コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第百二十五話 残光

 

 

 ガディ・キンゼー隊には少数の空母がいるが、そこのメカニックは暇である。

 さっきまでの喧騒が嘘のようだ。

 それは出撃した連邦MSの大半がアントニオ准将の方に補給を求め、こちらの空母には帰ってこないからだ。ただし空母に少数のMSが残っている以上、まだ戦力として隊には随行する。

 

「ジオンのあの人は出てこなかったようだわ…… 今回の相手とは別の隊だったのね」

 

 肩を落としてエマリー・オンスが言う。

 小さな独り言だったが、ここMS整備場は機械が止まってさえいれば音が反響して意外なほど響く。

 

 エマリーは北極基地からわざわざ艦隊付属のメカニックとして宇宙に上がっているのだ。それもこれもジオンのガトー少佐が出てくるかと思ってのことなのに、空振りで終わった。例え出てきたとしてもエマリーはパイロットでない以上、何ともしようがなく、下手をすれば空母と共に撃沈される可能性さえあるのに。若さゆえの突進である。

 

 ため息をつきながらそんなことを言っているエマリーを残念そうに見ている人間がいる。

 アナハイム・エレクトロニクス社の上司ルセット・オデビーだ。本当ならアナハイム・エレクトロニクス社製のゼフィランサスの方にメカニックとして付くのが筋だったのだが、エマリーらの世話のこともあり、いったんガディ・キンゼー隊にいたところそのまま出撃になった。

 ルセットは後輩のエマリーを可愛いとは思っているが、時々頭が悪くなるのを残念に思っている。

 そんなルセットの背後から、別の声が聞こえた。

 

「ジオンのあの人は出てこなかった。さっきの相手とは別の隊だったのかしら」

 

 え!?

 何だろう、エマリーとほとんど同じセリフではないか! 声は違っているが。

 

 驚いてルセットは振り返り、どこから声がしたか探す。

 目に入ってきたのは若い女、パイロット用のノーマルスーツを着ている。MSの新兵だろうか。

 もちろんルセットはその女がレコア・ロンドという名であることは知らない。ましてレコアがエマリーと同じようにジオンのガトーと因縁があり、全く同じことを考えていることなど知る由もない。

 

 その声もエマリーと同じように独り言らしく、聞く相手もいないところに向かって心の声が出てしまったもののようだ。

 聞いたのはルセット一人である。エマリーもその女も自分の思いに夢中であり、お互いの独り言など聞いていない。

 それが皆にとってどれほど幸運なことだったことか。

 

 ルセットとしてはそういうセリフを言うのが近ごろの流行りなのか、と見当外れのことを考えてしまったがそれは仕方がない。

 

 

 

 

 一方、艦隊司令部のほうでは暇などあるはずがなかった。

 ガディ・キンゼーは邪魔をしてきたジオンの艦隊を排除してから再度進発したつもりだった。向こうの艦艇の大半を中破以上に追い込んだのを確認しているからだ。艦隊戦の常識でいうと、もう無力化したと計算するのが常道である。

 

 だが、それでも直ぐに取りすがってくるジオン艦艇があるではないか。

 陣容はおそらく旗艦であるグワジン級大型戦艦一隻、駆逐艦が五隻だけだが、諦めた様子がない。

 

「恐ろしく戦意が高いジオン隊だ。たったそれだけでも追ってくるとは常識外れの闘志だな。まあ、こちらも半数近く脱落しても諦めていないのだから似たようなものか」

 

 

 ジオン側、エギーユ・デラーズは決断している。

 

「このまま逃してはならない。あの連邦艦隊を追うのだ」

 

 この状態になってもデラーズはあくまで戦う意志を示している。うかうかと行かせてしまえば、ジオン中央がいっときでも危機に陥ると知るからである。損傷艦の曳航や乗員の救助はバロム准将とシーマの海兵隊に任せ、自分はガディ・キンゼーの艦隊を追う。

 

 

 間もなく始まった追いつ追われつの砲撃戦は、追われている側の連邦ガディ・キンゼーの方が優位になっている。連邦巡洋艦サラミスは後方にも撃てるためそのまま手数の多さになる。前方に撃たない分、持てるエネルギーを全て後部砲塔に回し、その連射でたちまちジオン側の駆逐艦を沈黙させたのだ。

 ただし、さすがに防御力が並外れている大戦艦グワジン級グワデンはそうやすやすと片付けられはしない。

 逆にグワデンの砲撃は正確かつ高い威力でサラミスを二隻続けて葬ると、次に連邦マゼラン級戦艦一隻を大破に追い込んだ。

 

 ここに至って、ガディ・キンゼーも腹を括る。

 

「このジオン艦隊は最後の一隻になっても戦うつもりか。見上げた敢闘精神だ。ではこちらも敬意を表して望み通り討ち果たしてやろう」

 

 

 ガディ・キンゼーは空母や小型の駆逐艦をいったん退避させ、マゼラン級三隻を含む主力を反転させた。ここで再び時間をロスすればエイパー・シナプスを支援できる可能性が限りなくゼロになるが仕方がない。相手のグワジン級を仕留めるには巡洋艦サラミスの後部副砲塔では足らず、戦艦マゼランの主砲がどうしても要るのだ。

 

 ここからその主砲でジオンのグワデンを滅多撃ちにする。

 

 メガ粒子砲の美しいオレンジの線が何条となく伸びる。反転したため、お互いの距離はかなり近くなっている。思いっきり有効射程内だ。このマゼランの砲撃はさすがのグワデンでも防御力とダメージコントロールの範囲をあっさり超え、見る間に損傷を与える。

 

 グワデンも反撃するが、一隻のマゼランに中破を与えたところで限界だ。

 主砲塔を潰され、いくつかある副砲塔も全て潰された。残りはわずかな対空砲ばかり、これではマゼランに対し蚊ほどの意味しかなく、もはや攻撃力は無に等しい。

 これで勝負はついた。

 

 

 しかしデラーズは司令席に背筋を伸ばして座り、前方を見据えている。

 その目の闘志はいささかも衰えていない。

 いつも通りの声で命じたのだ。

 

「砲撃はもはやできんが、まだ沈んだわけではない。動力は動いている。向こうの旗艦へ、全速で進め!」

 

 ガディ・キンゼー隊の旗艦となっているだろうマゼランを見定め、そこへグワデンを進ませる。

 特攻だ。

 グワデンはその身をもって連邦旗艦を道連れにしようとしている。

 

 これを見てガディ・キンゼーは急ぎ退避を図る。

 もちろん他のマゼランはいっそう砲撃を強化し、そんな特攻が成る前にグワデンを爆散させようとする。その甲斐あってグワデンの機関を破壊することには成功した。だがそうなった直後、バランスを崩したグワデンが進路を曲げてしまったが、まさにその方向にガディ・キンゼーのマゼランが回避してきていたのだ!

 それはガディ・キンゼーにとっての不運、デラーズにとっての幸運である。

 

 マゼランとグワデンは衝突し、互いの艦体は大きく捻じ曲げられ、大破した。

 しかし少なくともグワデンの機関は止まっていたたために爆散まではしていない。

 

 

 ここでデラーズはある一人に向けて命令を発した。

 

「ラカン・ダカラン、マゼランに止めを刺せ!」

 

 デラーズには分かっていたのだ。

 さっきまでの戦場からここへ追撃に移る際、ラカン・ダカランと数機のMSだけはこのグワデンにつかまり、同行できている。

 その後の極度に激しい砲撃戦に巻き込まれ、ラカン・ダカラン以外のジオンMSは破壊されたのだが、さすがにエースとして実力のあるラカン・ダカランのザクⅢは回避ができていた。

 この場にいる唯一のMS、ラカン・ダカランにデラーズがそう命じる。

 

 しかしラカン・ダカランとしては躊躇せざるを得ない。

 なぜなら、ここで大破しているマゼランを攻撃し、爆散させることが可能かもしれないが、それではデラーズのグワデンもまた消滅してしまうではないか!

 しかもデラーズは常にノーマルスーツを着ていない。もはやマゼラン、グワデンと運命を共にするしかない。

 

 

 その時、エギーユ・デラーズの心は凪のように静かだった。

 

 これでよいのだ。これで。

 下地には一つの思いがある。それは、この戦いが終わった後、もう出番はないということだ。

 

 

 エギーユ・デラーズには知っていることがある。

 信奉する故ギレン総帥の本質は社会改革であり、良き統治を目指していた。

 ギレンの天才が戦争家の面でも発揮され、戦争初期の快進撃を可能にし、ジオンを優位に立たせたためにそういった派手な面ばかり人々は見てしまう。しかしそれはギレンの優秀な頭脳の副産物でしかないのだ。本来は政治家である。

 デラーズはギレンの政治家として目指すところを知るために共感している。

 まさにその理想ゆえにギレンはジオンが独立するだけにとどまらず、連邦の腐った上層部の一掃に乗り出し、地球圏を支配して恩恵を施そうとした。結果的にその手法は苛烈に過ぎ、民間人にも将兵にもとてつもない犠牲を出したが、それでもなお熱烈なギレン派が存在するのはそのためである。決して利益や戦果に目を釣られたわけではない。そこには確かに理想の青写真というものがあった。

 

 そのギレンは消え、今ジオンの政治はドズル・ザビとキシリア・ザビの体制で固まりつつある。

 中でもキシリア・ザビが主導し、地道に社会改革が続けられている。キシリアは政治面に限っていえばギレンと遜色ない手腕を持ち、そのためギレンの最も求めたサイド3貴族支配の打破はキシリアの手によって完成に近付きつつあるのだ。その意味でギレンの理想の一つは間違いなく実現される。

 

 ただしギレンの時代と違うところもある。

 かつてギレンは地球に媚びを売りジオンと対立しようとしたコロニー群、サイド1やサイド2を叩き無力化した。しかし今、政策は転換され、むしろそれらの援助に転じている。

 そういった違いのどちらが良いのか、あるいは時間軸の違いだけであってどちらも正しいことなのか、デラーズには分からない。はっきり分かるのは、ジオンはもう変わったということ、新しい方針を持ちそれでうまくいっているという事実だけだ。

 おまけに軍事の面でいえば地球占領はさすがに非現実ということで諦められているが、それ以外では実にうまくいっている。それは主にコンスコン大将の優れた手腕によるものだ。

 不思議なことにコンスコン大将はドズル派という枠を超え、キシリア派のマ・クベ、シャア、いやそれ以外にもギレン派に近かったカスペン、マハラジャ・カーンとまで宥和しているのだ。コンスコン大将は能力と裏表のない性格、腰の低さで皆をまとめ、事実上ジオン内部の派閥を消し去った。

 

 もはや時代は移り変わり、区切りがついてしまっている。ジオンはもうギレンの理想だけで動いているのではなく、それに固執しているのはもう少数しかない。

 皆は新しい未来へ向かって歩みを進めているのだ。

 

 

 デラーズは宙に浮いたまま尚も逡巡しているラカン・ダカランに叱咤の声を飛ばす。

 

「何をしているラカン・ダカラン! 儂を晒し者にする気か!」

 

 ラカン・ダカランは改めてエギーユ・デラーズの思いを酌み取らざるを得ない。

 ここに至り、覚悟を無にすることなどできるはずがない。

 

 ザクⅢはビームライフルをマゼランの裂けた外壁の内部へ向ける。

 もはや迷うことなくビームを続けざまに叩き込んだ。予想通りマゼランは爆散し、一瞬置いてグワデンもまた後を追い、光と共に消えていく。

 

 

 エギーユ・デラーズは散った。

 

 ジオンに栄光あれ。ギレン総帥が望んだ以上の未来であれ。

 最後に願う望みはそれだけだ。

 

 デラーズの思いと行動が振り返ってどんな意義を持つことになったのか。

 それが是か非か。

 正しいことだったのか。それともギレンの理想にばかりこだわらず、新しい時代へ柔軟に対応すべきだったのか。

 

 そんなことを問うことはできない。誰にもそこまで決める権利はない。

 

 武人は己の信念にのみ生き、信念のままに散る。

 ただそれは美しい。何人も否定のしようもなく。

 

 残光は澄み切った色彩を放ち、それだけを心に置いたまま消えるものだ。

 

 

 

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