コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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エピソードが長くなったので前後に分けました
併せてお楽しみ下さい


第百二十三話 ライラとバニング 前

 

 

「各機ダイヤモンド隊形を維持、新人のレコア・ロンドは撃って当てるとか考えなくていい。隊形から決して外れるな。他は新人のカバーを意識しろ」

 

 戦闘が始まるとライラは一瞬も気を抜くことなく指示を出し続ける。

 いや、そうしなければ勝ちきれるものではない。

 相手をしているジオンMS隊は確かに強い。各機が高い錬度を持つ。一機だけカラーリングが違うのがいるが、それがジオンMS隊指揮官なのだろうか。その指揮官は更に段違いの実力を持ち、飛び回っては一度も直撃を受けることなく連邦MSを撃退し続けている。実力で皆を引っ張る猛将タイプのようだ。

 そこでライラは罠を張り、その指揮機を引き剥がし、叩くことを画策した。猛将であるほど真っ先に動いてくれるから予測がしやすい。エサを播いて引き付けながら数的優位を保持できる形を続け、消耗を待つ。

 

 

 今、このライラの隊と戦っているのは海兵隊シーマ・ガラハウだ。

 シーマとしてはこんなMS戦で足止めされてしまうのは本意ではない。本来はデラーズ・フリートの艦隊戦を支援するために来たのだ。早いところ連邦艦まで行って叩き潰し、戦局を打開したいのは山々である。

 それがやむなく連邦MSと交戦しているうちにいつの間にか術中に嵌められたのを自覚する。まるで網目のように組織だった連邦MSたち、無限の相手と戦っているような錯覚を覚えさせられる。こっちが突撃したはずがいつの間にか進路を曲げられ、逆にデラーズ・フリートの旗艦グワデンが見えるところまで押し込まれているではないか。

 

「やるじゃないか…… 連邦のMS隊も。凄い組織力さね。だがこのシーマ・ガラハウを押し切れると思ったら大間違いなんだよッ!」

  

 シーマはそう言って自分を更に奮い立たせるが、実は言葉よりも冷静さを保っている。

 どうすれば早く突破できるのか。

 指揮官である自分を押さえ込んで海兵隊の戦力を半減させられているのなら、お返しに同じことをするだけだ。

 連邦MS隊には司令塔がいる。シーマはそれを潰そうと連邦側の動きを観察し指揮機を探す。

 シーマ・ガラハウの優れた戦場勘はそれを見極め、一気に突進をかける。

 

 

 その突進だけの話なら、ライラにとっては予測の内とばかりに対処しただろう。

 だが、ここでグワデンからの援護射撃がシーマ側に味方を始めている。

 

「グワデンの砲撃で海兵隊を援護せよ。儂の応援に来たのだ。できるだけ支援するのが礼儀である」

 

 エギーユ・デラーズ自らがそう言って弾幕を作らせる。

 さすがにグワデンの主砲まで使えばその射程も威力も並ではない。ライラのMS隊は各機が一斉に回避のためのジグザグ行動に入るが、そのために混乱をきたしてしまう。シーマはその隙をうまく突いてライラに近付くことができた。

 

 ここからシーマ・ガラハウとライラ・ミラ・ライラが直接撃ち合い、高機動で飛び回る。

 互いの技量は高く、仕留めきれないことが分かると接近しビームサーベルに持ち替える。

 

 

「連邦の隊長さん覚悟しなッ、あたしはキシリア閣下の海兵隊、シーマ・ガラハウ。ここまで戦えたことは褒めてやるよッ」

 

 だがライラも負けてはいない。

 MSの操縦技量では残念なことに一段劣っているが、自分の今乗っているジムⅡが予想以上の高性能であることを自覚している。ガルバルディ改の攻勢を躱し、致命的損傷を食らわないようにすることができている。

 

「なるほどこのジムⅡ、いい機体だ。私の腕が一段上がったように感じる」

 

 

 ライラはゆっくり後退しつつ、シーマをいなし続ける。というのは艦隊戦で連邦が優位な以上、自分に与えられた役割はジオンMSを連邦艦に取りつかせないだけだと分かっている。

 無理をする必要はない。それがサウス・バニングがライラに言った忠告でもある。

 シーマの側もまたそんなライラの意図が分かった。勝負がつかないのは残念だがいったんお預けだ。指揮ばかり上手くて近接戦闘の技量は大したものではないだろうと思っていた相手は予想に反して強かった。

 

 負けるとまでは思わないがすぐに決着が付けられない以上、ここはシーマとしても部下を支援するために退く方を選択した。

 

 

 

 これの少し前、別の場所でも激しいMS同士の戦いがある。

 サウス・バニングの第四小隊とデラーズ・フリートから順次出てくるMS隊だ。

 第四小隊の方が数は劣勢、しかし各機とも技量は高く、善戦を続けている。だがその最中バニングは嫌な予感に襲われた。

 今まで幾度も役立ってきたその勘に従い隊へ指示を出す。

 

「…… 各機ちょっと下がれ。今やってきたジオンMSは俺に任せろ。いいな、誰も手を出すんじゃないぜ」

「ジオンの新しいMS…… いやバニング隊長、ここは先に俺が」

「生意気言うなブルターク。命令だ。下手な好奇心は命を落とす。お前はキースやウラキ以下の新人らしく、雑魚の掃除でもしとけ」

 

 サウス・バニングの言い方はいかにもぶっきらぼうだが、実のところそれしかないと思い定めている。

 

 第四小隊の皆は、今からこの戦いに加わろうとしている一機のジオンMSを見ている。見たことのない新型のMSなのだ。

 そのジオンMSの見かけはザクに近い。やや角ばったデザインと分厚いショルダーカバーを持っているが、各部の造りを見ればジオンのザクに間違いない。だが全体の雰囲気は明らかに違うのだ。おそらく中身はザクと違い、格の違う戦闘力を秘めているのだろう。

 おまけに他のジオンMSたちが慌てて道を空けるような動きをしたり、その後遠慮したような様子を見せるところから考えても、迫ってくる相手は明らかにジオンのエースMSである。

 

 これは並みの相手ではない!

 サウス・バニングの長年培ってきた戦場勘がそう告げている以上、他の者に相手をさせられない。

 これと戦うのは自分と自分の乗るゼク・アインしかない。

 

 一方、そのMSはデラーズ・フリートのエースMSとしてザクⅢで発進してきたラカン・ダカランなのだが、そのラカン・ダカランの方ではバニング以上の驚きがある。連邦機の中に一機、目を引くMSがいる。それは大きなオプションタンクを除けばまるでザクのようなバランスを持った機体ではないか。

 

「何だと! 連邦機はザクにどこか似ている。なぜだ。連邦はジオンMSを研究し尽くしているというのか…… その上で更に改良して作り上げていると。だったら弱いはずがないが、いったいどれほどのものだ」

 

 ここでバニングのゼク・アインとラカン・ダカランのザクⅢが対峙することになった。

 

 最初はどちらも慎重さを崩さない。

 相手の機動性能、火力、防御力を見定めている。探り合い、それが分かってくるにつれ大きく動き、撃ち合う。その射撃戦は驚くほど激しいものになる。どちらの機体も最新鋭機、高性能のハイパワージェネレーターに裏打ちされた連射を繰り出して止まることがない。

 性能は遜色なし、互いに小破程度の損害を受けながら戦い続ける。

 

 

 しかしここで戦闘は中断されてしまうことになる。

 デラーズ・フリートのグワデンが主砲を撃ち放っていることがその輝きで分かったからだ。

 遠目にそれを確認したラカン・ダカランはここで誤解をしてしまった。

 まさか海兵隊MSを支援するために主砲まで弾幕として使っていたなどと思わず、グワデンが連邦艦と再び砲撃戦を始めたと考えてしまう。

 ならば早いところグワデンの直掩に戻らなくてはならない。

 

 

 サウス・バニングの方は退き始めたザクⅢを見失なわず、要注意MSとして慎重に追跡して行く。

 

 だが途中から見えたものに対して慌てることになる。

 

「なんてことだ! あのジオンMSの進路にいるのはライラじゃないか!」

 

 ほんの偶然だったのだ。

 

 ジオン艦隊の方へ退きつつあるそのジオンMSの進路にちょうどライラのジムⅡが浮かんでいる。しかもバニングは知らなかったがライラはライラでシーマと激しい戦闘を終えたばかり、背後から迫る脅威に未だ気付いていない。

 このままではあの恐ろしく強い新型ジオンMSがライラを討ってしまう。

 

「くそ、ライラに手を出すんじゃねえぞ!」

 

 サウス・バニングは慌てて最大限の加速しながらビームライフルを放つ。

 

「間に合え! そしてライラ、早く気付け!」

 

 ライラはこれら二機に気が付くことができ、少なくとも無防備でいることはなくなった。

 

 しかし逆にラカン・ダカランの方も追ってくるバニングに改めて気付く。

 ここで少し考える。

 更に加速し、早いところ前方に浮かんでいる連邦MSを片付けて進もうとも思う。だが後方からしつこく追ってくるMSを振り切れるとは限らず、脅威が残ってしまうと判断した。

 さっきの戦いを中途半端にしてしまったのが悪いのだ。改めて決着をつけるため振り返る。

 

 サウス・バニングとラカン・ダカラン、両者が同時に撃つ。

 その撃ち合いの結果は、どちらのビームも命中弾を出すことになった。

 

 

 

 


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