、頬を軽く抓るも鈍い痛みが残るだけだった。

 

 

 

『弱音を吐きたくはねぇが...フィリップ、亜樹子...今はあの狭い事務所が恋しいぜ...』

 

 

「...く。...督......左提督!!」

 

「うおっ!

間宮さんじゃないですか!どうしてこんなとこに?」

 

「大淀さんから提督が入渠施設の掃除をしていると聞いて、私に少しでもお手伝いができたらなと思いまして...」

 

「それでも間宮さんのお手を汚すわけには...」

 

「私は給糧艦です。戦うことは出来ないからこそ、こういった場面で役に立ちたいんです」

 

「そうですか...

あれ、あなたの横にいる子は?」

 

「あ、ご紹介が遅れて申し訳ありません。この子は私と同じ給糧艦の伊良湖ちゃんです」

 

「ど、どうも!ご紹介に預かりました、給糧艦の伊良湖です!よ、よろしくお願いします、左提督!」

 

伊良湖はビシッと敬礼をする。

 

「俺は左翔太郎だ。よろしくな、伊良湖」

 

 

その後翔太郎は間宮と伊良湖の3人で入渠施設の清掃を進めた。

間宮の話を聞くと伊良湖は前の提督に料理を提供した際、その味に難癖をつけられて自分が作った料理を捨てられてしまい、そこから料理をすることがトラウマになってしまいずっと部屋に塞ぎ込んでいたらしい。

 

だが今回翔太郎が提督として就任して前の提督がいなくなったことを間宮に知らされ、やっと部屋から出てきたらしい。

 

 

〜1時間後〜

 

「はぁ...はぁ...これだけやってもまだ全然残ってやがる...」

 

3人は一心不乱に掃除を進めたものの、入渠施設の1/10も終わっていない。

 

「これはまだまだ時間がかかりそうですね...

妖精さんさえ来てくれたら...」

 

「間宮さんと伊良湖ちゃんは休んでてください。残りはおれがやります」

 

「て、提督さんだけにお手を煩わせるわけにはいきません!

料理ができない分、今の私はそれ以外のことで役にたたないと...

私、いらない子に...」

 

伊良湖は泣きそうな顔で翔太郎に懇願する。

そんな伊良湖に翔太郎は優しい気な声で励まそうとする。

 

「安心しろ、伊良湖。

お前はいらない子なんかじゃない。今もこうやって間宮さんと一緒に掃除を手伝ってくれてるじゃねぇか。

 

だからここは大船に乗ったつもりでこの俺、ハードボイルド提督の左しょ...」

 

 

 

パコーン!

 

 

 

とカッコつけかけたところで何者かが翔太郎の頭を引っぱたいた。

 

 

「イッテェ!おい、誰だ!」

 

そうやって翔太郎が顔を上げるとそこには2頭身位の小さな妖精がいた。

 

「あ、提督!その子が妖精さんですよ」

 

「本当にthe・妖精って感じなんだな...」

 

 

『にしてもこの妖精...なんかどっかで見たことあるような...』

 

 

翔太郎にじっと見つめられる妖精は髪をポニーテールのように一つにまとめてとり、勝ち誇ったような顔をしている。

 

右手には緑色のスリッパを持っている。

 

すると妖精が翔太郎を見ながら口を開く。

 

 

「あんまりじろじろみないでよ!

このはんじゅくたまご」

 

 

 

「あ?」

 

 

 

そこで翔太郎は気づいた。

 

『こ、この生意気な態度...亜樹子そっくりじゃねぇか!』

 

 

「はやくなにをしてほしいかいいなさいよ!」

 

 

そういうと妖精は再び右手に持ったスリッパで翔太郎の頭をパコンと叩く。

 

小さいくせにやけに痛い。

 

「いてっ!

いちいち叩くんじゃねぇよ!このちんちくりん!提督に向かって何しやがる!」

 

「だれがちんちくりんよ!このへたれ!!

 

というかあんたみたいなへたれがていとくだなんて...わたしきいてない!!」

 

「なにぃ...?瑞鶴といいここの鎮守府にはちょーっとやんちゃ者が多いみたいだなぁ...」

 

翔太郎は手をポキポキと鳴らす。

 

まぁ毛頭手を出すつもりなんてないのだが。

 

 

「てかはやくなにしてほしいかいいなさいよ」

 

「っとそうだったな。今はこんな下らない漫才やってる場合じゃねぇか...

 

というか大淀は施設を直せるのは妖精だけっていってたが...こんな広いとか本当にお前だけでできんのか?」

 

「あたしだけじゃないよ」

 

 

そういって妖精は「みんなー」と叫ぶ。するとどこから出てきたのか、たくさんの妖精たちがわらわらと翔太郎にあつまる。

 

妖精は一様に少女のような顔つきだが、その恰好は上下ともにちぐはぐな服装だったりサンタクロースのコスプレをしていたり最近のJKみたいな制服をきているやつなど非常に個性豊かだ。

 

「このへたれていとくがこのしせつをなおしてくれだってー」

 

「しょうちゃんったらひとづかいあらすぎ〜」

 

「でもしょうちゃんのたのみならことわれないよ~ん」

 

「きゃー!しょうちゃーーん!」

 

妖精達はなぜか初めて知ったはずの翔太郎の名前を口々に叫ぶと各自の判断で入渠施設に広がっていく。妖精が壊れた箇所を次々と直していく。

 

『こいつら...よく見たら全員風都にいるやつと同じ格好してやがる!

てことはあの変な髪型のやつはウォッチャマン、サンタクロースはサンタちゃん、この2人組の妖精はクイーンとエリザベスか...?

ったく本当にこの世界はよくわかんねぇな...』

 

そんなことを考える翔太郎の横に間宮が声をかける。

 

 

「すごいですね...提督。

着任して初日でここまで妖精さんに好かれている提督なんてそうそういませんよ!」

 

「いや、なんかこいつら俺の友人にやけに似てるんですよね...」

 

「提督のご友人さんにですか...?」

 

「ええ。みんな騒がしくて変なやつばっかりだけど...みんなめちゃくちゃ良い奴なんですよ」

 

そういった翔太郎の顔はとても穏やかな顔だった。まだ元の世界の風都を離れて1日も経っていないというのに、まるではるか昔に別れた友人のことを話すかのように、懐かしげな目をしていた。

 

「そうだったんですね。

でもこのペースならすぐに入渠施設の修繕は終わるでしょう。

今すぐに怪我をしている娘たちを呼びに行きましょう」

 

「...!!そうですね、行きましょう!」

 

「て、提督!私もお手伝いします!」

 

 

「ありがとな、伊良湖。頼りにしてるぜ」

 

そういって翔太郎は伊良湖にサムズアップする。翔太郎に頼られた伊良湖はとても嬉しそうな顔をしていた。

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