コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第百十話  第三の思惑

 

 

 連邦のコロニー守備隊は思った以上に巧妙な戦術を使い、粘ってくる。

 俺はそれについて対応を考えなくてはならない。

 

「なるほど、連邦にはいい指揮官がいるようだ。上手い戦術をとってくる。パネルを使った縦深陣で少しずつこっちに出血を強い、根負けさせるつもりか。こちらも下手な力押しでは息切れして向こうの思う壺にはまってしまうな。もうこれは丁寧に一つずついくしかないだろう。だがしかし、使えるパネルの数といっても無限ではあるまい」

 

 俺はジオンの百戦錬磨のMSを使いながら着実に進攻していく。パネルの陰に隠れた連邦艦を始末するには一気に多方向から攻め立て、方向転換がままならないうちに叩くのだ。

 

 こうしてジオン側は再び前進を始め、何とかなりそうな戦況に変わった。しかしここで連邦はまたしても戦術を工夫してこちらを悩ませてくる。連邦の守備隊はかなりしぶとく、そうそう簡単には終わってくれない。

 

 何と連邦側は集積されている建設資材をあえて撃ち、デブリとして大量に撒き散らしてきたのだ!

 それらをかきまぜ、ジオンの艦隊とMSへぶつけてきた。

 ここら一帯にはコロニーレーザー建設のために資材が大量に係留されていて、この戦術が可能な条件が整っている。

 これには驚いてしまう。

 確かにそういう戦術もあり得なくはないが、これでは後の処理がとんでもなく大変だろう。正に捨て身とも言うべき守備戦術ではないか。

 ただし、そういった巧妙な足止めを受けながらも、ジオンの方も決して諦めず、尚も抵抗を排除していく。簡単に諦めたらここまで作戦を進めてきた甲斐がない。

 

 連邦が必死ならジオンだって必死なのだ。

 

 損害が出る、物資が残り少ないなどと言っていられない。ここで止まらず、何としてもコロニーレーザーを破壊する必要がある。

 

 均衡から少しずつ連邦側の敗色が濃くなり、ジオンが押していく。最終局面が近い。

 

 仮にこれが地上戦だったなら守備にもっと多様なオプションがあっただろう。この程度の戦力差ならば、守備に徹すればまず負けることはないと言えるほどに。守備に長けた将がいれば言わずもがなである。

 しかし宇宙での戦いでは工夫にも限界があり、通常ならストレートな実力勝負になってしまうものだ。

 逆に言えばここまで粘って守備をしてきただけで大したものなのである。

 

 ついにアントニオ准将も断念する時が来る。

 仕方なく、コロニーレーザーの希少資源を奪われないようレーザー発振部を破壊し、制御装置も爆破、ソフトも完全消去してからルナツーへ撤退する。

 

 

「連邦艦隊、まとまって後退していきます! サイド2からおそらくルナツーへ」

「よし! ようやくだ。やっと作戦目的を完遂できる。連邦の思惑を打ち砕き、ジオン本国のコロニーをレーザーから守れる」

 

 第二次ルウム会戦でジオンが勝利した意味があった。

 

 もはや憂いはなくなった。

 連邦のコロニーレーザーによってジオン本国のコロニーが撃たれることはない。それだけではなく、スペースノイドをアースノイドが支配する芽を潰すという大きなことを成し遂げたことになる。

 もうコロニーレーザーという共通の恐怖は取り払われたのだ。

 ジオンはそれを二度とコロニーレーザーとして使えないよう措置を施し、少数の守備隊を置いて本国に凱旋する。

 

 これからは連邦もジオンも、巨大兵器に頼らず、再び艦隊とMSの戦いになる。まあ、ジオンが勝ったといってもそれだけのことだ。戦いはまたしても振り出しに戻った、というだけの。

 

 

 とはいってもしばらくは戦いはないはずだった。

 

 ジオンは連邦をエネルギー資源で締め上げるのを基本としている。粛々とその輸送を断ち続け、連邦を干上がらせていくだけだ。

 今、ジオンの方から積極的に会戦に持ち込む必要を感じない。

 連邦は連邦でルナツーへ命からがら辿り着いた損傷艦を修理し、負傷兵を救護するのに躍起であり、直ぐに会戦を仕掛けるような余裕はない。

 

 

 だがしかし、運命はひとときの安寧も許さなかったようだ。

 次の戦いはそう遠いことではなくなってしまう。

 

 それは連邦もジオンも思いもしないことがきっかけになった。

 連邦でも、ジオンでもないものが波乱をもたらすなど誰が想像できただろう!

 

 

 

 俺は今、目の前の一人の男を見ている。

 まだ年の頃は20、21といったところか。しかしもう少年といったような面影はない。

 それどころではなく、野心を隠そうともしない不敵な佇まいだ。

 長くきれいな薄紫の髪になぜか細い環状の髪留めを付けている。そしてほっそりした体形に連邦の白い軍服を着こなす。一見すると清潔感があるのだが、不穏な感じが拭えない。

 

「コンスコン大将、お初にお目にかかります。私の名はパプテマス・シロッコ、身分は一応連邦軍准尉になります」

 

 ここで一段と俺の頭痛が酷くなった。実はこの広間に入らないうちに頭痛が始まっていたのだ。頭痛はこれまでになかったほど強くなり、それに比べたらシャア少将から感じるものなど春風のようだ。

 その原因であるこの若者、シャア以上の何かをこの者が持っているということを意味する。

 

 それを置いておくとしても、言葉は丁寧だが全く相手を尊敬していないのが雰囲気で伝わってくる。

 この場にいるのは今到着した俺の他に、キシリア閣下、ドズル閣下、それとマ・クベ少将である。つまりは一国の首脳部なのである。普通の准尉ならそれこそ震え上がって言葉も出ないところだ。それを少しも恐れた様子がないとは、よほどの自信家なのか。それもまたシャア以上のようだ。

 

 いいや、そもそも連邦軍籍と言っている者がここズム・シティ庁舎の中の広間にいるだけで充分におかしいのだが。

 

 

 俺の疑問の表情をキシリア閣下が見て取ったのだろう。この広間にわずか遅れて到着した俺のために説明してくれる。

 

「コンスコン、やはり驚いたようだな。ドズルの兄上やマ・クベ、そしてお前を呼んだのは、この若者に会わせるためだ。ちなみにこの者が連邦軍籍なのは便宜上のことで、連邦の船にいるからに過ぎない」

「便宜上とは? キシリア閣下、分かりにくいのですがそれはどういう?」

「ふふ、その連邦の船というのはジュピトリスだ。コンスコン、聞いたことはないか」

「ジュピトリス…… ジュピトリスというのは、まさか木星船団公社の持つ最大のヘリウム3輸送艦でしょうか?」

「そうだ。そのジュピトリスがスイングバイ軌道に乗るため、間もなく地球圏に到着する。もちろん、ヘリウム3を満載してだ」

「しかし木星船団公社は中立なのでは。そのジュピトリスの者がここにいるとは…… もしかするとジオンのヘリウム3輸送破壊に抗議してきたということでしょうか」

 

 俺は気を回し、その懸念に思い至った。

 

 ジオンは今まで木星船団公社そのものに手を出してはいない。

 地球連邦にもスペースコロニーにも平等にヘリウム3を供給する公社に手を出してはならない。条約で禁じられていることでもあるし、公社の心証を害してはいけないからである。

 

 しかしながらジオンは木星船団の輸送艦から積み荷のヘリウム3が連邦艦へ渡される場所を類推し、その後に、連邦輸送艦の方を攻撃している。こうして連邦がヘリウム3を手に入れるのを防いでいるのだ。

 

 そうすればギリギリ言い訳が立つと計算している。

 ただしそれはジオンの側から考えた理屈に過ぎないともいえる。

 

 仮に木星船団公社がヘリウム3の利用開始までをその輸送責任と思っていたなら、そんな通商破壊を許すことはない。当然ジオンに抗議してくるだろう。そうなれば困ったことになる。最悪公社がそれに対し報復を考え、ジオンにヘリウム3を供給しないと決めたらとんでもないことになる。ジオンはもはや連邦のことを笑っておられず、共に干上がってしまうではないか。

 

「コンスコン、お前の考えていることくらい分かっている。しかしそうではないのだ」

「え、そ、そうですか。ならば安心しました。キシリア閣下」

 

「それどころか面白いぞコンスコン。話はむしろ逆なのだ。この者はジュピトリスの正確な航路と連邦への受け渡し宙域データをジオンに渡そうとしてくれている。もしそうなればヘリウム3の襲撃もいっそうたやすくなるだろう」

「何ですと!? それでは連邦を裏切ることに! ジュピトリスは木星船団公社の輸送艦ですが、船籍は連邦籍のはずではありませんか!」

 

 俺は驚きの連続に頭痛も忘れてしまう。

 そんな重要な秘匿情報をジオンに渡すというのか。ジュピトリスの、こんな若者が。

 

 木星船団公社の大型輸送艦はそれぞれに船籍があり、ジオンなどのスペースコロニーに属するものもあれば、連邦船籍だったりする。いやもちろん大半は連邦船籍だ。

 各輸送艦にはそれぞれ船籍に応じた乗組員がいて、ジュピトリスには連邦士官や連邦兵がいる。逆にジオン船籍の輸送艦にはジオン士官が乗り込んでいるもので、ちょうどシャリア・ブルがそうだった。

 

 だから俺が驚いたのだ。航路と受け渡し場所のデータを教えるということは、積み荷を渡した後に襲撃してくれと言わんばかりなことである。

 連邦に対する裏切りでなくてなんと表現できるだろう。

 

「…… キシリア閣下、二つ疑問があります。ジュピトリスの側にそうしなくてはならない動機があるのでしょうか。そして、この若者がそんな大それた話ができる理由も」

 

 

 俺は思わず疑いの声を上げた。

 この若者をなにか信用できなかった。きっと裏があるに違いない。

 俺の直感がそう告げている。

 

 するとキシリア閣下ではなくこの若者が俺の方に説明してきた。

 

 

 

 


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