コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

135 / 152
第百三十五話 連邦艦の中で

 

 

 気楽にと言われても俺は連邦艦の中、停戦中とはいえ緊張が解けるわけはない。

 

 落ち着かないまませめてもの時間潰し、マゼランの艦長室の造りをちらちら見る。

 ジオン艦とはだいぶ違い、明るく、全てがシンプルに造られている。空間自体もなかなか広い。

 

 だが俺は棚にあったある物に目が釘付けになった。

 白磁のティーセットだ!

 他にアンティークなものが何もないためそれだけが目立つ。

 それらの白磁は無重力下で使える形ではないため、艦ではただの飾りなんだろう。しかしわざわざここへ持ち込んでいるからには、ワイアット大将もけっこうな愛好家に違いない。

 たぶん、いや確実にマ・クベ少将と話が合う。

 骨董か近代かの違いはあれど似たようなものだ。この情報をマ・クベ少将にも伝えてやろうじゃないか。

 しかしそうするとキシリア閣下にも情報が行くだろうな。とすると、賄賂にならない範囲で、マ・クベ少将のコレクションからグリーン・ワイアット大将の手にいくつか寄贈されるものが出てくるだろうか。キシリア閣下が言えばマ・クベ少将はそうせざるを得ない。

 

 泣くだろうな。マ・クベ少将は。

 

 いいや逆か?

 むしろコレクションを実用に供してもらい、布教ができたように思うかもしれないな。今でもあちこちに白磁を贈っていると聞いたことがある。

 そういうマニア心というものは複雑で、分かり難いものらしい。

 

 俺が本当にどうでもいいことを思っていると、グリーン・ワイアット大将が聞いてくる。

 

「コンスコン大将はカップに興味がお有りかな。これはヘレンド磁器、マイセンより意匠が細かくて優美なところがいい」

「はは、そうなのですか、さすがにお詳しい。しかし重ねて言いますがワイアット大将、高尚な話より、そろそろ作戦手順などについて話し合わねば」

「お気にせずとも、そう難しいことにはなりますまい」

 

 適当に相槌を打ち、気まずくならない範囲でもう一度促してもやはり話は進まない。

 

 

 その時、突然艦長室に通信が入る!

 

「敵影確認! と、突然反応が現れました! ディサイドMS、接触まであと一分! グリーン・ワイアット司令、至急艦橋にお越しを!」

 

「やれやれ、緊急事態では仕方がない。コンスコン大将、一緒に艦橋へ来てもらえるだろうか。戦闘中ではシャトルでそちらの艦へ戻ることも危険だ」

 

 そしてわざとらしく微笑むではないか。

 

 

 やられた! これは狸だ!

 

 俺は理解した。

 こうなることを予期して、タイミングを見計らって俺をマゼランに呼んだのだ。

 ワイアット大将は恐ろしいほど確かな読みを発揮し、ディサイドからの予想襲撃宙域を最初から考えていた。

 俺をここに呼び、話をはぐらかして紅茶で時間を潰し、その上で緊急事態を理由に俺がチベに戻れないようにしたんだ。

 

 だが、そこまでして俺をマゼランにとどめ、しかも艦橋に同行とはどういうことか意味がわからない。

 

 急ぎグリーン・ワイアット大将と共に、俺はマゼランの艦橋に入ったのだが、その瞬間連邦軍服を着た艦橋要員たちがこちらを驚いたように見る。当たり前だ。ジオン軍服を着た人間が俺とケリィ、クスコ・アルと三人も連邦艦にいるのだから。

 

 俺は逆にマゼラン艦橋が珍しくて見てしまう。

 ジオン艦とはまるで違っている。

 照明は明るく、白っぽい。艦長室を見て薄々思った通り、非常に簡素に造られている。

 俺は白磁や紅茶に全く興味はないが艦マニアなんだ!

 細かな違いにでもいちいち感心してしまう。

 空間自体はさすがに連邦の主力戦艦、広く、シンプルさとも相まってチベはもとよりティベの倍も広く感じる。

 ただし、それでも我がジオンのグワジン級にはとうてい敵わない。グワジン級は広さもだが、豪華さにおいて一段や二段ではなく、別格ともいうべき風格がある。

 

 艦橋をしげしげ見る俺に対し、ワイアット大将は何も言わない。たぶん軍事技術の塊である艦橋を見せるのはあまり良くないことなのでコメントしないんだろう。まあ、緊急事態ということで俺を入れた以上、うやむやにするつもりだろうということは分かる。

 

 

 それはともかく、ここでワイアット大将はいきなり俺に質問を投げかけてきた。紅茶の話とは打って変わって現実的なことだ。

 

「コンスコン大将、ディサイドが蜂起した連邦急進派勢力であることはご存じだろう。では、なぜペズンなどを占拠したのかな」

「ん? それは連邦勢力下ではなく、ジオン勢力下の場所であることが重要なのではないか。危険なところへ先鋒として出向いている形をとり、政治的アピールをしたいのだろう。急進派を統合する旗印になる。今のままでは勢力は小さく、呼びかけて仲間を増やしたいのだ。しかもジオンにとってペズンは今やただの辺境、直ちに大軍で奪回すべき場所ではないのも絶妙に好都合といえる」

「おお、さすがにコンスコン大将、政治的なところまで思慮が深い」

「…………」

 

 大げさにうなずいてくれるが、ワイアット大将が心から同意している感じはしない。例えるなら教師に採点されているような気がする。

 

「コンスコン大将、私はそれに加えて、ペズンがサイド2に近いことも理由ではないかと」

「サイド2に近い…… サイド2! ではまさか、あのコロニーレーザーを!」

「気付きましたか。そう、コロニーレーザーを復活させられれば、小勢力といえども盤上をひっくり返せる」

「ワイアット大将、では事態を甘く見ず、ここでしっかり鎮圧せねば!」

 

 

 コロニーレーザーが近かったか!

 

 なるほど、そういう可能性もある。俺も失念していた。

 かつて連邦が造りかけたコロニーレーザーをなんとかジオンが叩いたが、それはレーザー発振部を破壊したのであって密閉型コロニーの構造体そのものを破壊したというわけではない。密かに修理されればとんでもないことになる。

 これは決して小さな事件ではなかった。

 

 ワイアット大将はさすがに読みが深いな。まったく敵として戦いたくはない将だ。

 

 

「それはそうとワイアット大将、現れたディサイドのMSはどうなっただろうか? そのために急いで艦橋へ来たのに」

「ああ、おそらくただの斥候でしょう。ほっておいても構いません。それに離脱しようとするエースパイロットを今から追わせても無駄かと」

 

 そう言った通りになった。

 俺とワイアット大将が艦橋に到着するころにはディサイドMSはもう退き始めていたんだ。

 

 

「しかしコンスコン大将、ディサイドと名乗った者たちも面白い戦術を使う。突然MSが現れるなどとよく考えたものですな」

「MSが、突然……」

「もちろん戦術であって魔法ではない。凡将相手になら有効でも、コンスコン大将のような方を相手にそんな姑息なカラクリが通じるわけがない。全て見透されてしまうとは、彼らも実に運が悪い」

 

 そう言いながら、ワイアット大将はにこやかにこちらを見てくる。慇懃だが目は笑っていない。

 これまたいったい何だろう。

 

 

 だが俺も少しずつ分かってきた。

 

 単純なことだったんだ。

 ワイアット大将が俺をマゼラン艦橋に置き、こうして戦術の会話をしたがっているのは、競い合いたいのだ。

 つまり戦術能力について自分と俺と比べたい。

 先の第三次ルウム会戦では消化不良なんだ。だから一種の意趣返しのようなことをする。

 まあ、表向きはただの会話、競い合いとはいえ何の実害もない。そんなたわいもない勝負は目くじらを立てる必要もなく、俺としても少しは思うところを話してもいいだろうか。

 

「なるほどこれではデラミン准将の討伐が失敗し、艦隊が壊滅に追い込まれてしまったのも無理はない。MSがいきなり目の前に現れて攻撃してくれば何もできないうちにやられてしまうだろう。ワイアット大将、向こうがペズンを選んで占拠したのはこの戦術を使いたいという理由もあったというわけか」

「おお、コンスコン大将はよく見ておられる!」

「つまり、向こうが目をつけた戦術の鍵はぺズンの射出装置だろうな」

 

 

 小惑星ペズンは、元々サイド2とサイド6の建設に当たって資源採掘用に運ばれてきたものだ。サイド7におけるルナツーなどと同じ立ち位置である。

 そこには小さいが射出装置という資源打ち出しの設備が置かれている。どうせ真空中の輸送、いちいち輸送艦を使って運ぶより効率的なためだ。ちょうど月のマス・ドライバーのようなものだが、それよりは格段に小さい。むろん小惑星の重力が極小なため、それほど大それたものは必要ないからである。

 

 おそらくそれをディサイドの連中はMSの打ち出しに利用したんだ。なかなか難儀な改造だったと思うが、とにかくそれをやり遂げたに違いない。

 

「ワイアット大将、射出装置で充分な初速をつけて飛び出したディサイドMSは、急減速をしながら艦隊に接近したのだ。普通とは全く逆になる。普通ならばMSは艦から発進し、加速をかけながら目標に接近してくるものだから。このやり方をされたら、艦からすればMSが突然現れたように感じてしまう。魔術というより奇術、トリックだな。当然、弾幕で撃ち落とそうにも勝手が違って有効でなくなる」

「さすがはコンスコン大将! 簡単なヒントから見事に解き明かすとは!」

 

「そう大げさに言われても、ワイアット大将は初めからお分かりだったと察するが。この戦術は初速が大きい分だけ途中で目標の変更は難しい。だから、こちらの艦隊の正確な位置や数を知る必要があるため、一度は斥候を放ってくるはずというわけだ。おまけによほどのベテランパイロットでなければ務まらない。いやはやそこまで見切っていたのであれば、最初から緊急事態ではないとも分かっていたのにお人が悪い」

 

 グリーン・ワイアット大将は俺のせめてもの意趣返しに応えず、わずかな微笑みだけを残す。

 そして艦隊指示の方を優先した。三十分後、本格的なディサイドMSの襲来をもって戦闘が始まる。

 

 

「全艦戦闘配備! 艦隊形をすみやかに変更する。コンスコン大将の指示通り、艦隊はぺズンに対して直角方向に並ぶのだ。そうすればペズンから見たら横一線になり、重なるところがなく、的を絞らせずに済む。その上で各艦はぺズンからの直線経路に対空砲の照準を合わせ、その線上を高速でやってくるディサイドMSを迎撃すればいい。皆、名高いジオンのコンスコン大将に連邦将兵として無様な姿を見せないようにお願いする」

「え? ワイアット大将、何も言ってないが…… 」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。