そういう印象を与えてしまった場合、この場で謝罪いたします。
説明シーンを吹っ飛ばしておりましたので、展開が謎なことになっておりました……
PC画面で見ないと崩れるのでPCで見てくださればありがたいです。
「そういえば、さっきの化け物もフレンズなの?」
息が切れて死にかけていたともえは木陰の下で珍しいのか景色をスケッチしている。その繊細なタッチは見事に才能としか言いようがなく、色鉛筆だけで出せる色には見えなかった。
「いえ。あれはセルリアンといってフレンズを襲ってくる危ないヤツです」
息を整え終わりつつあるイエイヌはともえの後から絵が出来ていくのを見ていた。ただ、邪魔にはならないように後ろから覗く程度である。
「じゃあじゃあ、襲われた時は逃げるしかないの?」
筆を止めて、ともえは顔をしかめる。あの化け物の前では逃げるしかないという事実は彼女にとっては恐怖の代名詞以外ではなかろう。先程、追いかけられた恐怖からか、少しばかり手が震えている。小刻みに振動する手をイエイヌは両手で強く、優しく握りしめると、諭した。
「いいえ。セルリアンには石が付いていて、そこを叩かれるとパッカーンってなります」
パッカーンの部分を大げさなジェスチャーで表すと、その大袈裟な態度にともえの笑顔は回復していった。イエイヌの顔と動作がおもしろかったのだろう。
「ぱっかーんとな」
ともえの負の観念は取り払われたようで、安心しきったように一息をつくとスケッチに没頭する。すると、何かがフラッシュバックするようにともえに襲い掛かってきたのだ。
―――………も…え
郷愁さ。ともえの感じたものはそれであった。知らない景色。知らない影。何が起こっているのか分からなかったようだが、ただ、自分の居場所の言葉だけははっきりと思い出すことができた。
「……おうち……パパ……ママ……」
ともえは単語をブツブツと呟き、スケッチブックの筆が完全に止まり、今では震えていた。
「ともえさん?」
再び震え始めた手を見てイエイヌは心配そうにする。
「ねぇ、イエイヌちゃん」
少し重苦しい雰囲気で言葉を発するともえ。
「はい。なんでしょうか」
少し聞きにくそうにするともえに明るく対応するイエイヌ。
「あたし以外にヒトってみたことあるの?」
ともえの質問の意図は考えるよりも明白であった。ともえの心の中で訴える記憶は自分以外のヒトがいたという曖昧ながらもしっかりとした事実を付き続けている。ここで留意するが、ともえにとってイエイヌが仲間ではないと言いたいのではない。ただ、ともえ自身の生みの親とかつての居場所があったという不確かながらも、どこかしかは信じることができる本能が知りたがっていたのであった。
「いいえ。私の記憶ではフレンズになって初めての気がします」
イエイヌも嘘をつく訳にもいかず正直に答える。
「そう……」
悲しそうにともえは顔を俯かせる。そして、少し躊躇するように言葉をつなげた。
「あたしね、何となくなんだけど、おうちを探しているんだと思う」
一言一言ゆっくりと、ともえは空虚な空に記憶を回想する。それは判然としない、何となくである。存在しないかもしれない根拠で自分の存在理由を定義づける。
「おうちですか?」
やはり、この言葉も聞きなれないらしく、目新しさを感じたのかイエイヌはその言葉をオウム返しにする。
「そう。あたし以外にヒトがいる所」
何処にあるのか、果たして本当に存在するのか。不安が募るともえの心中は暗いものであった。ともえ自身、記憶があやふやな自分を信じていいかもわからず、ただ
「いっぱいですか?」
イエイヌはヒトがいる場所と聞いて、耳をばたつかせていた。ヒトの話題は彼女に多幸感を与えているよう。その嬉しそうなイエイヌの顔にともえはしっとりとした笑顔を向ける。
「そう、いっぱい」
優しく朗らかで、どこか物寂しい。ともえの受け答えから見えるものは二つの二律背反の感情であった。
「それは素晴らしい場所ですね」
理想郷。ユートピア。桃源郷。極楽。楽園。アヴァロン。パラダイス。何とでも言い換えれる。それが、存在するのか否かはともえには別問題であった。机上の空論で終わるもの。それに執着するか、しないか。
「そうだね……」
それは、少し落胆しているようでどこか安心している声であった。
「分かりました!フレンズの案内のついでに、このエリアの出口まで案内します」
威勢よくともえの隣で仁王立ちするイエイヌ。その姿は逆光で大きく偉大なもののように感じる。
「そこまでしてもらわなくていいよ~」
ともえは命の恩人にそこまでしてもらう気はさらさらなかった。流れで一緒に来てしまった上に、使命感でしてもらっていることで、悪い気がしていたからである。それに、そんなものないのかもしれないという不安が一番の理由だろう。
「どうしてですか?」
単純な疑問。
「もしかしたら、ないのかもしれないよ?」
ともえはイエイヌの顔を見る。森林から出て、この場所に来て、たった少しで死にかけていた。それでイエイヌに迷惑をかけ、なおかつ、セルリアンという一人では太刀打ちできない存在がいる。曖昧なそれに拘って、外を目指すか。それは幻想だと思い込んで、引きこもるか。草が二人の前でゆらゆらと流麗な波を描き、ともえの悩みを軽くしようと努めている。イエイヌも同じように。
「大丈夫です!ヒトを見たことあるっていうフレンズは何人もいますから、おうちもきっと探せば見つかりますよ。私もそんな予感がしますから」
イエイヌは素の感覚をともえに伝える。嘘やはったりではない。しっかりと前を向いた、堂々たる視線だ。世界の広さを凝視するそのオッドアイは、大丈夫だと言っているようにも見える。
「でも記憶にないって……」
フォローはしなくてもいいよ。ともえは何となく、イエイヌの言葉に不安を覚えたのだ。ともえにとって嘘であったとしてもそう信じたほうが楽なのかもしれない。それは自明の理である。命題の排反が真であれば、その命題が真であるように。物理法則が不変であるように。*1
「そうですね。あんまりてきとーな事は言えないですけど、実は、ずっと前、私にヒトのご主人様がいた気がするんです」
イエイヌの目線は変わらない。遠くに見える山と空の合間をずっと見定めている。ともえはその顔に嘘でないことを確信したようで、変に勘ぐってしまい、何かを疑っていた自分の愚かさで、イエイヌでは見えない所で、羞恥を感じているようであった。自責の念を抑え込み、世界を見据える少女にともえは同調するように尋ねる。
「気がする?」
ともえの言葉を合図に小さな脳で必死に考えた悩みを彼女に伝えようとしたらしく、イエイヌは躊躇いが完全に消失したようだった。フレンズ達は基本的に本能のまま、自分らしさのまま、死に至る病*2を抱えずに生きている。それでも、中には知恵の実を食べたフレンズもいる。イエイヌはちょうどそんなけものなのだろう。
フレンズ化によってどこまでが人間で、どこまでが人間なのかは資料や調査でも少ししか判明していない。その境界は曖昧なのだ。しかし、イエイヌは人の考えを察することができると推察される。
「はっきりとは覚えていないんですけど、なんだか、ともえさんに似てる気がするんです」
遠方を見上げていた目はともえに向き直っていた。その彼女の空漠たる笑顔はうす暗い記憶の端くれが纏わりついて離れない亡霊のように思われた。
「そうなんだ」
ともえはイエイヌの言葉を否定せずに同意する。ともえ自身の記憶に彼女の主人であった記憶もないし、イエイヌと初めて会ったはずである。しかし、イエイヌが言った言葉に自分が抱えていた不安が急に馬鹿らしくなったようで、不敵な笑みを浮かべている。
しだいに、小さかった笑い声はだんだんと大きくなると、イエイヌにも聞こえる声になった。イエイヌはビックリしているようだが、ともえはお構いなしに笑い続ける。相当おかしかったのだろう。めそめそと弱気だった自分が。彼女の無邪気な笑い声が風に吹かれて、雲のように草原中を駆け抜けた。
「どうしました。ともえさん?」
ともえの唐突な笑い声に動揺するイエイヌ。ゆらゆらと揺れる木の枝も一緒に笑みを浮かべている。考えすぎてともえは空回りしていたのだ。恐怖に打ち負け、絶望に浸っていたのだ。それがどうしても自分らしくなくって、それに本気で笑っているのだ。
「なんていうか、今までの自分が自分らしくなかったなぁっていうか~、ちょっと弱気になりすぎてったいうのかな~」
知らない場所、知らない人物。そして、謎の異形物に追われた恐怖、イエイヌの足を引っ張っていた自分への引け目。様々な思いがいっきに流れ込み、彼女の人格というダムを破壊していったのだった。
そんな自分の行動と言動を振り返り自嘲するともえ。そして、イエイヌを両手で包み込み、優しく抱きかかえる。数年ぶりに再会した姉妹のような光景がそこにあった。邪念が存在しない純粋な空気。あたりに漂っているものはまさに夏みかんのような甘酸っぱいものであった。
「わっ」
深く深く。クローズに。イエイヌもともえの気がすむように何もしず、静かにしている。
「励ましてくれて、ありがとね。イエイヌちゃん」
優しい光に包まれて、二人の影は一つになった。何も言わない。ただただ、沈黙の中、互いの心が通じ合ったようであった。
そんな時であった。目の前の草が勢いよく揺れ始めたのである。何かがやってくる予感。イエイヌは鼻で何かをかぎ取ったようで立ち上がった。ともえも同じように立ち上がり、騒ぎ立てる草をじっと見つめるのであった。
イエイヌ
四本足で歩きまして、とってもモフモフしていますよね
頭が良くて、人類が誕生してから、一番、付き合いがながいどうぶつなんじゃないんですかね
イヌは……人間よりも汗腺が少ないので、舌をだして体温を調節をしているんですよね
人間よりも体温調節が早かったりするんですよね
玉葱とかチョコレートがたべられないんですけど、そういう所もかわいいですし
おしりをこすって自分の縄張りを主張するところもかわいいですよね
いわたおねえさん
ここに出てくる人物はフィクションです。