済みません、続くか分かりません……
ちなみに、最初のシーンは映画版に準拠してます
第一話 わけがわからない
「白い方が勝つわ」
少女がドヤ顔してる。
思いっきりドヤ顔してる。
何度も言うがドヤ顔してる。
横に座ってる男にええカッコしいなんだろう。
でも人の生き死にまでネタに使わないで欲しい。
俺はその十秒後に死んだじゃないか。
「ぜ、全滅ゥ!? 十二機のリック・ドムが全滅ゥゥーーーーー!!」
俺の自慢のドム隊が次から次へと爆発雲を残して消える。
それが俺の最後の言葉になった。おまけに指揮シートからずり落ちた。
超情けない。
この戦闘、全宇宙にテレビ放映されてるんだよ。
何億人もの人が見てるんだよ!
正に公開処刑。
俺はマヌケでアホウな指揮官として末代まで語られる。
この戦争で一番恥ずかしい雑魚として。
さっきのドヤ顔少女なんてまだマシな方なんだ。テレビ画面指さしてゲラゲラ笑ってる奴までいやがるだろう。
作戦自体は間違ってない!
木馬の進路をきっちり推定し見事当て、損傷の修理を妨害してのけた。おまけに木馬がサイド6を出て来る時間まで正確に情報収集したんだ。
こちらの戦力も充分過ぎるほど用意していた。ジオンの新鋭MS、リック・ドムが十二機なんて凄いだろ。本当なら一中隊くらい相手にできるほどの戦力なんだ。
その上できっちり待ち伏せした。サイド6の戦闘不許可宙域ギリギリのところで。
これ以上俺に何ができたというんだ?
もっと理想的な戦術があるなら言ってほしい。
こんな結果になってしまった理由はただ一つ、相手が悪かったってだけの話だろ。規格外の化け物を相手にしてしまっただけである。そいつは別に俺の責任じゃない。
だがまあ戦いに負けたことは負けたんだ。俺もジオンの指揮官、結果は受け入れよう。
それで俺は死んだはずなんだが。
間違いなく重巡チベの下からガンダムのビームサーベルで貫かれ、艦橋もろとも四散したはずだ。
だけど
意識がある。
なんだかふわふわしている。そして何だこりゃと思う間もなく視界が開けた。そして一気に何かを見せられていった。
目まぐるしい。
ただしその光景は気が狂うほど早くはない。俺の脳に合わせてるのかと思うくらいに。
見えている映像は時系列がバラバラだ。過去も未来も、場所もバラバラだ。
さっきのドヤ顔も見えたものの一つだ。俺が死ぬ直前、俺が知るはずのない場所の映像だ。
ただし自分の妄想の産物だとは思えない。なぜか奇妙に理屈が合ってるストーリーでもある。原因と結果の辻褄が合っていて矛盾がない。
だがそのストーリーが不愉快なものであることは確かだ。
宇宙の戦争を高速度で見せられた。
ジオンの防衛ラインが連邦の艦隊に突破されていく。
難攻不落のソロモン要塞が焼かれていく。あっさりと上司のドズル中将が戦死する。
絶対要塞、ア・バオア・クーさえ陥とされる。
ジオンの士気は低くなく、皆は必死で戦う。MSの性能だって遜色ない。だが、数の暴力は全てを押し流す。ジオン兵たちの奮戦も虚しく、押しまくられてばかりだ。
連邦の物量作戦はそれほど凄い。
ジオンはお終いだ。
俺は少しばかり泣いた。
肉体があるのか無いのかも分からないが、少なくとも心で泣いた。
正直に言えば今のジオンの政治体制に対してそれほど忠誠心はない。ジオン公国ったって、他のスペースコロニーからしたら迷惑そのものだ。危ねえ奴が本当に危ねえことをやらかした。そんなもんだろう。それくらい俺にも分かる。
ついでにコロニー墜としなんてどんだけやり過ぎるんだ。めちゃくちゃじゃないか。
だが、そんな俺でも少しばかりは愛国心があるんだ。
スペースノイドはやっぱりスペースノイドが治めるべきなのだ。ジオンの政治を全てを取り仕切っているギレンなんか大嫌いだけれど、独立は正しいことだと思う。その理念だけは共鳴できる。
そう思うからこそ、俺はこの戦争に参加し、今の今まで戦ってきた。
多少己惚れかもしれないが、俺には少しくらいは才能があったはずだ。戦術を工夫し、連戦して実績を上げていった結果、ドズル中将から一つの機動艦隊を任されるほどになったのだから。恥ずかしながらコンスコン機動艦隊と呼ばれている。ついでに階級は立派な将官級である准将だ。
頑張ったんだ。
しかし結局俺は死に、ジオンの独立も果たされない。
最後、奇妙な見たこともないモビルスーツが宇宙を凄い速度で飛び回り、ついでに小惑星方向から何かがやって来るところまで見えた。
もうやめてくれ。それ以上何も見たくない。
なんで、歴史はそうなるんだ。
そこまでだった。
「コンスコン、どうした。聞いてるのか」
「……」
「どうした。作戦に不服か」
あれ、何だろう。目の前にスクリーンがあり、そこにはただでさえ大きいドズル中将が大写しになっているのが見える。
「だが絶対に成功させろ、コンスコン。キシリアの奴め、シャアばかり可愛がりおって。それだけならまだしも未だにガルマの仇を討てんとは一体何をしている。だが今、あの木馬が宇宙に上がって来た。地球上なら何もできんが、ここがチャンスだ。木馬を撃破し、可愛い弟ガルマの仇を討ってやる。俺はソロモンを動けんが、コンスコン、貴様に頼んだ」
「……」
「…… 何だコンスコン、なぜ黙っている。そうか、戦力のことか。MSのことなら貴重なリック・ドムをこれだけ回してやったんだぞ。おかげで今のソロモンはザクばかりだ。この数のドム、貴様の作戦能力と合わせれば充分だろう。やってくれると信じている」
同じセリフ、聞いたことがある。
今回の作戦に出撃する前だ。ほとんど同じことを聞いた。
俺はスクリーンの前に立っている。体は、ちゃんとしている!
やっと言葉を返した。
「ドズル閣下、生きて、らっしゃる?」
スクリーンに映るドズル中将が思いっきり変顔をした。
「ぶあっはっはっはー! コンスコン、お前がそんなに面白い奴だとは知らなかったぞ。そりゃ死ぬ前までは誰でも生きている。俺もまだ死んだ覚えはない。ジオンが勝利するまで死ぬものか。いや、ミネバの行く末を見届けるまで死にたくない。そんなことより明朝出撃だ。行ってこい、コンスコン!」
それでスクリーンが切れた。
周りを少し見渡したが、見慣れた景色だ。チベの通信室だ。
明らかに生きている感触、そして先ほどのドズル中将の言葉……
戻っている?
戻っている!
時間が、木馬撃破の作戦前に。
どうしてなんて考えたって分かるわけがない。しかしそうなっちゃってるとしか言いようがない。
慌ててチベの艦橋へ走る。急ぎ過ぎて息切れがするのも生きてる証し、しかし俺も少しばかり太り過ぎだな。
艦橋に駆け込むと、副司令やオペレーター達がけげんな顔を返してきた。
「コンスコン司令? 進捗状況は先ほど報告したばかりですが。リック・ドムは積み込み完了、チェックも終わってます。明朝には予定通り出られますよ。まだ何か?」
同じ時、ドズル中将は居室兼指令所のスクリーンから目を離し、ソファーにどっかりと腰掛ける。
(何か、さっきのコンスコンは変だな。いつもは何でも積極的なあいつが、全然勇ましくなかったぞ。何か気になることでもあるのか)
腹心であるコンスコンの不審な様子が気になった。
コンスコンは作戦能力が飛び抜けて高い。まるで敵の作戦が読めるかのようだ。パイロット適正はまるで無かったが、指揮官としては優秀だ。それでいながら全く臆病ではなく、参謀よりも艦隊指揮に向いている。実際、これまで何度もドズルの期待に応えてきた。とんとん拍子に出世をしたのもそのせいだ。
ザビ家でもないのに准将というのはそもそも破格の地位である。
そんなコンスコンにあれだけのリック・ドムを与えた。ガルマの仇討ちは必ず成功するはずだ。
(だいたいにして、この作戦に志願してきたのはあいつの方だろうが。キシリアのところのシャアになぜか張り合っていたからな)
しかしドズルの考えはそこまでだ。
「おおっと、いけない。そろそろミネバの風呂の時間だ。遅れるとまたゼナに怒られる」