イメージ的にはクイーン&エリザベスに近いかと
-追記-
『活動報告』にビートルフォンに対しての内容を載せておきました。
ご確認ください。
「...く...とく...提督!!」
「んにゃ...」
翔太郎が目を覚ますと、大淀が自分の顔を覗き込んでいた。
「提督、起きてください。間宮さんと鳳翔さんが朝ごはんを作ってくれているそうです」
「間宮さんに鳳翔さんが?よし分かった、すぐ行くぞ」
『間宮』の言葉が出た瞬間翔太郎はすぐに立ち上がると、服装を簡単に整えて食堂へと向かう。
〜食堂〜
「あら翔ちゃん、おはよう」
「Hey!good morningテートク!!
昨日はよく眠れましたカー?」
「おかげさまでぐっすりだよ」
陸奥と金剛は既に席に着いていたらしく、翔太郎に軽く会釈を交わす。
「お、おはようございます、司令官さん。
私は高雄型4番艦の鳥海です。
先日は姉の摩耶がご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした...」
すると眼鏡を掛けた真面目そうな少女がおずおずとこちらによってくる。
だが鳥海だけではない。他にも昨日翔太郎と『探偵ごっこ』をしていた艦娘達の姉妹だと思われる艦娘たちが翔太郎の元に集まった。
「あたしは軽巡の北上だよ。
昨日は大井っちと遊んでくれてありがとね」
「千歳型1番艦の千歳です。
妹の千代田が迷惑をかけてしまって、本当になんと謝罪したらいいか...」
次々に昨日のことを謝罪してくる姉妹艦達。
実行犯の天龍、龍田、摩耶、大井、千代田もペコリと頭を下げる。
だがそんな彼女らを相手に翔太郎はいつもの調子で語りかける。
「おいどうしちまったんだよ。昨日は俺達は遊んでただけだぜ。何を謝る必要があるんだ?」
「で、ですが...」
「へーきへーき。ハードボイルドな男にちょっとした火遊びは付き物さ。
さ、お前らも席に座りな。ちょっと汚ぇけど近いうちに妖精に頼んで綺麗にさせるからそれまでの辛抱な」
そういって翔太郎は艦娘たちを席に座らせる。
「大井っちー」
「どうしたの?北上さん」
「良かったね。優しい提督で」
「......そうね」
そんなやり取りを交わして大井と北上も席に着く。
「なぁ大淀。これでこの鎮守府にいる艦娘は全員集まったのか?」
「いえ...まだ数人が来ていません...」
「寝坊...って訳でもなさそうだな
まぁいい。とにかく今はやる事やっちまおうか」
そういって翔太郎は食堂に集まった艦娘たちを注目させる。
「まぁお前らみんなご存知だとは思うが、昨日ここに着任した提督、左翔太郎だ。
まぁ探偵業をやっているんだが、今は臨時休業中だ。まぁ硬っ苦しい挨拶はここまでだ、
じゃあお前ら手ぇ合わせろ!
食材と鳳翔さん、そして間宮さんに感謝を込めて、いただきます!」
『いただきます!』
食堂の奥で間宮が顔を赤くしているのを他所に翔太郎も朝ごはんを食べ始める。ちなみに鳳翔は「あらあら」と言った様子で間宮を見ている。
昨日間宮がある程度の食材を買い込んでいたのあって、ちゃんとした朝ごはんになっていた。
「ご馳走様でした。あぁ食った食った。
そうだ大淀。前のやつが残した家具や装飾品の買取はどうなった?」
「はい。あと少ししたら業者さんが来てくれて査定を終え次第買取してくれるそうです」
「よし。それまでどうするか...」
「そういえば提督に元帥から指令書が届いていました。
相当な機密文書で、提督のみが閲覧を許されています」
「分かった。確認してくるよ」
そういうと翔太郎は食器を返却口に戻して執務室へと向かった。
「ねぇ熊野」
「どうされました?鈴谷」
翔太郎が食堂を立ち去った後で薄緑色で高校生くらいの鈴谷という少女が、栗色の髪をした、これまた高校生くらいの少女に話しかける。
「あの提督、どう思う?」
「そうですわね...前のクズに比べれば、とてもお優しい方に見えますけど...」
「けど?」
「ハードボイルドを語る割には、少し軽いというか...
そういう鈴谷は?」
「実を言うと...結構アリかも」
「マジですの!?」
大仰な仕草で驚く熊野。
「うん、大マジ。今着てるのはちょっとボロかったけどファッションセンスもあるし...
何よりあのハードボイルドになりきれてない、半熟っぷりが意外といい感じ!」
「半熟っぷりがですか...私にはわかりませんわ」
「そうだ!後でちょっと会いに行ってみようよ!」
「わ、私もですか?」
「もっちろん!やっぱ提督とは話しておかなきゃダメっしょ?」
「むぅ...分かりましたわ。後で執務室にお伺いしましょう」
そして2人は一旦自室へと戻っていく。
〜執務室〜
「提督、これが元帥がらの指令書です」
「どれどれ...2枚の紙が入ってやがるな」
「一応機密文書の確認はまず提督のみが行うことになっているので、一旦部屋を退出させて頂きますね」
そういって大淀は執務室を後にする。
大淀が出たあと翔太郎は入っていた2枚の紙の内容を確認する。
「1枚目は...ふむふむ、ほうほう...
琉兵衛の野郎...中々分かってるじゃねぇか」
「2枚目は......!!!」
翔太郎は2枚目の内容に思わず体を強ばらせる。
その内容は簡単だった。
現在この世界の風都ではガイアメモリの取引が秘密裏に行われており、ガイアメモリを使用したと思われる犯罪が増えているということ。
そしてそのガイアメモリ使用者を確認した場合、そちらの判断で使用者を無力化して欲しいということだった。
ちなみにこの書類に関する情報は完全な機密情報であり、翔太郎以外の人間、または艦娘には知られてはいけないので、確認次第焼却処分にしろとの事だった。
『琉兵衛め...さすがに俺があの提督をぶっ倒した時点で俺がガイアメモリに対する『何か』を持ってることに勘づいてやがる。
なるほどな...危険な力を持ってるやつは下手に敵に回すより自分の方に引き込んだ方が楽ってことか...
素性の分からない俺を提督にしたのも、俺に首輪をつけるためか...
あいつらしいぜ』
そして翔太郎は執務室の机をガサゴソと漁る。すると中から運良くライターが出てきた。さしずめ前の提督がタバコに火をつけるために使っていたものだろう。
翔太郎は窓を開けるとライターでガイアメモリに関することが書かれた書類に火をつけ、その灰を風に任せるがままに放った。
「これでよしと...
おーい、大淀ー!入っていいぞー」
「わかりました」
大淀がゆっくりと壊れかけの扉を押して入ってくる。
「何か私に報告することは?」
「あぁ。1つ琉兵衛から指令みたいなのが来てたよ。簡単に言っちまえば
『出撃とかはしなくていいから、艦娘のメンタルケアに努めよ。それに必要なお金はある程度こっちで出してやる。
ただ敵が攻めてきた際の防衛はちゃんとやれよ』
だとさ。中々あの爺さんも太っ腹じゃねぇか」
「そんなことが...分かりました。その内容は後で提督の方から皆さんにお伝えなさっては?」
「そうさせてもらうぜ。そういや業者は?」
「先程到着なさっていました。今こちらにお通ししますね」
そういうと大淀は正門から数人の業者を執務室に通した。
「では査定をさせていただきます。」
そして数十分後。
「こちらでいかがでしょうか?」
業者のリーダー格の男が買取値段を書いた紙を見せてくる。
「ほう...ちょっとここの数字が少なくねぇか?
3はねぇだろ3は。せめて7だな」
「こちらとしましても7は少し厳しく...
4はどうですか?」
「いいや、7だな。ここは譲れないぜ」
「...分かりました。5でいきましょう」
「ちっ...商魂逞しいぜ...分かった、5でいこう」
そして業者たちは執務室の家具、装飾品を持っていくと、札束を翔太郎に手渡した。
「ではどうかこれからもご贔屓に」
そういって買取業者たちは鎮守府を後にする。
「終わりましたか、提督...って凄いお金ですね...そんなに高く売れたんですか?」
「まずまずだな...ってかよ、布団とか日用品の購入なら一応メンタルケアの一環で海軍本部が出してくれるんじゃねぇか?
琉兵衛からの許可もあるしよ」
「確かにそうですけど...じゃあそのお金は?」
「すまん、大淀。この通りだ。服を買わせてくれ」
翔太郎はいきなり大淀に土下座をかます。
「...私はいいとは思いますけど...
でも一応それって横領になるんじゃ...
確かこのお金、前の提督が自分のお金で買ってたはずです」
「確か前の提督、本部から受けた補助金とか一部チョロまかしてたって話じゃねぇか」
「その不正資金で買ったものを換金して自分の私物を買うのは...
そもそも服なら海軍指定の制服がありますよ。というか通常の提督業を行う場合はあれを着なくてはいけません」
「昨日貰ったあの制服かぁ...個人的には嫌いじゃねえけど、ちょっとハードボイルドさに欠ける気がしてな...
やっぱダメか...」
そう落ち込む翔太郎に大淀は慌ててフォローする。
「私は左さんが使うことに異は唱えません。
あなたは昨日ここに来たばかりなのに、親身になって私たちのために働いてくれました。
だから自分へのご褒美ってことで少しならいいんじゃないかと...」
「サンキュー!大淀、やっぱお前なら分かってくれると思ってたぜ」
そういって翔太郎は大淀の手をとってブンブンと握手する。大淀は翔太郎に握手されたことで顔を赤くする。
「で、ですがあくまで休日用ですよ!
普段の提督業を行うときはちゃんと指定の制服を着てくださいね!規則ですから」
「分かったよ。ならちょっと街に行くとするか。あいつらの布団ついでにいろいろと見ておきたいものもあるし...」
そこまで翔太郎が言いかけたところで、執務室の扉がコンコンとノックされる。
「おーい、提督ー!入ってもいい感じー?」
「おう、いいぞ」
翔太郎が許可を出すと、執務室に薄緑色の髪をした艦娘と、栗色の髪をポニーテールに纏めた艦娘が入ってくる。
「おっはー、提督。私は重巡の鈴谷だよ。よろしくね!」
「ごきげんよう。私は鈴谷の妹の熊野ですわ
。以後お見知り置きを、左提督」
「言う必要もねぇが提督の左翔太郎だ
よろしくな。鈴谷、熊野。
で、どうしてお前らこんなところに?」
「いや、ちょっと提督に会ってみたいなーなんて思っちゃったりしてさ」
「わ、私はあくまで鈴谷の付き人ですわ」
「そっか。わりぃけど特にもてなしなんかはできねぇけど...
そうだ、お前ら今から暇か?」
「え?そりゃ暇だけど...なんかあるの?」
「いや、さっき本部から指令が届いてよぉ...
ちょっとの間出撃はなしでいいからお前らのメンタルケアに努めろだとよ」
「...!! まぁ...それだけの判断ができる人間が本部にまだいたことに驚きですわ」
「私たちぐらいならいいけど、駆逐艦の子達とかはだいぶメンタル的に参っちゃってるみたいだしね...」
「で、お前らの寮ってろくな布団とかがないだろ?だから今から買いに行こうと思ってな。
お前ら暇なら一緒に行くか?」
「え!?お出かけ?
マジ?いくいく!絶対いく!」
「よし。熊野はどうする?」
「鈴谷と提督だけでは心配ですわ。私もお供させていただきますわ」
「よっしゃ。ならお前ら準備しろ。15分後に鎮守府正門に集合だ」
「おっけー!んじゃ、また後でねー!」
元気そうに手を振りながら鈴谷が部屋を出ていき、熊野がそれについて行った。
「大淀。悪ぃな、ちょっと行ってくるぜ」
「息抜きは誰にでも必要です。簡単な書類の整理は私がやっておきますので、どうぞ提督は鈴谷さん達と楽しんできてくださいね」
「っとそうだった。大淀にこれを渡しておく」
そういって翔太郎は胸ポケットからビートルフォンを取り出し、大淀に手渡す。
ちなみにメモリは渡していないので、ビートルフォンはただの携帯になかならない。
「これは?」
「携帯だ。お前ら持ってないだろ?何かあったらこれで俺に連絡しろ」
「わかりました。お気遣いありがとうございます」
「なら行ってくるぜ」
翔太郎はガラスに移る自分を見て軽く髪を整えると、正門へ向かった。
〜正門〜
「お待たせー!」
「やっときたな。なら行くぜ」
3人は風都の市街地へと歩き出す。このもう1つの風都は翔太郎が元いた風都と鎮守府があるかないかの違いくらいしかないので、翔太郎は特に迷うことなく歩いていく。
「提督ってさー、どっから来たの?」
「どこからか...秘密だな」
「それは何かやましいことがあるからですの?」
「ハードボイルドな男に秘密は付き物さ」
そういってはぐらかす翔太郎。まさか風都に住んでいたとは言えまい。
彼女たちの中での風都は当たり前のように鎮守府がある。今まで風都に住んでいたのに鎮守府を知らなかったとなれば、何かしら疑われるかもしれない。
「ふーん。そうだ、提督。お願いがあるんだけど」
「お願い?」
翔太郎が聞き返す。
「うん。私さ、陸奥さんが提督のこと『翔ちゃん』って呼んでるの聞いちゃったんだけど、私もそう呼んでいい?」
「勝手にしな。むしろお前に『翔ちゃん』って呼ばれると...なんか妙な安心があるぜ」
「え?何それキモ!」
「ばっ、ちげぇよ!俺にもお前らぐらいの女子高生の友達がいてそいつらに『翔ちゃん』って呼ばれてたからってだけだよ」
「まぁ私たち女子高生どころか提督よりも年上なのですけど」
「まぁ細かい話は無しだ」
「にしても良かったなー。翔ちゃんが提督になってくれて」
「そうか?」
「そりゃそうだよ!前のあんなキモイやつより翔ちゃんの方が何百倍も良いって!」
「よせやい。照れるじゃねぇか。
まぁ俺みたいなハードボイルドな男が提督になってくれるだなんて、そうそうないことだからな」
「そういうところですわ...」
熊野がため息混じりにそう告げる。
「で、翔ちゃん今どこ向かってるの?」
「布団はあと。まずは俺の服だ。こんなボロっちいの着てたら俺のハードボイルドさに傷がついちまう」
「勝手にお金を使ってよろしくて?」
「大丈夫だ。服代は俺持ち。布団代の方は本部のツケにしとく」
「さっすが大本営。太っ腹!」
そんな話をしていると翔太郎が目指していた服飾ブランド店-『WIND SCALE』に辿りつく。
『やっぱここにあったか。どうやら本当に俺がいた風都と変わらねぇみたいだな』
翔太郎一行は店内に入っていく。
「いらっしゃいませ。何をお求めですか?」
店長と思しき男が翔太郎に尋ねる。
『おいおい。店長まで一緒じゃねぇか』
「そうだな。ある程度決まってはいるが...
俺のハードボイルドさがより一層際立つワイシャツとベストにズボン、あとネクタイだな 」
「かしこまりました。ではすぐにお選びいたしましょう」
店長が店中をまわって翔太郎好みのものをチョイスしていく。
その後ろで鈴谷と熊野がこそこそと話している。
「よくもあんなハードボイルドさだなんだなんて恥ずかしげもなく言えますわね...」
「そこが翔ちゃんの面白いとこじゃん?」
「そういうものなのですね...私には理解し難いですわ...」
そして店長が選んだ商品を渡し、翔太郎は試着室に入る。
そして着替えたあと試着室のカーテンが開かれる。
「どうだ?」
今の翔太郎は白の縦線ワイシャツに黒いベスト、黒のボトムスに赤いネクタイ。
紛うことなき翔太郎ファッションである。
「おお!翔ちゃん似合いすぎ!」
「ほんと怖いぐらい似合いますわね...」
「だろ?あとは帽子だ。これがある意味ハードボイルドさを大きく左右する」
「なら私たちが選んであげようか?」
鈴谷がぽんと手を打って提案する。
「わ、私もですか?」
「そうか。ならお前達のセンスに任せてみるぜ」
翔太郎がお願いすると、鈴谷と熊野のは店内の帽子売り場に向かっていく。
「お客様、失礼ですがご職業は...」
「俺か?俺は元探偵だ。今は、そこの鎮守府の提督をやってる」
「やはり提督でいらっしゃられましたか。
ではあの子達は」
「あぁ。うちの艦娘たちだ。あいつらも立派な風都鎮守府の家族だぜ」
「そうでしたか。私が前に彼女たちをお見かけした時はまるで死んだ魚の目をしていたので...本当に見違えるくらいに明るくなっていました」
「あいつらもあの前の提督の被害者さ。
まぁあいつはもう牢屋の中だろうけどな」
「この後もお買い物を続けられるご予定で?」
「あぁ。そのつもりだ」
「ではお気をつけください。この店は特に被害にあうようなことはなかったのですが、市街地にある一部の店は、前の提督が暴虐の限りを尽くしていました。
艦娘を使って脅しをかけ鎮守府に物資を提供させるという悪行が度々行われており、中には鎮守府、ひいては艦娘に対して敵意を持つ人もいます」
店長は悲しそうな顔で語る。
「まぁ無理もねぇ話だな...にしてもあの男め、そこまで街を泣かしてたとはな」
「ですが、お客様なら恐らくすぐに関係修復ができるかと」
「何だって?」
「これはわたくしめの勝手な意見でございますが、貴方様からはこの街に対する愛がひしひしと伝わってきます。この風都に住む人間はそういった感情に敏感です。
あなたの風都に対する愛が、きっと街に住む他の人間たちにも伝わると私は信じています」
それだけいうと店長は優しい顔で微笑む。
「ありがとな、店長さん。街に対する愛が伝わる...俺にとっての最高の褒め言葉だ」
「恐悦至極に存じます」
「おーい、翔ちゃーん!どう、これ?」
「私と鈴谷が腕によりをかけて選ばせて頂きましたわ」
そういって鈴谷が翔太郎に帽子を手渡す。黒の下地に白いラインが入った帽子だ。
翔太郎も同じものを持っていた。
そして翔太郎はその帽子をかぶる。
「中々いい感じじゃねぇか。俺のハードボイルドさがより際立って見えるぜ」
「大変お似合いです」
鈴谷は鼻を鳴らし、熊野も誇らしげに胸をはる。
「なら店長。これら全部買わせてもらうぜ。
あとあの青いワイシャツに白いネクタイ、それに黒いジャケットも頼むぜ」
「かしこまりました。すぐにお包みいたします。今着ているのはどうされますか?」
「これはこのまま着させてもらうぜ」
「かしこまりました。」
店長はすぐに翔太郎が指定した服を包み手提げ袋に入れる。
「お会計はこちらで」
「え!高!」
「恐ろしいお値段ですわ...」
レジに映った値段を見て鈴谷と熊野は驚愕する。
翔太郎はどう見てもお嬢様らしい熊野が驚いていることに少し違和感を感じたが、さっさと会計をすませた。
「またのご来店をお待ちしています。
ではお気をつけて」
店長は店を出た翔太郎と鈴谷、熊野を見送り頭を下げる。
「ありがとな、鈴谷、熊野。この帽子、大切に使わせてもらうぜ」
そういって翔太郎は鈴谷と熊野の頭を撫でる。鈴谷は嬉しそうに、熊野は少し恥ずかしそうな顔をしている。
「で、翔ちゃんこの後はどうするの?」
「そうだな...次は布団だな。こればっかりはお前らのセンスに完全に任せることになるな」
「泥舟に乗ったつもりで任せてよ!」
「鈴谷、それを言うなら大船ですわ」
「そだっけ?」
そんなやり取りを交わして翔太郎一行は寝具店へと入る。
「いらっしゃいませ...ってあんたら艦娘か?」
「あぁ、そうだ。と言っても俺が提督だけどな。布団を買いに来た」
「ん?あんちゃんが提督?じゃあ前のあのタヌキは?」
「あいつならとっくに捕まったよ」
「そうだったのか。じゃあなんで艦娘がここに?」
「女物の寝具を買うんだ。女のことは女に任せるのが一番だ」
「そうかい...あいつが捕まった、ねぇ。
分かったよ。好きなだけ見ていきな」
「ありがとよ、キヨちゃん」
「ん?なんでお前俺のあだ名を?」
『や、やっべえ!いつもの癖で呼んじまった!ここの風都市民とは全員初対面だった』
「お、俺は風都を愛してやまない男だからな。風都のことならなんでも知ってるぜ」
「本当か?じゃあこの風都のマスコットキャラの名前は?」
「簡単だぜ、『ふうとくん』だ」
「それをデザインしたのは?」
「霧彦だろ?」
「っとそうか。霧彦のにいちゃんとアンタは同僚だったな」
「風都が誇るプロサッカーチームの名前は?」
「風都ブルーゲイルだ。前は確か沢芽市とかいうとこのチームと対戦してたな。
最後の1分でのゴールが決まった時は嬉しくて気絶しそうになったぜ」
そうしていくつかの問答を繰り返すうちに寝具店の店長と翔太郎はすっかり会話が弾んで仲良しになっていた。
ちなみに鈴谷と熊野は楽しげに喋る翔太郎達を置いといて寝具選びに精を出していた。
「やっぱり風麺だな!あそこのなるとが美味くてなぁ」
「そうそう!やっぱあの大きいなるとを食っちまうと他のじゃ物足りなくなるぜ」
「提督、よろしくて?皆さんの寝具選びの任務を果たしましてよ?」
「終わったか?ならキヨちゃん。領収書あるか?全部本部にツケさせる。」
「おいおいご新規さんにツケはちょっとなぁ」
「安心しろって。ほら、うちの元帥様の承認付きだ。もし払わないなら俺が直接文句言って金をぶんどってきてやるよ」
「...分かったよ。そこまで言われちゃこっちも折れない訳には行かねぇな。
あんちゃんの風都愛、存分に伝わったぜ。
あとで鎮守府の方に配達させるぜ。
運賃はそっち持ちで頼むぞ」
「すまねぇな、キヨちゃん。じゃあここいらでお暇させてもらうぜ。」
「おう、また来てくれよな!翔ちゃん!」
「あぁ!また来るぜ」
そういって翔太郎たちは寝具店を後にする。
「凄いね翔ちゃん。正真正銘のコミュ力お化けじゃん...」
「鈴谷も相当なものだとは思ってはいましたが...提督はその比ではなさそうですわね」
「なぁに、別にそんな大層なことじゃねぇさ。
街を愛している者の気持ちは、同じ街を愛しているやつに伝わるのさ」
「でもこれで提督が買おうとしていたものは全て買えましたわ」
「いいや、まだだ。今から食材を買いに行く」
「食材?」
「あぁ、今日予定していることがあってな。
ちょっとしたパーティだよ」
「パ、パーティですか?」
「あぁ。心を通わせるならみんなで美味いもん食って喋るのが一番だ。間宮さんにも話を通してある。どうやら他の料理ができる艦娘たちにも声をかけておいてくれたそうだ」
「なにそれめっちゃ楽しそう!!」
「ですが今から食材となると、市街地というよりは商店街のほうですわね...」
「まぁそうなるな」
「あー、それはちょっとヤバそうかなー」
どうやら鈴谷の話によると、商店街の方は食品や酒など売るものが売るものだけに特に手酷く前の提督からの略奪行為にあったらしい。そしてそれらに加担した艦娘に対して特に敵意を持つ者が多いはずだと。
だが翔太郎はそこに対してある程度の手はうっていた。
そして翔太郎たちが商店街に入ると案の定敵意を持った視線が向けられる。
だが翔太郎はそれに臆することなく八百屋に入っていく。
だが比較的にスムーズに買い物を済ませていった。
理由は二つ。翔太郎が先の寝具店で貰った紹介状である。翔太郎はまた面倒事になるのを予想して信頼を得た寝具店の店長に紹介状を書いてもらっていた。
そして持ち前のトークスキルと人の良さ風都愛を存分に発揮し、食材と酒を買うことに成功した。
もちろん全て大本営へのツケにしてある。
「いや〜めっちゃ買ったねー。にしてもさすが翔ちゃん。紹介状を書かせておくのはマジナイス!」
「だろ?ハードボイルドな男はこういった用意を欠かさないのさ」
「それはハードボイルド関係ないと思いますわ」
「よーし、あと1つ買えば終了だ」
「まだ何かあるんですの?」
「大丈夫だ、すぐ終わる」
そういって翔太郎はまず和菓子屋に入り、そこで風都名物の『風都まんじゅう』を1箱購入する。
「おまんじゅう?誰にあげるの?」
「妖精さ。とくにリーダー格のあいつは...めちゃくちゃ現金なやつな気がするからな」
翔太郎が思い出しているのは亜樹子似の妖精である。亜樹子と性格まで似ているならば買収は簡単である。
〜風都タワー前の広場〜
「これだけ買えば十分だろ。さぁ、帰るぞ...と言いたいところだが」
翔太郎は鈴谷と熊野を近くにあったベンチに座るよう言って、ある露店へと歩いて行く。
そして『ある物』を持って2人の元へ戻っていく。
「はいよ、俺からのお礼だ」
そう言って2人に差し出したのは翔太郎がいた風都でも常に行列ができるクレープ屋のクレープである。
「マジ?くれるの?」
「あぁ。俺からのおごりだ。遠慮せず食いな」
「そういうことなら...ありがたくご馳走に預かりますわ」
2人はクレープにかぶりつく。疲れた体に糖分が染み渡っていく。
「ん〜、美味しい!」
「...!本当ですわ!これは上の上ですわね...」
「だろ?ここは行列が出来て中々食えねぇんだよ。よーく味わっときな」
「そうだ!はい、翔ちゃん。あーん」
鈴谷が翔太郎にクレープを差し出してくる。
「おいおいどうした?」
「翔ちゃんにも1口分けてあげる」
「ハードボイルドな男はそんな甘ったるいものは食わねぇのさ」
「いいからいいから!口開けて!ほら!」
「ばっ、バカ!服にクリームが付くだろうが...あっ、あーん...」
翔太郎は恥ずかしそうに口を開けてクレープを貰う。
「うめぇな」
「でしょでしょ!?ほら、熊野も翔ちゃんにアーンしてあげなよ!」
鈴谷が悪戯っぽい笑みを浮かべながら言う。
「わ、わたくしもやるんですの!?」
「翔ちゃん可愛そうだなー。こんなに楽しいお出かけに誘ってくれたのに...熊野ったら冷たいな〜」
「別に俺は...
「わ、分かりましたわ...」
熊野は断ろうとする翔太郎を遮ってクレープを翔太郎の前に持ってくる。
「て、提督...あ、アーン...」
「...翔ちゃん?もちろん食べてあげるよね?」
「わ、わーってるよ。アーン...」
翔太郎は熊野のクレープを1口食べる。
「ありがとよ、熊野。美味かったぜ」
「こ、光栄ですわ!!」
熊野は顔を真っ赤にしている。
そんな2人を見て鈴谷もまた嬉しそうに笑っている。
そして2人はクレープを食べ終わると、買ったたくさんの荷物を持って鎮守府へと帰っていく。
〜その帰り道〜
「ねぇ、翔ちゃん」
先程までくだらない話に花を咲かせていた鈴谷が急に落ち着いたトーンで翔太郎に話しかける。
「どうした?鈴谷、急にかしこまりやがって。らしくねぇな」
「ありがとね」
「私、今日のお出かけ...本当に楽しかった。
私も熊野も...できるだけ明るく振舞ってはいたけど、前のあのクソ提督がいた時は本当に辛かった。暴力は平気で振るうし、いやらしい目で見てくるし、本当にぶっ飛ばしてやりたかった。
もし次の提督が来たら...正直虐めて辞めさせてやろうかな...なんて考えてたんだ」
「鈴谷...」
熊野が悲しそうな声で鈴谷の名前を呟く。
「でも...翔ちゃんを見たらそんな気持ち吹っ飛んじゃった。来て間もないのに、私たちの怪我を治すために一生懸命指揮を取ってたし、自分自身も駆逐艦の子達をおんぶして入居施設に連れて行ってあげたりしてるのを見てたら...とても虐める気になんてなれなかった」
「そうか...」
翔太郎は鈴谷を横目にどこか遠い目をする。
「わたくしも...同じ気持ちですわ。もしあなたが前の提督のような男で、もし鈴谷に、いや、この鎮守府の艦娘に危害を加えようものならきっと私はあなたを殺していましたわ。
ですが昨日の夜の一件、まさか本当にただ遊んでいたわけではないんでしょう?」
「さぁ、どうだかな?さっきも言ったが、ハードボイルドな男に秘密は付き物だぜ?」
翔太郎はどこか試すような笑みを熊野に向ける。
「全くあなたという人は...そういうことにしておきますわ。
ここで1つ、わたくしからお願いがありますの」
「何だ?」
「風都鎮守府はあなたのおかげでたくさんの子が笑顔を取り戻しましたの。たった1日でここまで子を笑顔にさせるだなんて、普通は有り得ませんわ。
ですが...まだ鎮守府には笑顔になれていない子、笑顔を浮かべているように見えて、心のどこかに暗いものを抱えている子がいますわ。
お願いします、左提督。そんな子の涙を、拭ってあげてください。きっとこれは、あなただけにしか出来ない...そんな気がしますわ」
熊野は立ち止まって頭を下げる。
すると鈴谷も同じように頭を下げる。
「私からもお願い、翔ちゃ...提督。提督なら絶対に私たちと、この街の涙を拭えるって...
『笑顔』にできると信じてる」
鈴谷と熊野は2人揃って翔太郎に頭を下げている。
「顔を上げな、鈴谷、熊野」
その言葉通りに頭をあげる鈴谷と熊野。そんな2人の頭に翔太郎は手に持っていた荷物を置いて、優しく手をポンと載せる。
「俺を誰だと思ってる。俺は泣く子も笑うハードボイルド提督にして探偵の左翔太郎だぜ?
お前らの依頼...鎮守府の艦娘とこの街を笑顔にするという依頼、確かにこの左翔太郎が承った。ただし...依頼料は貰うぜ?」
「「依頼料?」」
鈴谷と熊野はキョトンとした顔で翔太郎を見つめる。
「お前らが払う依頼料は一つ。お前ら合わせて二つ。
お前らの笑顔だ。お前らがそんなシケた面してちゃ、いつまでたっても依頼が達成できないだろ?だから、今は『笑え』。な?」
翔太郎はいつもよりさらに優しい調子でそう告げる。
「翔ちゃん、耳貸して」
鈴谷はいきなり翔太郎にお願いする。
翔太郎は特に疑うことなく鈴谷に耳を貸す。
「これは...私からの...個人的なお礼の印ね」
そういうと鈴谷は...
翔太郎の頬に優しく口付けをした。
翔太郎はその柔らかい感触に、一瞬凍りつき、直ぐに離れる。
「な......な...何やってんだ!鈴谷ァ!!」
「す、す、鈴谷!? ななななな何をなさって!!???」
「ちょっ、ちょっと二人とも!!!
私だってこれ...めちゃくちゃ恥ずかしかったんだからね!!!」
「お、お前、開き直ってんじゃねぇぞ!!」
「な、何ー!?じ、じゃあ翔ちゃんは私に、そ、その...キ...きしゅされて嬉しくなかったの?」
あまりの恥ずかしさに思わず噛んでしまう鈴谷。
「そ、それはよぉ...まぁなんというか...
ハ、ハードボイルドじゃねぇ!!」
「何よその感想!マジ意味わからないんですけど!!
そんなんだから瑞鶴さんにも『ハーフボイルド』って言われちゃうんだよ!」
「な、なんでお前がその呼び方知ってんだよ!」
「そういえば...今朝食堂で瑞鶴さんが『あいつはハーフボイルドの半熟卵だー』って皆さんに吹聴しておられましたわ...」
「あ、あんにゃろう...
今はとにかく鎮守府に戻るぞ!!!
何はともあれパーティだ!」
「あ、翔ちゃん逃げるなー!!ちゃんと感想言えー!!」
そして3人は走りながら鎮守府へ帰っていく。
風都鎮守府の新しい提督
ハーフボイルド提督、左翔太郎。
まだまだ着任2日目の新米提督の物語はまだ始まったばかりである。