コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第百二十九話 本隊の攻防

 

 

 ガンダムをめぐる戦いはダリルらの勝利に終わった。

 ついに連邦唯一のガンダムは失われ、ジオンに対する脅威は去った。

 

 ただし逆に言えば、最も重要なタイミングでこれだけのジオン戦力がガンダム一機にかかりきりにさせられたということでもある。イオ・フレミングはダリルに負けて大いに悔しがるが、全体の戦況という面から見ると立派にその役割を果たしたと解釈できる。

 

 

 

 この間にエイパー・シナプスの連邦軍部隊が進み、あらゆる妨害を乗り越え、ついに目標であるジオン中央本隊と対峙するところまで来た。

 

「あれこそがコンスコン大将のいるジオン本隊だ。ようやくか。さあ、ここからが勝負だ!」

 

 エイパー・シナプスはここに至って小細工をしない。

 分艦隊を駆使するとか、ひとまず相手の様子を窺うといったこともない。

 速攻を迷いなく選択し、間髪入れず襲いかかる。ここでブレる必要などない。自分の最も得意な戦法で攻めるだけだ。

 

「速度にゆとりのある艦は主砲を前方へ向け間断なく撃て。鈍足の艦はエネルギーを推力にだけ使え。全体としてまとまったまま増速し、向こうの守備陣を叩き壊し、一気に突破するぞ!」

 

 

 そんな戦意にあふれた連邦の様子から俺の方では予想通りの形になったと思っている。

 

「連邦はやはり猛攻で来たか。しかしこの感覚、既視感があるな。以前地球降下作戦の終了間際に鋭い攻勢をかけてくる連邦部隊と出会ったが、もしかすると同じ指揮官かもしれん」

 

 俺はなんとなくそう感じた。実際のところよほど名の知れた将でない限り、艦隊の動きからすぐに指揮官の名は判明しない。俺としては確かめようがないわけだが、やはり攻め方には個性が出るもので、それにより分かるものがある。

 

 艦隊同士が有効射程に入る瞬間、俺の方も躊躇なく言う。

 

「ゆっくり後退しながら、集中砲火、撃て! あの時とは違う。向こうの数を減らしてやればどのみち足は止まる」

 

 

 以前の戦いでは、一大作戦を終えて戻ってきたばかりのところで襲撃を受けた形であり、俺は艦数において絶対的な劣勢だった。そのため猛攻を真正面から受け止めることはできず、いくつかトリッキーな手を使ってまで凌がなくてはならなかった。

 しかし今はそれと逆、艦数でこちらの方が多い。

 向かってきた連邦の部隊は二十隻に満たないのだが、ジオンはあちこち分散したとはいえ俺の中央本隊に三十隻を残している。その砲撃力をもってすれば猛攻に対抗し、そうやすやすと突破は許さないはずだ。

 

 唯一の撹乱要因としてはMSだが、連邦の部隊はここまでの急進でだいぶMSを使ってしまったらしく主力する気がないようだ。

 それは俺の方としても助かる。ちょうど今、俺の艦隊にはMSが乏しく、駆けつけてくるとしても少しの時間が必要、ならば純粋な艦隊戦の方が戦い易い。

 

 

 ところが俺は止められると踏んでいたのだがそうもいかなくなってしまう。

 連邦の指揮官は必ず突破するという強い意志を持っていた。おまけにそれを実現するため、方策もしっかり考えていたのだ。

 砲撃戦に入った途端、連邦の隊形は急速に細く絞られる。打撃力よりも突破力優先の鋭い錐のような形になっていくではないか。俺も慌てて対処せざるを得ない。

 

「そこまでするか…… では無理に連邦の隊を止めるのは下策、作戦を切り替える。進行方向の艦は退避し、横撃に専念しろ。しかしこれほど細く突破したがるとは、解せないものがあるな」

「連邦部隊の進路、予測では当艦です!」

「このティベに? では先ほど言ったように退避だ」

 

 そうやって連邦の突進にあえて逆らわず受け流した。こうなると向こうも突破には成功するが収穫は少なく、むしろ受けた損害の方が大きいはずだ。

 

 

 よし、こっちも反撃に移る!

 

「このタイミングを逃さず、連邦艦隊を追尾する形で出るぞ! 向こうの艦隊行動に食らいつき、後背からの砲撃を続けられるだけ続ける」

 

 今度はジオンから猛攻である。突破し終えた連邦部隊の後背につくという有利な態勢で砲戦を展開できた甲斐あって、向こうが増速して距離を取るまでの間に半数を脱落させることができた。

 さて、これでどう出てくる。損害がそこまで大きくなれば、普通なら撤退しかないはずだが……

 

 

 

 一方のエイパー・シナプスは嘆息する他ない。

 

「ある程度予測はしていたが見事なものだ。さすがはコンスコン大将の本隊、練度も、統率も、もちろん瞬時の戦術も大したものだな。一度の会敵でここまでやられるとは。散っていった将兵に対し本当に申し訳ない」

 

 しかしエイパー・シナプスは諦めなどしない。というより、この一度目の突破そのものが策のうちである。

 

 

「わが友ガディのためにも怯むわけにはいかん。再編が終わればまた攻勢に出るぞ。今の突破で向こうの反応は分かった。そこで、今から行なう急進は突破と見せかけ、敵中に入った瞬間に散開だ。素早く乱戦に持ち込み、虚をついて一瞬だけでも優位を作り出す。それを活かしてコンスコン大将の旗艦を倒す。向こうはこちらの突破を紙一重で避けようとするため決して距離は遠くならない」

 

 エイパー・シナプスは乾坤一擲の勝負、再び残存艦で迫ろうとする。

 その様子を見て俺の方では複雑な胸中だ。

 

「やはり、またしても来るのか連邦の艦隊は…… あくまでこのティべを狙って戦おうというのだな。見事だが、惜しい。ここで消滅させるのは本当に惜しい」

 

 俺は既に連邦の狙いと作戦を読み切っていた。

 

 今、更に艦の数で不利になっても連邦部隊が突進してくるとなれば、その狙いはやはり俺としか考えられない。他に可能性はない。

 そして突進するだけでは無理だと判明した以上、単純に来るわけがないではないか。向こうの立場に立てば容易に推察できる。突破は見せかけに過ぎず、おそらく途中から乱戦に持ち込んでチャンスを作り出そうとする。

 

 

 果たして結果はその通りだった。

 連邦の部隊は俺の艦隊を通り過ぎる前に、逆進をかけて留まった。

 

 連邦の指揮官が有能なのは、ここまでの戦いで疑いようがない。だがしかし、戦術家が本領の俺と読み比べをするには経験が不足だったようだ。

 既に考えてある対処を実行する。

 しかし先の言葉は俺の本心で、連邦指揮官の度胸と忠誠心は見上げたものだと思う。向こうは下手をすると全滅ではないか。それでもやるというというからには。

 

 だが戦いを挑まれている以上は情けをかけるわけにいかない。

 効率的な砲撃を仕掛け、一方的に向こうへ損害を増やす。こちらは乱戦に対する備えをしていたので艦列を崩していない。その上で、俺は自分のティベへ二隻のチベを近接させて守りを固める。これで盤石の態勢だ。

 

 結果、連邦部隊の方は苦闘し、旗艦らしいマゼランさえ中破を負ってしまったようだ。尚もこのティベを見据えているが、連邦艦でまともに砲撃力を持っているのはあと数隻だろうか。それでも進もうとしている。

 だが残念なことにティベへ辿り着くこともできず消える運命だろう。

 

 

 

 しかしここで妙なことが起こった!

 連邦部隊が急に混乱している。今まで砲撃を応酬しつつ戦いの形を守っていたのに、見る間に乱れていくのだ。

 

「何だ? 連邦の方が勝手に崩れている…… 指揮系統に何かあったか? いや、向こうの旗艦はまだ沈んでいないが…… 」

 

 この急な変化によって俺の艦隊も戸惑いを隠せないが、いったい何だろう。

 

 

 そしてもちろん一番驚いているのは連邦のエイパー・シナプスだ。

 

「報告します! 友軍が後方より急速接近、し、しかし衝突コースです!」

「何だと!! いったいなぜ友軍がここにいる。何の連絡もなかったではないか。おまけにこの速度で同じコースを直進とは。何を考えているのか分からんが急いで回避だ!」

 

 突如この戦場に新たな連邦部隊が登場した。

 エイパー・シナプスの部隊としては、応援と思って一瞬歓迎したが、直ぐに困惑がとってかわる。とにかく急いで退避しなければ衝突するくらいの常識はずれの速度である。

 それでも避けられない艦が出てくる。既に機関部に損傷を負い、制御がうまくいかずふらふらしている艦もあるからだ。

 

 ここで驚くべき事態が展開された。

 新たな連邦部隊は邪魔な連邦艦を砲撃で排除したのだ!

 むろん撃沈する気ではなくあくまで機関停止を狙ったものだろうが、危険行為であることには変わりない。

 

「な、何!? どうしてそんなことができる! 下手したら味方艦を撃沈だぞ!」

 

 

 この時、奇しくも連邦エイパー・シナプスと俺は全く同じ言葉を言ったのだ。

 

 後からきた連邦部隊は非情であり、目的達成のために同じ連邦艦へ向けて発砲した。

 そしてエイパー・シナプスの中破したマゼランも実力で押しのけ、一気に前へ出てくる。

 

 

 俺のジオン中央本隊はつられて混乱にあったがその瞬間を突かれてしまった。新たな連邦部隊にとっては最高のタイミングだったろう。

 そして位置も、ジオン中央本隊からすれば交戦中の艦隊の真後ろという探知不可能な場所から交ざり込むように来られてしまっている。

 

 結果一挙に距離を詰められ本当の意味での乱戦を作り出された。

 

 くそ、この新しい艦隊はおそらく連邦の本隊から時間差をつけて出てきたもので、決定的瞬間に登場するよう命じられたのだ。

 その方策を考え、命じた連邦の総司令官はやはり忌々しいほど巧緻な戦術を使う!

 

 

 

 この時、到着した連邦部隊の司令官であるナカッハ・ナカト中佐は高揚の中にある。

 元々顔の表情の変わりにくい人間だったが、この時ばかりは明らかに喜色ばんでいた。

 今まであまり表舞台に出ることはなかったのだが、こんな重要な局面で主役になれたのだ!

 

 グリーン・ワイアット司令の作戦は完璧であり、ジオンの総大将コンスコンを指呼の間に収めたではないか。

 このまま倒せば武勲はあまりに巨大なものになる。

 

 しかも今押しのけた連邦部隊はエイパー・シナプスのものだ。

 ナカッハ・ナカトは以前からエイパー・シナプスとその友人ガディ・キンゼーが嫌いだった。

 エイパーとガディはそろって指揮能力に定評があり、実際にその通りである。それだけでなく、清廉な性格と公正さが知られていて、兵たちにたいそう人気がある。もちろん二人はそれを誇りもしない。

 それに引き換えナカッハ・ナカトには人望がまるでなく、逆に狡猾な小策士のような評判がついて回っているとは、その二人と違いすぎるではないか。

 とどめにその二人は一気に昇進を重ねて大佐にまでなってしまい、地位の上でも追い越された。

 

 八つ当たりだろうが何であろうが仕方がない。

 どうしても心中には昏い嫉妬の炎が渦巻いてしまう。

 

 今、エイパーの半壊した部隊に代わって目的達成とは余計に愉快ではないか。

 

 

 

 


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