コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第百二十一話 ワイアットの狙い

 

 

「さて準備はできたかな、ステファン・ヘボン君。それと被害状況はどうか」

「混乱の収拾と損傷艦の応急修理は完了しました。現在、我が連邦艦隊は無傷あるいは小破で戦闘可能な艦が200隻余り、航行はできても戦闘は無理なものが40隻といったところでしょうか」

「よろしい。ではジオン側の推計はどうなっているだろう」

「そしてジオン側では、同じく戦闘可能が130隻、それが不可能な大破が40隻ほどと算出されます。MS戦力については艦数ほどの差はなく、こちらが優勢とはいえ小差と見込まれます」

「ふむ、そんなものだろう。先ずは充分と言える」

 

 戦いの第一幕、第二幕はワイアットの策が功を奏し連邦艦隊とジオン艦隊の戦力差は拡大した。そこで戦いを決められず仕切り直しにはなってしまったが、ワイアットとしては落胆することはない。

 第三幕をスタートするに当たっては上々だ。

 だがここでちょっとした懸念をステファン・ヘボン少将が指摘する。

 

「しかしながら閣下、物資面において消耗は激しく、ルナツーから遠征してこなくてはいけなかった我らの方に不利な面があるかと。そもそも物資を満載という状態で進発できなかった状態なので」

「それもその通りだ。サイド6から物資を持って合流してきたオットー・ミタス君がいなければ、撤退も視野に入っていたかもしれないね。しかし結果的には問題ない。もう持久戦というオプションが取れないだけのことだ」

「持久戦ではないということは、ここからも急戦でしょうか。ワイアット閣下」

「どのみちはっきりとした決着をつけるにはそれしかない。持久戦の結果、うやむやになってはたまらないじゃないか。いったんルナツーに戻っても連邦はジリ貧になるだけで、退くことはできない」

「それはそうですが……」

 

 それでもグリーン・ワイアットの落ち着きは揺るがない。

 ここでジオンを撃滅するという路線は変えず、今から始まる戦術戦に思いを馳せているのだ。

 

「心配なのかね。いや、これでやっと下準備なしの本当の戦術戦になるだけだ。面白くなってきたじゃないか。それでも私がコンスコン大将に勝るか劣るか、期待してくれたまえ」

「いいえ閣下が敗けるはずはありません! ワイアット閣下なら必ずや向こうを上回る戦術を編み出すと、確信しています!」

「ありがとう。実はもう策は考えてあるのだ」

「おお、さすがは閣下……」

「では連邦の未来のため、勝ちに行こうか、ステファン・ヘボン君」

 

 

 

 その頃俺は、ジオン艦隊をようやく立て直した。

 状況を考えてため息をつく。

 

「やられたものだ。ケリィのノイエ・ジールも失われてしまったか。まあ木馬のMSを叩けたのだからお釣りがくると言うべきだな。それにしても連邦の戦意は高いものだ」

 

 ジオンは休む暇もない。

 連邦艦隊は準備を整え、再び戦うべく前進を始めたのが分かっている。

 

 よし、ならばここから勝負だ!

 ジオンの明日を作るため負けるわけにいかない。連邦がいかなる手を使ってもそれを全て返し切り、こちらの策に嵌め、ルナツーに帰さず叩いてやる。

 

 

 ジオン側の艦隊陣形は今、俺の艦隊を中央に置いている。

 その横の左翼にマ・クベ少将やカスペン少将の隊、右翼にはデラーズ少将の隊を配置している。

 シャアの隊や海兵隊などは遊撃だ。

 

 これに対し連邦艦隊はひと当てしに来たようだ。

 だが増速してくると横一線ではなくやや足並みを乱しているように見える。

 

「む、速いな、連邦側は。やや揃っていないくらいだが、そこまで戦意が高いのだろうか」

「コンスコン司令、確かに。このままでは左翼のマ・クベ少将が真っ先に当たってしまう計算です」

 

 俺はティベの艦橋にいたセシリア・アイリーンにそう言い、そしていつもながらの的確な返答を返された。彼女は物資や連絡の統括として今は艦橋に出ている。

 まあ、俺はセシリアとそういった会話をしたものの、単に連邦が乱れたとは思っていない。

 連邦側の将は恐ろしい奴だ。

 勝ち気に逸って足並みを乱すような愚将ならいざ知らず、ここにきて艦隊の統率もできないような将であるものか。何か狙いを持っていると見て間違いない。まさかマ・クベ少将の隊が比較的弱いことを知っているのか。

 

 

 状況は刻一刻と変わる。

 連邦は乱れたのではないと判明してきた。はっきりとこちらの左翼を狙って攻勢をかけ、崩そうとしている。

 

「やはり左翼が戦闘に入ったようです、コンスコン司令。連邦艦は早くも艦砲の合い間にMSの発進を始めています」

「一気に来たな。こちらとしては状況を見ながら陣形をコンパクトにして受け流す必要があるかもしれん。いや待て、これは…… まずい! 連邦が小部隊を形成して動かしつつある」

 

 ここで俺は見抜いた!

 連邦側は巧妙にカモフラージュしながら、十隻ほどの部隊を幾つか作っているのだ。

 それらをこちらの左翼前面に順次回しつつある。

 接触した連邦の部隊は外側を下がっていき、新しい部隊がそれに代わって前進している。そうやって攻勢をすぐさま引き継いでいるのだ。俺はこの動きを見た段階で連邦の戦術を確信した。

 

「なるほどそうか! 連邦のやっていることはいわゆる車懸かりの陣だな」

「コンスコン司令、それはいったい……」

 

「戦術バリエーションの一つだ。小部隊を幾つも編成し、移動しながら順繰りに攻撃を叩きつけ、最大火力の一撃を加えたら息切れする前に素早く逃げる。これを次から次へと何度も行なう」

「それは何のために」

「間断なく攻勢を続けることで、相手に立て直す暇を与えず、早いうちに瓦解に持ち込む。いわば超急戦の戦法なんだ」

「連邦はそんなやり方を…… 恐ろしいことですね」

 

 セシリアは疲れることなく押し寄せる敵を想像して顔色を悪くする。

 それは当然なのだが、俺の感想はまた別だ。

 

「いや、心配することはない。この戦術には対処法がある。落ち着いて迎撃し、うっかり局所的劣勢を作らないように気をつければいい。そうなれば小部隊の連続攻勢などただの戦力逐次投入と同じ意味にしかならん。愚策中の愚策といわれる戦力逐次投入だ。いずれは向こうの方が損害に耐えられなくなり消滅する」

 

 

 俺は戦術家として冷静に判断する。

 まあしかし、この方法は珍奇というべき戦術ではない。むろん連邦の将でも利点と欠点をよく知っての上で、こうしているのだろうが。

 

「連邦の狙いは、ある程度の損害を覚悟の上でマ・クベ少将の左翼を早いうちに突破し、こっちの後背に回り込んで挟撃することか。いい戦術だ。悔しいがそれが可能なほどの戦力差を確保しているからな」

「で、では突破されないように応援を」

「もちろんだ。マ・クベ少将に通達を頼む。ゆっくり後退してもいいから、突破だけは許さないように。直ぐに援軍も送る」

「は、はい」

「遊撃のキマイラ隊、サイクロプス隊に支援を要請、それからうちの艦隊のツェーン、シャリア・ブルのMS隊を出し、それもマ・クベ少将の支援に向かわせるんだ。連邦の攻勢を柔軟に迎撃し、損害を増やしてやるようにと」

 

 おそらくシャリア・ブルならば俺の意図を理解し、きちんと防御してくれるだろう。シャリア・ブルの冷静さには充分に信頼が置ける。一方でガトーやシャアはジオンの攻勢の要になるので防御には使わず手元に残す。

 さあ、こうすればしばらく支えられるだろうか。連邦の初手は防いだ。

 今度はこちらの番だ。

 

 と思ったのは甘かった。

 いくら防がれても連邦は懲りることがない。車懸かりは止まらないどころか、より大規模になりつつあるとは!

 

「…… どうしてだ。なぜその戦術にばかりこだわりを持つ。あるいは、突破からの背面展開が狙いではないというのか」

 

 俺は戦術家として頭をフルに回転させる。

 考えろ。向こうの立場に立てば、いったい何を狙う。

 

「もしかすると、こちらの中央と右翼を遊兵にして無力化したいのだろうか。確かに左翼を突破されないよう迎撃に徹すれば、その間は他のところは動けない。下手に前進すれば左翼を取り残してしまい、あたら間隙をつくってしまうからだ。そんなことをすれば一気に分断される」

 

 

 ここで決断した。

 全体を左翼の後ろに送り、陣を深くする方法も無くはないが、それでは攻勢が得意な俺の艦隊が後ろにいってしまうことになる。それでは持ち味を活かせない。

 そうではなく、むしろジオンも攻勢に出る。

 しかし素直に前進させるのではなく、全体を反時計周りに動かす。左翼は防御を続けるが、本隊と右翼は前に出ながら回り込むのだ。

 そうやって車懸かりを用意している連邦の小部隊たちを横撃して軒並み壊滅させながら同時に連邦本隊を急襲する。おそらく車懸かりに加わっていない連邦艦隊の後方は快速の艦ではなく、動きは鈍いはずだ。うまくいけば混乱から回復不能な打撃を与えて押し切れる。

 

 先ずは右翼のデラーズ艦隊を大きく動かし、そして俺の本隊を順次それに釣られるように移動させ回転する。

 

 

 ジオン艦隊が動き始めたことを観測した連邦艦隊はいったん動きを止め、中ではこんな会話がなされている。

 

「実にうまい対処をして逆撃を図ってくる。さすがはジオンのコンスコン大将だ」

「その通りですが閣下、しかしそうしてくれなければこちらの策も成り立たないのでありがたいですな」

「ステファン・へボン君、その通り。慌てて防御にばかり注力したり、あるいはそれさえ下手なため突破されるような凡将だったならばこちらの策も空振りになったところだ。いや、それなら楽に勝てていいのかもしれないが」

「とにかく閣下、次は予定通りに」

 

 そしてグリーン・ワイアットは艦橋スクリーンへ同時に二人の人間を呼び出した。

 その二人の者が映るやいなや命令を発する。

 短いものだがこの第三次ルウム会戦で最も重要になったといわれる命令だ。

 

「ガディ・キンゼー大佐、エイパー・シナプス大佐の両名に伝える。この機を逃さず、最大速度で出撃せよ。狙いはジオン本隊にいるコンスコン大将ただ一人。君たち投げナイフにコンスコン大将の首を取り、ジオンの心臓を止めてもらいたい。やってくれるかね」

「はっ! 身に余る光栄、必ずや」「吉報をお待ち下さい、閣下」

 

 

 


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