コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第百二十話 3人組プラス1

 

 

 ここで連邦艦隊が一時撤退し、態勢を立て直すことを選択したのは理由がある。グリーン・ワイアットはわずかな戦局の流れを察知し、そういう判断をした。

 

「ステファン・ヘボン君、少し後退することにしよう」

「閣下? しかしMS戦ではまだ支えられていますが」

「万が一のことを考えると、突破され被害を被ってからでは遅いね。乱戦は望むところじゃない。ある程度の戦果を得た今、優勢のうちに退くべきだ」

「は、はあ、その通りではありますが…… ここまで策を練り、もう少しまで追い詰めておきながら、艦隊戦に間を置いてジオン艦隊をデブリ宙域から逃すのはあまりに無念では」

「確かにその通り、私とて君と同じ気持ちだよ。しかし気が付かないかなステファン・ヘボン君。ジオンMSの戦い方に変化がある。もちろんこれにも対処のしようはあるが、今すぐは無理だろう」

 

 ステファン・ヘボン少将は正直意味が分からなかったが、言われた通り全艦隊に後退を指示する。そうしながら戦闘状況を細かく注視すると見えてきたものがあったのだ。

 

「閣下! 確かに変化が認められます……」

 

 それはちょっとした変化だ。

 しかし結果を大きく変える可能性をはらんでいる。

 ステファン・ヘボンはそんなところまで見通したグリーン・ワイアットの慧眼に再びひれ伏すしかない。

 

 

 

 その変化をもたらしたのはジオンMSの中の一つの隊だった。

 カスペン少将の技術艦ヨーツンヘイムから出撃したMSである。ジオンはこの会戦に鈍足のドロス級空母を連れてくることはできず、各MSはほぼ搭載限度近くまで各艦に分けて載せられている。

 中でもカスペン大隊のヨーツンヘイムは最大数のMS、四十五機もの数を搭載していた。むろん技術隊らしく新兵がその大半を占める。

 元々カスペン大隊は純粋技術開発ではなく、といって純粋訓練所でもない。機体の評価、運用、訓練を一体化して行うことで素早い発展を目指したジオンならではのユニークな隊である。そして、持てる戦闘力を買われて事あるごとに会戦へ参加している。ヨーツンヘイムと技官、教官、新兵のMS戦力が期待されているのだ。

 

 

 今はデブリ宙域にヨーツンヘイムを残したまま、MSは全て出てこっちの戦闘に参加している。

 その中には技官というよりベテランパイロットとしてオリヴァー・マイ中尉、そしてモニク・キャディラック少佐がいる。モニク・キャディラックは元はギレン総帥府所属特務大尉という軍内エリートの位置だったが、ギレン総帥の死と総帥府の解体に伴い通常の少佐という階級に落ち着いている。

 

 このMS隊には今、何とカスペン少将自身が加わっていた。

 

「カスペン少将、お戻り下さい! 部隊司令がヨーツンヘイムを離れていいわけがありません」

「キャディラック少佐、ではヒヨッ子をどうやって守る。新兵たちをここで死なすわけにはいかん」

「……」

 

 もはや言う言葉はない。カスペン少将はいつも通り、若者の身ばかり案じている。その強面からは信じられないほどだ。

 有言実行、カスペン少将は自分の愛機であるゲルググで新兵のお守りをしている。

 

 隊には他にゲルググはない。MSの構成としてはだいたい7割がガルバルディ改、他3割がケンプファー改である。カスペン技術大隊に限らずジオンMSは他の隊もだいたいこれと同じような構成になっている。

 どの隊でも新兵や若者はガルバルディ改、地球表面から還った古参兵がケンプファー改を選ぶのが定番である。中にはどうしてもザクやドムなどから離れられない頑固者もいないわけではないがその数は少ない。またゲルググは故障の多さと整備兵泣かせの機体構造から、真っ先にフェードアウトされ事情がない限り使われていない。

 ジオンのMS隊の配合はそのミックスの結果だ。

 

 

 カスペン隊では当然、そのMS構成に合わせた戦いを繰り広げている。

 もちろん各MSをごちゃ混ぜにするのではなくきちんと区別して使っている。

 

 先ずは突進力に優れたケンプファー改が連邦MS隊を乱し、そこに新兵のガルバルディ改が打撃を与えるという戦法である。戦いに慣れていないせいで恐れが出てしまう新兵をそうやって使うのは合理的だ。

 しばらく戦うと、戦果を挙げる代わりにそれなりの損害もまた受けてしまう。

 カスペン少将はそれを痛ましく思う。

 戦いというものは一方的になることはあり得ないと分かってはいても、やはり若者を死なせていくのは堪える。

 

「やっと連邦の一隊は崩しました。どうします、カスペン少将」

「戻って一服したいのは山々だがそうもできん。次へ向かい、できるだけ早く連邦MSを叩き、向こうの艦隊へ取り付かねばならん。新兵たちの様子はどうだ、少佐」

「仲間を失って動揺しているのはそうですが…… それは人間として当然の範囲、幸いなことに錯乱や心神喪失はまだ出ていません」

 

 

 そして新たな戦いに向かうが、ここでふとオリヴァーに気付くことがあった。

 

「キャディラック少佐、ちょっと試したいことがあるんですが」

「え? オリヴァー中尉、何かしら?」

 

 この切迫した状況で提案するのも普通ではない。だがモニク・キャディラックはオリヴァーの真面目で落ち着いた性格を知っているので、しっかり聞くべきだと判断した。

 

「ええと、では話しますが、ケンプファー改が先陣、ガルバルディ改が後衛、このままでいいんでしょうか? 僕が思うには逆の方が」

「オリヴァー、なぜ? もしガルバルディの新兵を先に出したら崩れて、手がつけられなくなるだけよ。それこそあっという間に」

「いいえ、そうじゃありません。機体特性を考えて下さい。ケンプファーはいい機体でも、索敵性能はガルバルディに劣ります。しかも、連邦の新型MSはたぶん索敵性能も向上し、ガルバルディには及ばなくとも、おそらくケンプファー以上になっているような気がします」

「…… そうね。そんな感じもするわ。今までの連邦MSなら索敵範囲はジオン機より広くないものだけど、新型機だけはかなり索敵範囲が広そうね。初動がかなり早いもの」

 

「だから無駄に連邦MS隊に先手を取らせてしまってるんです。ついでに言えばケンプファーの実弾兵器は連射力はあっても射程は決して長くなく、間合いが遠いと避けられてしまいます」

「それで位置取りを反対に、というわけね。ケンプファーではなく、ガルバルディを前衛に出して」

「ガルバルディでゆとりをもって先手を取り、頃合いを見て一気にケンプファーで決着をつけた方が有効なんだと思います。新兵だっていきなり戦闘のさなかに飛び込むより楽なんじゃないでしょうか。それにいつでも後退してケンプファーに任せられるのも安心です」

「分かったわオリヴァー。その戦い方をカスペン少将に提案してみましょう」

 

 機体の性能と運用について、さすがに技術大隊はどこよりも理解が早い。

 オリヴァーの殊勲である。

 その新しいやり方を試してみると非常に有効だということが分かった。

 それまでは連邦のジム・カスタムと同数で当たれば良くても拮抗、新型機ジム・クゥエルと当たればはっきり押されてしまっていた。しかし戦法を変え、ガルバルディとケンプファーの長所を活かす戦いをすれば連邦ジム・クゥエルさえ押し返すことができる。

 これにより戦況は改善し、他のジオンMS部隊でも真似をするところが出てきた。

 

 

 

 グリーン・ワイアットはこうした微妙な変化にも気付いたのだ。けだし名将である。

 

 そして連邦艦隊が後退に動く直前、カスペン大隊はとある連邦MS部隊と戦いに入っていた。一つの局地戦だ。

 ジオンのガルバルディ改が弧を描いて連邦MSに攻勢をかけ、それに対して連邦MSが応戦する。

 

 

「うわっ、ジオン機が来た! 三機だ。一緒にやろうぜ、ジェリド、エマ」

「カクリコン、無理よ。こっちにも一機来たわ! そっちは自分でやって頂戴」

「ええっ、三機を俺が? 待て待てエマ、無茶言うな。ちょっと下がるぞ」

 

 それは連邦強襲揚陸艦アルビオンから発進したMS隊、てんやわんやで戦闘に入っている。

 

「あ、カクリコン、そこで下がったら。ジェリド、ジオン機がそっち行ったわ!」

「そっちって、どっちだ? エマ、どこから来る!」

「右よ!」

「え? 右か、俺にはジオンMSが左から来るように見えるが……」

「だからジェリド、私から見て右なのよ! 分からない?」

「馬鹿かエマ! なんで分かると思えるんだ! 俺を殺す気か、そうか、そうなんだな!」

 

 こういう調子が続いている。

 ジオン機にあっという間に追い込まれながらも、何とか戦いの形になっているのはジム・クゥエルの高性能のおかげだ。

 

 そんな体たらくの三人に声をかける者がいる。

 

「……お前たち、真面目にやってるつもりか?」

 

 マウアーが静かに怒っている。

 その三人組は士官学校所属の学徒兵、しかしマウアーは士官学校とは無縁であっても軍歴は長い。というわけで三人組とマウアーは微妙なところで同格と言える。

 そしてマウアーにはこの全く連携のとれていない様子が我慢ならないのだ。とうてい真面目にやってるように見えない。

 

「真面目のつもりだけどな」「真面目に決まってる」「真面目よ、私だけは。他は知らないけど」

 

「 ………… で、このまま戦って死にたいのか」

 

「そんなわけない。あ、ジェリドはエマに撲殺されたいそうだ」「俺に振るな! その役はカクリコンに譲ってやる」「何よ二人とも暴力みたいに。ただの修正じゃないの! そうよ親切だわ!」

 

「 ………… 死ね」

 

 これはもう何を言ってもダメだと匙を投げたマウアーだが、このへっぽこ三人組を見捨てることはなく被害が出ないようにフォローしている。

 

 それはアルビオンでも同じだ。

 激しい弾幕を送って援護することを忘れない。ヘンケン・ベッケナーの指示によるものだが各員きっちりそうしているのは、艦橋の皆も分かっているからである。

「艦長の可愛いエマちゃんを死なせるわけにはいかないもんな」

 何のかんのヘンケン・ベッケナー艦長を敬愛する皆は、当然ながらエマを熱心に守りにかかっている。

 

 ジオン側カスペンのMS隊も攻めあぐねている間に連邦艦隊全体の移動を感知した。

 こんな局地戦にこだわらず、いったん戦闘を止めて退く。

 

 

 

 こうして第二幕の戦闘は終わった。

 

 連邦艦隊はルウム特有の金属デブリ宙域を使った雷撃という驚くべき奇策を準備し、見事にジオン艦隊をそれに嵌めて叩いた。

 しかしジオンもまた雷撃を半ば無効化し、MS戦を仕掛けて乗り切ったのだ。

 

 仕切り直しだ。

 今、連邦艦隊は少しばかり後退して陣形を整えつつある。

 ジオン艦隊もまた航行能力を回復し、デブリ宙域をやっと抜け出している。そしてMSを収容、補給と整備を進めながら連邦艦隊に対峙する。

 

 戦いはまだ終わりではない。

 

 これからおそらく最後となる第三幕が始まるのだ。

 両陣営の信じる正義と未来をかけて死力を尽くす。その激しい戦いはいったい幾つの運命を巻き込むのか、まだ誰も知らない。

 

 

 


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