紅く紅く、見たものの目を痛める程の血に濡れた館。
付近の住民はその館を紅魔館と呼んだ。
血を貪り喰らう悪魔とも近しい化け物───吸血鬼が住まうその館には誰も近づこうとはしない。教会ですらあまり熱心に追い払うことはしなかった。
大公と呼ばれる吸血鬼が治める彼の地は教会の力も及ぶこと無く平和なときが進んでいた。
紅魔館に赤子の産声が響く。
大公はこの日、三人目の娘をもうけていた。
前に生まれた娘は五年経った頃だった。
「めでたいことだ。この子は良き娘になる」
大公はにこやかに笑う。
「えぇ、そうですね旦那様」
そしてその横のベットで横たわる公妃はちらりと娘を見る。
「サラサラとした良い黒髪だ」
大公は赤子の黒々とした髪を梳く。
「この子が立派に成長した姿が見たい物だよ」
「あら、旦那様は余命があるので?」
吸血鬼には余命が無い、ただしその分弱点はいろいろあるが・・・
「なに、ただの戯れ言さ。忘れてくれたかまわない」
そう言って大公は部屋を出て行った。
「お母様、入りまーす」
えぇ、と公妃が入室を許可すれば扉が勢いよく開き、二つの影が突入してきた。
「これが妹ね!」
青みがかった髪の毛を揺らしてにこやかに笑う長女レミリア。
「これでフランもおねーちゃんだね!」
ふふん!と少し自慢げに胸を張る次女フランドール。
そんな二人の姉に見守られて末っ子はにぱぁと笑った。
そんな私の誕生から数年後・・・私は今二人の姉の元で能力開花に頑張っていた。
「頑張ってカチューシャ!」
「そうそう!カチューシャだってきっとすごい力が手に入るよ!」
「・・・ありがとうレミ姉、ドール姉」
レミ姉やドール姉は一生懸命に私を励ましてくれている。まぁ、励まされると言うことは私はうまくできていないと言うことになるが・・・
なお私の名前であるカチューシャだが、これは東洋の髪をとめる髪留めでは無く、私の本来の名であるエカテリーナの愛称系である。
しかし、能力という物はどうやって開花させればいいのだろうか?コツもわからなければこうやればいいというマニュアルも無い・・・なにかのきっかけや日々の鍛錬で開花すると言うが、本当にそんな園芸のような方法でなんとかなるのだろうか?
私の疑問は尽きることが無い・・・
「少し休憩するカチューシャ?」
私はレミ姉のその提案にこくりと頷く。
「カチューシャは寡黙だねー」
寡黙・・・寡黙か・・・別にしゃべる気がないというわけではないのだがな・・・
「はい、今日のお茶はダージリンよ」
レミ姉が目の前にコトリと美しい陶磁器のカップを置き、私はそれを受け取って口に含む。
うむ、大変美味である。