コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第五章 暁の新世界
第百四話  発動


 

 

 0080年11月、ズムシティで開かれた緊急会議は重い雰囲気に包まれている。

 集まったのはもちろんジオンを支える将官級の人間である。以前の将官会議とは違い、ノイエン・ビッターやマハラジャ・カーンといった面々が増えている。

 

 ここではキシリア閣下のもたらした情報、はっきり言えば連邦が建設中のコロニーレーザーにどう対処するかが議題となる。他のことはどうでもいい。

 

 

「初めに、この会議を招集した私から捕捉説明をさせてもらう。その後もサイド6から追加の情報を引き出したのだ。ジオンにとってよろしくないことばかりだがな」

 

 そう言ってキシリア閣下が話を始める。

 コロニーレーザーの重大性については今さら話す必要はない。ここにその意味するところが分からないような者、または現実から目を背けるような者などいるはずがない。

 それでも、皆はこれ以上悪い情報があるのかという渋い表情を作る。

 

「それはコロニーレーザーの性能だ。判明している限り、我がジオンのソーラ・レイよりもはるかに進化している。威力もそうだが、連射性能も優れている。具体的には6時間もあれば次が撃てる目算だそうだ」

 

 

 これは思った以上の脅威ではないか!

 

 戦術レベルでの脅威が段違いに跳ね上がる。

 具体的な情景を思い浮かべれば、そうなる理由はすぐに分かる。そんな短時間で連射されるのなら、その合い間にジオンの艦隊やMSが取り着くまで前進できるか難しくなるからだ。コロニーレーザーの直掩戦力にほんの少しでも足止めされたらそれで終わり、辿り着くことすらできずに艦隊ごと蒸発させられる運命が待っている。

 つまり機動戦力で攻略するのははなはだ困難ということだ。

 大半が犬死にしてしまうのを覚悟の多方面特攻でもするしかないではないか。それはもはや戦いとも言えず、現実的ではない。

 

「そしてもう一つ、そのコロニーレーザーが完成するのは約二ヶ月後に差し迫っている」

「そんなに早く!?」

 

 誰もが異口同音に呻きを漏らした。

 

 早すぎる!

 連邦の物量はやはり侮れない。ジオンとしては本当に今すぐ行動しなければならなくなった。

 

 

「キシリア、防御はできんのか。Iフィールドはどうだ。ビグザムはマゼランの主砲を浴びてもなんともなかったぞ」

 

 ドズル閣下が望みをかけてそう言ったが、その質問に対してはキシリアの代わりにマ・クべが答える。

 

「ドズル閣下、それは無理でしょう。Iフィールドを量産化できるかどうかの問題ではなく、原理的なものです。Iフィールドはあくまで粒子を拡散し、捻じ曲げる兵器、メガ粒子砲相手には有効でも純粋なエネルギーであるレーザーには効果がないと思われます」

「そうか…… で、では鏡はどうだ? レーザーとはいっても、要は光であるわけだ。何かで反射させてしまえばいい」

「コロニーレーザーほどの威力になると、100%の完全反射ができない限り紙のように破られるだけです。もちろんその線で研究はしますが2ヶ月で開発、実装はとうてい無理だと申し上げます」

「どうあっても防御は無理だということか。厄介なものを……」

 

 

 その方向の希望はあっさり砕かれてしまった。更に戦術の幅は狭められ、攻略が絶望的になる。

 ここでマ・クベはキシリアの方に向き直り、続けての発言許可を求めてきた。

 技術畑のマ・クベとしたら見逃せない疑問があるのだろう。

 

「キシリア閣下。コロニーレーザーの性能の話に戻りますが、何よりも肝心なのは射程ではありますまいか。その近辺に絶対防衛拠点を設けるためだけのものか、あるいは広くサイド2とサイド6を支配するためのものか、つまり射程により想定される連邦のコロニーレーザーの運用方法が決まるでしょう」

 

「さすがにマ・クベ、合理的にものを考える。だがサイド6もそこまでの情報はなく、答えはまだ明確ではない。ただし最悪の想定はあるのだ。驚くべきことにこのサイド3、つまりジオン本国を撃てるということも含めて」

「な、何ですと!? そんな馬鹿な、不可能です! キシリア閣下、それはレーザーの威力、届くか届かないかの話ではなく、照準が付けられないという技術的な問題からです。レーダーの使えない今の状況では、いくら直径6kmのレーザーでも針の先のようなもの、何十万kmも離れた他のサイドのコロニーまで狙えるはずはなく」

 

「…… それがな、マ・クベ、残念なことを知らせるようだが、照準の問題について連邦はうまい解決策を考えたらしい。やり方としては出力を極限まで絞り、例えば1%のまま撃って、当たりの反応が出たらそのまま出力を上げて再度撃つという方法だ。もちろん外れたら少しずらしてまた同じように試し撃ちをするだけのことだ」

「そ、そんな……」

「驚くほど単純なやり方だろう? だが確かにこれならどんなに遠くへでも照準が可能になる」

「しかし、それこそ技術的に実現は難しく思います。なぜなら出力を下げる方に調節するのはかなり困難で、レーザーが不安定になり、発振自体が無理になります」

「それには連邦も苦労していたが、天才的な技術者がいたので実現の目途が立っているらしい。なんでもフランクリン・ビダンという技術者だそうだ。そこまでがサイド6が把握していた情報になる」

 

 

 細かな技術の話はいい。

 もはや最悪だ。

 

 連邦がこのジオン本国をあっさり攻撃できるかもしれないのだ。手出しのできない彼方から、ジオンはその中枢部へ一方的に攻撃を受ける。それも一撃必殺の恐るべき威力で。

 

 あと二ヶ月、それまでの間にこの脅威を片付けなくては最悪ジオンは終わる。

 これまで二年近くに渡った連邦との苦戦は何だったろうか。その努力、犠牲が全く無に帰す。そしてもちろんジオン独立の夢は砂のように潰えてしまう。

 住民を多数含むコロニーを破壊されるという戦略的攻撃を受けたら白旗を上げて無条件降伏するしかない。仕方がないのだ。国民の命の大半が失われることを考えたらそれ以外の選択肢などあり得ない。

 むろん人道的に見れば悪逆非道な戦略兵器ではある。

 ただしそれもジオンが早期降伏しないからだと言われれば何も言い返せない。また今さらジオンが言い立てられる立場でもない。

 

 

 ここからは活発な戦術談義がなされた。

 この場に集っているのは誰もが前線にいたことのある将帥たちである。この状況でも策の一つや二つ考え出すことはできる。ただしそれが上手いものかどうかは別だ。初めに荒唐無稽なものを淘汰し、やや可能性のありそうなものを絞り、しかし討議を進める中で問題が見つけられて却下されていく。結果的に使えるものはほぼ残らない。

 

 

 こんな焦りばかりがいや増していく会議室の中で、諸将の間に共通の認識が立ち昇っている。

 

 いや待て。

 なんとかなるのではないか?

 絶望には早い。

 あまりに困難な事態、それでも対応する戦術を編み出す者がいるのではないか?

 

 その者の名はコンスコン。

 コンスコン大将、ジオンにおける最高の戦術家、そして常勝不敗の名将でもある。

 

 皆はコンスコンが何を発言するか、何の策を出してくるか、そこに気をやっている。

 

 

 

 いやあ何とも言えない空気になってきたな!

 俺が一応の案を言うしかないじゃないか。もしも皆の期待を外したら、笑ってナシにしてほしいものだ。

 俺の内心を知ってか知らずか、ドズル閣下がいきなり話を振ってきた。

 

「とりあえず、何か言え。コンスコン」

 

 短かすぎますドズル閣下!

 そんな直球では前ふりの間が取りにくいではありませんか。

 

「で、ではドズル閣下の指名に従い、案を言いましょう。二ヶ月以内にコロニーレーザーを破壊するのが絶対条件。それを過ぎれば正に難攻不落になる以上は。むろんその前に仕掛けるとしても、連邦は艦隊を出して迎撃してくるでしょう。それを一気に撃滅しなくてはならないと」

「それはそうだ。だからどうするという話だ。しかし今艦隊同士で正面決戦をしても勝てないぞコンスコン。どうしても戦力差があり過ぎる。時期尚早だった。エネルギー戦略で連邦を弱らせるにはまだもう少し時間が足りない。タイミング的に最悪だ」

 

「いえ、ドズル閣下、最悪というには下には下があります。連邦がコロニーレーザーを守れる戦力をがっちり確保した上で、残りの艦隊を使って時間稼ぎをしてきたら。連邦の戦力はジオンの軽く三倍以上、やろうと思えばそれも可能でしょう。だらだらと時間をかけられるだけで戦略的にジオンは敗北します」

「…… もはやどうにもならんではないか。まるでジオンが勝つ可能性がない」

「そうさせないためには、敢えて連邦艦隊をまとめておびき出すという手間をかけた上で、潰さなくてはなりません」

「コンスコン、ジオンの実力ではどっちかだけでも無理だ。それなのに両方やるなど」

 

「ドズル閣下、実はその二つは別のものではありません。おびき出し、しかも叩く。それをどちらも成すのは、戦う場所をこちらで設定するのと同義です。そして戦場をジオンが決めるためには、実はたった一つ、いえたった一回しか使えない奇策があります」

「何だと! そんなものがあるのかコンスコン!」

 

 ドズル閣下だけではなく、聞いた者はみな驚くしかない。そんな策が存在するのだろうか。詳細を聞けば更に驚きは大きくなる。

 

 

 

 

 それと同時刻、連邦軍ルナツー基地ではグリーン・ワイアットが紅茶を嗜んでいる。

 機嫌は悪くなかった。

 それは紅茶の味がいつもより良かったというだけではない。

 

「ステファン・ヘボン君、順調のようだね。10日前に量産開始にゴーサインを出したが、特に支障もなく進んでいるようだ。ロールアウトしている機体が増えている」

 

 それが何を指すか言うまでもない。

 グリーン・ワイアットの肝いりで始まったルナツー独自開発のMS、ジム・クゥエルのことである。

 

「実地テストの結果も予想以上の素晴らしさ、これで連邦のMS戦力に問題はなくなる。今まで長いことジオンのガルバルディとやらに苦しめられてきた。さすがの高性能でこちらの主力機ジム・カスタムでは一歩及ばなかったからね。しかし、このジム・クゥエルなら大きく凌駕する。いや、圧倒できる」

「ジオンも驚くことでしょう。今まで数の差を質で凌いできただけに」

「そうだね。それで連邦は幾度勝利を取り逃がしてきたことだろうか。だが、これからジム・クゥエルの数を揃えていけばもはや負けることなどあり得ない。ジオンは質も量も圧倒され、全ての希望をへし折られることになるのだから、彼らが気の毒にさえなるね。ステファン・ヘボン君」

 

「そうですが閣下、もしかするとそれさえ出番が無いかもしれず……」

「君の考えていることは、あれのことだろう。まあ上層部もとんでもないことを考えたものだ。巨砲主義の亡霊だよ」

 

 グリーン・ワイアットは少しばかり眉をひそめる。

 決してそれに賛成しているわけではないことが如実に分かる。

 

 

 

 

 


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