コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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第百三十九話 隠された脅威

 

 

 確かに発想は突飛でも合理性という意味なら土星開発も充分に合理性がある。しかもソーラ・レイをこのために送るなら、今が改造を始めるのにいいタイミングだ。

 さすがにキシリア閣下の考えと唸るしかない。

 しかも話には続きがあった。俺の土星行きには隠された目的があったのだ。

 

「コンスコン、お前を土星にやるのはもう一つ理由がある。人類がエネルギー資源を全て木星に頼っている現状は少しばかり歪んでいるとは思わないか。それは木星の政治にも影響し、思わぬ事態を招くかもしれない」

「そういうことでしたら木星開発は今、クラックス・ドゥガチという有能なリーダーがまとめ上げ、苦闘しつつも前進していると聞いていますが」

「そうだ。木星圏という水も酸素もない過酷な環境のためか、今のところはドゥガチの独裁が続き、それでうまくいっているようだが…… 先のことは分からん。ともあれ土星からのヘリウム3調達はバランス上必要なことなのだ。そして木星が何かしでかした際にはその抑止力となれ。つまりお前には木星の背後になる位置から睨みを利かせる役を頼みたいのだ。もちろん、困った事態にならなければ木星圏をいい友人として協力し、共に発展すればいい。そういった判断を正しく行える者はお前しかいないと思っているのだぞ」

「…… 分かりましたキシリア閣下。土星に植民後、ヘリウム3の供給と、木星圏の監視をしていきましょう」

 

 

 確かにその意味なら俺が土星に行く価値がある。余りに遠い旅路になるが必要な事業なのだ。

 しかし、一つ重大な現実的問題を口にせざるを得ない。

 

「コロニーならば移動途中も何ら不自由ないでしょうが、しかし逆に言うと運営するにもけっこうな人員が必要かと。艦なら数百人の単位で済んでも、コロニーとなれば数万人規模の人間が必要になるでしょう。辞令で動かせる軍人ならともかく、民間人も多数必要となると…… 例え募集しても誰が土星まで行きたいと思うでしょうか」

「お前という奴は…… 本当にそう思っているのかコンスコン。人員が集まらないとか笑止だ。ズム・シティは工業も食糧生産もしない行政府だからこそ千五百万人が住めているが、そもそもコロニー一つにつき数十万から数百万人が適当な数だろうか。私はな、それを超えてしまわないか心配なくらいなのだ。ではこの際、お前の人望とやらを自分の目でしっかり見てみろ」

 

 

 俺は退出してから土星行きのことを考える。

 まあ、やってやろうじゃないか。

 旅立てば、おそらくもう地球圏には戻ってこれないだろう。片道でも8年かかるのだから。

 俺はこれから土星周辺で拠点建設に頑張るのだ。それがジオン、ひいては人類の未来を良くすることにつながると信じよう。

 

 先ずは人集めをするわけだが、俺の周辺の者にはむしろ容易に言い出せない。

 俺の艦隊は絆が強い。

 己惚れるわけではないが、もしも深く考えず同行を志願してきたらどうする。一時の気の迷いで決めていいような問題ではなく、これは各人の一生の問題であり、後で後悔してほしくないんだ。

 

 

 艦隊に帰っても、俺は難しい顔をしていた。

 そこにいきなり面会希望が入る。

 

「海兵隊シーマ・ガラハウ中佐だ。コンスコン大将に話がある」

 

 早い!

 噂を聞きつけたものにしては早過ぎる。これはおそらくキシリア閣下が直接シーマ中佐に言ったに違いない。

 取り次いできたオペレーターに、会う旨を伝えるように言い、シーマ中佐を待つ。

 

「コンスコン大将! ソーラ・レイ、いやマハル・コロニーを元に戻して土星に出発すると聞き、是非それに参画させて頂きたい。海兵隊一同揃って」

「え、いやそれはちょっと…… ジオンもすぐに軍を縮小か解体するわけではなく、何年もかけて段階的に進めるものだ。今でも海兵隊が重要なジオンの戦力であることは間違いない以上、全員を引き受けるとなると…… もちろん人員自体は喉から手が出るほど欲しいのだが」

「いいえ! 海兵隊はほとんどマハル出身、故郷が再建されるのに戻らないわけがなく。キシリア閣下は我らのことをよくご存じで、海兵隊の異動を織り込み済みのようでした。しかもジオンの戦力のことを言うならば、むしろコンスコン大将こそ重要では」

 

 なるほどな。マハル・コロニー出身者は故郷を丸ごと失ってしまい、ことさら望郷の念が強い。ソーラ・レイから甦ったマハル・コロニーに来たいのだ。しかしそれなら強く言っておかねばならないことがある。

 

「……申し出はとてもありがたいのだが、シーマ中佐、では正直に言おう。土星への植民は簡単なことではない。地球圏から遠く離れているだけで精神的には堪えるだろう。それに植民にあたっては思わぬ事態や困難も予想され、むしろそういうトラブルは付き物で、しかも地球圏からの支援は事実上ない。予め余計に物資を持っていくこともできないだろう。戦争の後の膨大な復興のことを考えたらな。結果的に地球産のもの、例えば酒や紅茶なんかは充分に支給できず不自由な思いをさせることになる。故郷が復活したと喜んで乗り込んできた者たちをがっかりさせたくないのだ」

 

「ああそんなこと! とっくに覚悟の上さね。それよりマハルで暮らす方が重要なのさ。あたしらにとっては」

 

 俺は本心からそう言ったのだが、シーマ・ガラハウ中佐は言下に否定し、どうしても植民に参画したいと訴えてくる。使い慣れない敬語を捨て、真摯なまなざしで。

 もはや議論は不要のようだ。

 

「分かった。とてもありがたく受けよう。海兵隊なら護衛戦力としてもこれ以上のものはない。しかし出発はまだ未定なのだ。これから改造工事に取り組むこともだが、とにかく人員を集め、少なくとも十万人にはしたいのだが」

「コンスコン大将、護衛なら引き受けた。マハルを二度と失わないよう海兵隊が死んでも護る。そして人員のことなんか何の心配も要らない。マハルが甦るとなれば、あたしがみんなに声をかける。そうすれば必ず戻ってくるさね」

 

 

 

 こうしてシーマ・ガラハウ中佐との話は終わった。

 俺が知るよしもないが、この事業によってシーマの悪夢はやっと終わりを告げた。自分のしたことで悩まされ、露悪的にふるまうようになっていたが、ガトーらに会って本来の明るさを取り戻しつつあった。そして今ようやく故郷という心の拠り所を取り戻し、素直で前向きなシーマ・ガラハウになれたのだ。

 

 俺は一息つきながら、この土星植民事業がいよいよ回り出したのを実感し、感慨にふける。なんていう時間はなかった!

 いきなりもう一人の来客があったではないか。

 それも余りに意外な客だった。

 

 

 

「コンスコン大将、お時間を取らせて申し訳なく思う。しかし絶対に話しておかなければならない用件があって来た」

「それはいったい…… どんな話だろう、マハラジャ・カーン准将」

 

 その客とはマハラジャ・カーン准将だ!!

 俺も正直いってどんな話なのか何の見当もつかず、頭が真っ白になるほかない。

 

「訝しんでおられますな。無理もない。しかしこれは今、話さねばならんのです」

「カーン准将、おそらく土星開発の話を聞いて、それで来たと思うが……」

「おお、その通り。しかしキシリア閣下もいい人選をされたものだ。土星開発をあえてコンスコン大将に託せるとは…… 運命に感謝せざるを得ない」

「それはどうも。しかしそれで何を?」

 

「今から話すことは重大な秘密であると先ず申し上げる。掛け値なしにこれ以上重大なことはなく、正直言えばジオンも連邦も、この戦争も、どうでもよくなるほどの秘密ですから」

「何!? カーン准将、この戦争がどうでもいいくらいのものとは……」

 

 意味が分からない!

 そんな表現をするほどのことが存在し得るのか? しかもそれを今俺に話すとは。

 

「文字通りだ。コンスコン大将。ジオンも連邦もたかが主義主張の違い、戦争といったところで人同士の細かい争いに過ぎない。しかしこの秘密は人類の存亡に関わる。先ずはこの画像をご覧頂きたい」

 

 

 大いに困惑する俺をよそにカーン准将は手持ちのタブレット端末を取り出し、俺がそれを見えるような位置にして手で支える。

 そのタブレットに今から何が映るというのか。

 俺は間もなく始まった動画を注視するが、いきなり驚いた。

 

 そこには、沢山の幼児が映されていた!

 

 ざっと十人以上いるだろうか。年はたぶん四歳ほどでしかない。いずれも幼児用の可愛いつなぎを着て、大きな部屋の中でそれぞれが遊具を取り、楽しそうに遊んでいる。一人は音の鳴るカスタネットを手に取ってパンパン叩き、別の者は滑り台を下から登ろうとしている。

 

「プルー」

「プルプルー」

「プルプルプルー」

 

 そんな意味不明の言葉を言いながら遊んでいたが、やがて一人遊びに飽きてきたようだ。

 部屋の中央に二人集まり、三人集まり、やがて全員が縦につながって肩に手を置いている。そこから一列のまま部屋の中をぐるぐる行進していく。楽しくて仕方がないように笑いながら。

 

 本当に和む光景だ。

 誰でもこれを見たら、子供たちに幸せな未来があるように願うだろう。

 

 だがしかし、そんな問題ではなく秘密とやらに何の関係がある?

 

 

「…… カーン准将、子供たちの楽し気な映像はいいが、どういうことだ? 」

「子供たちを見て気付きませんかな。年恰好どころか何から何まで同じであるということに」

「ん? 確かに…… 言われてみれば全員女児で髪も顔もよく似て…… いったいこれは何だ」

 

 本当に同じように見える。髪の明るいオレンジ色も、みながみな同じだ。そういう幼児が集まったのか?

 

「コンスコン大将、よくお聞きいただきたい。この子らは大それた『実験』の産物なのだ! たぶんコンスコン大将はグレミー・トトのことを知っておられるのではないか?」

「いきなりその話とは…… グレミー・トト、俺の知る範囲で言うとトト家に預けられた幼児で、ギレン総帥の隠し子という噂のあった者だな。そんなわけはないと思うが、噂のせいかキシリア閣下がわざわざ後見人になっている」

「隠し子というのは半分当たって半分外れということになりますな。あれはギレン総帥の遺伝子をわずかに組み入れて生まれたのですから。いわば1%の隠し子といってもおかしくはない」

「え、そうなのか? 何だそれは……」

 

「しかし、それについては元から存在する遺伝子をつないだだけの話、科学的に大した意味は無い。その映像の子らに比べれば」

「いや、もう遺伝子とか、頭が追い付かない。では今の子供らはいったい何をどうしたというのだ」

「その子らは遺伝子に直接手を入れて生まれたもの、その操作をコーディネイトと言い、正に人類にとって禁断の実験となる」

 

「コ、コーディネイト!?」

 

 

 俺は驚くばかりで声も出ない。

 いったいどういうことだ? そしてなぜカーン准将がそれを知っている?

 

 

 


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