ジオンと連邦の大会戦、その場はサイド5ルウムと定まった。再びそこで両軍が激突するのだ。
第二次ルウム会戦が始まる。
「向こうはかつての戦いにあやかってでもいるのか……」
「パウルス中将、二度目はありません。今やこちらのMS戦力は充分、以前のようなことにはなるはずがなく、今度は連邦が勝ちます。しかし冷静さは必要でしょう。欲を出さず、ソーラ・レイを叩くだけで目的は達成できること、、そのことも忘れてはなりません」
「モニカ・ハンフリー参謀長、その通りだ。あのソーラ・レイをとにかく損壊させる」
緊張の中にもしっかりと指令を伝える。モニカ・ハンフリーが練った案に沿って、パウルス中将は艦隊を動かす。
「全艦に伝える。相手のソーラ・レイを過度に恐れる必要はない。連射はできず、事実上一回しか撃てない性能だ。しかもジオンは最終的に連邦のコロニーレーザーを狙っている以上、ここで軽々しく撃ってくることはない。その時点で向こうの目論見は潰えるからだ。こちらは半包囲の陣形から攻勢をかけ、突破できそうなところから突入し、ソーラ・レイを破壊する」
連邦艦隊はジオン艦隊とソーラ・レイの正面ではなく後背に回り込み、仕掛け始める。
それはもちろんジオンが敗北を悟った後、破れかぶれのソーラ・レイ発射をしてくる可能性に備えてのものだ。その可能性はほとんどないがゼロでもない。
連邦艦隊は、重いソーラ・レイは簡単に進行方向を変えられないのを見切っている。
おまけに陣形を半包囲になるよう開いていれば、よもや撃たれても損害はさほどではない。これで連邦側は万全である。
ついに両軍接触、激しい戦闘が始まる。
艦からのメガ粒子砲が鋭く飛び交い、局所的にはMS同士の格闘戦も展開される。いったん始まった戦いは広がりを見せていく。
「どうだ、ライラ。その機体の性能は最高だろう。こっちの04小隊も新鋭機をもらって皆ご機嫌、負ける気がしないと浮かれてやがる」
「バニング大尉、こっちも良好、何も問題ない。確かにこのジム・クゥエルの反応性の良さには驚く」
「そうか、だが言っておくぞライラ、病院から復帰したばかりのお前さんには敏捷なMSの方が体に負担がかかる。無理をするな」
「余計なお世話…… ではない。感謝する。しかし大丈夫だ」
「おっ、やけに素直じゃないかライラ。いや無駄口を叩いている場合ではないな。この辺りは古戦場、デブリが多い。戦う以前にデブリを撃って排除するだけでも一苦労だ」
「確かにデブリが多い…… もしかするとそれがジオンの狙いか? それはともかくバニング大尉、奴が見当たらない。こんな戦場で見つけられていないだけかもしれないが、奴なら目立つはずなのに」
「奴? ああそうか。サイド6の湖で会ったあいつのことだな。ガトーとかいうライラの騎士か。妬けるぜ。そうだな、見えていない。いやそればかりの話ではなく、ジオンの奴らはみなへっぴり腰で歯ごたえがない」
連邦側の大軍を見てジオンが萎縮してしまったような戦いぶりであったが、全体の戦況としては互角で推移した。
それは連邦側の単純なミスによる。
そのことを最初に気付いたのはダグラス・ベーダー中将だった。
万が一の場合の司令部全滅を防ぐため、ダグラス・ベーダーは指揮の執りやすい八十隻ほどの分艦隊を編成し、そこに移っている。
「これは…… 未だ圧倒できないのは陣形が開きすぎなのだ。これでは我らの数の優位を活かせない。パウルス中将も参謀長もやり手だが、やはり宇宙戦の経験が無いというのがこういう場面で現れるのだな」
実際、パウルス中将は地上戦しか知らない。
そのため半包囲を広げ過ぎたのだ。
宇宙での包囲戦は二次元ではなく、三次元であるからには広げると急激に密度が薄くなり、局所的に数の優位を失ってしまう。
それいうことをよく知るダグラス・ベーダーは、ジオンもまたそれに気付いて各個撃破をかけてくるのを危惧する。そのため、手持ちの戦力で強引に修正する。連邦の艦列の薄いところへ入り込み、補強にかかっていったのだ。
むろんそれを指摘されたパウルス中将も即座に修正する。
「なるほど、助かった、ダグラス・ベーダー中将。では陣形をもう一度最適化しよう」
連邦艦隊は今一度態勢を整え、万全にした上で尚も多方面からジオン艦隊を攻め立てる。
ついにジオン艦隊は破綻した。
やはり最後は数の違いがものをいう。
ジオンの三倍近くにもなる数の連邦艦隊に長く抗していくのは無理だ。連邦艦隊を突破したり乱したりすることもできないうちに疲労が増していく。
ジオンの予備兵力は早々に尽き、防御陣の破れをもはや修復できない。
パウルス中将はここを勝機と見切った。
「よし、ジオンは崩れた! そこへ向けて突撃、ソーラ・レイを破壊するんだ。破壊自体はそう難しいことはない。外壁にちょっとでも破れを作ってしまえばそれでいい。そうなればエネルギーは貯められず、レーザーの発振などできなくなる」
この指示を受けて真っ先に突撃したのはやはりダグラス・ベーダーだった。
猛将にふさわしく一直線にジオンの艦列を撃砕し、ソーラ・レイを至近に臨むところへ辿り着く。
ソーラ・レイ、元は通常の居住型コロニーである。その外壁を破るために必要にして充分な攻撃を用意する。五隻ほどのマゼランを並べた上で主砲を同調させ、集中砲火をかけるのだ。
マゼランから一斉にメガ粒子砲が放たれた。
ソーラ・レイの一ヵ所に着弾する。そこからいくつものまばゆい光が飛び散り、それが終わると結果が分かる。
外壁にはっきりと分かる裂け目ができている。そこには明らかに内部にまで到達している穴が開いてしまっているではないか。
ソーラ・レイの機能は失われてしまった。
もはやレーザーを撃つことはできず、ただのガラクタに成り下がった。
これにより連邦艦隊の目的は達成されたのだ。局地的な意味だけではなく、戦略的にも勝利を収めた。もう連邦側のコロニーレーザー建設をジオンが妨害する手段はない。
ジオン艦隊はその結果に茫然自失しているように見える。次には戦いを諦めて逃げるようだ。
算を乱し、連邦艦隊から遠ざかるよう後退していくではないか。
「すみやかに追撃戦に移行する。ただし、逆撃には細心の注意を払い、無理をしない範囲で行う。ジオンはもはや後がない。もしかすると体当たり特攻すらあり得るからな」
もはや勝利しているが、それをいっそう完全なものにするため連邦側は追撃をかける。
ここでジオン側は妙な妨害をしてきた。
連邦艦やMSに直接的な損害を与えるものではないが、足を鈍らすには効果的なものだ。
「報告します! 進路上にデブリが急激に増えています!」
艦橋に届く報告にモニカ・ハンフリーが対応する。
「ここにきてデブリが急に増える…… いいえそんなことはない。これはきっとジオンの小細工、至急調査しなさい」
「判明しました! ジオンの欺瞞工作です。バルーンとも違いますが、見かけはデブリに見える障害物を作っているようです」
「排除は可能?」
「爆発物ではありませんので排除はできます。少し厄介ですが」
それはバルーンではなく泡状のプラスチックのようなものだった。バルーンとは違い、撃っても破裂して消えることがなく、弾が通過するだけでそのままとどまる。
面倒なことに、ルウムのこの辺りは前回の会戦の残滓として浮いている本物のデブリも多いため、見分ける手間が必要になる。この欺瞞の物なら軽いので当たってもどうということはないが、それと間違って本物のデブリに当たったら大変だ。MSなら一瞬で大破である。
排除したり避けて通るのが無理というわけでもないが、連邦艦隊とMSの足止めになり、その隙にジオン艦隊はやや後退することができた。
ただしソーラ・レイは彼方に捨て置いている。
確かにレーザーの撃てない今となってはジオン艦隊にとってソーラ・レイはただのお荷物、利用価値は何もなく護るべき意義はない。
やっと障害物を抜け、それを後にして連邦艦隊が前進する。充分にジオン艦隊に追い付けると判断してのものだ。
ジオン同様、価値のないソーラ・レイには目もくれない。
連邦艦隊が再びジオン艦隊を捉え、最後の殲滅戦が始まろうとした時のことだ。
突如、異変が起きた!
「パウルス閣下! こ、後背より敵襲!! ジオンMS多数接近、間もなく後衛が取りつかれます!」
「な、何だと!? 後背からとは、何も無かったではないか!! それがもう至近に? いやそれを言っている場合ではない。直ちに弾幕を張れ! MSも回し、迎撃させろ」
しかし連邦艦隊がジオンMSの餌食になる方が早い。完全に後手に回ってしまう。
パウルス中将が驚くのは当たり前だ。
ジオンのMSが突如として襲ってきたのだ。まるで魔法のように思いもしない方角から。
「閣下、分かりました! ジオンMSは何とソーラ・レイから出ています! 最初から内部に潜んでいたとしか」
それは艦橋オペレーターの言う通りだった。
ジオンのMSはソーラ・レイの開口部から出ている。それも二百機に及ぶほどの数だ。
考えるまでもなくジオンの大型空母が内部にいたのだろう。
「やられた!! ソーラ・レイはレーザーを撃つためのものではなかった! 全てはジオンの策、最初からこの艦隊を狙った罠だ。こちらの油断を誘い、奇襲をかけるための入れ物に使っていたのだ」
「そ、そんな、MSを中に隠して持ってくるとは、まるでトロイの木馬では」