コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第百三十七話 驚くべき提案

 

 

 俺はズム・シティに着くと、ドズル閣下とキシリア閣下にぺズンでの顛末について報告をする。

 もちろん討伐に来たグリーン・ワイアット大将率いる連邦艦隊が叛乱部隊の奇策を逆手にとって打ち破ったこと、見事な手腕で無力化していったことなどについてありのままにだ。

 

「…… というわけで、連邦のグリーン・ワイアット大将の戦術能力によって危なげなく事は静まりました」

「いやそれはともかくだ。コンスコン、連邦艦に乗り込んで検分とは、いつもながら度肝を抜かれるな! 貴様は凄い奴だ」

「あ、ドズル閣下、乗り込んだわけではありません。招かれてそのままいてしまったというか…… やったことは極上の紅茶を飲んだだけで、むしろ失態でしょう。とてつもなく間抜けな」

 

 ドズル閣下はやっぱりそこにきたか。

 俺は全く正直に返したのだが、ドズル閣下はうんうんうなずいている。

 まさか俺が海賊のように連邦艦に突入した姿を思い浮かべているのではないだろうな。無理がありすぎるだろう!

 

 

 ドズル閣下がそういうたわいもない感想しか言わないのは、横にいるキシリア閣下に実務を任せているからだ。

 さっそくキシリア閣下が言ってくる。

 

「箱は失われたようだが、それはどうでもいい。敢えていえばそのディサイドの言い分からすると伝説は本当だったと推測できるが…… まあ済んだことだ。私としてはあればあったで使いようもあるがそれほど拘るべきことでもない」

「任務の一つを達成できず申し訳ありません、キシリア閣下」

「それよりコンスコン、こちらから先に言っておくことがある。お前も気にしているだろうアクシズについての情勢について、やはり衝突するのは避けられない。さすがにシャアは動きも速く、もうアクシズに近付いているのだが、エンツォ大佐はどうしても降伏に応じてこないのだ」

「やはり、そうなりますか…… エンツォ大佐も信じる正義を奉じ、武人として立ったからには」

「そう、残念だがジオン同士の戦闘になってしまう。ただし救いなのはエンツォ大佐もお前が言う通り武人、アクシズの民間区画や技術区画には手を出さず、未だエネルギーや食糧の供給もきちんとしているらしい。ならば戦いでシャアに追い詰められてもアクシズの自爆などは考えないだろう。紆余曲折はあれどアクシズはこちらに取り戻せる」

 

 

「…… キシリア閣下、あえて言うのですが、それは表面に出ただけであって根は深いのでは」

「ん? どうしたコンスコン。確かにこうした事件は表面に見えるものだけで、予備軍である根は深いものだ。更にいえば、それだけでも済まない。土壌としての意識は至る所にあるだろう」

「やはりキシリア閣下は分かっておいでだろうと思っていました」

「戦争というものは負の遺産が大きすぎるものだからな。そして人の意識に根付いた不信感や敵愾心はそうそう消えるものではない。おまけに誤った正義感などはどうして消せるだろう。しかしコンスコン、不思議だな。なぜお前がそんなことを言う?」

 

 

 ここで俺は息を吸い、ようやく考えを言葉に出す。ここで話すのだ。

 

「キシリア閣下、ジオンと連邦との停戦を終戦にもっていくにはあまりに道が遠いと存じます。普通の交渉ではなかなか進まず、その前に再戦になったら目も当てられません。そこで大胆に、思い切った歩み寄りによって宥和を成し遂げてはいかがでしょう」

「…… それは、交渉の進展によっては相手の驚くような譲歩が必要なこともある。そういう演出ももちろん選択肢として考えないではないが、実際はなかなか難しいのだぞ。政治の駆け引きというのも薄氷を踏むようなものだ」

「大胆にというのは本当に大胆に歩み寄るのです」

「何を言いたいのかわからんが、ではどこまでのことを指すのだ、コンスコン」

 

 キシリア閣下は俺の差し出がましい言葉を咎めず、教え諭すように言ってくる。ここはそこに甘えて言ってのけるしかない。

 

「キシリア閣下、そしてドズル閣下、お聞き下さい。あえて申します。ジオンは独立せず、連邦の一員にとどまるとすれば」

 

 

 一瞬の間がある。

 

 解釈をしようとしてできないのかもしれない。言葉の爆弾だ。

 先ずはドズル閣下が反応した。

 

「何だと、聞き間違いか!? ジオンが独立しないとはどういうことだ。コンスコン、何も考えなしにそんなことを言う貴様でないことはよくよく知っているが…… だがそれにしても訳がわからん。我らはジオン独立のために戦ったのではないか。ここまで苦労を続けて。自主独立という大義を捨てては散っていった英霊に対して何と答えよう」

 

 当然の反応だ。

 もちろんジオン独立のために俺もドズル閣下も、たくさんの者が長く苦しい戦いを戦ってきたのだ。そしてギレン総統やエギーユ・デラーズのように志半ばにして散った者たちはあまりに多い。

 次にキシリア閣下も言う。

 

「何! コンスコン、正気か! 冗談にしても突飛過ぎるぞ! ……ドズルの兄者と同じセリフを言ってしまうのはなんとなく悔しいが、それでも言わざるをえん。独立しないとは断じて交渉の歩み寄りの範囲などではない。交渉でもなんでもない。これでは終戦ではなく敗戦になり、ドズルの兄者の言った通りだ」

 

「ドズル閣下、キシリア閣下、落ち着いてお聞き下さい。我らの悲願は長いことジオンの独立ですが、本当にそれが大義でしょうか。違うのではないでしょうか。連邦の不当な圧力、支配、差別主義を排するのは当然、スペースノイドの誇りを輝かせるのも当然、しかしそれは国を分けるのと同じでしょうか」

「 …… それは、詭弁にも聞こえる。サイド3がジオンとして独立せねばいつまでも連邦の支配が続く。おまけに連邦は腐っているし、スペースノイドに対する差別主義は横行、しかも改善どころか悪い方へ向かっている。それが分かっているからこそサイド3は独立する。だから大義だ。これのどこがおかしい」

「キシリア閣下、これまでの戦いは無駄ではなく、二度と連邦が搾取できないように条件を整えられるでしょう。経済も、自治も、様々な権利も、名を捨てることによって実を取れるのです。そうなれば連邦に参加する一つの自治領の立場でも、決して連邦の支配下というわけではありません」

 

「名を捨てて実、難しいことを言う。こちらから逆に聞くがコンスコン、どうしてジオンの独立をそこまで拒む。今の情勢ならばヘリウム3を餌にして少なくとも期限付きの独立は可能なところまで来ているのだぞ。それぐらいの交渉は私がしてみせる」

「いつまでもヘリウム3をダシには使えないでしょう。民生用も考えれば。それにジオンが独立すると連邦急進派は収まりがつかず、下手をすれば連邦が無秩序になりえます。腐っていても形があるから話ができるわけで、形が崩れれば連邦軍も暴走を始め、いずれ再戦は不可避です」

「だからといって、それでは話が逆ではないか」

 

「正直に言えば、国家が立ち並ぶのを許容し戦争がなくなるほど人類の精神は成熟しておらず、そもそも独立は時期尚早ではないかと考えています。本当に差別と偏見がなくなった時、認め合える時代が来るかもしれません。未来の話ですが」

「お前がそこまで言うとはな…… しかしそれでもやはりジオンの負けになる。お前は連邦のゴタゴタを言っているが、ジオン内部の急進派も黙ってはいるまい。エンツォ大佐が100人も出てくるぞ。いや、私ですら認められず、連邦に屈するのかと言いたくなる!」

 

 

 俺はキシリア閣下との会話の中でそこまで説明した。ドズル閣下はじっと押し黙っている。言いたいことはキシリア閣下が言い切っているのだろう。

 

 そしてキシリア閣下はやはり大した方、理性的に俺の話を聞いてくれている。だがそれでも、ジオン独立を収めることは全く考えにも入っていない。やはりキシリア閣下のような方といえども戦争の勝ち負けにはこだわりがあるんだ。

 更に俺は説明を続ける。実はここからがジオンと連邦の宥和のキモなんだ。

 

 

「むろん、ジオンは敗戦ではありません。形式上連邦の一員にとどまるというこれ以上ない譲歩をするからには、連邦にもそれ相応のことをしてもらいます。いやそのための独立取り下げなのですから」

「いったい、何を言いたい。連邦に何を求める」

「連邦を宇宙に上げるのです!」

「な、何! 連邦の方を宇宙にだと!!」

 

 

「連邦がスペースノイドを理解し、それによって溝を埋めるにはその方法しかありません。地球から見ているだけでは宇宙はあまりに遠く、その断絶によっていつまでたっても意識の上で対立は続くでしょう。その結果勝つか負けるか、支配するかされるかの緊張が解けることはないのです」

「 ………… 無茶なことを言う……」

「いや連邦市民を宇宙に送るわけではありません。三十億人もの人間を宇宙に送るのはむろん現実的ではないし、その必要もないでしょう。何といっても地球は広大で、人類のふるさとであり、地球でしかなしえないことも多いのです。先の地球作戦で地球の大きさをはっきり感じました」

「ではどうするというのだ」

 

「宇宙へ送るのは連邦議会、すなわち上層部です。現時点での宇宙における最大都市フォン・ブラウンなどであれば連邦議会を移すのも可能、それで問題のほとんどは解決できます」

「それでも大変なことだぞ…… 」

「宇宙に連邦政府があればいずれスペースノイドへの偏見は改まります。それに復興が進んだ将来、必ずや宇宙人口は地球を上回り、いずれかの時点で移転が必要なのは自明です。少しでも考える能力のある官僚が連邦にいれば認めたくはなくとも理解はするはず。おまけにその提案をあくまで連邦政府が拒みいつまでも終戦をしないのでは、連邦市民の支持を失う可能性が高いとも思われます」

 

「コンスコン、まさにとんでもない方策だな。連邦議会を月面になど、簡単に行く話だとゆめゆめ思うな。だがしかし全くの荒唐無稽でもない。一応検討はするが、期待せずに待て」

 

 

 キシリア閣下は誠実な人間だ。そう言うからには本当に検討してくれる。俺は言うべきことは言ったのだから、もうそれ以上することはない。

 

 

 それからしばらくして、ジオンが独立を取り下げ、公国ではなく自治領になることと、その代わりに連邦議会を月に移転して人類社会を運営すること、つまり俺がキシリア閣下に言った和平提案のことが一般のニュースとして流れている。

 これは、おそらくキシリア閣下がわざと情報をリークしたのだ。

 連邦市民や、連邦を構成する各行政体からの突き上げを期待してのことなんだろう。

 それは分かる。

 しかし俺が驚いたことに、このジオンからの提案が俺の発案だということまで漏れている、いやわざと漏らしているじゃないか!

 

 

 

 連邦議会も官僚も紛糾に紛糾が続いている。

 ジオンからの提案を巡り、それをはなから一蹴する人間もいれば、現実的に考える人間もいる。それぞれの立場の人間がそれぞれの論を振りかざす。

 単一国家地球連邦を守る大義からすれば提案は渡りに船ではあるのだが、安全で住み慣れたジャブローから月への移転など議員のほとんどにとっては拒否したいところだ。拒絶ありきの考えから脱却できない議員は多い。そうでない議員は少数しかいないが、しかしゼロというわけではない。

 とにかく連邦も一枚岩ではなく、まとまりがつかない。

 

 

 そんな折、何と連邦内部からジオンの提案を強力に支持する勢力が現れたのだ!

 

 それは南洋同盟である。

 南洋同盟とは南アジア一帯を占める政治連合のことであり、そこから今では中央アジアや西アジア方面、アフリカの一部にまで勢力を急伸させている。

 ジオンの進軍がヨーロッパからヒマラヤ山脈で止まったため、比較的戦争の被害が少なかったせいもあり、連邦内での人口は実に三割弱、工業生産なら二割を占めている重要なグループである。

 

 そして驚いたことにその南洋同盟の実質指導者の名はレヴァン・フウだ!

 

 かつて北米オーガスタ基地でNT実験体にされていた者である。

 もちろん、地球降下作戦でオーガスタ基地を襲撃し、レヴァン・フウをそこから救ったのは俺だ。

 レヴァン・フウはその後、本当の僧正として宗教指導者となり、この一年で南洋同盟に少なくない影響力を持つまでになっている。そのレヴァン・フウがジオンの言う連邦議会移転と終戦を支持したんだ。

 これは大きい。

 

「ジオンからの提案は素晴らしいものです。平和への妙薬ではありませんか。それがあのコンスコン大将からの提案であればなおさら。私はコンスコン閣下から受けた借りは返すつもりです、実現へ向け協力は惜しみません」

 

 

 

 


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