コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第百三十三話 ディサイド

 

 

 俺とフォウ・ムラサメは休息をとった後、ジオン艦隊に送り届けられる。ダグザ・マックール少佐は第一印象通り武人であり、まるでガトーのように紳士的な態度をとってくれた。

 そして連邦艦で航行し、ジオン艦に接触というのも実に新鮮な体験だ。

 

 ジオンの臨時旗艦とした一隻のチベに乗り込み、ようやくその艦橋についた瞬間である。

 

 

「やっと来たわね! 死んでたら殺すわよ!」

 

 いきなりツェーンの蹴りに出迎えられるが、それはもちろん力を抜いた形だけのものだ。

 

「のろま!」

「心配かけたな、返す言葉もない、ツェーン」

「馬鹿!」

「はは、まったくそうだな……」

「クズ!」

「 …… 」

 

 いやどんだけ続けるんだよ! 言い過ぎだろ。

 

 そして見ると、予想通り艦橋にツェーンの他ガトーも、クスコ・アルも、ケリィも、シャリア・ブルも、皆が揃っている。

 

「みんなも無事で良かった。俺は、自分でも情けないことになったが、この通り大丈夫だ」

 

 俺を見て皆はとにかく安堵しているようだ。俺を一生懸命探してくれていたことなど聞くまでもない。

 そして感情の激しいツェーンやカヤハワはうっすら涙ぐみ、普段はポケっと抜けたところのあるクスコ・アルもそうだ。なんのかんの俺は大事にされている。この温かい雰囲気に俺も嬉しくなってしまう。

 

 そして皆の中に、俺が一番心配していた人物がいたのだ!

 思わず声をかける。

 

「セシリア・アイリーン、無事だったか! その後シャトルがどうなったか分からなかったが、とにかく無事でよかった。脱出の件では色々と済まなかったな」

「いえそんな、シャトルから投げ出されなかっただけで、私も気が付いたら救助されていたのです。こちらこそ肝心な時に何もできなくて申し訳ありません。反対に私の方が投げ出されていればよかったのに」

「そんなことあるものか! …… いや、お互い無事だったのだ、それで良しとしよう」

 

 無事だったらそれでいいのだ。

 俺が気にする必要はないのだが、フォウの視線をなぜか感じたのでセシリアとの話を打ち切った。

 

 

 もちろん激戦が終わったばかり、様々なドラマがあるだろう。俺が知るすべはないがどこにでもそういうドラマはある。

 

 サイコ・ドワスのコックピットを出るダリル・ローレンツ、それを花のような笑顔で出迎えるカーラ・ミッチャムがいる。

 笑いながら、涙が無重力下、カーラの分厚い眼鏡の縁で遊んでいる。

 それから二人はお互いの無事を祈るシュシュを見せ合い、そして抱きとめる。

 交わされるセリフなど想像するまでもない。

 それこそ人類の歴史で数えきれないほど繰り返された、凡庸で、陳腐で、しかしこれ以上なく崇高な恋のセリフに決まっている。

 

 一方、停戦前に捕縛されたので捕虜扱いになり不貞腐れたイオ・フレミングがいる。だが彼もまたダリルと話す機会があるのだが、それはまだ先のことだ。

 

 

 ウラガン副官に無事な白磁の壺を数えさせているマ・クベ少将も、戦いでやや不完全燃焼だったため憮然としているところをララァに宥めてもらっているシャア少将も、若者の死者数をとにかく調べさせるカスペン少将もいる。

 それもこれも停戦しているからこそだ。先のことは分からないが、いくらなんでも直ぐに再戦ということはない。

 

 

 連邦は連邦で、共に負傷したガディ・キンゼー、エイパー・シナプスが語り合う。意外なことにオットー・ミタスは艦隊の収拾や救助に才覚があり、必要な場所に医薬品や推進剤を届けるために忙しく飛び回っている。

 

 そして、当然アルビオン艦橋ではコンスコン大将救助を偶然にも成し遂げたパイロットたちをヘンケン・ベッケナー艦長がねぎらっている。

 そこでジェリドがわざと口を滑らし、エマ・シーンが艦長の姿勢を好きらしいと告げてしまう。事実は事実であっても、もちろんエマから力の入った修正を食らうのはお約束だ。

 

「いい加減にじゃれるのはよせ」

 

 こう言ってマウアーまで修正をしようとするではないか! きっとエマから感化されてしまったのだろう。

 

「ちょ、マウアー様、その筋力で修正はシャレにならないって!! 兵器だから! いや本当に!」

 

 ジェリドといつの間にか巻き込まれたカクリコンがマウアーの超高速ビンタから逃げ惑い、この三文芝居はお開きになる。

 エマ・シーンも毒気を抜かれて呆れるほかはない。

 その横顔をヘンケン・ベッケナーが見とれているのだが、それを知ってても素知らぬフリをする。ヘンケン・ベッケナーも不器用だが、エマもまた正直どういう反応をしたらいいか分からないからだ。

 明確に二人が近付くにはもう少しの時間が必要だった。

 

 

 連邦もジオンも、艦艇の応急修理、乗員の救助を粛々と進める。

 激戦地であればその宙域も重なっている。つまり目の前で敵が同じようなことを行っているのが嫌でも目に映り、どちらも複雑な感情を持つ。

 しかし通じ合うものがないことはないのだ。

 立場が違うだけで、僚友を探し助ける気持ちは全く同じなのだから。

 それが終われば連邦もジオンも艦隊をとりまとめ、激戦のルウムを後にして帰還となる。

 

 

 

 俺は結局連邦の総指揮官グリーン・ワイアット大将とは事務連絡をしただけで、会うべき理由も時間もなかった。

 

 そして帰還すると真っ先にズム・シティへ報告に行く。

 ドズル閣下とキシリア閣下が待っているのだ。

 

「第三次ルウム会戦、期待されていながら勝てなくて申し訳ありません。揃えて頂いた艦艇の多くを損なってしまいました」

 

 もちろん真っ先にそう言う。

 俺のジオン艦隊は連邦に先手を取られ、正直いって危機の連続、損害も積み重なった。

 

「何を言うかコンスコン! 貴様はよくやった。いや、貴様でなければやれなかった。記録を見ると身震いが止まらんぞ。あの連邦の指揮官は戦術の化け物だ。宇宙を奔る雷撃を使った戦術などいったい誰が予想できるか! それに対して丁々発止、大胆に機転を利かせ、互角にやりあうなど貴様は本当に大した奴だ!」

 

 ドズル閣下は記録を見ておいてくれたのか。そう言ってくれるのはありがたいのだが、実質は明らかに俺の負けだった。

 

 

「キシリア閣下に対してもお詫びとお礼を申し上げます。戦いでは負け、停戦がなければ、連邦の捕虜になっていたところでした」

「ん? 何を言っているのか分からんな、コンスコン。お前は見事に勝ったではないか。負けたのは連邦の方だ」

 

 キシリア閣下は別に俺に対して気を使ったわけではなく、言葉に何の飾りもない。思ったままを言っている。

 

 全然ブレない人だな!

 

 キシリア閣下、この人にとっては政治が全てなのだ。

 その考えるところ、会戦というのは政治の舞台設定を整える作業に過ぎず、それ以上でもそれ以下でもない。政治で勝てばそれが100%の勝利であり他にどう言いようがあるのか。

 停戦したのは連邦、だから負けは連邦、それ以外にないということだろう。

 

 

 

 まあしかし、それは置いといて俺は次に来る問題を話し合わなければならない。

 停戦は素晴らしい成果だ。

 ジオンと連邦が戦争状態にないのは、大いに喜ばしい。

 

 ただし、停戦は終戦ではない!

 

 条約などあって無きがもの、いつ何時、戦争が再開するか分からない。今はただの戦闘準備期間かもしれず少しの気もおけない状況であることは間違いない。

 これでは平和を甘受するどころか、社会的リソースを復興に振り向けることもままならず、人々の生活は荒廃したままだ。

 

 停戦を何としてもしっかりした終戦に持っていかねばならない。

 

「キシリア閣下、停戦の経緯をお聞かせ下さい。それと終戦への道筋や方策も」

「なるほどコンスコン、やはり知りたいか。だがな、特別な話はないぞ。お前の戦略によってヘリウム3で連邦を追い詰めていたための必然に過ぎない」

「いやそれでも簡単ではなかったでしょう」

「ゴップ大将を通じて停戦の打診をしておいたのだ。あの狸は周りが言うような穏健派どころか連邦軍の存続しか考えていないが、それでも他よりはいくらか視野が広いからな。一方、連邦のタカ派どもを黙らせねばならん」

「それが一番難しそうなことですが……」

 

「なに、難しいというほどのことではなかったぞ。ねじ伏せるのではなく、逆だ。ジオンを停戦でぬか喜びさせうまくヘリウム3を引き出した上で再び開戦すればいいだけだと思い込ませた」

「ええっ! それはいったい」

「要するに停戦を方便として使う頭のいいやり方だというようにな。ジオンとしては騙されてしまった道化のフリだ。それをあたかも連邦から考えた戦略であるかのように偽装して流布し、思い込ませる。後は容易い。ジオンではなく連邦のタカ派どもから停戦を喜んで言わせた、そんなところだ」

 

 何ですと!

 

 キシリア閣下はいかにも簡単なことのように言ってのけるが、それができる手腕を持つ人物などそうそういるわけがない!

 ()()()()()()()()()()()

 簡単なものか!

 上手いタイミングで、上手いやり方で、上手いところを動かして初めて成し遂げられる超高等な政略である。

 

 

「そしてコンスコン、停戦を終戦に持っていくことだが、それは確かに難しい。ジオンとしてはヘリウム3の供出を少しずつやりながら誘導したいところだが…… 連邦一般市民のジオンに対する敵愾心を和らげることと、連邦政府上層部を利益誘導すること、これを同時になすのは正直無理に思える。供出しなくてはたぶん市民のスペースノイドへの敵愾心はつのるばかりだ。しかし下手に供出し過ぎると政府上層部は自分の手柄にするだけで、また図に乗って元の木阿弥になる」

「確かに…… 」

 

 連邦の面倒なところはそこだ。市民感情と政府上層部が乖離している。

 

 そしてどちらにも様々な主張があり、合理主義な人間もいれば、大儀や敵愾心に捉われる人間もいる。とにかく難しい。単純な復讐心ならばともかくアースノイド至上主義などどう見ても解決しがたい。

 

 

「まあ悪いニュースばかりではないぞ。話は変わるがコンスコン、知っているか、宇宙世紀憲章の伝説を」

「え!? それはまた急に話が飛びますが、キシリア閣下、ひょっとしてあの伝説でしょうか。皆が知っている宇宙世紀憲章はニセモノで、本当はスペースノイドが革新すれば、スペースノイドこそ優先的に参画させなくてはならないと書かれているとか」

「その通りだ。私もただの伝説だと思っていたのだが、事実だったらしい」

「は!? はあ?」

「本当の宇宙世紀憲章、当時のレプリカを今に至るまで保存しているという人物から連絡が入ったのだ。驚いたことに連邦内でそこそこの影響力のある人物らしいが…… ともかくそれを役立て、当時の宇宙開拓の原点を人々に教えて欲しいということだ」

 

 何だそれは。

 

 伝説が本当?

 しかも当時のものを保存ということはその人物が生きていると言うことか。しかし、それでどうなる。

 

「ですがキシリア閣下、そんなに前のことを今さら」

「そう、今さらだ。八十年も前の理想など人の心を変えるのに何の役に立つのか。人は大事なものでも振り返ったりしない。もはや宇宙世紀憲章がどうであってもとっくに風化している。しかしなコンスコン、全く利用できないものでもないぞ」

「それは、いったいどのように」

 

「宇宙開拓時代、スペースノイドは余剰人口の棄民というだけではなかったのだ。人類が宇宙というフロンティアに挑むという気概があった。その時代の雰囲気を語る材料にすることで、アースノイドがスペースノイドに対して持つ根拠のない優越感を砕くには使える」

「なるほど、ですが結局のところ、スペースノイドとアースノイドの差を打ち出すほど宥和しがたくなるのでは。目指すところは共存であり、一方的支配ではないでしょう。もちろん当時の熱気を知るという意味だけなら良いのですが」

「それもそうだ。まあ実際の物を見てから考えても遅くはない。実はもう取りに行かせているのだ。スペースコロニー群よりだいぶ地球よりのポイントらしいが」

 

 キシリア閣下との話はだいたいこれで終わる。

 これからも頭を悩ませる問題が山積していることだけは分かった。

 政治はとにかく難しいもので、俺にはやっぱり艦隊戦の方が向いているな。

 

 

 

 だが、そんな感想は停戦して気が抜けている時期だから言えることだったんだ。

 そのわずか十日後、俺はキシリア閣下に緊急呼び出しを食った。

 

「な、何用でしょう、キシリア閣下」

「コンスコン、お前に伝えることがある。先日言った宇宙憲章の件だが、取りに行かせた部隊が全滅した。何かの勢力に襲われたのだ」

「この時期に小細工ならともかく、連邦からあからさまな武力襲撃をするとも思えず、謎ですな」

「そうだ。確かに宇宙世紀憲章は持ち去られたが、連邦が今こんな形で停戦破棄をしてくるはずはない。謎の勢力とは頭が痛い」

 

 そして正にこの時、驚くべき凶報がもたらされたのだ!

 

「き、緊急連絡! 小惑星ぺズン基地が武装勢力により占拠! 同時に、真の連邦軍『ディサイド』を名乗り、連邦とジオンの停戦は茶番であり無効と表明!」

 

 

「………… だそうだコンスコン」

「謎は解けましたがとんだことです。今、事を荒立てるのははなはだマズいと思いますが、ほっておくわけにもいかないでしょう」

「全くだ。おそらく停戦に反対する急進派、どこにでもそういう者たちがいる。向こう見ずで、視野の狭い連中、恨みで動いているのかもしれんな。ただしぺズンは我がジオンが実効支配している領域、サイド2や6方面への橋頭保でもある以上速やかな鎮圧が必要なのは確かだ。連邦の方でも停戦中での敵対行動、恐れ入ることはあっても鎮圧に文句を言うはずはない」

「では鎮圧に出動して参ります」

「いや待てコンスコン。お前に今本国を動いてもらっては困る。どのみちぺズンの連邦急進派などせいぜい一部隊だろう」

「は? まあそう思いますが…… ではデラミン准将に行ってもらいましょうか。堅実に事を収めると思われます」

 

 

 さっそくデラミン准将に二十五隻もの艦艇を与え、ぺズンの再奪取に向かわせた。

 その時までには連邦急進派ディサイドの戦力は艦艇八隻、MSが三十五前後しかないと判明している。確かにキシリア閣下の言う通り一部隊程度に過ぎず、デラミン准将の戦力に抗し得るわけはない。

 

 これが痛恨だ。甘すぎた。

 

 そしてもう一つ、キシリア閣下は何と言っていた?

 「()()()()()()()()()()()()()()()

 そして俺にジオン本国を動かないようにということだったではないか。なぜなのか、その意味をもう少し深く考えるべきだった。どこにでもとは、すなわち連邦だけではない。

 

 

 俺の元へ、特大の凶報が同時に二つも飛び込んできた!

 

「コンスコン大将に連絡! デラミン准将の艦隊、ぺズン近傍にてディサイド勢力と交戦! 結果、旗艦他四隻を残して壊滅とのことです!!」

 

「報告します! アクシズ駐留部隊エンツォ大佐らのグループが叛乱! 連邦との停戦破棄を求め、アクシズを占拠!」

 

 

 宇宙の波濤は、少しも収まる気配がなかった。

 

 

 

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