コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第百三十六話 徒花

 

 

 マゼラン艦橋にワイアット大将の作戦指令が続けざまに飛ぶ。

 

「MSは全て出て艦の影に待機、ディサイドMSが減速し攻撃態勢に入るところまで待ってから仕掛ける。ディサイドMSはジム・クゥエルかまたは試作高性能機、しかもチューンナップされたエース機揃いだ。しかし、数は少数、先手を取って囲めばなんとかなる。MS戦力を初めに誘い出し、そうやって退けた後、艦隊は急進してぺズンを艦砲で叩く。ディサイドの戦力はMSが主であり他は大したものではない。そこで随時降伏を促しながら無力化を進める。なるほど見事な作戦、感服しましたコンスコン大将」

「え、そ、それは……」

 

 ワイアット大将が一気に艦隊へ出した指示は、実は俺が考えた対処とほとんど同じものだった。俺でもやっぱりそうする。

 その意味で俺とワイアット大将は戦術家として同じく高みにあるということだ。

 いや、討伐艦隊が12隻というのはそもそも過不足ない数であり、最初からこうなることを見切っていたのであれば、悔しいが戦術能力は俺より上かもしれない。

 

 しかしこんな当てこすりのように言ってくるとは!

 まるで子供の嫌味のようではないか。とても子供っぽくは見えないワイアット大将だがそんなことをするのか。

 

 

 

 そして始まった戦いは描いた青写真のように進む。

 正直、ディサイドは個々の技量は確かであり、戦術にも優れていた。

 しかしこの場合は相手が悪いとしか言いようがない。討伐側には俺やグリーン・ワイアット大将がいるのだから、あらゆる面で及ばず、ディサイドに勝機は初めから存在しないも同然だ。

 

 ディサイドMSはこちらの艦隊形に合わせてやむなく分散し、一艦につき三機ほどに分かれてやって来た。合計は予想とほぼ同じ四十機足らず、出し惜しみはしなかったらしい。そこに対空砲火を浴びせて半分は叩き落とす。向こうは射出装置による高速のため一直線に来るしかなく、最初からそうと分かっていればいくら速くとも墜とせる。

 

 残りは諦めて撤退することはなかった。

 

 士気が衰える様子はなく、あくまで艦に取り付こうと粘る。しかしそこへ一斉にこちらのMSたちが横合いから仕掛ける。

 さすがにディサイドMSは一騎当千、観察する俺の目から見てもエース級の腕前を持つパイロットが揃っているようだ。

 こちらのMSも少なくない犠牲を出し、艦も早いうちに三隻は爆散に追い込まれた。

 だがそこまでだ。

 操縦技量は優れていても、数には負け、対空弾幕に押し込まれる。

 

 一機、また一機とディサイドMSが消えていく。

 終盤はおそらくディサイド隊長機を守ろうとしたのだろう。それらは多数を相手に一歩も退かず奮戦し、動ける限り動き、前向きに果てていく壮絶な戦いをしていった。

 最後に二機だけ残ったがおそらくこれがディサイドの隊長機と副隊長機だろうか。

 そこに至ってようやくペズンへ撤退していった。

 

 

 次は艦隊によるぺズン直接攻撃になる。早いところディサイド艦艇を叩き、次にぺズン司令部付近を艦砲であらかた吹き飛ばす。このあたりの手腕もワイアット大将は確かであり、澱みなく進めていくのはさすがだ。

 区画確保が進む度、降伏勧告をたびたび出しているのだが全て無視される。やむなくMSを再び出し、力で制圧にかかるしかない。

 

 最終局面、またしてもディサイドMSが数機出てきて尋常ならざる奮戦をしてきたが、やがて片付けられ、最後に一機を残すばかりになる。

 ここでそのMSから唐突に通信が入ってきたではないか。

 

 

「ディサイド隊長、ブレイブ・コッドだ。討伐にきたグリーン・ワイアット閣下、聞きしに勝る力量、心から称賛する。同じ連邦軍として言い方はなんだが安心した。志を遂げられなくなったことは残念でも、最後の戦いは華となり、閣下のような将と戦えたのは武人冥利に尽きる」

「では早いところ投降してくれたまえブレイブ・コッド君。これ以上は連邦軍にとって、本当に何の意味もない」

「投降はできない。連邦の大義である単一国家を信じる我らこそ真の連邦軍であり、連邦を護る最後の盾である。投降というなら他が我らに投降すべきだろう。大義を捨て、ジオンなどという分離主義者どもに話を合わせる連邦軍などもはや形骸だ」

 

「 …… 君に信念があるのは認めよう。だが現実、連邦軍の規律を揺るがし、連邦の立場を弱めているのはディサイドの方ではないか」

「ワイアット閣下、議論はしない。我らの蜂起は断じて無駄ではなく、掲げる大義の正しさは、必ずや歴史が証明してくれる。通信をしたのは戦闘に参加していない後方要員を助けてもらうためだ。トッシュ副隊長がとりまとめているので救助を願いたい」

「自分だけは大義のために投降しないというわけか。それもまた無駄だ。今からでも翻意してはくれないかな、ブレイブ君」

 

「閣下の温情には感謝するがそれこそ無駄だ。それと通信をした目的はもう一つ、奪取した『箱』は処分させた。そちらにはジオン艦もいるのでこれを聞いているだろう。宇宙世紀の初めに書かれたたわいもない妄想に過ぎず、下らんものだった。今に至っては必要ない」

 

 

 話はそこまでだった。

 隊長機は飛び上がり、こちらのMSたちの頭上を越え、艦の方へ真っすぐ向かってきたのだ。

 その手にビームサーベルだけを持つ。

 ビームライフルではない。そこそこの距離がある以上、ビームサーベルには何の攻撃力もなく、つまり儀式以上のものではない。

 それを知るとグリーン・ワイアットは小声で命じる。

 

「わざわざビームライフルを捨てたか…… 武人として全うすることだけ考えているのなら、こちらも礼節をもって遇さねばならない。残念だ。本当に」

 

 艦からメガ粒子砲を撃ち放つ。

 一度二度は外れる。しかし、三度目は隊長機を真っ向から貫いた。これは戦いではなく、作業でもない。哀惜を込めた介錯である。

 ビームサーベルをかっちり正眼に構え、隊長機は武人を体現する姿を崩さないまま光となって消えた。

 

「総員、敬礼せよ! 連邦の勇士の最期を決して軽んずることなく、忘れることのないように」

 

 

 ディサイドの動乱はこうして終結した。

 最後に何とも言えない後味を残して。

 

 箱のことはどうでもいい。俺は事前にキシリア閣下から箱の保全は必須ではないと言われていたからだ。

 考えるのは信念に殉じた男たちのことである。

 

 俺がそう思っているくらいだからワイアット大将はなおさらそうなのではないか。今回叛乱を起こし、全滅に近い最期を遂げたのはワイアット大将にとって同じ連邦軍である以上、心情が穏やかなはずがない。

 ただし俺に言ってきたのはそんなことではなく、もっと深いことだった。

 

「コンスコン大将、そういえば言い忘れていた。このディサイドの叛乱は決して実行犯だけの問題ではなく、裏で糸を引いていた人物がいる。連邦軍後方参謀のメジナウム・グッゲンハイム少将だ。連邦でもガチガチのアースノイド至上主義者だね。ジオンとの停戦など絶対に認めないほどの」

「アースノイド至上主義者、やはりいたのか……」

「それともう一人、政府上層内にとどめるべき『箱』の情報を流したり、物資に融通をきかせたりしたのは連邦政府の若手官僚、アデナウアー・パラヤだ。そうそう、ジオンのキシリア殿はアデナウアーの奴に停戦を方便にするというようなことを吹き込んでくれたらしいね。奴と話して気付いたが憎らしいほど狡猾な手だ。さすがにジオンのキシリア殿としかいいようがない。もっとも、奴の方では未だにジオンの手の平で踊らされたと認めたくないようだが」

「なるほど、同じくアースノイド至上主義の官僚が存在していたとは根が深い。しかし、奴などという言い方は、よく知っている人物のようだが」

 

 ここで初めてグリーン・ワイアット大将は影のある表情を見せたのだ。

 そこには深い精神的疲労がある。

 

「おお、コンスコン大将。私とアデナウアー・パラヤとは親友なのだよ。私は武官、奴は文官の道を選んだが、元は同期の仲間だ。今回の事件で既にメジナウム少将とアデナウアーは逮捕され、おそらく極刑になるだろう。私が嘆願したところで全く無駄、それならばむしろ私はアデナウアーの生まれたばかりの子供の後見人になろうと思っている。その子の成長を父親代わりに見守ることが、事件を事前に止められなかったせめてもの罪滅ぼしだと思うからだ」

「それは……」

 

 グリーン・ワイアット大将は人並み外れた将だが、やはり人間だ。

 むしろ人情家の側面があった。紳士然としているがそれは感情の強弱とは関係ない。

 

「コンスコン大将、大変申し訳なかったが、私がたびたび当てこすりのようなことを言ったのも八つ当たりのようなものだ。冷静ではいられなかったからね。今回蜂起した急進派は人類や連邦のことを考えて行動した立派な武人たちだったし、アデナウアーだって同じだ。宇宙の塵に返すのは本当に惜しい者たちだった」

「…… ワイアット大将、この立場で言うのもなんだが、心からお悔やみ申し上げる。そして当てこすりの件は気にしていない」

「感謝する、コンスコン大将。こうして語り合えたことをせめてもの事件の収穫としたい。そして未来へつなげることが散った者たちへの供養になると信じよう」

 

 

 

 俺はチベに戻り、ぺズンに赴いて後始末をつけていく。しばらくかけて基地機能を復旧させ、その後やっとズム・シティへ帰る。

 この間俺は色々と考えることがあった。

 

 連邦とジオンの溝は深い。

 

 そして信念ともいえるまで相手に対し敵愾心を深めた人間たちがいる。どちらの側にも。

 ディサイドは単一国家の正義を心から信じていた。

 その裏にはアースノイド至上主義者たちがいた。それを差別主義の悪と断じることは簡単だが、現実的にそういう人間は多いのだ。

 一方でジオンでもエンツォ大佐のようにあくまでジオンが支配する人類社会を目指す人間がいる。それはあえていえばジオンだけの正義だが、信念であることは間違いなく、奉じる者たちは決して曲げようとはしない。

 

 どうすればアースノイドとスペースノイドが宥和する道が拓けるのか。

 

 

 

 そしてズム・シティでキシリア閣下とドズル閣下を前にして、事件の顛末を報告すると同時に俺の考える和平への方策を述べたのだ。

 

「な、何! コンスコン、正気か! 冗談にしても突飛過ぎるぞ!」

 

 キシリア閣下がそれほど驚くとは、しかも政治の話で驚きを隠せないとは俺も見たことがない。ただしそれは決して楽しいことではなく、理解してもらうためのハードルが高いことを意味する。

 

 

 


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