「こ、この、どうして墜ちないのッ!」
「お姉様、焦ってはいけません」
クスコ・アルとララァ・スンがガンダムを相手に苦闘している。
ビットから撃つビームを全て躱されるわけではないが、致命的なポイントへ当てることもできず、手傷を負わせるに過ぎない。逆にビットの数は隙をみて減らされていく。ビットはあくまで組織的に操れる砲台であり、一つ一つをとってみれば決して機動力は大きくなく、急角度の移動はできない。ジェネレーターを積んでいるので中途半端に大きいくせにその出力はほとんどビームに使われるからである。おまけに装甲はないに等しい。
そして焦るほど肝心のNT能力も発揮できなくなるのだ。
比較的冷静なララァがクスコ・アルをなだめる形になっているが、どちらも平常心ということではない。このまま消耗戦を続けていけば良くて相討ちだろう。
その戦場へ一つの光がやってくる。
次第に大きくなる姿はやがて一機のMS、サイコ・ドワス、ならばダリル・ローレンツだ!
ジオン本隊から応援として到着した。
ダリルがここまで遅れてしまったのは理由があった。途中、連邦艦隊とその直掩MS部隊に遭遇してしまった。早く進みたいと思いつつ、全く逃げるわけにもいかない。ある程度の戦果を上げてから突破し、ようやく辿り着いた。
クスコ・アルもララァもこの状況でサイコ・ドワスの到着を喜ばなかったわけではないが、どういう形で戦闘に加わってもらえればいいか思案する。
戦いではお互いの連携ができなければ意味を成さないのだ。
そしてまさかダリル一人に任せることもできない。
ガンダムはあまりに強く、しかも嫌なことにますます動きが良くなっていると分かっている。
だがここで、ダリルは力強く言い切った。
「このガンダムは僕に任せて下さい! ビームではなかなか倒せません。実弾兵器か、あるいはビームサーベルで斬るかしないと」
ダリルは以前の地球表面の戦いで多少のことを知っている。
このガンダムはモンスターだ。
驚くべきパワーを持ち、しかもダメージコントロールが抜群にいい。かつての戦いでは隙をついてガトーが斬り込み、大破させたのだが、それでもパワーはまるで衰えずそのまま逃げおおせたくらいだ。
両断とはいかずともコア部分を損傷させなければ勝負はつかない。
自分は接近戦を選択してそれを狙い、クスコ・アルらにはビットの鳥かごで支援をしてもらうのが最善である。
クスコ・アルらの返事も待たず戦いに飛び込んだ。
そして初めから斬り合いを挑む。
一気に行くべきと思ったせいもあるが、ダリルの方でも事情があった。先ほどの戦闘で実弾兵器をほとんど使い切ってしまっていたのだ。装弾数に限りがある以上そうなるのは仕方がないが、不運なことでもある。
思い切りよくビームサーベルを振るうが、あっさり躱されてしまう。ゼフィランサスの機動力にとっては造作もない。
「なんだこのMSは。いいところで邪魔しやがって! とっとと消えろ!」
そう言いながらイオのゼフィランサスは上へ飛ぶ、とフェイントをかけながら下へ潜り、そこからビームを撃つ。
「接近戦にすればどうにかできるとでも思ったか。地球表面ならともかく、宇宙では三次元機動だぜ。このゼフィランサスの機動力についてこれるもんならついてこい!」
イオはダリルと対戦したことがあるが、その時のダリルはサイコ・ドムであり、そのため今も同じパイロットを相手にしているとは気がつかない。しかし期せずして的確な言葉を言った。
その通り、地球表面よりも宇宙の方が機動力の差は歴然と出てくる。
サイコ・ドワスの元機体であるドワスは設計が古く、重い割にパワーに欠ける。ドムより少しマシといったレベルでしかない。余っているドワスを使ったということもあるが、同じく余っているゲルググは性能はともかく設計があまりにタイトであり、サイコ・リユース・デバイスを組み込む余裕がなかった。
これでのっけからゼフィランサスのビームを一撃食らってしまった。
サイコ・ドワスは中破になるが、まだ動けるのはドム系譲りの重装甲を持っているからだ。
それでも怯まずにサイコ・ドワスは再びビームサーベルを振るう。ゼフィランサスはまたしても躱し、先ほどと同じパターンでサイコ・ドワスへ更に損傷を与える。
だがそれでも愚直なまでにビームサーベルを手放さず立ち向かう。
ここに至り、イオもまた接近戦で早いところ致命傷を与えて片付けるべきと判断した。
それは逆だったのだ。
焦らずに構えれば結果はまるで違っていたはずだ。
それでなくとも、サイコ・ドワスがイオの射撃からここまで手足を使って胴体部を庇えていた、その反応性の良さの意味を考えるべきだったろう。
イオのゼフィランサスはビームライフルからビームサーベルに持ち換えようとした。
そこに一瞬の隙ができる!
ゼフィランサスといえどクスコ・アルとララァのビットに対抗するのにはどうしてもビームライフルが必要、だからイオは今までビームサーベルを使おうとしていなかった。そこをあえて切り換えるのは心理的に負担がある。その時間ビットへの牽制ができなくなる以上、しっかり視認しておく必要がある。
実はダリル・ローレンツはそれを狙っていた。今までの動きは全て布石である。
サイコ・ドワスは突進すると、それまでより数段速い動きを見せつける。
関節の動きを全て乗せ、しなやかに、かつ電光の速さでビームサーベルを振り抜く。
推力やパワーによる機動力なら確かにサイコ・ドワスは凡庸の域を出ないが、ただし反応性はサイコ・リユース・デバイスのために素晴らしく鋭い。その上で、真骨頂はこの各関節部の完璧な連携だ。意識することもなくあちこちを同時に動かし、まるで自分の体のような自然さで駆動できるのがサイコ・リユース・デバイスの力である。
ゼフィランサスはそれを躱し切れない。
装甲の表面を斬られた。真っ二つにならないのはさすがだが、それでも体勢を崩した。
「てめえ、俺のゼフィランサスに何しやがるッ!」
イオ・フレミングはそれでも気を吐いたが、もう勝負は決していた。
サイコ・ドワスの第二撃はゼフィランサスの反撃より速い。ダリルが叫ぶ。
「墜ちろ、ガンダムーーッ!!」
サイコ・ドワスも浅く斬られたが、ゼフィランサスははっきりと斬り払われた。それはコックピットの上辺をかすめた斜めの線、もちろん機体の最深部にある制御中枢を含んでいる。
ゼフィランサスの全ての機能はジェネレーターも含めてシャットダウンした。
予備ジェネレーターも回路も機能しない。
この瞬間、連邦のガンダムは失われたのだ。
「く、くそ、俺は負けたのか…… なぜだ。なぜ負けた…… 」
どうしようもなく静止して動かないゼフィランサス、コックピットからノーマルスーツのイオが出る。
もはやそこにジャズの音が鳴り響くことはない。
決着のついた二機のMSを確認するようにクスコ・アルとララァのエルメスが近付く。
あとはそれらに任せ、ダリルの方は宿敵との紙一重の勝負を終えた安堵の中にいる。
「サイコ・リユース・デバイスは完璧だった。カーラさん。凄いよ。二人の勝利だ」
義手に通されているシュシュをわざわざ見ることはない。そうしなくとも確かにその存在と、それを通したカーラの心を感じている。
早く戻ってカーラ本人に勝利の報告をしたい。
そしてカーラ・ミッチャムと出会えたのがどんなに自分にとって幸運だったのか、それがどんなに大事なことなのか、言葉にできないほどの思いを伝えたい。
同じ時、そこから少し離れた場所で戦いがあった。
赤い彗星、シャア・アズナブル少将である。
シャアはララァと共に発進してきたが、ゼフィランサスのところに到着する直前、気付いたことがあった。それで一人だけで移動していたのだ。
「これは…… 連邦の部隊がこんなところにもいたのか。いったいどこに向かっている」
わずかな姿を確認しにきて正解だった。そこで目に映ったのは、やはり連邦艦隊だった。
それは十五隻ほどで隊形を組みつつ移動している。
シャアは思わず自問してしまったが、連邦艦隊の行き先を考えるのは難しくない。やはりコンスコン大将のいるジオンの中央本隊を目指している。
もちろんシャアは見過ごすことはなく、取りすがって急襲をかけるが、二隻を沈め、一隻を大破させたところで限界が来る。
さすがにシャアといえど母艦を離れすぎている。
帰投のことを考えれば、ここで目一杯戦って消耗し尽くすわけにはいかない。
その艦隊から離れる際、シャアはそれの存在を友軍に知らせることを忘れなかった。当たり前である。それだけの数の連邦艦がジオン中央本隊に向かっているのだから危険だ。
だがしかし、シャアが情報を発信したのは確かだが、中継器に問題があった。今や戦場に無事でいる中継器の方が少ない。電波の使えない中で設置された情報網に破れ目が多々あり、このジオンにとって重要な情報はついに届くことがなかった。
せっかくシャアがこの連邦艦隊を発見できた僥倖が無になってしまったのだ。
そしてこの艦隊こそグリーン・ワイアットの最後の一手だったのである。
ジオンのコンスコン大将を倒す、その作戦を完璧に仕上げるために送り出していた。
その存在を敢えてエイパー・シナプス、ガディ・キンゼーの二人にさえも知らせていない。
わずかな時間差をつけ、エイパーらの艦隊が通った軌跡を忠実にトレースし、戦場に忍び込むように行動させている。
見えない刃だ。
連邦最強の魔術師グリーン・ワイアットが放った刺客、今エイパー・シナプスと交戦しつつあるジオン本隊はその存在を知らない。