コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第百一話  虚空のキシリア

 

 

 一方の連邦艦隊である。

 小手調べの第一幕でやや痛手を被った。しかし、再編とダメージコントロールを終え、再び接近する。またしても定石を外すことなく同じような隊形で仕掛けていく。

 

 もしもこの連邦艦隊の指揮官がガディ・キンゼーやエイパー・シナプスだったらこうはしなかったろう。必殺の戦術を編み出していたはずだ。

 それなら早いところキシリア・ザビの命運は尽きていたに違いない。

 

 しかし今の指揮官はそこまでの戦術能力はなかった。

 オットー・ミタス中佐、サイド6周辺宙域を担当していた指揮官である。

 決して愚昧ではなく実績もあるのだが、苦労性の性格が災いして判断に甘いところがある。

 今回の作戦は元々オットー・ミタスが主導したものではなかった。サイド6に駐留している連邦情報将校がキシリア・ザビのサイド6訪問という情報を手に入れるや否や、その殺害を緊急要請してきたのだ。連邦情報部はサイド6における政略戦で旗色が悪く、その失地回復に血眼になっていたからである。

 

 オットー・ミタスは当初反対したが、連邦情報部は強硬であり、押し切られた。

 

 それには意外なところからの圧迫も関与している。何と、部下からの突き上げも大きかったのだ。

 以前の戦いでコンスコン機動艦隊がサイド6辺りの連邦部隊をあっさり蹴散らしたことがあった。その残存艦の艦長たちが作戦遂行を強く主張してきた。

 

「かつてジオンのコンスコン大将に無様に負け、奴らが高笑いをして去って行くのを指をくわえて見ているしかなかった我らです。今ジオンの重要人物が来るのなら、それを叩いて雪辱を果たしたい! オットー・ミタス中佐、どうか出撃の許可を願います!」

 

 この声に押され、オットー・ミタスは今回の作戦に踏み切っている。ただしやるからにはきっちり戦力を糾合するのは当たり前だ。

 

 むろん作戦行動前にルナツーに問い合わせている。

 

 グリーン・ワイアットからの返事は、「臨機応変に行い給え。キシリア・ザビの殺害が可能なら積極果敢に戦い、そうでなさそうなら無駄に損害を出す前に撤収するのだ。ルナツーからの応援はとうてい間に合わない。ミタス中佐の判断に期待する」、というものだった。

 

 

 

 戦いの第二幕が始まる。

 

 それもまた砲戦からである。

 ジオン側は再び少数で劣勢を強いられながらもうまくいなし、連邦側が全面攻勢に出るきっかけを掴ませないでいる。

 いったん膠着状態になったように見えているが、ここでシーマ・ガラハウの予想が当たってしまう。

 

 死角をつくように回り込み、連邦MSの小隊がグワリブ目がけ突入してくる。

 

「やっぱり来たのかい連邦のMS、あたしが遊んでやるよ! もう戻しやしない。今度は地獄への片道切符、海兵隊隊長シーマ・ガラハウからの贈り物だ。ありがたく受け取りな!」

 

 シーマ・ガラハウの優れた技量によってジム・カスタムが墜とされていく。

 ガルバルディ改が右に左にビームサーベルを閃かせ、一機、二機と斬っていく。

 

 こうしてグワリブには決して取り付かせない。

 シーマ・ガラハウはなんとも見事な戦いを見せるが、ただしそれでも無傷というわけにはいかなかった。ジム・カスタムたちはシーマの鬼神のような戦いに恐れを感じながらも数を頼みに攻撃を続けたからだ。

 

「ふん、まだまださ。ここで諦めちゃ、ガトーに笑われるさね。ガトーだったらこんな戦い、造作もなく勝つんだろう。それなら横に立ってやると決めたあたしだ。ここで負けてるわけにはいかないんだよっ!」

 

 三度も連邦MSを撃退し、闘志は衰えることを知らないが、しかしそれでカバーできない部分が増えてしまう。

 損傷が少しずつ刻まれていく。

 ガルバルディの重要コアは守れても、手や足、肩に直撃を食らって性能レベルは確実に落ちていく。

 

 

 時間ばかりが過ぎていくが、そうなると焦れてくるのは連邦の方だ。未だMS隊からの吉報は届かない。

 砲戦で優位に立ち、おまけに攻略には充分過ぎると思われる数のMSを送り込んでいるのに埒が明かないとはどういうことか。あまりに時間がかかると、連邦側には応援が無いと分かっているが、ジオンの方にはひょっとしたらそれがあり得るのだ。

 これ以上粘られたらかなわない。

 連邦側の焦りはやや秩序のない前進となって表れてしまった。

 

 

 そこを見逃すキシリアではない。

 

 全体を俯瞰すると、連邦艦隊でも左翼方向には戦艦マゼランの影が薄く小さな駆逐艦が多かった。

 そのことは最初に見切っていたのだが、そこへ更に乱れが生じているではないか。

 ここが隙になる。

 

 ジオン側がサイド6へ向かおうとした場合、ちょうどその進行方向を連邦艦隊によって押さえられている。

 そのため、ジオン側が連邦艦隊を迂回するわけだが、あまり大きく迂回しようとするとその間に対処されるだろう。逆に左翼を攻め立て切り崩そうとすると、足止めされた上で混戦に持ち込まれるかもしれない。

 そう考え、最適と思われるコースを策定した。

 加速しながら連邦左翼のすぐ横をすり抜け、最短でサイド6へ辿り着けるコースへ向かう。

 

 キシリア・ザビの戦局判断は確かなもので、これで逃げおおせるはずだった。何も間違っていない。

 

 

 不運なことになったのは結果論に過ぎない。

 

 迂回のためにはどうしてもジオン艦が横腹を晒してしまう時間がある。もちろんキシリアとてそれを承知している。だが、この材質も機構も贅をこらした大戦艦グワジン級グワリブの防御力からすれば一発二発の直撃はかすり傷で済むはずだった。グワリブはその通り、連邦艦との撃ち合いの中で二発の直撃を受けているが何も支障はなかったのだ。

 

 だが本当に通り過ぎ、逃げ切れる前に三発目の直撃を食らった。

 それがあろうことか艦橋の直下だった。

 

 むろんグワリブの外壁はコストをかけた多重セラミック外壁、強固なものだ。見える損傷は軽微なもので、人員にも被害はない。艦橋に音と振動、そしてわずかな煙が及んだがそれも直ぐに収まる。グワジン級の空調設備はさすがに過剰なほど性能がいい。ちょっとした気圧の低下と風がキシリアを咳き込ませたが、目に見える変化はそれだけだった。

 

 ただし艦の制御の中枢となる部分にダメージを受けてしまったのだ。艦橋要員が泡を食う。

 

「あ、これはっ! グワリブが、動力系も、舵も、コントロール効きません!」

 

 簡単に言えばグワリブは進路制御を失ってしまった。

 ほんの偶然と言って差し支えないほどの運の無さだった。しかしこれは重大な事態である。

 

「なにっ! 直ちに動力炉のレベルを落とせ。暴走だけは防ぐのだ。そして補助システムを急ぎ起動させろ。手動でも何でも構わん」

 

 

 もはや細かな回避行動も蛇行運動もできはしない。艦隊戦の最中では正に致命的だ。

 連邦艦にとってはグワリブの進路を簡単に予測でき、ミノフスキー粒子のため目視の砲撃しかできない状態でもたやすく当てることができる。

 

 そしてやはり連邦艦隊はグワリブの異変に気付いてしまった。

 いいカモではないか。いっそう集中して狙い始めた。

 

 事態は急転直下だが、いつまでも呆然としているわけにはいかない。

 キシリアは他の諸将とは違い、グワリブを含めて艦にこだわるような人間ではなく、ただの道具にしか思っていない。ハードウェアには思い入れがないのだ。

 システムの回復が短時間でできないことを知るとさっさと命じる。

 

「残念だが、このままではいかんな。総員退艦して乗り換える」

 

 グワリブはもう捨てられる。その乗員は多く、6百名にも上るがそれぞれ近い発着艇を目指す。

 艦橋要員のためにもそれ専用の発着艇が装備されている。

 さすがにグワジン級ともなると緊急用とはいえ単なる脱出ポッドではなく、自力航行のできる巡視艇程度の立派なものが用意されている。

 

 

 艦外にいるシーマ・ガラハウもグワリブの異変に気付いた。グワリブの加速に伴い、いったんその外壁に取りつく格好をとっていたが、中途半端な場所で加速が急に止んだのを察知したのだ。

 

 そしてキシリア・ザビがグワリブを放棄し、発着艇で出るとの連絡を受けた。

 当然ながら発着艇の援護をするために向かおうとする。

 だがそれができない。

 

「なっ! どうしたっていうんだいガルバルディ、動いておくれよっ!!」

 

 ガルバルディは動かない。もはや重なるダメージによりエネルギー漏れが水準を超えてしまい、それを感知したガルバルディが爆散を防ぐためジェネレーターを安全停止させていたのだ。

 シーマはこれ以上ないほど焦るが、キシリアの発着艇に近付くすべがない。

 それどころか連邦艦の砲撃の余波を食らって吹き飛ばされ、いっそう距離が開く始末だ。

 

 

 そして連邦側はグワリブにとどめを刺すべくいま一度MS隊を向かわせてきた。ジオンの動きに即応した鋭い艦隊行動などはせず砲戦を継続したことや、ここでMSをまたしても投入するなど連邦指揮官は愚直なまでに定石を守る。

 

 連邦MSからの射撃がぽつりぽつりと届き始め、加速度的に数を増していく。

 

 キシリアたち艦橋要員は発着艇に乗り込み、ようやくグワリブを離れようとする。

 ハッチを開けるやいなや後部ノズルを連邦MSに向け全力噴射、加速をして遠ざかる算段である。

 だがその瞬間。

 一発のビームライフルが斜め後ろから発着艇を貫いた。

 それはエネルギーを解放し、いろんなものをごちゃまぜに吹き飛ばす。

 

 

 外壁材の一部まで巻き込みながら内部で暴れまくり、その欠片がキシリアの肩をノーマルスーツごと貫いた。

 

「くうっ、なかなか難しい場面だな。さてこういう時は何と言うべきか」

 

 鎮痛剤が効くまでとんでもない痛みが襲っているにも関わらず、キシリアは意志の力でそれを抑え込む。悲鳴を上げたりなどしない。いつもの表情から変わるところがない。

 むしろ皮肉気に自分を客観視している。

 

「まあ、後世に残るのなら何か気の利いたことでも言うのだが…… たぶんそれも無理だろう。私は身に余る地位に就き、多少は人より派手な人生を送れたことで満足すべきか」

 

 自分の怪我は重傷であり、このままでは命に関わることは薄々感じている。

 しかしそれ以前に発着艇ごと命運は尽きているのだ。

 武装もなく、半壊した発着艇で連邦MSに対し何ができよう。他の乗員は皆死んだかキシリア以上の重傷を受けて昏倒しているようだ。最後部に座っていたキシリアがまだマシだったという状況なのである。

 

 そして連邦MSたちは距離を詰め、包囲しつつある。確実に葬る気だろう。

 

「私の役割はここまでのようだ。ジオンの将来はドズルの兄者に任せた」

 

 キシリアは下手に降伏し、囚らえられれば、自分を取引材料にして連邦が優位に立つことを知っている。ドズルはキシリアのために何の条件でも飲むだろう。決して馬鹿ではないがドズルは直情で、しかもザビ家には珍しく肉親の情がある。それゆえキシリア一人のためにジオンにとんでもない苦境を招くことになってしまう。

 決してそんなことにさせるものか。

 だからここで降伏などしない。ジオンのために死ぬのだ。

 

「皮肉なものだな。ジーク・ジオン、かつてギレンの兄の演説でも決して私はそう唱えたことはない。ギレンの兄には斜に構えていたからな。しかし、この最後の時に言わせてもらう。ドズルの兄者、コンスコン、マ・クベ、シーマ、これから一緒に戦えなくて残念だが、いつまでも応援しているぞ。ジーク・ジオン…… 」

 

 

 最期は間もなく訪れる。

 今にも連邦MSからのビームで滅多撃ちにされる。出血のため意識がややふわふわしたものになっているのがせめてもの慈悲かもしれない。

 不思議と過去のことを思い出さない。こういう時には幼少期から始まって、辛いこと、楽しいこと、思い出が次々浮かんでくるものではないか。そうではなく、やっと一息ついたような安堵感に包まれている。なぜだろう。ジオンを任せられる者たちがいると知っているからか。

 

 こうしてキシリアは静かにその時を待つが、いっこうにそれが訪れてこない。

 発着艇内にはもはや空気はなく煙はすっかり晴れている。その外壁の破れを通して外を眺めてみると、やはり連邦MSの姿が一機、二機、小さく目に映る。

 

 

 しかしどうしたことか、そこからビームが向かってこない。おかしなことだ。

 

 そう思っていると、とんでもないところからビームが走ってきたではないか!

 何も見えない虚空からやってきたそれは発着艇ではなく、囲んでいる連邦MSの一機を貫いた。一撃で爆散させる。

 

 もう一本、更にもう一本、立て続けにやってきては連邦MSに直撃する。まるで光の矢、それが次々と串刺しにしていくのだ。

 ただの一発も外れることがない。

 

 

 

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