コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第百三十四話 共闘

 

 

 俺はぺズンを占拠した連邦急進派勢力ディサイドについて、甘く見過ぎていた。

 

 討伐に向かわせたデラミン准将はそこそこ有能な将であり、俺の艦隊の分艦隊を任せるほどだ。特に、変なプライドがないため退くべき時にはしっかり退く将でもある。

 ディサイドとの戦いで充分ゆとりを持った戦力を持たせたはずが、それをあっさり覆されたのも驚きだが、そういう性格のデラミン准将を一気に全滅に近い状況に持っていくのはかなり難しいはずだ。

 これは強いな。はなはだ練度が高いか、策士が優れているか、あるいはその両方か、いずれにせよ決して侮れない。

 

 力押しだけではダメだ。

 再びの失敗はできない以上自惚れかもしれないが、ここはやはり俺が討伐に行かなければならない。その許可をドズル閣下とキシリア閣下にもらいたいがそれが叶うだろうか。

 

 

 それなのに今、ジオンは何と自分のところにも叛乱を抱えてしまっている!

 

 おそらくキシリア閣下はそれについて何かの情報を掴んでいたんだ。だから俺をペズンへ行かせなかった。もしかすると俺をこれからペズンではなくアクシズへ送り出すつもりかもしれない。

 

 しかし俺の見るところアクシズの問題は後でいい。

 

 ジオン本国とは距離があり、さしあたって何も実害はなく、たぶん叛乱を起こしたエンツォ大佐もそういうことは分かっている。本国とまともにやりあうのが目的とは思えない。連邦と再び戦端を切るように圧力をかけたいのだろう。

 エンツォ大佐というのはあまり俺も面識はないのだが、長くマハラジャ・カーン准将の副官を務めた実直な軍人だそうだ。そして思想的にはなかなかの主戦派、それでは突然の停戦にも納得しかねるのだろう。

 停戦とはつまり、連邦を打倒してジオンが人類を主導するという夢を諦めるということでもある。有能な軍人であれば連邦とジオンの国力を分かってないはずはないが、それでも現実的な諦めとは違う。エンツォ大佐は将来ジオンで人類を統一する、とてつもない大風呂敷を真面目に信じているのだ。

 

 しかしまあ、この二つの出来事は見事なほど似ていて、まるで鏡写しではないか。

 

 どちらも停戦に納得しない急進派なのだ。

 連邦とジオン、どちらにも、あくまで戦い続けて相手を消滅させたい勢力がある。

 長い戦いの結果、そこまでお互いの対立の溝は深まっている。どちらも欲や利益ではなく信念で動いているところがやりきれない。しかも本来なら称賛すべき、自己犠牲を厭わない精神にあふれているが故にこんな行動に出てしまったとは。

 俺は深いため息をつく。

 

 

「疲れた顔だな、コンスコン」

「あ、それは…… キシリア閣下も同様ではありませんか」

「そう見えるか。正直疲れたが、今やっと解決への光明が見えかけているので問題はない」

「え、光明!? そうなのですか? では、叛乱が収拾したと」

「逆だコンスコン。アクシズではエンツォ大佐の黒幕としてホルスト・ハーネス統治官というタカ派までもが関与していた。とどめに茨の園にいる旧ギレン派の一部が呼応してアクシズに向かっているという情報が入った」

「え、ええっ! 大変ではないですか! キシリア閣下、どこが光明なのでしょう」

「ある意味、今そんな動きをしている者たちは最初からどうしようもなく、いずれ行動してしまったろう。ただし、こういってはなんだがデラーズが生きていれば丸ごとそちらへ寝返り、いっそう大ごとになった可能性が無きにしもあらずだから何ともいえない」

「それは…… 確かに」

「そういう急進派の見極めがついた。その数も分かった。不確定要素が消えたので光明と言ったのだ」

 

 なるほど、そういう言い方もできるし、不確定が一番怖いというのも分からないではない。

 しかしアクシズにはそこそこの戦力が渡ったということだ。

 やはり俺はそちらの鎮圧へ行くのだろうか。

 

 

「で、ではアクシズ正常化に赴くということでしょうか」

「コンスコン、先走るな。お前をアクシズにやることも考えていなかったわけではないが、今は全く思っていない」

「あ、それはどうしてでしょう」

「アクシズにはシャア少将を派遣する」

 

 これには驚いた。

 なぜだ! シャア少将はギレン派とは遺恨があり過ぎる。

 

「そ、それは! 降伏や恭順の可能性が限りなく低くなるではありませんか! それは理解できません、キシリア閣下」

 

 向こうが説得に応じるとは思われず、話し合う余地を最初から作らないも同じではないか。なぜそんな措置を。

 確かにシャア少将ならば戦いになっても負けることは考えられないが……

 シャア少将のゲルググとララァ少尉のエルメスの戦闘力は言うまでもなく高く、たいがいの部隊は敵しえるものではない。しかもシャア少将は戦いになれば迷いもなく、手加減などしないだろう。

 戦いという意味で不安は皆無、しかしそういうことではないのだ。

 

 

「私を非情と思うかコンスコン。私とて恭順に持ち込み、話がまとまるのが一番だと思っている。だがな、これはしっかり膿を出し切るためには必要なことなのだ。ヒロイズムに酔う人間も、頑なに連邦を敵とする人間も、ギレンの兄しか見ようとしない人間も要らないのだ。これからのジオンには」

「…… なるほど。それで連邦と停戦という千載一遇のタイミングを利用してまでも閣下は……」

「もちろん、貴重な戦力や有能な将兵を失いたくない。いやそれだけではなくて、彼らがジオンを思う気持ちに嘘偽りはないと思っている。それでもだ、コンスコン」

 

「そのような覚悟とは…… 分かりましたキシリア閣下。では逆に、私はペズンの方へ討伐に行けるのでしょうか」

「いやお前が討伐してはならない」

「へ!?」

 

 アクシズに対する処置は非情といえば確かにそうだ。

 なぜ同じジオンで争う。だが、未来を考えたら必要なことなのか、キシリア閣下は少なくとも私情で考えてはいない。

 それはともかく、どういうことだ?

 俺がどちらにも何もしないでいいとは!

 ペズンだってこのままにしておけないではないか。

 

「驚いたろうコンスコン。お前は顔に出やすいな。実はぺズンの討伐は連邦軍自らが行う。連邦もそうでなければ格好がつかないことが分かっているのだろう。向こうの最高指揮官がペズンまで出向いて、確実に収め、きれいに返却してくれるそうだ」

「まあ、それであれば…… ある意味当然かもしれず、ジオンに下手な借りを作ればまずいと考えるでしょう」

「むろん、こちらとしてはジオン支配宙域であることを盾にとって断ることもできる。そしてあくまでこちらがペズンを討伐した方が恩を売りつけることになり、これからの交渉で有利にもなろう。しかし連邦がそう言うならそうさせるのも一興と考えた」

「一興とは?」

「ジオンが討伐すれば、連邦急進派をジオンと悲愴な戦いを演じた殉教者に仕立ててしまう恐れがある。下手すれば次々と同じような者が出てきてしまう。そうではなく連邦に連邦を叩かせるのが良かろうし、向こうの中に面倒な波紋を呼べたらなおさら面白いだろう。政治とはそういうことを考えるものだコンスコン。一筋縄ではないぞ」

 

 これがキシリア閣下の凄みだ。いや、それでなければ政治という魑魅魍魎の世界を渡っていけないのだろう。

 

「それはそうと、今回お前は討伐ではなく、検分という形で連邦の艦隊に同行してもらう」

 

 

 

 そして俺は展開の早さについて行けない。

 どうしてこうなっている。

 わずか一ヶ月前にはとうてい考えられない。

 まさか、第三次ルウム会戦で死闘を演じ、幾多の将兵を損ない、互いの国家のためにぶつかりあった連邦の将と同席しているとは!

 

 

「紅茶は好きだろうか、コンスコン大将」

「ま、まあ、人並みには……」

 

「それはよかった。では万人受けしやすい、癖のないヌワラエリヤでいいだろうか。スリランカでもかなりの高地産、澄み切っていて香りもいい」

「正直、スペースノイドには紅茶の銘柄を吟味する余裕はなく、全く未知のことなので。グリーン・ワイアット大将」

「それは残念。紅茶は産地により千変万化、まるで違う味が楽しめ、知れば知るほど奥が深い。その日の気分に合わせるのは至上の喜びだ。それほど探求しがいがあるものなのに」

 

 俺は紅茶の銘柄どころか何でも味音痴なのだが、一応そう言い繕った。

 相手をしているワイアット大将は、副官格の将に何やら申し付ける。

 

「ではヌワラエリヤで頼むよ。熱すぎないようにね、ステファン・ヘボン君」

 

 

 

 そもそもの発端は数日前に遡る。

 俺はチベ三隻の陣容でズム・シティを出発した。多すぎても少なすぎてもいけない、ちょうどいいところだ。俺の役割は戦闘ではなく、単なる見届け役に過ぎないからには。

 

 そして行き先はもちろんサイド6の小惑星ぺズンになるのだが、その途中で連邦艦隊と合流する。

 

 今回、ぺズンの叛乱を討伐する連邦艦隊は少数も少数、たった12隻とは!

 ただし、何と連邦軍宇宙艦隊総司令官の職に就いたばかりのグリーン・ワイアット大将自らが率いていることには驚きだ。

 今はもう俺はこのワイアット大将が第三次ルウム会戦で渡り合った将だと知っている。

 

 連邦のマゼランやサラミスと俺のチベが並んで航行していくではないか。

 いや、何度見てもこの図式には違和感がありまくるが、本当に世の中は不思議にあふれている。

 

 

 そんなことをのほほんと思っていたが、ぺズンに到着する少し前、連邦側から突然相談を持ち掛けられたのだ。

 

「コンスコン大将と、作戦の最終打ち合わせが必要と思われる。是非旗艦マゼランにお越し願いたい」

 

 急になんだろう。

 

 まあ、確かにこちらは戦闘をしないとはいえ、逆に邪魔にならないように振舞うためには事前に相談が必要かもしれず、あえて断る理由はない。

 俺はケリィ・レズナーとクスコ・アルという無難な護衛の人選をして三人でマゼランに赴いた。

 さすがに艦橋は軍事機密なのだろうな。そこは見せられず直ぐに艦長室に案内された。これが現在までの経緯である。

 

 

 

 今、目の前にいる連邦軍グリーン・ワイアット大将は物腰柔らかく、紳士的に対応してくれている。

 ただし紅茶を飲んでもちっとも本題に入る兆しがない。

 

「確かに香りのいい紅茶、ワイアット大将、かなりの逸品と見受けました」

「おお、本来権限をこういうことに使うのはよろしくないが、私も紅茶だけはそこそこの物を用意させているので。お分かりですかな」

「表現はなかなかできませんが、いいものなのでしょう。しかしワイアット大将、そろそろ打ち合わせに入りたいのですが。ディサイドの予想される動きや鎮圧の具体的手順などについて」

「そう急ぐ必要もありますまい。コンスコン大将、他の方々も先ずは気楽に」

 

 …… いったい、何を考えているのか。

 

 

 

 


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