コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第百二話  野心の方向

 

 

 激しい白光の明滅が続いていく。目のくらむこの光は全て連邦MSたちの断末魔の花火である。

 

 どうしたことかと思い、キシリアがこの原因になったビームの来る方向を見るが何もなかった。

 キシリアの意識がわずか薄くなっているからではなく、いくら見ても味方MSの影も形もないように思えた。ただし目が慣れるとかすかに見えてくるものがある。

 

 

「何だと、赤いMS…… 赤い彗星、キャスバルか!!」

 

 

 それは赤い彗星だ。

 

 みるみるうちに迫り、そのとんでもない速度を目の当たりにする。

 実はキシリアは映像や識別信号の輝点でしかシャアの戦う姿を見たことがなかった。そうではなく直接目で見るとその凄さがはっきり分かる。かすかな点から見る間に大きくなっていく。

 

 そして接近と同時に連邦MSを狙撃しては倒していく。

 もちろんこの思わぬ災厄の出現に算を乱しつつも、連邦MSとて反撃を試みている。命懸けで激しい弾幕を張っているのだ。しかしそんなビームが幾つ放たれても、赤い彗星は軽く回避し、かすらせもしない。

 やがてそれも終わりを告げた。

 発着艇を囲んでいた連邦MSはものの見事に全滅させられた。連邦MSからの脅威は消え去ったのだ。

 まさに伝説。圧倒的な技量の差がある。

 

 

 キシリアとしても笑ってしまう。この事態、どう捉える?

 

 赤い彗星、シャアのゲルググJ改は連邦MSを全て片付けても勢い余ってキシリアの発着艇を通り過ぎ、そこから大きくカーブしながら戻ってきた。

 そして発着艇に接触する。

 ゲルググのハッチを開け、自分が発着艇に移り、そこでキシリアの姿を認める。

 

「これはキシリア閣下、怪我をしておいでですね? 直ちに救助いたします」

「…… お前が、なぜ」

「グワリブからの緊急応援要請をキャッチして急行したのです。このところサイド6からサイド2にかけて連邦の輸送が多く、私はちょうどそこで作戦行動中でしたので。もう少し早ければよかったのですが、そこまではご容赦のほどを」

 

「私はそんなことを聞いていない! お前がなぜ私を助けるかを聞いているのだ」

「どうされました? キシリア閣下。妙なことを。閣下をお助けするのは当然ではありませんか」

「私の言う意味が分からぬお前ではあるまい」

「 …… 」

「おあつらえ向きのチャンスだったではないか。ちょっと手を抜くだけで私の命はなかった。ザビ家の人間をまた一人消せたのだぞ。しかも誰しもが納得できる事態で、誰もお前を疑ったりしない。復讐を遂げるにはまさにこれ以上ない舞台だろう」

 

 

 この発着艇内には、他に会話を聞いている者はいない。

 連邦MSに撃たれた惨状では、キシリア以外に意識を残している人間がいないからだ。それをキシリアは見て取ってから話している。更に通信リンクをシャアだけに向けているという念の入れようだ。

 

「お戯れを。キシリア閣下」

「もうすっとぼけるのはやめたらどうだ。シャア、いやキャスバルよ。ふふ、さっきは驚いた。凄いスピードのMS、正に連邦の恐れる赤い彗星だ。しかし小さい頃のお前はブランコのスピードにさえ泣いていたのだぞ。憶えているか? 怖がりのキャスバル坊や」

「何を言われているのか、さっぱり分かりかねますが、閣下」

 

「あくまでそう言うか…… キャスバル、私はお前を排除するつもりはない。むしろ討たれてもいいくらいに思っている。なあ、そろそろ本音を聞かせてほしいものだ」

「やはりお怪我で混乱されているのでは」

「お前が貴族家たちに渡りをつけ、何かを画策しているのも分かっているのだ。私の裏をかけるものか。ここで隠しても意味はないぞ」

「……」

 

「お前にとっても瀬戸際だ。本音で話せ」

 

 

 キシリアはシャアのはぐらかすような態度に関係なく自分の言葉をかぶせ、あくまで迫る。

 この機を逃したら二度と向き合えないと分かっているのだ。

 

 そう考えたらこの命の危機さえ望外のチャンスにさえ思える。

 とにかく本音を聞きたい。結果がどう出るかに関係なく、どうせ拾った命である。シャアの気が変わって殺されることになっても、それはそれで満足だ。

 

「…… キシリア閣下、そこまでお分かりでしたか。それは失礼しました。ですが貴族家のことは、特に閣下が懸念されることはないでしょう。あくまで言質は取らせない交流レベルに過ぎないレベルなので。敢えていえば現状の不満分子に一定の希望を持たせるよう、匂わせているだけのこと」

「? 何だその貴族に持たせている希望とは」

 

「もしもスペースノイドの希望に、今のジオンが応えらえないとしたら、言い換えればジオンの存在が害悪になるとしたら、一気に現状を変えるという選択肢です」

「難しい言い方をするものだ。それはクーデターと何が違う。そして今私を殺さないこととまるで繋がらない」

「閣下、私はあくまでこの先ジオンがどういう存在であるかを見ているのです」

 

「この先とは…… つまり今すぐ行動するわけではないということか? しかしこの先ジオンがお前の目から見て害悪になったらどうする。良からぬものと判断した時には」

「その時は、その対応を」

「自分が表に出て新秩序を打ち立てる、ということか。そう理解していいのだな。貴族どもはそれを円滑にするためにいったん利用し、後は捨てるといったところだろうか。いや政略も優れている。そしてクーデターをやるなら失敗など考えてもいないところがまた頼もしいものだ。さすがにダイクンの子供だと私から褒めてやってもいい」

「別にそう決まったわけではありません。今のジオンがスペースノイドのためでありつづければ、問題はなく」

「そして取って代わる必要もなく、か。つまりはジオンが正しければ自分は影のスペアのままでいると。そういうのが控えてるとなれば私もいっそう襟を正す必要があるな」

 

 

 一応の回答を得てそう言ったが、これでキシリアが完全に納得したわけではない。シャアの考えが意外なほど良かったことには安心したが、肝心なことを聞いていないからだ。それはもちろんザビ家のことである。

 

「私はクーデターを起こすのが既定路線なのかと思っていたが、予想はいい方に外れたようだ。だがな、キャスバル。それではザビ家が残ってしまうぞ。それでもいいのか。お前の復讐とやらはどうした」

「ザビ家についてはその後の問題でしょう。もちろんジオンを倒すならザビ家も倒さざるを得ませんが」

「なるほど、もうザビ家はオマケというか。ふふ、軽んじられたようだが、愉快と言えば愉快だ。キャスバルはジンバ・ラルの呪縛を既に解いていた。もうスペースノイドの将来だけを見ているとはな」

 

 

 キシリアはやっと安堵できた。シャア、いやキャスバルは復讐だけを考え、狭い視野のままで成長を止めていることはなかったのだ。スペースノイドのためという理想の片鱗を掴もうとしている。

 今はまだダイクンのような大きさも度量もないかもしれないが、些事を捨て、そちらに向かおうとしているのだ。

 

「ただしキャスバル。その言葉だけで納得はできない。おかしいではないか。そう短期間に人の心は変わらない。何がお前を変えた」

「……」

「私はな、ザビ家への復讐が妥当かどうか、弁明も何も一切お前に話すつもりはない。それはザビ家の行動をしっかり見て、曇りのない目をもって自分で判断してほしいと願うからだ。ただし急にできるものではないとも承知している。お前が変わった理由を正直に話せ」

 

 

 これにはすぐにシャアも答えられない。

 自分でもそれを考えたことがなかったせいだろうか。

 

「一つ言えば、地球降下作戦でコンスコン大将と一緒に戦えたことが転機と言えるでしょうか。コンスコン大将は戦いを恐れず、そして正々堂々と戦う。驚いたことにコンスコン大将だけでなく、その部下の一人一人まで全くその通りに」

「…… そうか、そうだろうな。私にも分かる」

「もっと驚いたことには、能力があっても無駄に戦うことがない。コンスコン大将は常に戦果よりも義を見据え、皆にとっての最善を考え、更には虐げられたものを解放する」

 

「なるほどな。はは、笑いたい気分だ。私はな、キャスバル、お前がコンスコンに感化されるのを願ったときもあるのだぞ。コンスコンは、昔からそうだ。これからも変わらないだろう。もっともっと感化されるがいい」

「…… あまり似過ぎるのもよくないことです」

「まあ私が思うに、それが原因というよりは、発端なのだろうな。お前は気付いていないかもしれないが元から器があったのだ。人の上に立ち、未来に導いていくという器だ。その才能がお前にはある。最初から素直に伸ばせば良かったのだがこれからでも間に合う」

 

 そして微笑みのままキシリアは申し渡す。

 

「キャスバル、話を戻すようだがそんなお前がジオンを見定めるのは全く構わない。むしろ重畳だ。スペースノイドにとって最善が為されるということは、ザビ家の存続に関わらず正しいことだからな」

「閣下までコンスコン大将に感化されましたか」

「あ、そうか。私までが。いやキャスバルの冗談だろう。そうではないと思いたい」

 

 ここで話に時間を使ってしまったことを思い起こし、シャアは急ぎつつキシリアとまだ命のある要員を救助していく。

 

「ともあれお急ぎを。ここら一帯は今ララァ少尉が安全を確保していますが早いに越したことはなく」

 

 

 そしてシャアは間もなくキシリアを捜索していたシーマ・ガラハウと出会い、そちらに託す。シャアはそこで離れて自分の艦隊に戻る。

 シーマは大破状態のガルバルディのままだ。なんとかガルバルディのシステムを手動に置き換えて再び駆動させていた。もう戦闘はできないが曳航して救助はできる。

 

 最も近くにいたムサイを見つけ、そこに移乗し、キシリアの治療がやっと始められる。

 遅くなったことを詫び続けるシーマを怪我をしているキシリアが逆に宥めている。

 

「キシリア閣下、これほどのお怪我を…… 海兵隊が護りきれず申し開きもできません」

「いい加減しつこいぞシーマ。もう言うな。それにこのアクシデントは望外の収穫もあった。いやそれはとてつもなく大きかった。詳細は省くが悪いことばかりではなかったのだ。それに私こそお前の方に連続戦闘を強いてしまい、疲労は限界のはずだ。休むといい」

「いえ、ガルバルディを乗り換え、直ちに出撃しませんと」

「まさか。もう安心だろう。慣性航行で、今はぎりぎりサイド6戦闘中止宙域に入った頃だ。連邦艦隊も手出しするまい」

 

 何ともいえない表情をしてシーマが伝える。

 

「それが、実は連邦艦隊は追撃を諦めておらず」

「何だと!? 連邦は何を考えている!」

 

 

 


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