コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第百十九話 ホワイトベース

 

 

 そこでシャアはキャラ・スーンの乗るジャジャを追い始める。

 しかし未完成ではあっても新型機、ジャジャの出力はそこそこ高く、シャアよりも先にアムロのジーラインに接近していく。

 

 

「何だ!? ジオンの新しいMSなのか?」

 

 アムロ・レイはジャジャを認めると戸惑いながらも射撃にかかる。

 だがジャジャの機動は速く初見ではわずかにズレが出る。それでもさすがにアムロ、当てることだけはできた。ジャジャの右足にビームの火線を当て、一撃でそこを飛ばして中破に追い込む。

 

 しかし今度はジャジャがビームを放ってきた。

 本来ならば十門ものビームを同時に飛ばせる仕様を目指したジャジャだが、それは未来技術を見越したものであり、現段階の技術ではとてもそんなことは実現できない。そもそもジェネレーターにそこまでの出力はなく、結果的にたった二門の射撃だ。

 しかしそれがアムロのジーラインへの至近弾になり、不運なことにビームライフルをかすめてしまう。

 アムロが余裕で躱せなかったのは、ジャジャの射撃がライフルによるものではなく、本体に砲門が仕込まれていたために一瞬見極めが遅くなってしまったからだ。ジャジャは元々局地制圧用に開発された仕様のため、兵器換装に頼るのではなく本体に備えられた固定砲でのビーム火力が重視されている。

 

 だがアムロは少しも動きを止めず、ビームライフルが使えないとなればあっさり捨て、今度はビームサーベルを振り抜きながら飛ぶ。ジーラインの機動性能とここまで戦い抜いてきたアムロの戦闘技量は高い。

 躊躇なく接近戦に切り替える。

 そんなアムロの恐るべき攻撃に対しジャジャもまたビームサーベルを抜いて迎え撃つが二回打ち合ったのが限度になる。

 

 ジャジャの大パワーも、開発のベースとなったギャン譲りの可動域の広さもそこまでだ。

 

「な、なにーーッ! ジャジャはまだまだできる子なんだッ!!」

 

 思わずそう叫ぶ。ハイテンションになって恐怖も感じないキャラ・スーンだが、現実問題としてアムロ・レイの桁外れの反応性に三回目は対処できない。キャラ・スーンの技量もジャジャの高性能もむなしく、腕も肩も斬り払われあっさり大破に追い込まれてしまう。

 

 続けてジャジャにとどめを刺そうとしたアムロだが、そこに迫ろうとしている別のジオンMSの気を感じて動きを止める。

 アムロの感じた気は、今まで何度も出会い、そして戦ってきた因縁の強敵のものである。

 

 

 

「シャ、シャアか! ここにシャアが来たっ! どこだっ!」

 

 シャアが来たと分かった以上、アムロは行動不能になったジャジャにそれ以上構うことはない。

 そして宙を見つめると赤いMSが接近してくるのが分かる。アムロのジーラインはシャアのゲルググJ改を注視し、これからの戦いに身構える。

 

「それと、何か光が見えるような…… いったいこの光は……」

 

 それはシャアの後ろに続くモビルアーマーから感じたNTの共感なのかもしれない。

 しかしそれを考えたのはただの一瞬、捉えられることはなく再び意識を戻す。本気で意識を研ぎ澄まさなければシャアと戦えるものではないと分かっている。

 アムロの方もまた言い尽くせない因縁をここで決着させるつもりだ。

 

 

 同じ時、ホワイトベース艦橋でもこのことを把握している。

 だが、そこのメインオペレーターであるミライはサブオペレーターのセイラ・マスが何か不審な行動をするのに気付いた。

 

「どこに行くの? セイラ」

 

 セイラは本来パイロット候補であり、艦橋要員ではないが、慢性的に人員の足らないホワイトベースではむしろサブオペレーターとして動いていることが多い。そのセイラは今、なぜかコンソールから離れ、そのまま艦橋から出ようとしている。

 問いかけたミライに何も答えず、ミライもまたセイラの背にそれ以上言うことはない。

 そしてセイラはピンクの連邦軍服から黄色のノーマルスーツに変え、緑のバイザーを下ろす。

 ホワイトベースの艦載機発着場に着くと、艦橋から発進の指示が出ていないと不審がる整備員に対し緊急と言い訳をしながら、モビルアーマーのコックピットに入り込んだ。

 

「アムロと兄さんが戦うことなんてないのよ……」

 

 心底からの言葉である。

 そして、自分がモビルアーマーで出撃し、戦いに割り込んで止める気である。危険は承知の上だ。

 戦闘に巻き込まれれば、自分の技量ではあっさり消されるだろうことは分かっている。しかしそれでも。

 

 セイラ・マス、本名アルテイシア・ソム・ダイクンはもちろん兄であるシャア、つまりキャスバル・レム・ダイクンを慕っている。兄がなぜ連絡をよこさないのか、何を考えてシャアなどという偽名を使いジオン軍に潜り込んでいるのか分からない。何をしようとしているのかも分からないが、たぶん良からぬことで、それを視野が狭くなるくらいに思い込んでしまっているのだろう。

 

 できればそれを止め、元の優しい兄に戻したい。

 

 一方、アムロについては、気弱なくせに生意気で、現実を直視しようともしない軟弱者だと思っていた。心のどこかで、劇的なまでに厳しい境遇を送ってきた自分と比べていたのかもしれない。どうにも甘ちゃんに見えて印象は良くなかった。戦いに対し煮え切らないアムロを殴るブライトの方に理があるとさえ思っていたのだ。

 しかしアムロはホワイトベースで過ごすわずかな期間で精神的に成長していった。

 天才的なパイロットという称賛に決して溺れることなく、本来の純真さを残したまま、しっかり前を向いている。ぎこちないながら皆との絆を結ぼうともしている。そして何より、家庭を顧みない父、愛情の薄い母、アムロにだって複雑な家庭事情があり決して幸せではなかったことも分かった。

 今、アルテイシアはシャアとアムロのどちらも失いたくない。

 

 

 

 しかし予期した二人の対決は始まることがない。

 どちらにとっても思わぬ邪魔が入ってしまう。

 それはシャアとアムロの決闘を止めさせようとモビルアーマーで発進しようとしていたアルテイシアによるものではない。

 

 何と、割って入ったのは誰も見たことがないジオンの新型モビルアーマーだった!

 

「こいつが連邦のエースなのか。どれほどやるのか、試させてもらう!」

 

 大型かつ高速、一目で力強さ、兵器としての完成度が分かるモビルアーマー、ノイエ・ジールである。

 ケリィ・レズナーの乗るノイエ・ジールがやっとデブリ宙域を抜けてきたのだ。

 連邦の戦線を決定的に崩すため、楔となっているこの場所を目がけて来た。ついでながら到着するまで合計六機ものジム・クゥエルを血祭りに上げている。

 

 アムロのジーラインへ高速を保ったまま接近し、モビルアーマーならではの連続射撃を加え、飛び去る。

 だがアムロはその連弾を全て躱し切った。

 普通ならアムロは反撃の射撃をして撃ち墜としたかもしれないが、しかし今はジャジャとの戦闘でビームライフルを失くしてしまった。ホワイトベースに予備を取りに行くこともできない。もしそうすれば、ホワイトベースの方が葬られてしまう、それほどの敵だということは感じとれた。

 

 

 シャアもまた、ノイエ・ジールとジーラインが戦う様子を見ると足を止め、少しばかり傍観する。

 

「ふむ、ジオンにあんな機体もあったのだな。ララァ、少しばかりお手並み拝見といこう」

 

 旋回し、もう一度ノイエ・ジールが迫り連射するがやはりアムロは全て躱す。

 しかし今度はそれだけにとどめるアムロではない。しっかりとノイエ・ジールの軌道を予期していたのだ。躱すと同時に突進しノイエ・ジールの軌道と交差するポイントへ出ている。

 その瞬間、ビームサーベルで斬りにかかった。

 しかし次にはアムロの驚く番である。

 ノイエ・ジールは単なるモビルアーマーではなく、脚こそないがMSのように大推力スラスターや可変ノズルが付けられている。まるでMSのような高機動運用さえ可能な超高性能モビルアーマーなのだ。それでアムロのビームサーベルに宙を切らせる。

 

 ここからは接近戦に変わる。

 今度はノイエ・ジールから伸ばしたサブアーム、それに付けられたビームサーベルがジーラインを斬りにかかるが、ここはアムロの反応が早く、逆にサブアームごと斬り飛ばす。ただしそれ以上の追撃ができない。

 アムロには不利な点がある。シャアの存在がどうしても気にかかるのだ。

 目の前の相手は間違いなくジオンの新型機、全力で相手どらなくてはいけないのだが、シャアの気配がそれに専念するのを許さない。

 

 そんな隙をみてまたしてもノイエ・ジールのサブアームとビームサーベルがアムロに迫るが、再びそれを払う。

 次にアムロから攻勢に出る。

 

 だがしかし、それをケリィは待っていたのだ!

 ノイエ・ジールが文字通り奥の手を出す。

 腕状のサブアームだけではなく、ノイエ・ジールにはクローアームが装備されている。むしろこちらが主である。今、その一本を犠牲にしてアムロの攻撃を防ぎつつ、もう一本を使ってジーラインを抱え込んだ。

 

 ケリィも今は分かっている。この連邦のエースMSは予想をはるかに超え、桁外れに強い。まるで化け物のような動きをする。ノイエ・ジールがいくら射撃を加えてもとうてい仕留めることはできず、かといって接近戦でも立ち会えない。この化け物を倒すにはなんとか捕まえた上で物理的に絶対対処できないほどの火力を叩きつけるしかない。

 

「ノイエ・ジールはジオンの精神だ。連邦の化け物、丸ごと喰らえ!」

 

 そしてノイエ・ジール本体に装備されたメガキャノンを撃ち放つ。

 それはあまりに常識外れである。このゼロ距離からの砲撃では、うまくいったとしても誘爆で相討ちになってしまうではないか。

 

 アムロはどうにかクローアームを振りほどいたがそれが精一杯だった。

 いや、普段であればそれで済ますようなアムロではなく、お返しとばかりノイエ・ジールへ致命傷を叩き込めたかもしれない。

 だがそうはできなかった。

 

 この時アムロはこのモビルアーマーパイロットの思念を感じ取ってしまった。

 

「このジオンのパイロットは…… ああ、あの時の親切な人か……」

 

 分かったのだ。以前出会ったことがある。

 それはサイド6で急な雨に降られ、アムロが運転していたジープがぬかるみで動けなくなってしまった時のことだ。その時、通りがかったケリィ・レズナーは親切にもアムロのジープを牽引して助けている。

 アムロは殺人マシーンではない。

 その心はまだ荒んではいない。戦争による人の悪しき思念に晒されたことも多かったが、瑞々しい感性は失われておらず、敵もまた人形ではなく人間であると思う心を残している。つまりケリィを一瞬の躊躇もなく殺すほどではなかったのだ。

 

 それが明暗を分けた。

 アムロのジーラインにメガキャノンがかすり、その威力のため右胸部までもが溶かされた。コックピットまではギリギリ届いていない。幸いなことにジェネレーターは一気に吹き飛ばされたためその爆発も大したものではなくなっていた。ノイエ・ジールも損傷を受けたが稼働できないほどではない。

 

 

 

「相討ちといったところか。あのモビルアーマーの技量も大したものだった。そしてこれは私にとってチャンスと見るべきだろう」

 

 今度は戦いの結果を見たシャアがそう言いつつ接近を図る。

 

 元々連邦の新開発MSガンダムを沈めることを使命として追っていたシャアだが、もはやガンダムに乗っていないとしてもアムロという人間にようやく決着をつけられる。また、アムロの生死や負傷が分からない以上、別のMSで出撃してきたら繰り返しになるだけであり、ここで片付けておかなくてはならない。

 

 だがそこでシャアが目にしたのはアムロのジーラインに対する支援機だった。木馬から出たガンキャノン、ガンタンク、そしてモビルアーマーまで接近してこようとしている。おまけに支援機を出すだけではなく、木馬自身まで弾幕を張りつつ寄ってきている。できるだけ早くジーラインを収容するつもりなのだろう。しかし普通ならそれは有り得ないことで、母艦というものはMS戦闘宙域からできるだけ遠ざかろうとするはずなのに。

 

「なるほど、木馬はあのパイロットをどうしても救出したい、失ってはならないと考えているのだな。まあ、今なら丸ごと排除するとしても私とララァには大した問題ではない」

 

 そう言ってシャアのゲルググJ改が支援機たちを壊滅させようと態勢を整える。真っ先にその餌食にするのは戦闘機体形のモビルアーマーだ。

 

「少将! いけません!!」

「どうしたララァ」

「いえ、少将にとって今戦うのは決して良いことにならない気がして」

「…… ララァがそう言うとは珍しい。何かあるということか」

 

 ララァの能力に全幅の信頼を置くシャアも思案する。

 むろんララァも神ではない以上、シャアの妹であるアルテイシアがそのモビルアーマーに乗っているとは分からず、伝えようのない不安があっただけだ。シャアはシャアの方でアルテイシアが木馬にまだいるとは考えていない。攻撃をやめたゲルググJ改の前を飛び去るモビルアーマーのパイロットの影を見て、まさかな、と思うだけである。

 

 

 そのわずかな時間が大きな差を産む。

 

 連邦艦隊が一時後退を決め、全艦全MSと共にこの宙域を横切りつつあった。光の粒が連なった川が迫る。

 

 そんな大きな濁流には抗しようもない。

 シャアはキャラ・スーンを救出すると、ララァを連れて離脱に転じた。大破し、攻撃オプションをほぼ失ったケリィのノイエ・ジールも何とか自力で離脱する。

 ホワイトベースもまたアムロを素早く収容してその場を離れていく。

 奇しくもアルテイシアの願い通りどちらかの死という決着は避けられたのだ。

 

 

 

 

 

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