コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第百十八話 逆襲

 

 

 しまった!

 連邦はただこのためにルウムを戦場にしたのだ。

 

 金属デブリの濃い宙域を狙い、そこに上手いことジオン艦隊を誘導した。あのソーラ・システムの一撃も、不可解な艦隊運動も、消極姿勢も、全てはこの瞬間のためだったんだ。そして猛砲撃により雷撃を作り出し、ジオン艦隊を叩こうとしている。

 恐ろしいまでの策である。

 ここでしか作れない雷撃を戦術に組み入れてくるとは。

 

 それを俺に教えてくれたダリルは俺の艦隊に来る前はサンダーボルト宙域で連邦と戦っていた。

 だから真っ先に気付いたのだろう。

 そこはこのルウムと同じようにコロニーの残骸が多く、つまり金属デブリの漂う宙域だ。人為的ではなく自然に荷電が貯まり、雷鳴が轟いて止まない危険宙域になっている。

 

「砲撃中止! 各艦警戒態勢のまま移動準備!」

 

 どうやら俺の対処は遅すぎたのだろう。急いでこの宙域からの脱出を考えたが、それはままならない。

 既に放電の白熱が始まり、ここはサンダーボルト宙域に変わっている!

 ぽつぽつとしたわずかな雷光はあっという間にすさまじい量に変わりジオン艦隊の上下左右を取り囲み、貫き、かき乱す。

 もちろん放電はそれぞれの金属デブリから別のデブリへ、どこへ飛んでいくかなど予測できるもんじゃない。

 

 この様子を見て連邦艦隊はやっと猛砲撃をやめ、勝ち誇っているかのごとくジオン艦隊を片付けにかかっている。こっちが雷撃に翻弄されているところへ的確な砲撃を加えてくるのだ。

 連邦の恐ろしい策により、もはや完全に一方的な戦いに変わった。

 ジオン側ばかりが次々と沈められていく。このままでは敗北どころか全滅してしまう。

 

 

「各艦、被害状況を知らせろ! 航行は可能か」

 

 判明したのは、雷撃はさすがに艦自体をどうこうするものではない。外壁をぶち壊して潰すほどの物理的な力はなく、必然的に内部のエンジンなどにも被害はない。格納されているMSも無事である。

 ただし索敵や照準などはまるでダメ、通信も近距離がやっとだ。

 

 しかし最悪の状況ではなかった。

 ダリル・ローレンツの叫びは無駄ではなく、艦壁外部にある機器から艦内への経路を遮断することには間に合っていたんだ。

 

 もしその処置がなければ、雷のサージ電流が艦内の制御機器に流れ込み、一瞬でコントロール不能という事態にまでなっていた。そうなれば何もできず艦は漂う棺桶になり果てていただろう。

 その点では実に幸運だった。

 制御機器そのものが破損しているのではないので、うまく迂回路を探し、接続し直せば回復できる。今も時折艦内の照明が明滅している状態の中、技術員が懸命に作業を進めているのだ。少し時間があれば艦の航行はできる。

 

「連邦側が圧倒的に有利なこの状況、なにか付け入る隙はないのか……」

 

 砲撃戦は論外だが、ハッチやカタパルトは動かせるのでMSの稼働は可能であり、戦うにはそれを使うしかない。

 しかし現実問題、この雷撃の中では危険すぎてMSは出せない。サンダーボルト宙域に慣れているダリル以外は正直ここの突破は難しい。それでもなんとかならないのか……

 

 

 そこでふと思いついたことがある!

 雷、つまり電気なのだ。それを通さないものがあればMSが守れる。

 

 そんな都合の良い物があるのか…… いやあるじゃないか!

 

「あれはあるか、ええとその、この前の戦いで使った偽装ダミーだ。確かそれは泡状に膨らむものだと思ったが」

「え? マ・クベ少将の艦隊に用意はあると思われますが…… しかしそれを何に……」

「中に薄く気体の入っているプラスチックの泡、電気を通すことはない。少なくとも真空よりは。だがらそれを使えば雷撃からMSを守れるはずだ!」

「なるほど! では直ちに!」

 

 まあ俺の単純な思い付きだがうまくいけば何でもいい。

 それが可能として俺は策を考える。

 

「連邦から見える艦艇は雷撃にのたうちまわっているフリをしておけ。そうしてできるだけ連邦艦隊を引き付けておくんだ。その一方、雷撃のために見えないところから密かにMSを出し、順繰りにそうやって発進させろ。その後、MSはすぐ連邦艦隊に向かうんじゃない。そんなことをしたら距離を取られるだけだ。デブリ宙域を充分横方向に行ってから飛び出し、連邦艦隊を襲え。そうすれば連邦艦隊を囲むように奇襲ができるぞ」

 

 俺は連邦の作り出した雷撃をうまい隠れ蓑として逆用し、奇襲をかけるための道具にした。

 まるで渡河作戦のようだ。連邦はMSを出せないと踏んでいるだろうから、向こうが注意していない場所から飛び出せば驚くだろう。

 

 頼むぞガトー、ダリル、他のみんな!

 

 俺の指示通り、ジオンのMSたちは恐れもなく雷撃の中を発艦し、直ちに偽装ダミーに包まれる形を取り、守られながら移動する。

 

 

 

 

 そして連邦艦隊を側背から襲う。

 先陣を切るのはガトーだ。

 いつもはシャアが突出して早いのだが、この場合そうならなかったのは理由がある。NTは敵の射撃を予期して避けることはできるが、自然発生の雷撃を避けることはできない。

 人の意思というものが入っていないからだ。

 それならやはりダミーを保護に使わないといけないし、またララァの大型モビルアーマーエルメスに保護をかけるのはそれなりに手間だった。

 

 ジオンMSが連邦艦隊へ辿り着く前、やはり連邦側からもMSが迎撃のため大量に出てきた。

 たちまち激しい戦闘が展開される。

 空間は飛び回るMSたちと、その射撃、命中の明滅で埋め尽くされる。ソロモンやア・バオア・クーでの戦いを彷彿とさせるほどのお互い百機単位の大規模なMS戦だ。

 

 そんな中でさすがにガトーは強い! 邪魔する連邦MSを撥ね退け、いち早く連邦艦に迫っていく。

 全般的な戦局としては奇襲という形をとれたジオンMSが押している。

 

 ただし局地的に見ればそうでない所も多かった。

 その場所での敵味方の数や、パイロットの技量によってまるで様相が異なるのだ。

 

 

 

「そこッ、もう一機!!」

 

 ジーラインのビームライフルがジオンのガルバルディ改を貫く。それはただ当てたというのではなく、ジェネレーターを的確に捉えたもので、一瞬で爆散させる。

 

「また出てくるッ! 次!」

 

 向かってくる火線をあっさり躱すと、ジーラインはお返しとばかりにビームを放ち、またしても獲物を葬る。飽きもせず繰り返されたパターンだ。ジオンにまた損害が上積みされてしまう。

 

「アムロ、そろそろエネルギーCAPが切れるはずよ。今のうちに補給した方がいいわ」

「分かりました、戻ります、ミライさん」

 

 アムロ・レイの乗るジーラインにそういう通信を送り、ミライは「凄いわね、アムロは……」と独り言を呟く。

 それを耳にしたのかブライトが言う。

 

「ミライ、アムロはどのくらいやっている?」

「そうね、今ので十六機、全て撃墜よ」

「そうか…… やはりアムロは普通と考えるべきではないのだろう……」

「ブライト艦長、そうじゃないわ。アムロは、普通よ。ただ戦いだけが違う、それだけなのよ」

「……」

「周りがアムロを特別と見れば、きっと孤独にさせてしまう。いくら上層部が英雄扱いしても、アムロにとっては不幸にしか感じられないでしょうね」

「分かった。戦いの中でアムロはホワイトベースとその乗組員を仲間だと思ってくれている。その絆は大事にすべきだ」

 

 そこでブライト・ノアが話を打ち切る。今はそのことを深く考える時ではない。

 

「射撃員、弾幕薄いぞ! アムロがまた出るまで敵を近付けさせるな!」

 

 

 離れた場所でも、そのアムロの戦いを話題にしている者がいる。

 連邦艦隊の中心だ。

 

「やられたね。ジオンがどういう方法を使ったのか知らないが、MSを出すとは。しかも包囲までしてくるとは予想もしなかったよ。それほどの策士であるコンスコン大将が連邦でなくジオンの側にいるなんて、運命も皮肉が効いているじゃないか。ステファン・ヘボン君」

「閣下、しかし負けたわけではありません! 今でも艦隊戦では間違いなく勝っています。もう少し時間があれば、向こうのMSが帰る場所を無くしてやれるでしょう」

「確かにそうだ。驚きはしたが、まだ粘れる余地はある」

 

「こちらのMSたちも奮戦しています。特に第十三独立戦隊の働きは目覚ましく、全面包囲にはさせていません」

「それはホワイトベースのことかね。そういった武勇に頼るのは戦術家として忸怩たるものがあるが、この際多少の期待はさせてもらおう」

 

 

 むろんジオンの側でも状況を掴んでいる。

 やみくもに押して損害を増やすのではなく、いくつかの部隊がその強者に対処しようと動く。

 

 先ずはエルメスと共に、デブリ宙域をやっと抜けたシャアのゲルググJ改が素早くそこへ向かう。撃墜数よりも強者を倒す方が自分の義務でもあるし、華だと思っているのだ。

 だがその場所に着くとシャアは気付いてしまった。

 

「あれは…… 木馬ではないか。ここにいたのか……」

 

 それならばジオンMSたちがなかなかここを抜けない、その理由は一つしかない。

 

「では連邦の強いMSというのは、おそらくガンダムに乗っていたパイロットが出てきたものに違いない。これは少し厄介なことになりそうだ」

 

 

 そう言ったとたん、アムロの乗るジーラインが出撃してきた。うっかりホワイトベースに近寄っていた二機のジオンMSがたったの射撃二回であっさりと光球の中に沈んでしまう。

 確信を掴んだシャアはそれ以上距離を詰めずに思案する。うかつなことはできない。かつてのガンダムパイロットは、ガンダムに乗っていなくとも間違いなく強い。サイド7から地球表面、そして再び宇宙までガンダムを追い、その実力をつぶさに知っているシャアだからこそよく知っている。

 だがそんなゲルググJ改の横を跳び抜け、一目散にその要注意のジーラインに向かっていくジオンMSがあった。今までにない奇妙な形のMSだが、かなりの速度がある。

 

「どけどけーーッ、キャラ・スーン様のお出ましだッ!!」

 

 これにはシャアも驚くほかない。その動きも、言うセリフも、あらゆる意味で通常ではない。

 

「あれは…… 学徒兵のキャラ・スーンか。規格外だな。MSは、そうか、ジャジャというものを選んだのだった。学徒兵があんな未完成機にも乗れているのは凄いと言えるが…… しかしガンダムパイロット相手には荷が重すぎる」

 

 シャアの部隊にキャラ・スーンは配属されていた。成績優秀で来たとはいえ、もちろん部隊では最も下の立場の学徒兵である。それがなぜか突出を始めてしまったのだ。

 

「仕方ない。ここで決着をつける。行くぞララァ」

「ふふ、少将、命令無視の突出をされる側に立つのもたまにはよろしいんじゃなくて」

「ララァ、それは違う。単なる若造のように言わないでほしい。私はいつも勝算がある突出をしているのであって、無謀ではないつもりなのだがな」

 

「そういうことにしておいてもいいわ。でも面白いのはもう一つ、以前の少将ならそんな部下がいたとしても最後まで助けたかしら。なんだか変わってきたように思えるわ」

「それは少し認めよう。以前なら部下を捨て石にしたこともあったかもしれないが、今はそれが酷薄なのではないかと思う自分がいる。なぜかな、ララァ」

 

 ララァにも思い当たることはある。それはシャアに、これがもしもコンスコン大将だったなら、という意識が入り込んでいるせいではないだろうか。

 

 つまり感化を受けているのだ。

 しかしそこまでララァは口にしなかった。言ったところで仕方がないし、どのみち良い方向への変化なのだから。

 

 

 


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