けものフレンズR   作:笹皆

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第1.04話 「きおくのかなた④」

――――ギュルル......

 

 ともえのお腹が救難信号を発したようで、滞りなくその音が聞こえる。恥ずかしさのあまりともえの顔は満面朱を注ぎ*1、両手でお腹を抱えていた。

 

「お腹がすいているんですか」

 

 イエイヌは役に立つためのチャンスだと思ったのかとてもうれしそうである。ともえは謎のカプセルの中から出てきてから、一度も水や食事をとっていなかった。そのため、お腹がなってしまうのもしようがない事に思える。しかしながら、思春期真っただ中な少女にとって、鳴ってしまうというのは大人が感じるよりも十二分に恥ずかしいことであり、本人にとってはあまりうれしいものでもなさそうである。

 

「うぅ~。そういえば何も食べていなかった」

 

 自分のお腹を睨みつけて諫めようとするともえの意図は自身のお腹には伝わらないようで、二回目がなり始めていた。その鳴り様は余程の期間、何も食べていなかったようである。

 

「少し待ってください。確かここら辺に」

 

 ともえの役に立とうと、イエイヌは地面の匂いを嗅ぎ始めた。そして、右往左往しながらも、ある一定地点を見定めると、必死にその場所の地面を掘り返していた。砂が周辺に飛び散り、山が形成されるぐらい堀り終えた所でイエイヌは手を止めた。

 掘り起こした地面の中からはビニール袋が顔を出したのだ。その袋を持ち上げると中に、ごろごろと紙包みに囲まれた楕円形が見て取れた。その下には、ともえが眠っていたカプセルと同じ、虹色の正方形の結晶がしかれている。

 

「よければですが、私のじゃぱりまんを差し上げます」

 

 ともえはイエイヌが食べ物を地面の中から掘り起こしたことに違和感を覚えたが、イエイヌの必死な態度にどうでもよく感じたようで、ともえは気にしないことにした。それよりも、袋の中に入っているじゃぱりまんと呼ばれる肉まんのようなものは、見たこともないパッケージをしていてともえの興味を引いた。

 

「これが……じゃぱりまん?」

 

 イエイヌは袋の中からじゃぱりまんを二つ取り出すと袋にくるめて、再び穴に入れ、足で砂をかけなおす。そして、ともえのもとに戻ってくると、二つあるうちの片方をともえに差し出した。

 

「はい。外はふわふわで、中はぎゅぎゅっとしています」

 

 ともえがじゃぱりまん受け取ると、イエイヌは口いっぱいに皮の部分にかぶりつく。口元から油がはち切れんばかりにしみだし、口で具を逃さないように更に追い込む。玉葱もどき*2の絶妙なシャキシャキと肉のホクホクさが皮を被った傑物にイエイヌはよだれをとどめることを知らないようだ。

 

「ありがとう」

 

 本当に美味しそうにジャパリマンを咀嚼(そしゃく)しているイエイヌを見習って、ともえも白くふわふわしたそれを口の中に余すことなく放り込む。先ほどまで地面に埋められていたのに、どこか加熱された温かさを口の中で感じる彼女もイエイヌと同じように、中から際限なく溢れかえる油脂を舌ですすり、食欲を増進させていく。

 

「うーん。おいしー」

 

 頬っぺたを抑えこみ、至福の時を味わうともえ。ほくほくしたものが口を通り、胃の中へと通過する快感。それはたまらなく、少女たちの胃の中をあっという間に満たしていく。まさに悪魔の食べ物であった。

 

「他のフレンズの皆さんも食べているんですよ」

 

 食べ終わり、一息つくと、イエイヌはまだ食べているともえにそう投げかけた。フレンズという聞きなれない言葉にともえは不可思議そうにそのことを考える。皆さんということはイエイヌの仲間たちなのだろうかと、ともえはしっくりする解を頭の中ではじき出した。

 

「フレンズ……それってイエイヌちゃんみたいな子のことをいうの?」

 

 ともえはモグモグと口の側壁に肉片を避けながら喋る。彼女の顔は美味佳肴なじゃぱりまんにお腹の虫も鳴りやみ、満足げな顔でいる。お腹がすけばどんなものでも美味しく感じれるというのがまさにこの状態である。実際にじゃぱりまんは美味しかったのだろうと憶測で物を語るしかできないのだが。

 

「はい。私以外にもたくさんのフレンズの方がいらっしゃいます」

 

 ともえも食べ終わると、安堵をつき、お腹周りを撫でまわして満足そうにしている。

 

「へぇ~。たくさんのフレンズちゃんかぁ~。見てみたいなぁ」

 

 食べ物に対するよだれとは別のよだれが若し少女の口元から微妙に垂れ落ちているが、咄嗟に気が付き首を降りしきる。

 

「私が案内いたしましょうか?」

 

 イエイヌはともえの要望をかなえようと、ともえに顔を近づけて尻尾を振っている。

 

「そんな、悪いよ」

 

 手をメトロノームのようにしてイエイヌの提案を遠慮するとイエイヌは構わず前のめりの強気の姿勢で役に立つという一つのことを成し遂げようと躍起になる。

 

「いえいえ。ヒトの役に立つのが私の使命なので」

 

 ともえは迷惑でないのかと察すると目の前の無邪気な少女の提案を受け入れようと少し表情を明るくし、イエイヌをよしよしと撫でる。ともえにとっては先ほど慰められたお返しみたいなものなのであるが、イエイヌは嬉しそうに更に尻尾を振っている。

 

「じゃあ申し訳ないけど、お言葉に甘えちゃおうかな?」

 

「はい」

 

 威勢のいい少女の声を合図に、ともえとイエイヌの二人の少女は茂みを後にする。不安や恐怖などの負の感情はイエイヌというはっちゃけた存在と中和し、ともえは冒険心を高ぶらせている。二人の影が森の暗中から草原の日の光の中に出ていく光景が、目の前で煌めいていた。

 

*1
怒りや恥ずかしさなどで顔を真っ赤にすること。

*2
イヌは玉葱で中毒を起こし、最悪の場合、死に至りますが、フレンズ化によってそのような可能性はなくなったが、イエイヌは玉葱は嫌いである。なので、ここでは玉葱に似た別の植物です。

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