コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第百話   悲運のメロディー

 

 

 0080年9月、ここに至る数か月、ジオンとしては地味なことしかしていない。

 

 地球降下作戦のような派手なことはせず、ひたすら連邦側輸送船団を襲いエネルギー戦略を続けていくのみだ。小艦隊による襲撃と逃走、つまりヒット&アウェイを繰り返す。

 

 そろそろ連邦にもジオンのエネルギー戦略がバレていることだろう。

 

 もはや隠すことなく、連邦が宇宙から地球に輸送しなくてはならない核燃料材ヘリウム3に狙いを絞って仕掛けている。もちろん連邦もあれこれ工夫をしながら輸送船団に護衛を付けてくるが、元々輸送の護衛をやり切るのは難しいものであり、どうやっても被害はでてしまうのである。

 計算によると連邦に渡るヘリウム3はおそらく二割以下になっているとのことだ。

 

 そこで連邦がどうするか、ジオンは高みの見物をしていればいい。

 連邦は軍事用の消費を抑えるのか、民間に供給する方を減らしたり統制をかけたりするのか、そこは分からないがいずれにせよ日干しにされつつある影響が出てくるはずだ。

 

 

 そして戦略的なことではもう一つ、ジオンは他のスペースコロニーへの施策を180度転換している。

 

 これを進めているのはキシリア閣下だ。

 今、ジオンは外政内政共にキシリア閣下の政治姿勢を反映している。そして外政面で最も変化したのはジオン以外のスペースコロニーとの宥和姿勢である。

 

 ギレン総帥時代とは全く逆になる。戦争初期、ギレン総帥の戦略に基づきジオンはサイド1、サイド2、サイド4を攻撃し無力化した。

 それらが地球連邦の方に付き、ジオンと敵対してくる恐れがあったためと言われている。

 確かにそれは多大なリスクであり、戦争途中でジオンを包囲してこられたらたまったものではない。そうなればジオンが連邦と継戦することは絶対に無理になる。更に重要なことには、スペースノイドの主権奪回というジオンの主張が空文になってしまうではないか。

 その理屈にどのくらい真実性があったのかはもはや分かりようがない。ジオンの勝手な被害妄想、あるいは八つ当たりだったのかもしれない。

 それらのサイドがジオンと同時決起どころか味方してくれなかったことだけは事実なのだが、他の事実は知られず闇に葬られた。

 

 今、キシリア閣下はサイド6とことさら友好関係を結んでいる。規則を細部にいたるまで守り、通商を続け、ジオンの信頼回復に躍起となっている。

 他にもサイド1などに存在する生き残りコロニーへ一転して援助を行っている。

 

 各サイドは歴史がある順にコロニー数が多い。

 古くからあるサイド1、2は40近くのコロニー数を持つ。

 サイド3は月の裏側に位置し、地球とは遠かったが、逆に月からも小惑星からも資材を調達しやすかった関係でほぼ同じ程度のコロニー数を持つ。更に言ってしまうとサイド3には密閉型コロニーが多い関係上実質的に使える面積は大きい。これがサイド3の国力の源泉でもある。

 その反面、サイド4、5、6はそれぞれ10に満たない程度のコロニー数しか持たず、最も新しいサイド7に至っては完成途上のコロニー1つだけだ。

 それにしても各サイドのコロニー数は決して少ない数ではなく、別にそれら全てをジオンが攻撃したわけではなかった。政治的中心、あるいは工業農業の面で重要なコロニーに絞って潰した。そして主要ではない発展途上のコロニーたちは破壊されず、そのまま取り残されている。物理的に多く被害を被ったのはルウム戦役の主戦場になってしまったサイド5だけである。

 

 未だ有人のコロニーも多いのだ。人口が極小ならばそれほど問題にはならないのだが、中途半端に多めの人口を持つコロニーが最も困る。サイド1などには人口一千万のコロニーさえ残されている。そういうコロニーはたいがい完全自給はできず、交易しなければ立ち行かないのだが、今までは戦闘宙域に指定されているので交易に出ていくことすらままならなかった。そのままでは存亡の危機になる。

 そこをキシリア閣下が改善していったのだ。

 民間船に対し安全な航路の情報を提供したり、緊急で物資の援助をしたりしている。

 

 こういった策が実を結び、ギレン総帥の頃とは違うのだとやっと認識されてきたのだろう。

 サイド6では連邦よりの中立姿勢から変化が見られた。

 

 今までは戦争に巻き込まれることからひたすら逃避していた。はっきり言うとサイド6は連邦に付きたいというのが本音なのだが、ジオンから攻撃されないためそれをあからさまに言うことはできず、嫌々中立のポーズをとっていただけだ。

 それが、ジオンの方を優遇するとは言わないまでも中立からジオン寄りの姿勢に傾いてきて、その議論がなされている。

 

 こんな機会をキシリア閣下が逃すはずはない。

 新たな包括協定を結ぼうと画策し、サイド6もそれを受け入れようとしている。

 

 そんな政治的なターニングポイントともいえる重大な節目、最後のダメ押しをするためキシリア閣下自らズム・シティを離れてサイド6に向かった。

 

 当たり前だが今回のサイド6行きは秘匿情報とされ、その護衛にはキシリア閣下の信任厚い海兵隊が当てられた。

 

 キシリア閣下は普段グラナダではなくズム・シティにいて、もはや軍務ではなく政務を執っている。そして麾下の宇宙突撃軍はひと頃よりもだいぶ数を減らしている。もう前線指揮官という立場ではないと自他ともに認識しているからだ。

 それで今回海兵隊だけを伴った。

 もちろん、そうはいっても海兵隊は今やザンジバル級リリー・マルレーンを旗艦に艦艇十一隻、MS四十機、全機ガルバルディ改を備えた強力な隊である。

 キシリア閣下の座乗するのも、サイド6への示威を考慮に入れていつものパープルウィドウではなく大型戦艦グワジン級グワリブを使っている。

 

 偶発的な遭遇戦に対する戦力としては充分と考えられた。

 

 

 

 そのサイド6への航路を九割まで消化したところで、突如グワリブに警報が鳴り響く!

 

「れ、連邦艦多数発見!! ゆっくり接近しつつあり、完全にこのグワリブを捕捉しています!」

「慌てるな。先ずは第一種警戒警報だ。それで、多数とはどのくらいなのか? 正確に頼む」

「マゼラン級五、サラミス級八を中心に駆逐艦十から十五隻! 大部隊です、キシリア閣下」

「なるほど、そうか…… これは遭遇戦ではなく待ち伏せられたようだ。まあ航路を見破られたわけではなく、私の到着時期だけ見計らったというところか。そうでなければこんなにもサイド6に近い所にはならなかっただろうな」

 

 悪夢に突き落とされたような非常事態でもさすがにキシリア・ザビ、艦橋オペレーターの方を逆に落ち着かせている。

 そして頭を巡らし、その背景にまで思考を進める。

 

「そしてこの戦力から考えれば、ルナツーが私を狙って派遣してきたとしたら少な過ぎる。おそらくサイド6駐留の連邦艦隊が近隣からかき集めて向かってきたのだろう」

「キシリア閣下、いかがいたしましょう!」

「もう一度言うが慌てるな。細かい戦術を考えずとも海兵隊に任せればシーマ・ガラハウが適切に動いてくれる。こちらは、ミノフスキー粒子を濃くされる前に救援を頼むのだ。現在ジオン部隊がいるだろう各方面に向けて指向性電波を発信せよ」

 

 キシリアは政略が得意だからといって戦術が下手というわけではない。

 その洞察力をここでも活かし、合理的な判断をする。

 

「そして大まかな方針としてはサイド6の戦闘禁止宙域に逃げ込む方策をとる。見えているだけが連邦の全戦力とは限らないからな。仮に向こうが頭を使ってもう一段の罠を張っていれば、下手な方向に逃げようとしたらそこへ追い込められ挟撃される危険がある」

「は! 進路再計算いたします」

「何とかサイド6へ辿り着く。それには現在対面している連邦部隊に勝つ必要はなく、いなしながら隙を伺えばいい」

 

 そしてオペレーターに聞こえないよう小さな声で独り言を漏らす。

 

「ふふっ、簡単なように言ってしまったが、果たしてうまくいくか……」

 

 シートに座って足を組み直す。その姿だけ見れば落ち着いた姿だ。

 

「これは難しい…… 私にコンスコンのような戦術の才があればな。奴ならこんな戦い、造作もないだろうに。いや、あれの方が異常か」

 

 

 リリー・マルレーンでも同じような判断をしている。

 

「ここまで来て連邦が…… MSは全て発艦準備! あたしも出るよ! 先手をとって叩き、ちょっとばかり怯ませてやればいい。それができたら距離を取りながらグワリブの防衛に徹する。絶対にキシリア閣下を守るんだ」

 

 

 こうして戦いが始まる。

 

 連邦艦隊は定石通り数の優位を活かし、やや散開した隊形をとりつつジオン側の頭を押さえにかかっている。

 

 先ずは長距離砲戦が主になる。ビームの光が幾度も応酬される。

 しかしそれを続ければ艦数の少ない方が絶対的に不利、そのジオン側としては流れを断ち切る必要がある。

 そうでなくともシーマ・ガラハウは得意なMS戦に持ち込む気でいた。

 普段は砲戦の真っ最中に出たりしないのだが、メガ粒子砲の合い間を縫い、次々とMSを発艦させていく。それを見て驚いた連邦側も慌てて迎撃用のMSを出してくる。

 

 たちまちMS隊同士が接触するが、先手を取った海兵隊MSがそのまま殴り込む。相手に斉射の体を取らせず強引に格闘戦に持ち込むのだ。

 ジオンのガルバルディ改と連邦のジム・カスタムが戦う。

 性能と士気ならばジオンが上、数ならば連邦が上である。

 

「チィ、こっちは四十、連邦は九十、笑っちゃうねえ。いつもおんなじパターンじゃないか。数で不利なのはもう慣れっこなんだよ!」

 

 そう言いながら連邦機を叩き落としていく。シーマ・ガラハウの技量は確かだ。

 

「いいかいみんな、孤立して囲まれることだけは避けるんだ。ガルバルディのセンサー範囲は連邦MSなんかより広く、有利な態勢をとれるはずだ。そうしながらもうちょっとだけ粘っておくれ。そうすれば連邦は根負けして引っ込むだろうさ」

 

 その通り、お互い損害を出していったが、連邦MSの方が先に撤退していった。

 この海兵隊の強さを見れば連邦側も慎重になるだろう。

 その後、シーマ・ガラハウは予定通りグワリブ付近に移動してその直掩につく。必ず始まる第二幕、それに備えるのだ。海兵隊MSの半分以上は連邦艦隊の撹乱のために向かわせたが、自分はここに陣取る。

 

 連邦が砲戦だけに頼るとは思えない。隙をみてMSを突入させてくるだろうが絶対に通しはしない。必ず守り切ってやる! キシリア閣下を護る最後の盾になるのだ。

 

 だがしかし、戦局は思わぬ方向に動いてしまう。

 

 グワリブの命運は尽きようとしていた。

 

 

 


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