練習小説置き場   作:木刀超好き

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ゴブリンの傭兵というTES的なやつが日本刀もって暴れまわる話を書きたかった。完成のめどはなし


アイアンゴーレム

 全ゴブリンの父、ブルゾオングに誓ってクソったれ。

 左袈裟に素早く打ち下ろした刀が、敵の左鎖骨と鎖骨下の動脈を切断し盛大に命の朱を溢れ出させる。不運な敵の悲鳴と手応えに愉悦を感じる暇もない。

 エストックを構えた敵が突きの動作に入ると同時にキルリースは、敵の右腋に思いきり斬撃を叩きこむ。鎖帷子事腋下を斬られた敵が怯んだ「機」に体当たりで押し飛ばす。

 ふと視線を飛ばす戦場は、とうに槍の間合いを超えて剣戟の距離に移行している。あれから幾ら時が過ぎただろう。戦闘中の時間感覚ほど当てにならないものはない。すでに食事を共にした二百人の識別布は半数に減り、勝ち戦の勢いに乗った敵の後続の部隊二千が背後の丘を埋め尽くしている。

 殿、もとい捨て石。などと恨むことはない。勇将と名高いゴーディオンとその精鋭五十名が共に戦っているのだ。そうでなければ傭兵団は速攻で役割を捨てて敗走を始めていたことだろう。

 尤も、こんな渓谷に逃げ場などどこにもない。同時に十倍の兵力差で瞬殺されないのは、敵が兵力を漸次的にしか投入できない閉所が戦場となっているからだ。

 それでもあと半時程度でこちらは壊滅するだろう、とキルリースの経験か告げる。

 なるほど。ここが私の死に場所か。

 ほぼ確実な頭の予測に対し無心に翻る切先は筋肉を切断し、骨を砕き、気を込めた打ち込みが時に甲冑ごと敵の体を二つに分ける。戦に出かける前はいつも死の覚悟をきめてきたが、こういう気持ちになったのは初めて……いや初戦のとき以来だろうか。

 戦場に似つかわしくない思考とは別に、冷静沈着な肉体はさらに三人を斬った。視界の端で味方はさらに二人が殺された。

 五人が死んで目に入る太陽は頂点をやや過ぎて、地平の向こうへと降下を開始している。

 どうりで暑い。敵さえいなければ兜も鎧も脱ぎ捨てて木陰で一眠りしたいくらいだ。これもすべて向かってくる敵が悪い。だから死ね。

 そんな短絡的な理由で刀を振り下ろし兜を頭蓋ごと陥没させる。目玉を零し鼻血を吹いてなお即死せず、剣を振ろうと足掻く敵兵を切先で押し込み、壁になった味方の死体に動きを止めた続く敵の喉を柄頭でついて絶息させ、横合いから掴みかかってきた屈強な両腕を振り飛ばす。

 迂闊だった。敵がダガーを鎖骨の隙間から刺してきたら今頃キルリースは死んでいた。反省と同時に返す体に導かれた刀は逆袈裟に剣閃を奔らせ、地擦りの一刀を草摺りの間にもろに受けた敵兵が形容し難い目つきでキルリースを睨み崩れ落ちていく。

 集中力も既に限界が近いと見える。あと三人も斬って、四人目の死体は自分だろう。

 

 あと三人。それで終わる。

 下段に構えた正面の敵兵の右袈裟に打ち込む。初撃で死なずに受け止めた相手は、長剣を旋回させキルリースの右側頭部へ裏刃で斬り返した。専門的な訓練を受けた兵士なのだろうか?キルリースは気にせず刀を返して前進、敵の刃に頭蓋を砕かれるより早く、柄を握る敵の指を斬り止め、切先で敵の頸動脈を突き切りにする。

 まだ余裕がある。刀剣の間合いならばまだ乱戦にはならない。むしろ、一対一で殺気がカチ合った敵と刃を交えていくことが多い。多対一などと味方の加勢に息を巻けば、逆に死角から刃を貰う破目になる。   

 目から火花が飛んだ。頭の先から足の先まで一瞬で痺れが走って、一切の自律をこばんだ全身がキルリースをその場に膝から着地させた。

 突き出される敵の白刃がひどくゆっくりと迫ってくる。もういい。いっそ早く喉を突いて終わらせてくれ。

 とにかく目算が甘かったと今にして思う。最後の殺した敵兵は冷静になって見返せばまだ、装備の摩耗も少ない新兵で、つまりそんな敵にも防御できるほど自分の斬撃は明確に勢いが落ちていたのだ。

 とはいえ合戦の最中にいるキルリースはそこまで俯瞰的に自己及び周囲を把握しているわけではなく、当然、敵の刃が突き刺さる寸前に渓谷全体を敵も味方も関係なしに突き転がした大地の揺れの原因など咄嗟に理解できなかった。 

 それでも膨大な砂煙を見ればなんとなくではあるが発生地点が分かる。

 鉄球だった、ただただ大きく分厚く黒光りする鉄球が砂煙の中に存在していた。戦場において不確定分子が現れた場合、まず敵か味方かそれとも第三勢力であるかの識別が重要になる。

 そんなわけであのとき渓谷にいた全兵力が、揃いも揃って阿呆みたいに大きすぎる鉄球に視線を向けていた。

 まず足が生えた。継ぎ目のないつるりとした球体に亀裂が入り、脚と思しき二本の巨大な円柱が球体を離陸させた。

 ひどくゆったりとした時が流れていた。

 次の二本の太い腕が生えた。そのころになると鉄球の全長は城壁もかくやの高さにまで成長していた。

 最後に赤く光る眼とそれを宿す、騎士の兜に似た頭部が生え、そして。

 気が付けば鉄球は鉄球でなくなり、黒光りする、巨大な騎士へとその姿を変じていた。

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