コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第十三話 苦戦

 

 戦いは苦しくなる予感がする。

 不利な条件が重なり過ぎた。

 

 俺の艦隊ははぐれ艦を接収し続け、主にムサイを増やしている。フラナガン機関からチベを奪えたのも幸運だ。

 全体陣容はチベ二隻、ムサイ九隻、ガガウル五隻になっている。もう大隊といっていい規模だ。

 それに対して向こうのキマイラ隊は旗艦ザンジバル一隻、チベ二隻、ムサイ六隻からなる。砲撃戦能力なら大差はない。小型の駆逐艦ガガウルはおいておくとしても、ムサイの数でも上だ。俺の得意な砲撃戦なら勝てる。

 ところが今回は砲撃戦にはならない。

 最初から敵だと認識していればなんとかしたろうに。

 この艦隊にとって最も悪い形。アウトレンジからのMS戦になってしまった。

 

 そして今のところ俺の艦隊はMS戦に弱点を抱えている。

 数が少ない。

 追加できたはぐれ艦は敗戦を逃げのびた艦であり、既にMSを失っている場合がほとんどだからだ。

 こちらのMS戦力はドムばかり十九機しかない。木馬追撃のために、ドズル閣下からザクをドムに変えてもらってはいるが、数としてはそんなものだ。

 

 そして最新鋭機のゲルググなど持っていない。

 ゲルググはデータベース上のスペックしか知らないが、ドムよりよほど洗練されたMSだ。武装もバラエティに富み、最大速度も速い。そして何より素早い動きができる。遠距離射撃も格闘戦も万能だ。

 連邦からスカート付きと揶揄された大気圏用MSのドムを宇宙に上げたのと違い、ゲルググは最初の設計から宇宙戦用、モノが違うのだ。

 

 

 そんなゲルググを向こうは見えているだけで三十機も展開しているんだ。

 

 こちらの期待する追加戦力であるシャリア・ブルもまたブラウ・ブロというモビルアーマーが無い以上、ドムで出るしかなくなっている。しかもシャリア・ブルは宇宙に長くいたとはいえ元々MS乗りではなく、艦艇乗員だったのだ。MSパイロットとしては初心者に毛の生えた程度である。とうてい本来の能力は出せず、戦闘ではせいぜい並よりマシのドムにしかならない。それでも凄いのだが。

 

 クスコ・アルに至っては乗れるものすらない。

 自分のエルメスはガンダムと戦い大破している。そしてフラナガン機関からせっかく押収してきたエルメスは使えないと判明した。

 それはパイロットの生体的特徴へ非常に精密にチューニングしないとどうにも稼働できないからだ。無理をすればパイロットが耐えられない。そしてビットと呼ばれる移動砲台を操れなければ、エルメスはただの乗り物だ。何もできない。

 簡単に考え過ぎていた。

 やはりフラナガン機関の科学者たちは性格がおかしくても能力においては非凡だったのだ。

 

 

「やむを得ん。艦隊は密集隊形をとれ! 対空砲火を多重に重ねることで防御を強化、なんとか支えるしかない。MSも直ちに全機発進! そのうち半数は紡錘陣を取り、真っすぐ向こうの艦隊へ向かえ。そして早いところ一隻でも二隻でも損害を与えてくれ。向こうに同士討ちの愚を悟らせるんだ。それで話し合いに持ち込みたい」

 

 俺は考えられる最適解を命じる。

 ただし、おそらく読まれているな、と感じながら。

 向こうはMSの動きを一瞥するだけでも相当の手練れだ。戦い慣れている。作戦能力も高いレベルにある。

 

「半数はこっちの艦隊の直掩に回す。敵は数も多く、それにゲルググだ。細かい牽制を仕掛け、不用意に近づいたりするんじゃない。決して格闘戦はするな。そうなれば終わりだ。悔しいが、間合いに入ればドムで勝てるような相手じゃない」

 

 敵? 思わず俺は敵と言ってしまったか。いいや敵ではない。ゲルググも同じジオン軍だ。

 敵は連邦だ。

 ここで内輪揉めなんかしてる場合じゃない。

 だがしかし、これは戦いだ。

 俺もみんなも、こんなところで消滅するわけにはいかないんだよ!

 

 

「とてもMSの全部を相手取るのは無理だ。唯一取れる戦術としては、向こうの隊長機を見つけ出し、それを排除することで艦隊に近寄らせるな! この艦隊の運命はそれで決まる」

 

 ここで俺は切れる札を切るしかない!

 

「その役目はガトーに任せるッ! 頼む、お前にしかできないッ!!」

 

 

 そして、尋常でない勢いでガトーが発進していく。

 

 向こうの隊長機を見つけること自体は造作もないことだ。

 ゲルググの一機だけが赤くカラーリングされ、しかも先頭に立っていたのだ。

 

 そこへ美しい曲線を描いてガトーが迫る。

 ノズルから光の粒子を散らし、鮮やかな軌跡を見せている。

 

「む、ドムの単機で何ができる。しかもこの俺に向かって来るとは、馬鹿めが。そんなに早く死にたいかっ」

「それは貴様だ! コンスコン閣下の艦隊に手を出した罪、どこまでも悔いて散れ!」

 

「……なるほど、ジオン機同士だ。通信ができるのか。おそらくお前は隊長機を潰せばなんとかなるとでも思ったのだろう。浅はかな考えだ。俺を相手にするより、俺以外の全部を相手にした方がまだマシだと知れッ!」

「たいがいの奴は死ぬ前に大きな口を叩くものだ。貴様もそうだな」

 

「何ッ! その言葉そっくり返してやる! 冥土の土産に知っておけ。地獄で自慢話ができる。この俺こそが真紅の稲妻だッ」

「無駄口だ。こちらは名乗らん。どうせ死ぬ奴に覚えてもらって意味があるものか!」

「戯れ言を!! 俺と戦っていいのはシャアかシン・マツナガだけだッ」

 

 ガトーはゲルググのビーム・ライフルを躱し、死角に入ろうとする。

 そして横合いから格闘戦の間合いに入った。避け続けるならともかく、斃すならそうするしかない。

 相手のゲルググは自信があるのか、本当なら持っているはずのシールドを装備していない。ビームライフルも捨て、代わりに両腕型のビームソードを振るう。格闘戦で必殺の攻撃だ。強い!

 ガトーのドムもヒートサーベルを使うが、向こうのビームソードをそれで受けることはできない。武器の質の差が響く。

 

「失せろ! 名も無いドムのくせに! 俺こそシャア以上、ジオンで一番のパイロットだ!」

「そっちがゲルググなのは俺からのちょっとしたハンデと思え! 直ぐにもっとハンデが欲しくなる。恥ずかしくなどないぞ。その時は遠慮なく言うがいい!」

 

 斬り合いでは不利だ。

 するとガトーはソードを相手に受けさせると同時にショルダーを当てにかかる。しかしこれはフェイクだ。

 それをいなしたゲルググに足を当て、突き飛ばす。

 上手い!

 ドムが唯一ゲルググに優るといえば、その重量だ。ドムの方がはるかに重く、それを航続距離の短い大エンジンで無理に動かしているスタイルだからだ。

 

 こうして接触した状態で力を入れれば、当然軽いゲルググの方が飛ばされてしまい、体勢を崩してしまう。

 そこを素早く再接近し狙いにかかる。

 

 さすがだアナベル・ガトー!!

 

 ゲルググ相手に一歩も引かない。

 いや、有利に進めているくらいだ。

 

 

 艦隊に近付いてきたゲルググ達も驚いているのだ。思った通り、隊長機はあの中では特別技量が高く、それを抑えられたら戸惑ってしまう。それを気にしながら対空砲火を避けるのは骨だ。

 結果的に艦隊に近寄らせない。

 ついでに言えばあの隊長機は誇り高いのか馬鹿なのか、僚機にガトーを囲ませて袋叩きにすることは考えていない。

 

 そこも付け目だが、ただしガトーも最後の一歩決め手がない。

 あのゲルググも姿勢を直すのが素早い。やはり空間能力に長けていて、並の技量ではない。エースだけのことはある。

 そして各部のパーツの動きならやはりゲルググは性能が高い。ガトーが斬り込む前に動ける。ガトーの動きに対処できるため、外装に傷は付けられるが、それを断ち切らせることはない。

 戦いはすぐに決着がつかない。

 

 

 一方、キマイラ艦隊に向かったツェーンらのドム隊九機は難航していた。

 やはり読まれている。

 向こうは遠距離から主砲を使ってきた。予想したコースを狙い撃ち、充分な牽制としている。

 ドム隊はジグザグを繰り返して躱すのに精いっぱい、思ったように前進ができないでいた。ただし直撃を受けたドムは無い。

 よく見るとただ躱しているのではない。

 シャリア・ブルのMSが先導して射線から外れる方向を教えているのだ。それに従って動き続ければ当てられることはない。そういうところで只者ではない片鱗がある。

 

 しかし、なんとか先に進めたとしても、俺が向こうの指揮官なら必ずこうするという作戦が待っているだろう。

 やはり無茶だったか。

 損害を受ける前に引き返し、艦隊ごと困難な撤退戦を演じるか。

 だがそれには無理なことがある。

 MSは振りきれても砲撃戦に移行し、チベはともかくムサイなどはいい標的でしかない。ムサイは後ろに撃てない。一方的な戦いになり、艦隊の大部分は生き残れなくなる。それでも全滅よりはマシなのか…… 俺は指揮官としての判断が試される。

 

 考えているうちにムサイの何隻かがチベの前方に出る動きをしている。

 そんな命令をした覚えはない。

 だが、これはメッセージだ。旗艦チベを守る。そしてチベには、俺には生き延びてほしいと言っているのだ。

 俺は言葉を無くす。

 そんな漢たちの断固たる意志を、自己犠牲の精神を、無駄にしてはいけない。だがしかし俺はそれでも思う。

 そういう漢たちだからこそ、失うことはできないのだと!

 

 

 その時、このチベのオペレーターが叫んだ!!

 

「あ、右舷後方に探知! 何かが急速接近中! 大型ミサイル、い、いえ違います! モビルアーマーです! モビルアーマー一機とMS一機。しかし、これは、物凄い速度です!!」

「何だと! 今度はいったい何だというんだ!」

 

 戦場を切り裂き、二つの彗星が飛び込んできた。

 

 その時、チベの艦橋に上がってきて叫んだ者がいる。

 クスコ・アルだ。

 後ろから走ってきて、まだ拡大投影をしなければ何も見えない宙へ向かい、真っすぐに指さした。

 

「あれは、ララァ! ララァ・スン! ここに来たなんて!!」

「ララァ? 誰だそれは」

「フラナガン機関での、私の妹分。可愛い子。そして、彼女こそ本物の中の本物、異次元のニュータイプ」

「凄いのか、そいつは!」

「そう。誰も敵わないくらい。もう一つ言えば、ララァはシャアの恋人」

「な、何!?」

 

 

 話は二日前に遡る。

 サイド2に近いジオン軍基地で、キザな男がキザな言い方で少女に話す。

 

「ララァ、次の出撃予定が大幅に変更になった。フラナガン機関がコンスコンという男に潰されたらしい。それだけなら別にどうでもいいようなものだが、エルメスのビットの補給が当面受けられない。こいつは困ったな」

「大佐のお役に立てなくなるのは嫌だわ」

「まあ予備を使わず、現有のビットをやり繰りする分には構わない。無駄なテストはしないというだけだ」

「でも何だか大佐、困ったと言いながらうれしそうに見えるのは気のせい?」

 

「ララァは賢いな。そう、実は嬉しいと思っている。いつかフラナガン機関は自分で叩き潰してやろうと思っていたからだ。ララァと会わせてくれたことには感謝するが、あれは人の革新には毒になる組織だ。今回のことは慶事と言える」

「それだけ?」

「いや、もう一つある。あのコンスコンは、面白い。本当に面白い男だ。会えば臆病なのに、やることは大胆に過ぎる。しかも才能はある」

「ふふ、私が嫉妬してもいいくらい?」

 

「そうじゃない。しかし死なすのは惜しい。今、馬鹿なことにキシリア閣下のキマイラ隊が報復に動こうとしている。もしそれが本当なら、ララァ、出撃が近くなる。これは転機になるな。だがコンスコンを味方にできれば、お釣りがくるというものだ」

 

 

 


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