コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第百九話  散るべき時に

 

 

「このままルナツーに撤退してはならない! そうすればジオンは必ずサイド2に長駆し、コロニーレーザーを潰すだろう。そうさせないよう、こっちも進路をサイド2に取れ」

 

 そうダグラス・ベーダー中将が言う。もはや連邦艦隊司令部は機能不全、指揮権を移譲されたダグラス・ベーダーが基本方針を決め、通達する。

 さすがに反転攻勢という無謀なことはしない。

 だが戦略的に重要である連邦コロニーレーザーを守るのを諦めたわけではない。

 

「各艦、損害を調べ、至急報告しろ。特に推力が保てるかどうかと応急修理ができるかについてだ」

 

「報告します! 残存艦、370隻。しかしその8割がたに損傷があります! その中でも、出力低下を余儀なくされる中破以上がほぼ半数に及ぶかと。数時間の応急修理ではあまり変わらないと思われます」

「何だと…… そんなにか。これは思った以上に損傷艦の率が大きい。派手にやられたな。仕方ない、最大速力でも艦隊行動についてこれないほど損傷を受けた艦は大胆に廃棄、機動力を重視する」

 

 

 連邦艦隊の行動に、すぐさまジオンも応える。

 今度はジオンが追撃していくのだ。ここで連邦艦隊を逃したらコロニーレーザー破壊が成らず、詰んでしまうのはジオンの方だ。戦略的に瀬戸際なのはジオンである。

 まだまだ連邦には戦力があり、予断を許さない。

 

 ここからはお互い神経を使う戦いになっていく。

 内容的には追うジオンの方が有利なのは当たり前、連邦側に多く損害が積み重なっていく。

 このままではいけないと判断し、ダグラス・ベーダーは思い切った方法に出る。

 

「損傷艦だけでいい。50隻ほどの部隊を作り、それを率いて逆撃に出るぞ。残り全艦はいったん広く展開し、全速でサイド2へ行け。ただし再び追いつかれるようならルナツーへ転じろ。奴らの狙いはあくまでコロニーレーザー、その時点で追ってくることはなく、無事に辿り着けるはずだ」

「閣下自らがその指揮を!? それではご自身が捨て石になると……」

「俺は本当なら以前の戦いでジーン・コリニー中将と一緒に果てるべきだったのだ。それが延びただけだ。ここまで命を永らえたのは、きっとこの時のためだったのだろう」

「まさか、中将、お止め下さい!!」

「もはや言葉は不要だ。散り際は心得ている」

 

 そして連邦の猛将ダグラス・ベーダーは再び生きて還らぬ突撃に出る。

 勢いに乗るジオン艦隊150隻も、鋭い逆撃を受けていっとき慌てさせられた。

 

 

 ただし、ジオンにも豪胆で鳴る勇将がいる。

 

 連邦艦の命知らずの突撃を受け止めてさえ、決定的に崩れることはなく、突破や分断を許さない。

 それはエギーユ・デラーズ少将であった。

 

「思いっきりのいい逆撃、しかも士気が高い。今向かってきたのは連邦の指揮官か…… 漢だな。ここに至って無謀という言葉は失礼だろう。儂も立場が逆なら同じことをする」

 

 そして武人の心は武人が知る。

 たまたまデラーズ艦隊のところに会敵したのはたぶん運が良かったのだろう。他ならば無駄に降伏勧告を発していただろうから。

 

「皆、武人の最期と思い、討ち果たしてやれ。ゆめゆめ敬意を忘れてはならんぞ」

 

 

 中破、大破と損害が増すマゼランに乗り、ダグラス・ベーダーは指揮を執り続けた。

 しかしそれにも終わりが来る。

 

「突破して瓦解に持ち込む、そうはならんか…… どうやらここまでだ。付き合ってくれた将兵には感謝する。最後までそうする必要はなく、俺の消えた後で白旗の信号を上げろ。だが、連邦自体は終わりなんかじゃない。アントニオ准将もいるが、何といってもルナツーにグリーン・ワイアットの奴がいるからだ。正直に言うが、俺は奴が嫌いだ。良く言えば一筋縄ではない、悪く言えばひねくれ者にしか見えんからな。しかし将としての実力では奴ほど有能な者はなく、それは認めたくないが分かっていた」

 

 激しいビームの雨が注がれ、ついにマゼランの艦橋にもメガ粒子砲が直撃する。

 

「グリーン・ワイアット、後は任せた! 連邦は決して負けはしない!」

 

 

 それが最後の言葉になる。

 ひときわ眩い白光と共に、連邦軍随一の猛将ダグラス・ベーダーはここに散った。

 

 この時42歳、その人生の半分以上を連邦軍に捧げてきた。

 一言で言えば愚直な軍人であり続けた。

 士官学校卒業時の准尉から始まり、運と実力、そしてひときわ目立った敢闘精神により将帥にまで昇りつめた。

 北米閥の一員とみなされたが、本人はそんなことを考えてもいないし、むしろ徒党を組むのは武人のすることではないと嫌っていた。

 麾下の兵たちには厳しく当たることも多かったが、それにも関わらず敬愛を集めてきた将でもある。最後はレビル大将、ついでジーン・コリニー中将を補佐し、連邦軍宇宙艦隊の中核としてここまで戦いを続けてきた。

 言葉通りに連邦の理想を信じ切り、上層部の腐敗などに目もくれなかったことが原動力ともいえる。その意味ではとても幸せな人生だった。

 この結果は初めから約束されていたことだったのかもしれない。

 最後に見せた表情は満足とでもいうべきものだった。

 

 

 少し後に、ルナツーでこれを知ったグリーン・ワイアットは紅茶のカップを一つ余計に用意させ、手持ちの最上級の茶葉を使ってひときわ美味い紅茶を淹れている。

 

「ダグラス・ベーダー中将、君は確かコーヒーばかり飲んで、紅茶は嫌いだったはずだ。しかし生前はそうでも今は私と紅茶に付き合ってくれてもいいじゃないか。お互い反発ばかりせず、穏やかに、ね」

 

 これはグリーン・ワイアットとしての鎮魂の儀式なのだ。

 

「君は、私とはやり方は異なるが、政治家どもと違って本当に連邦のために動いていた。心から単一国家、地球連邦の理想を信じていたね。政治の分からないアホウだと思っていたが、嫌いではなかったよ。おっと、口が悪いのは赦してくれ。だが、私からすればその純粋な軍人としての生き方がうらやましくもあった。こうして一回くらい紅茶を飲みながら話したかったものだ。けっこう紅茶もいいものだろう? 後はゆっくり休みたまえ」

 

 カップの端を指で弾いて鳴らす。その澄み切った音を聞きながら、ひねくれた友情がもたらす苦笑に代わり、目の光が鋭くなる。

 これがグリーン・ワイアット、連邦軍最強の名将、艦隊戦の魔術師としての顔だ。

 

「ダグラス・ベーダー、約束してもいい。またルウムで負けた? そんなことはこの私がただの過去にしてあげよう。ジオンとの戦いは、必ずやなんとかしてみせる」

 

 

 

 ダグラス・ベーダーの殉死後、サイド2へ向かう戦いでついに連邦艦隊は力尽きた。

 

 ジオン艦隊に再び追い付かれそうになっても、それでも粘る高い士気があったのは、ダグラス・ベーダーの勇戦の置きみやげだろう。しかし最終的にはジオン艦隊の圧力に耐えかね、サイド2を目前にしながらルナツーに転じざるを得なかった。決定的な損害、特に人員的な損害を避けるにはそうするしかなかったのだ。

 損傷艦から随時移乗してくる乗員を受け入れ続けたおかげでどの艦も満杯に近くなっていたからである。

 

 俺もそれは分かっている。

 この時には、俺はドロワから元のコンスコン機動艦隊の旗艦ティベに移っていた。

 新兵中心のMS隊は艦隊から降ろしてドロワの方に収容させている。そして、機動力が弱いため艦隊戦に不向きなドロワと共に留め置いていた。

 代わりにガトー隊などに入れ換え、本来のコンスコン機動艦隊として他の艦隊と共に追撃戦に加わっていた。

 

「そろそろ連邦艦隊は限界だ。サイド2方面から航路を転じた後は追撃無用、攻撃してやるな。欺瞞かもしれんが、連邦艦に詰め込まれた将兵が戦闘に参加してもいないのに無駄に死なせるのは…… 気分が良くない。そうドズル閣下にも伝えよう」

 

 後半は独白のようなものだ。だが本心でもある。

 

「戦争でいかに効率的に殺し合うかを競っているとしても、だからといって戦いに参加しているわけでもない兵たちを一方的に殺しまくるのはだめだ。それは悪行であり、すべきことではない。少なくともジオンの方は」

 

 俺は周囲を見ていない。

 どうせガトー君がキラッキラした目になっているのは分かってるんだけどな!

 

 

 

 実は連邦艦隊はサイド2に直接行かなくなったとしても、近くのサイド6に寄り、手早く修理を済ませてから再びサイド2に向かうことまで視野に入れていた。

 だが結果的にこれはならない。驚いたことにサイド6の方から寄港を拒否していたのだ。

 宙域ブイの傍に巡視艇を出してまで拒否の姿勢を保っている。

 

「こちらサイド6管制官カムラン・ブルーム。接近中の連邦艦隊は直ちに引き返すよう。病院での治療を要する負傷兵以外、サイド6は受け入れをしない」

 

 こんな緊急事態であるのをあえて無視し、寄港艦数の制限を盾にとっているとは。

 これは虫のいいことばかり言ってくる連邦に対するサイド6なりのしっぺ返しという側面もあるかもしれないが、立場を表明するちょうどいい機会でもあった。もう連邦に遠慮などしない。

 

 

 こうして連邦の大艦隊を追い散らしたジオン艦隊は、予定通りサイド2にある建設中コロニーレーザーを破壊しに向かう。それが作戦の唯一最大の目的だ。

 もちろん、ここからも決して簡単というわけではない。

 またしても連邦軍が立ちはだかる。

 今度はアントニオ准将率いる90隻の艦隊がそれを邪魔すべく迎撃してくるのだ。連邦は戦力も人材も尽きてはいない。

 

「何としても守り切れ! 決してそれは無理ではなく、勝機はある! ジオンは150隻以上の数といえど、連戦の上、長駆して疲れている。本来の戦力は出せない。守備というのは根くらべなのだ。粘りに粘れ。時間をかけ、消耗を増し、疲弊させろ。そうすれば諦めるのは我々ではなく奴らの方だ」

 

 

 アントニオ准将の統率の下、しっかりと編まれた守備陣によりジオンの攻勢に押されながらも崩されたりすることはない。それどころかアントニオ准将は合理的な戦術を思いつく。

 

 さすがに連邦軍の誇る守りの名将だ。

 

「作りかけの太陽電池パネルを盾にしろ! そこに潜み、効率的に攻撃を仕掛けるのだ。この際パネルが損傷しても構わん。それを何段階も使って退きながら行え。つまり、向こうに出血を強いる縦深陣だ」

 

 ジオンもいったんは攻めあぐねる。

 確かにこれではうかつに進めなくなり、いたずらに時間が過ぎていく。

 実のところジオン艦隊はここまでの戦いで実体弾や推進剤といった物資の消耗が激しく、残量が気になり始めている。

 そのカウントダウンがあるのだ。ここで粘られると痛い。

 

 

 


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