コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第百十四話 連邦の総力

 

 

 アルビオンやゼフィランサスだけではない。

 連邦上層部はワイアットの出撃を知ったため、まだ地球に残っていて少しでも戦力になりそうな物を片っ端からルナツーへ送ってよこしていた。

 それらの中に、今までにないMSもまた含まれていたのだ。

 

 何と地球でジーラインが少しばかり生産されていた。ジーラインはジム・カスタムと同時期に設計され、性能面でも決して悪くないスコアを叩き出しておきながら、コスト髙で次期MSに選定されなかった経緯を持つ。だが連邦としては新たに設計を書き起こすよりは早いので試作生産ラインに乗せていたのだ。後に判明したが、しっかり作り込み調整すると皮肉なことにジム・クゥエルを凌駕するほどの性能を持つMSに仕上がった。

 

 それは10機余りという数であるが、そのうちの1機が第十三独立小隊のペガサス級強襲揚陸艦、つまりホワイトベースに届けられている。

 

 今、ホワイトベースの横で調整飛行を始めたところである。動く模擬標的を相手に次々と墜としていく。

 

「アムロ、どう、その新型機。アムロのことだから誰よりも早く機種転換できるはずとみんな言ってるけど…… 出撃まであと一日しかないといっても、無理しないでちょうだい」

「大丈夫ですよ、ミライさん。あと二時間ばかり飛び回ればコツを掴めそうです」

 

 ホワイトベースのミライ・ヤシマ、年は若く、その上名門ヤシマ家の令嬢でもあるが、細かく気を遣うことからホワイトベースの母親とも言われる。今もミライは心配したのだが、実際はアムロの実力を知るブライトやセイラの思う通りだった。

 アムロ・レイはジーラインの実力を完全に引き出せる。

 ちなみにカイは自分の出る幕じゃないと最初から投げ、ハヤトは張り切ってジーラインに挑戦したがやはり無理だった。ジム・クゥエルどころか一足飛びにジーラインに乗れれば、補助戦力に過ぎないガンタンク乗りという立場から一躍認めてもらえるという腹積もりだったのだが。そして落ち込むハヤトはフラウ・ボウに慰められている。

「アムロは…… 私たちとは、違う人なの」

 

 

 

 他にも連邦にはいくつものMS試作機が存在し、まとめて届けられている。

 もちろんデタラメに配布されるわけではなく、これまでに実績を上げているパイロットあるいは隊に優先的に送られるのだが、こんな情勢ではまともにマッチングを図る時間がとれるはずもない。そこで好みに応じて取っていくという普通には考えられない無茶振りになっている。

 

「もう連邦はヤケになっているのだろうか。試作機どころか未完成機もぐちゃまぜだ。下手したら研究機まである」

「ライラ、まあいいじゃないか。好きなMSを使わせてもらえるのは俺としては歓迎だぜ」

「バニング大尉、MSは遊び道具じゃない。まったく男ってやつは子供みたいな……」

 

「勝手に思っとけ。ところでお前が選んだのはジムⅡという奴か」

「そう、私にはこれがとても使いやすくてバランスがいい。機動性、武装、索敵能力のどれにも隙がない。ありがたいことに北極基地からこれを知るメカニックも一緒に来てくれたことだし」

 

 ライラ・ミラ・ライラは自分の乗機に試作ジムⅡを選んでいる。

 それがかつてテストパイロット、クリスチーナ・マッケンジーが乗っていた機体だということはむろん知らない。

 

 試作ジムⅡは破損してしまっていたのだが、北極基地から急遽応援メカニックとして同行してきたエマリー・オンスのおかげで修理も整備も問題ない。

 エマリー・オンスは籍がアナハイム・エレクトロニクスであり、連邦軍籍ではないので宇宙行きを拒否することもできたのだが、本人はなぜか拒むことはなく素直についてきていた。

 

 それがとあるジオンパイロットに近付きたいためであることは本人以外知ることはない。

 むろん、非常に幸いなことにライラにも知られていない。逆にライラのこともエマリーは知らないが、お互い様である。

 

 ついでに言うと、今回の戦いに先立って不足しているパイロットもまたかき集められているが、スペースノイド出身者が積極的に登用されている。アースノイドより無重力経験が豊富だからだ。

 このライラの隊にもそんな新兵が何人か補充されている。

 その中に一人、学徒兵ですらないフォン・ブラウン出身の義勇兵が含まれていた。若いながら意外にもそこそこのMS操縦適性があった。

 レコア・ロンドである。

 グラナダでの騒ぎでいったんジオンの捕虜になっていたが、その後の捕虜交換で解放されていたのだ。そして改めて連邦軍に志願している。その胸中などライラもエマリーも知るはずがない。

 

 

「ところでバニング大尉、そっちはずいぶん大げさな機体に見えるが」

「面白いだろう? ライラ。俺はこいつが気に入った。ゼク・アインという試作機だ。ゴツい感じだが、見た目通りパワーがある。俺には一番だ」

「大尉に似合っていなくもない。しかしそっちの隊は見事にバラバラだな。私が言うのも何だが、大丈夫か?」

「確かにウラキたちは手堅くジーラインの方を選んだ。しかし新入りのブルタークの奴ときたら、研究機を選びやがった。あてつけじゃなくただの新しもの好きなんだろうが、程度ってものがある。しかしいくら言っても聞きやしねえ」

 

 その通り、バニング大尉の第四小隊はバラバラなMSが集まっている。普通にはそんなことをしたら隊行動に支障をきたすものだが、バニング大尉もそれほどうるさく言っているわけではない。普通の隊とは違い一人一人が信頼すべき高い技量を持っているからだ。

 今ライラが指摘したのも、一機だけ毛色の変わったMSだった。

 

「あんなMS、見たことがない」

「だろ? 試作ですらない研究機だから動くも動かないも自己責任ってもんさ。あれはディアスっていうジオン技術を最大限入れたものらしい。俺はまだしも完成してるハイパフォーマンスザックの方を勧めたんだが、見た目がアレだからブルタークも誰も乗りたくねえってさ」

「まあ見た目がジオンMSみたいなMSだったら、私だって乗りたくない。ところでバニング大尉、今度の編成では珍しく一緒にガディ・キンゼー麾下に所属するようだが、よろしく頼む」

 

「頼まれてやる、ライラ。きっちり守ってやるぜ」

「くっ、下手に出れば…… バニング大尉、守ってやるのはこちらの方だ」

「真面目に言うがライラ、今度の戦いは相当ヤバい。牽制や排除じゃなくて、噂じゃコンスコンの大将と真正面からやりあう決戦だ。こいつはキツいぜ」

 

 軽口のついでに言っているようだが、二人の目は真面目そのものだ。いや、サウス・バニングはいつもより何か妙に真面目だった。

 

「ライラ、いつもより慎重に行け」

「不死身の第四小隊がそんなことを言うとは、今さら臆病風か」

「いいから素直に守られとけよ。そして俺がしっかり守ったら、結婚しようぜ、ライラ。あんな正義の塊みたいな騎士様はやめて近くを見ろ。バーで飲み比べするなら俺の方が面白い」

「な…… 何だといきなり!! もう一回言え!」

「何度も言えるか馬鹿野郎。湿った雰囲気にするのは嫌だぜ。元気なお前さんだからいいのさ」

「ふ、ふざけるな……」

「何にしろ、続きは戦いが終わった後だ。その時に返事を聞くからな、ライラ」

 

 

 

 連邦艦隊は粛々とルナツーを出港する。

 

 総指揮官グリーン・ワイアット中将と参謀ステファン・ヘボン少将を中心とし、アントニオ准将、モニカ・ハンフリー大佐はそれぞれ分艦隊を指揮する。

 そしてガディ・キンゼー、エイパー・シナプスの両名もまた、大佐に昇進の上、分艦隊を与えられている。

 総艦艇数257隻、事実上これが連邦宇宙戦力の全てである。

 

 

「この艦隊へ、ジャブロー連邦軍作戦本部から入電!」

「おや、何かな? 今さらありがたい訓示だったら要らないが」

 

 その内容を一瞥し、ワイアットが思わず笑う。

 

「ステファン・ヘボン君、これは冗談かな。こんな時に昇進、ジャブローはこの私を大将にしてくれたようだ。ああ、つまりは殉死の前払い、生きてルナツーに帰ってくるなということかもしれないね」

「ワイアット閣下、その冗談は皮肉を通り越してそれこそ縁起でもない…… しかし特に深い意味はなく、ただの上層部のヤケだと思われます。本当にそうなら紅茶の補給もなかったでしょう」

「私もそう思うね。帰りの分の紅茶があるのは何よりだ」

「ですが閣下、よかったではありませんか。戦うのはおそらくジオンのコンスコン大将ですからこれで同格、非礼にならずに済みます」

「そうか、形の上ではなるほどそうだ。非礼ではなくなった」

 

 そんな階級のことはどうでもいい。

 しかしワイアットはここで思いがけない指示を与えている。

 

 

「では非礼でないことを実力でも示してやろうじゃないか。進路はこのまま真っすぐ、地球をかすめて更に月へ直進だ」

「直進とは!? 閣下、どういうおつもりで? ジュピトリスは月からはずっと横方向、サイド1に近い航路でやって来る予定なのでは」

「ジュピトリスのことなど後の問題、オマケのことに過ぎない。ジオンとの決戦に勝つ、先ずはそれに集中し、条件を整えなくてはいけないね」

「そ、それで月方向、しかしその前にはサイド5ルウムがありますが…… 」

 

「おお、そうだよ、君も冴えているね。ルウムだ。私はそこを決戦場に選ぶ」

「ル、ルウムですか? けれど閣下、そこは過去連邦が二度も負けた因縁の場所ですが」

「いいじゃないか。意趣返しをしたいわけではないが、今度はルウムで連邦が勝つ。私にはそこでしかできない策があるのだよ」

「閣下の戦術に、ルウムを……」

 

 尚も不思議がるステファン・ヘボン少将にグリーン・ワイアットはいつもと変わらぬ笑みを返している。

 

 艦橋にわずか入り込んだ白光がワイアットの横顔を照らす。

 その時、帽子の先から作り出された影が、微笑を底知れぬ凄みへと変えた。

 

 

「そこでジオン艦隊をきれいに消去してあげよう。魔術師の帽子のようにね。ステファン・ヘボン君」

 

 

 


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