コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第百二十七話 鳥籠

 

 

 その頃、連邦司令部ではグリーン・ワイアットもまた考えている。

 

「戦況としては何ともいえない。コンスコン大将はさすがにやるね。本当に攻勢を強化し、カウンターで圧力をかけてくるつもりのようだ。私も予想していたが驚いてしまうよ」

「ワイアット閣下、こちらの事態もやや深刻かと。横撃を受けた小部隊は軒並み統率を失い、損害が無視できないものになりつつあります」

 

 未だ艦艇数ならば連邦の方がだいぶ上回っている。

 しかし全体の陣形ではやや不利な態勢に置かれた。先ほど車懸かりのために編成したいくつかの小部隊は、足止めされているうちに横からジオンMS隊の攻勢を食らい、立て直せないでいる。

 

「ステファン・ヘボン君、ここが我慢のしどころだ。言っても詮無きことだが連邦には艦艇やMSの数はあっても優秀な中級指揮官が少ない。人間は工業製品とは違い、おいそれと育つものではないからね。士官になる人材がジオンよりずっと多いはずなのに、地球表面を守ることばかりさせていたからツケが回ってきたのだよ。早くから宇宙に上げて鍛えておけばよかったものを」

「それはその通りですが、閣下」

「単なる愚痴であることは自覚している。よろしい、損害が一定以上になった隊は無理することなく散開し、艦隊後方に退避するように伝えたまえ。それと前線にいるアントニオ准将に他の隊を動かす権限を与え、効率的に防御が図れるようにしよう。ともあれコンスコン大将を仕留めるのが現時点の最優先ポイントであり、この方針自体には変更はない」

 

 ワイアットの指示は前線の混乱が無秩序に広がり、自分の本隊にまで影響が及ぶのを嫌ったためだ。

 このミノフスキー粒子の濃い中、自分が小隊単位まで含めた全ての指示をすることはできない。例えそれをやれたとしても、変わっていく情勢に合わせて各隊が適切に動けなければ無駄になる。

 それは諦めても、ワイアットとしては自分の指示がしっかり届く範囲の本隊は負けることはないという自信はある。

 

 

 

 一方、イオのゼフィランサスとケリィのヴァル・ヴァロとの戦いは終わりが見えつつあった。

 お互い始めに小手調べをしても、やはり長所短所ははっきりしている。

 ヴァル・ヴァロは大型で速度に優れるが、それだけだ。スラスターが一応装備されているもののその重量に対して明らかに不足であり、結果的に機動運用であれば歴然としてゼフィランサスが上回る。おまけにヴァル・ヴァロのクローアームは中途半端であり、ノイエ・ジールのように素早く動けるものではなく、接近戦などはなから不可能である。

 一撃離脱を仕掛けるヴァル・ヴァロが躱されるともう打つ手がない。

 

 そこへイオが続けざまに打ち掛け、弾幕でヴァル・ヴァロの進路を強引に曲げさせる。

 そうなればヴァル・ヴァロはどうしても速度を落とさざるを得ず、唯一の長所まで失ってしまう。

 

「ざまあねえな。並みのMSならともかく、このゼフィランサスがモビルアーマーに負けてたまるかよ!」

 

 こうしてイオのゼフィランサスがヴァル・ヴァロとの距離を詰める。

 有効射程内に入っての射撃戦になってしまえばどうしてもゼフィランサスに軍配が上がる。たちまち防御を破られ、中破から大破になったヴァル・ヴァロを諦めてケリイ・レズナーは脱出した。

 

「くそっ、ノイエ・ジールならば機動力でも接近戦でも勝負できたものを……」

 

 

 しかし脱出自体は可能だった。

 イオが素早く止めを刺す前に、遠くからまたしてもモビルアーマーが接近してきたのを知ったからだ。イオは大破したヴァル・ヴァロにもう興味はなく、捨て置いてそっちの方を注視する。

 どんなモビルアーマーか視認するとイオは一段とテンションを上げる。

 

「何だと、あれはとんがり帽子か? ジオンのとんがり帽子とまた会えるとはツイてるぜ! 今度はケリをつけてやる!」

 

 イオが誤解してしまったのも仕方がない。

 とんがり帽子、すなわちエルメスはエルメスなのだが、これはジオン本隊からやってきたクスコ・アルのものだった。

 

 

 

 今度はクスコ・アルのエルメスがゼフィランサスと対戦することになる。

 

 クスコ・アルも相手がガンダムであることでうかつには近づかず、慎重に距離を取りながらビットを展開する。四つのビットを遠く飛ばし大きな四角形にした上でゼフィランサスに対し弾幕をかけた。だがしかし、それらはあっさりと躱されてしまう。スラスターの光がなければ見失うほどの速さで、しかも思わぬ方向に動かれてしまうのだ。

 

「くっ、このガンダムは何!? 前のとは違う。こんな高機動のMSなんか見たことがないわ!」

 

 ゼフィランサス、それはアナハイム・エレクトロニクス社が今までのガンダムの成果を全てフィードバックし、余すことなく技術とコストと人員を注ぎ込み、制作したMSだ。もちろんオンリーワンかつ史上最高MSになる。

 そのジェネレーター出力はジム・クゥエルなどよりふた回りも大きい。1790MWというのは今までどんなMSにもあり得なかった巨大な数字なのだ。更にスラスターの数も推力も、関節駆動も同様の高水準にある。そしてその数割ずつの差が何乗にも働き、機動性能で圧倒的な差になる。

 

 これが連邦の最新ガンダムだ。

 

 クスコ・アルのNT能力をもってしても、その動きが脳の処理で追い付けなくなれば捉え切れない。

 通常の動きをはるかに超え、慌てて対応を考えている間に既に動かれている。

 そのうちに逆襲を食らってしまった。イオの方がビットの動きや癖を見切り、その一つを叩き落とすことに成功した。これでビットは四つから三つに減った。しかもたまたまそうなったのではなく、ビットの真芯を撃ち抜いたものであり、これがイオに自信を与える。

 

「は、これで終わりだとんがり帽子。ア・バオア・クーから少し寿命が延びたが、それだけだったな!」

 

 今ならビットをかいくぐって接近戦に持ち込むことが可能、そう踏んだイオが一気に跳ぼうとした時、目に映るものを見て今度こそ驚愕する。

 

「な、何!? あれはいったい! とんがり帽子が二機いるだと!」

 

 

 

 その戦闘が始まる少し前のことだ。

 コンスコンの命令により、シャア少将の旗艦ザンジバルがマ・クベ少将への応援に赴くべく航行していた。だが途中で奇妙なやりとりがある。

 

「少将、このまま進んではいけません!」

「ん、どうしたララァ、この先に何かあるのか」

「いいえ前方のことではなく、後ろの方に…… 」

「後方? それはどういうことだ」

 

「このままでは、ジオンの本隊が失われるような予感がします。そしてもう一つ、前に戦ったガンダムの気と同じものを感じます」

「ア・バオア・クーでのガンダムと? それと同じものとは、同じ連邦パイロットが出ているのか…… 気になるな。分かったララァ、ではコンスコン司令を守るために引き返す。二人だけになるが、それでもいいだろう」

 

 ガトーらのMS隊に後で補給を受けさせるため、ザンジバルを含む艦艇は勝手に動きを変えることはできない。距離がそこそこある中を出撃しているため彼らが帰投できる分の補給が必要だからだ。

 そこでシャアのゲルググJ改とララァのエルメスだけが急ぎ取って返す。シャアにはララァの言葉を疑うような選択肢はない。

 

 

 こうして今、イオのゼフィランサスの前にクスコ・アルとララァ・スン、二機のエルメスが並ぶことになったのだ。

 やっとクスコ・アルは一息つけることになる。

 

「ララァ、来てくれて助かるわ。残念だけど、このガンダムは私のエルメスで勝てる相手じゃない」

 

 そして二人は改めて闘志を燃やす。

 

「だからララァ、二人でやってやるわよ!」

「ええ、一緒にやりましょうお姉様。このパイロットには私も借りがあります。いつか返そうと思ってました」

 

 

 ララァのビット九つが加わり、いきおい濃密なビームの網がかけられる。

 

 だが、それでもガンダムの撃破には至らない。

 動きを読んだとしても、対応する段にはやはり人間としての速さの限界があるのだ。

 ララァは今までの戦いで、その優れたNT能力で圧倒してきたのであって、決して戦士としての技量のおかげではない。

 つまり反射神経自体は普通の少女と何も異なるところがないのだ。それはせいぜい新兵のレベルのまま、訓練されてこなかった。そこだけ見ればクスコ・アルの方が数段マシなくらいである。

 仕留めたと思ってビームを放ってもガンダムの動きはそれ以上だ。トリッキーな機動に嵌められただけになる。

 

 

 一方のイオとしても危機的な状況になったことは理解している。

 ジオンのとんがり帽子が特異なモビルアーマーであることからパイロット個人のための特別機だと思っていた。しかしよく考えれば複数あっておかしいことは何もないのだ。

 

 今、二機で一度にかかられては厄介なことこの上もない。

 

 苦労しながらクスコ・アルのビット一つ、ララァのビット二つを墜とす。回避行動を取りながらそれを行うのは心身ともに消耗が激しい。それでもやってのけたのはゼフィランサスの機動力に加えて防御力のおかげでもある。

 数回の直撃を食らっても内部パーツまでは損傷せず、しかも瞬時に迂回回路に切り替わり、何事もなかったように動き続けられる。ゼフィランサスは装甲と、更にソフトウェアまで特別製だ。

 

 

 だがそのうちにララァが少しの工夫を思いつく。

 

「お姉様、もう少し前に出て頂けませんか。私のビットが後ろに回ります」

「え? それでどうするのララァ」

「このまま二人のビットが交ざっているとやりにくいでしょう。前後にずらした方がきっとうまくいきます」

 

 それは非常に効果的だった。

 前衛としてクスコ・アルのビットが飛び回り、それを遠巻きにララァのビットが取り囲む。

 

 まるで二重の鳥かごの完成だ。

 

 こうしてガンダムを限界点に追い込み、倒すのだ。

 この形では後衛のビットを操るララァの方に負担が大きい。クスコ・アルのビットの動きも読んで、誤射したりしない配慮が必要だからだ。しかしそれをものともせず運用できるのがララァ・スンの別格とも呼ぶべきNT能力である。

 

 

 

 ビットの戦術の変更をイオの方でも感じている。

 これはまずい、イオはついに機体にかけられたリミッターを順次外すことを決断した。設計を超える未知の負担を機体に与えてしまうが仕方がない。

 

「ゼフィランサス、俺もお前もここで終わりにされるわけにはいかないぜ!」

 

 実は、イオはゼフィランサス整備の責任者であるルセット・オデビーにリミッターを外すシークエンスを組み込むように頼んだことがある。

 話を聞き終わる前にルセットは拒否した。

 

 当たり前だ。

 機体を守るためのリミッターでもある。

 

 そうやって過負荷を与えてしまい、何かの不具合を起こしてしまえば取り返しがつかない。ゼフィランサスには予備パーツが多くなく、故障の場所によっては致命的になってしまう。ゼフィランサスは量産型ではなく唯一無二のMSなのである。

 ルセットはその理解がイオに不足していると半ば呆れてしまったが、イオはそれでも食い下がる方法を知っていた。

「安全主義か、技術者の魂というのがそんな程度だったとは残念だ。ゼフィランサスの本当の力を知りたくないとはな」

 これは技術者にとって屈辱的かつ禁断の言葉だ。

 その限界の性能を、どこまで高みに昇れるか知りたくないはずがないではないか。

 

 結果、その魅惑に抗しえず、ルセットは個人的に宝物とさえ思っているゼフィランサスを危険にさらすと知りながらイオの提案を承諾してしまっていたのだ。

 

 

「嘘!? ガンダムの動きが速くなってる……」

 

 単純に速くなっただけではなく、その機動が更に鋭角に近くなっている。これではクスコ・アルもララァも読みにくい。

 そうしているうちにまたしてもビットを一つ墜とされてしまう。

 追い詰めているのは明らかにララァたちなのだが、決定的打撃を与えられないうちにまた一つ消耗したのだ。

 

 

 


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