風に吹かれないように紙に石が置かれている。先端が流れる川のように円滑に揺れている。その近くで賑やかなお祭り騒ぎが聞こえる。水の音と草の揺れる音が根負けをするような喧騒。それは木を周回していき、このサバンナ中に飛び火しそうな勢いであった。
「ともえさん。これはどちらになるんでしょう」
イエイヌは愉快に形が異様なものを掲げる。錆び付いたパイプで、くねくねと曲がっている。持ち上げると鼻をツンとさせる、鉄の匂いが上がったようで、ともえは少ししかめ面をしていたが、片付けをしているさなかで清潔感を気にするのに限界が来たようで、ともえは何気なく素手でそれを貰っている。
「よく分からない形はこっちでまとめておくといいと思うよ」
丸いもの、四角いもの、それ以外。この三つで分けられていくガラクタ達。それらは綺麗に積み上げられていき、空間を形作っていく。ともえのアドバイスで、それぞれ、分担をして効率よく片付けられていく。
「わぁ。これ、懐かしいね、チャップシマウマちゃん」
オグロヌーは梯子を持ち上げている。木製の古めかしさが漂う梯子。足を掛けたら折れてもおかしくない様子であった。
「ほんとだ。オグロヌーと始めて、森の中に行ったときに拾ったやつだわ」
まじまじと梯子を見ながら郷愁に浸るチャップシマウマ。オグロヌーとチャップシマウマの二人にとっては、思い出の塊なのが見て取れる。そのせいで、二人の手は片付ける手が止まってしまっている。
「こーら。あんまり、思い出に気を取られてると整理できないわよ」
カラカルは二人の合間に入ると作業を進めるように急かす。
「「はーい」」
仲の良い息ぴったりの二人の声。二人は共鳴するように声を交わさず、片付けを再開する。それは一種のパフォーマンスのようなもので、順序良く片付けが加速していく。
「皆さん仲良しだね」
ともえは二人の姿を遠目から見つめていた。片付けに|邁進≪まいしん≫しているものの、重いものを運ぶのに苦労しているようであった。薄こげ茶のキャビネットを両手で持ち上げようとしている。
「台車か何かがあればよかったんだけど……」
ともえは息を切らしながら呟く。木を台車にしようとも草しかないこの場ではともえは無力でしかなかった。彼女は一息つくために座り込み、分厚く|聳≪そび≫えるキャビネットの壁を優しく|摩≪さす≫る。困り果てたともえを見たイエイヌは優しくともえの手を取ると、軽々と持ち上げる。
「ありがとう……」
ともえは悲哀な表情を浮かべる。自分のことは自分でやる。その思考にともえは囚われているようであった。イエイヌは何食わぬ顔で持ち上げる。その事態について少し考え込んでいる様子であった。
「いえいえ。こういうの得意ですから」
笑顔を向けるイエイヌの先には考え込むともえがいた。熱風が二人を包み込み、ともえの|顳顬≪こめかみ≫が発汗する。イエイヌは彼女に配慮してか座り込んで目線を合わせる。そして、満面の笑みを浮かべる。
「ともえさん。凄いですね。こんな事、考えたこともありませんでした」
本心からの感謝の言葉。純粋無垢なイエイヌに少女は嬉しく感じるとともに一抹の不安を抱く。
「あたし、役に立ってるかなぁ?」
役に立つ。ともえは不安であった。彼女自身の明るく向上心のある性格でも、見知らぬ大地の上では自身の常識に正しさを見出すことは難しい。それが不安という不定な感情に左右される原因でもあった。
「心配しなくても大丈夫ですよ」
イエイヌは笑顔を絶やさない。そして、急に立ち上がると手を仲睦まじく片付ける二人の影を指し示した。
「だって、皆、楽しそうなんですから」
煌びやかに奮闘するオグロヌーとチャップマンシマウマ。その姿は遠目からでも賑やかさを醸し出している。見るものを心地よくさせる空気がこの辺りを抱擁している。
急速になる風はともえの髪を靡かせる。イエイヌとともえは互いの目を見つめあった。
「そうよ。皆が嫌な顔しているように見える?」
いつから聞いていたのか、カラカルが会話へと入ってくる。ともえは再び、二人の姿を捉える。変わらぬ柔和な空間。役に立つことが他者を幸福にさせるという目的を帯びているのであれば、これは間違ってはいないだろう。ともえは朗らかな表情を見て自信を付けたようで、少女の笑顔が回復した。
「そうですね。とてもキラキラしてます」
自身に念を押すように細々と言う。その声はしっかりとイエイヌとカラカルには聞こえたようで、二人は自信げのある顔になっている。ともえも同調するかの如く、覚悟のできた顔をするのであった。