コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第十二話 間違い

 

 

 皆は、何も言わずに俺を見ている。

 どう表現したらいい空気なんだろう。

 

「お、みんないたのか。はは、ごきげんよう」

 

 よくわからない挨拶をしてしまった。

 咄嗟に言葉を出せたのは年の功とやらだが、本当は何を言ったらいいか分からない。

 

 フラナガン機関の要請は全て拒否し、話し合いは決裂した。俺は軍の指揮系統上、微妙な立場になってしまうのは避けられない。しかし、俺がフラナガン機関で検査を受けることはともかく、クスコ・アルやツェーンを渡すことはできないのだ! 

 

「しかし、なぜ艦橋に上がってきた? 許可はしていないはずだが」

「聞いていました! 司令、どうして、そこまで!」

「ん? ツェーン、何か不思議か?」

「フラナガン機関へ私が行かなかったら、立場が…… どうせいくらでも替えの利くパイロット一人なんかのために」

「替えが利く? 冗談でもそんなことは言うな。お前はこのコンスコン機動部隊のパイロットだ。これまでもそうだったし、これからもずっとだ。違うか」

「…… でも、私は、みんなに迷惑ばかりで…」

 

 ツェーンは俯いて小さくなっている。らしくない姿だ。自分がいなければいいと思っているのか。

 そこへ声を出してきた者がいる。

 

「か、感動しました!! 司令官! これほどMSパイロットを大事にしておられるとは。やはりコンスコン司令は尊敬すべき方です!」

 

 目をキラキラさせてるよガトー君。

 チョロイン枠だけど感動してくれたのは嬉しい。

 そして空気が掴めてないところがまた素晴らしいよ。

 

「司令官と艦隊のため、このガトー、粉骨砕身、働く所存であります!」

 

 あれ、それはいいけどガトー君はどうしてここに? 君の所属はチベじゃなくムサイのドムだったはずだが。

 まあ、チべは横幅が広く、スリムな連邦のサラミスなどよりは収容能力が高い。そのためジオンは、連邦の木馬のような強襲揚陸艦を別に設定していることがないくらいだ。確かチべは最大十八機収容できる。ガトー君もこちらに来ていたか?

 

「ドム隊副隊長カヤハワ、以下十名。ツェーン隊長とこれからも隊を構成いたしたく思っております!」

 

 お、カヤハワも声が大きいぞ。いつもそれくらいの大声が出せればいいな。

 

 だが、それでもツェーンは俯いている。

 目には涙があるのだろう。

 そのまま見ていては可哀想だ。

 ここは俺が、湿っぽい雰囲気を何とかしてやらなくてはな!

 

「せっかくの隊長をフラナガン機関などへはやらない。ただそれだけの話だ。指を少し失くし、胸は全部失くしたようだが、うちの隊長はツェーンだ」

 

 ツェーンは最上級の美人であり、髪も声もいい。手足もスラリと伸びている。

 だがしかし! 目立つことがある。いや、目立たないことと言ったらいいか。

 胸が絶望的なまでに無い!

 それなりのボリュームを保持しているカヤハワの隣にいると男みたいだ。むろん、本人もずっと気にしているに決まっている。

 そこを言えば、反応があるはずだ。

 

 顔をばっと上げてきた。

 

「…… やっぱ殺すわ」

 

 怖えよ! 反応し過ぎだよ。

 

「みんな、また一緒にやるわ。今度出撃したらジャイアント・バズが手違いでチべの艦橋に直撃したりするかもだけど、頑張るわよ!」

 

 お願いします。その説明臭い具体案やめて下さい。

 てかどういう手違いだよ!

 

 俺はツェーンを怒らせてびびっていたが、実はそれは違っていたんだ。

 俺は気付かなかったが、ツェーンも皆も俺の気持ちを分からないはずはなかった。だからこそ、そんな下らない景気づけに乗せられたフリをした。俺には明るい顔を見せるために。

 

「ここって、なんか、凄いのね」

 

 目を丸くしてクスコ・アルが言う。

 彼女なりに感じるものがあるのだろう。

 

 

 ただし問題は直近にある。フラナガン機関との悶着をどうするか。

 俺は本当に正直に言う。

 

「俺の考えを言う。これからフラナガン機関を急襲する。非人道的な機関をこのままにしてはおけない。将来明らかになった時、必ずジオンの汚点になるはずだ」

 

 俺だけにとどまる問題ではないため、話しておく必要がある。

 

「むろん、体裁としてはこうだ。ちょっとした通信機の故障と観測機の不具合が偶然にも重なってしまう。小惑星ペズンにおいて、この艦隊は連邦と味方を誤認してしまった、という実に痛ましい事件を引き起こす。結果的に、とある施設が半壊し、中にいた人間が自由意思を行使できるようになったというとても不幸な事故になる」

 

 誰かがうぷぷ、あはは、という声を出す。

 

「だが、そんな事故は軍の規約上、あってはならない。そこで皆に言っておきたい。当座、勤務したくない者はしなくていい。自室待機していい。何もしてない、何も知らないで構わない」

 

 これに対し、誰も彼もが聞いちゃいない。

 目を輝かせ、闘志に溢れている。

 

 

「全艦発進用意! 第一級戦闘配備!」

 

 ん? 俺じゃないぞ。

 副官がそう告げている。

 熱い、熱いぜ副官。わかってるな!

 

 皆が持ち場に駆けていく。

 

 

 

 結果だけ言うと、作戦は成功した。しかしなかなかに難しかった。

 ただ攻撃すればいいのではなくて、救出だからだ。

 しかもこちらに犠牲を出さず、おまけにフラナガン機関の方にも死者を出すことはしたくない。

 勤めている科学者どもは常軌を逸しているとはいえ、純粋で、有能な連中なんだ。方向さえ誤らなければ皆を幸福にする研究だってできる。ついでに言えば現時点で犯罪者ではない。

 

 かなり無理のある作戦だが、一つ助かったことがある。最も問題である、救出したい人間の居場所が分かったことだ。普通は逃げられない深部に隠されているものだが。

 それにはこの人物が大いに役立った。

 

「クスコ・アル! 施設のどこに閉じ込めらた人間がいるか分かるか!」

「ええと、接近すれば、感応力のある人間の集団なら分かります!」

「よし、それをできる限り細かく指示するんだ」

 

 何とか解放に成功した。

 念願のシャリア・ブルもこちらに取り戻した。

 本人は、最初やはりフラナガン機関で、そのまま殉ずる思いでいたようだ。しかし、無駄死にするのでなく、ドズル閣下の元へ参加して戦い続けることこそ、ジオンのためになると話すと分かってくれた。

 俺も別に方便で言うのではない。それこそがスペースノイドのためだと本当に信じているからだ。ドズル中将こそ信頼するに足りる上司であり、その下で戦うべきだ。連邦に負ければスペースノイドが暗黒の時代に入ってしまう。

 

 シャリア・ブルは最後しっかりした瞳を俺に向けてくれた。これもやはり漢だ。

 

 それ以外にも、こちらの艦隊に勤務したい兵士は歓迎した。すると大部分はこの艦隊に残ってくれた。非常にありがたい。もう慢性的に人が足らないんだ。

 フラナガン博士の言っていたダリル・ローレンツも収容している。

 ついでにお付きの女性医師まで一緒だ。フラナガン博士に隠してこっそり保存してあった腕をつなげられる可能性がある、という話だった。そうでなくても神経接続技術を良い方向に使い、将来は動かせる義手義足を作ってあげられるらしい。

 俺もダリル・ローレンツをちらっと見たが、とても優しげな男だった。是非ともそうしてあげてほしい。

 

 しかし、当然ながら元の所属に帰りたい者もいる。俺はムサイを一隻与え、解放と引き換えに、やはり施設に閉じ込められていた年端もいかない少年少女たちをズム・シティに送り届ける役を与えた。

 俺はそういった可哀想な子供たちを見ようかと思った。

 しかし、途中でやめている。なぜか強烈に頭痛がしてきたせいだ。遠目に、珍しいピンクの髪の女の子などを見るだけに留める。

 

 最後にフラナガン機関施設のライフラインまで壊れていないことを確認し、脱出用のムサイも残した。それはフラナガン博士を含む科学者たちや衛兵のためを考えてのことだ。

 それ以外はもらっちゃったけどな!

 

 

 さて、またしてもはぐれ艦を接収しやすいコースを考えながらも、基本はもう帰路についている。ア・バオア・クーに向かっていく。

 

 ただし一つの事件が起きた。

 やはり俺はキシリア閣下の機嫌を損ねてしまったようだ。

 

「前方より艦隊接近! 友軍です。艦数、約十隻。詳細確認……え? で、できません! 通信拒否されました」

「どういうことだ! ジオンなのに、なぜ所属すら確認できない」

「コード開示も拒否! ただし艦型照合は出ました! 旗艦ザンジバル級キマイラ、あれはキシリア少将麾下選抜攻撃隊、通称キマイラ!」

「そのキマイラ隊がここに…… いったい何の用事だ」

 

「キマイラ、尚も向かってきます! あ、MS発進開始しました! 数、三十から三十五機。当艦隊に展開!?」

「MSまで? な、なぜそんな。まさか、この艦隊に敵対行動をとる気か!」

 

 いつもは先手を取って主導権を握る俺が対応を誤った。まさか、艦隊を使ってまで意趣返しをされるとは思ってもみなかったのだ。ソロモンを失って危急存亡のジオンなのに、そんな余裕があるものか。いや、そういう時だから狂気も発生するのかもしれない。

 

 戦いは数、そういう正論を言うドズル中将に対して、キシリア少将は少数精鋭主義をとるところがある。シャアを寵愛したり、ニュータイプに望みをかけたりする。そして艦隊でも精鋭艦隊をいくつか作って手足のように動かすのを好む。

 今、このキマイラ艦隊を使って俺を叩きに来たのか。

 

 しかも、クソッタレなことに俺の艦隊が砲撃戦が得意なことを学習しているらしい。砲戦の間合いを取ることなく、最初からMSで仕掛けてくるとは!

 しかも散兵陣だ。

 こちらのMSの数が少ないことを見越して広く展開している。距離を取ったMSを個々に相手取るしか方法がなくなる。つまりこちらのMSの技量が高くとも、防ぎきることはできない。艦の対空砲火の網をどこかは破られて接近される方が先だ。

 相手の指揮官は忌々しいほど有能な奴だった。

 

 畳みかけるように嫌な情報が入ってきた。向こうのMSの大半はドムではなく、数段性能の高いゲルググが配備されている!

 ジオンの工場は本国と月面に集中しているのだが、グラナダのキシリア少将は、やっぱり良い機体を自分のところに囲い込み、ドズル中将には言い訳しながら型遅れしか回してなかったんだ。

 

 俺は痛恨の遅れをとってしまった。

 

 

 


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