コンスコンだけど二周目はなんとかしたい   作:おゆ

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余話 50年後 ~ 別離 ~

 

 

 地球圏に三つの政治的ブロックが対立し、互いに牽制しあうようになっている。これでは動乱が起きてしまっても自分の陣営に得か損か、そんな駆け引きを考えるだけで協調できるはずもない。

 逆に言えば、何か事を起こそうとする側には実に好都合である。

 

 ブッホ・コンツェルンは長いこと待っていた。十年、二十年もの間、そんな情勢を。

 

 今や人類社会のどこにでも深く浸透し、その持てる力は人類社会の一割を支配すると言われたほどの強大なコンツェルンだ。既にサイド1には自社のコロニーを建造し、人口は少ないとはいえ一種の治外法権を作り出している。

 しかしながら、企業活動をして富を蓄えるだけに満足することはない。

 富が最終目的ではない。

 それは政治的な支配に至るただの手段と認識していたのである。

 創始者であるシャルンホルスト・ブッホから一族は脈々とコスモ貴族主義を受け継ぎ、いずれは独自の勢力圏を築き、その思想のもとに統治する野心を隠していた。その貴族主義がいかに優れているものか人類に見せつけ、それで統一するためである。

 

 思いだけではなく具体的な策もある。

 ブッホ・コンツェルンは警備の一環と主張し、クロスボーン・バンガードという独自の軍事組織まで持つ。その艦艇やMSという軍事力は明らかに自衛のものを超え、もはや非合法の領域にまで踏み込んでいる。

 自社のコロニーは実際その拠点として運用するために手に入れたようなものだ。

 いずれ行う武力侵攻のため着々と準備を進めている。

 

 機動兵力の絶対数ではさすがに連邦軍に及ぶようなものではない。しかし逆に先駆けるように技術を進めていく。そしてついに念願の小型超高性能MSの開発に成功し、数の不足は質で補えるところまできたのだ。

 後は仕掛けるタイミングの問題になった。

 

 

 

 こうした動きについてサイド3ジオンのキシリア閣下が察知しないはずがない。

 

 ダメ押しに、ブッホ・コンツェルンに勤めている元ジオンパイロットの夫妻が決死の逃亡をしてきた。夫妻はクロスボーン・バンガードのテストパイロットにも関わったことがあったため実情を知り、それを伝えにきたのだ。

 ここでクロスボーン・バンガードの軍事的先進性と野望を知る。事態ははるかに差し迫っていた。

 

「……それで、明らかに軍事侵攻のためのMSなのだな?」

「そ、そうです、キシリア閣下。ブッホ・コンツェルンはもはや軍事組織、開発した新型MSの性能は今までのものより格段に優れ、恐ろしいことに急ピッチで量産化に踏み切ってます」

「そうか。バーナード・ワイズマン元曹長、ジオンのためによく知らせてくれた。以後はサイド3に移り住めばいい」

 

 

 だがキシリア閣下が危機感を募らせても対策は限られる。

 というのは、サイド3ジオンはかつてと異なり、既に軍事大国の面影は失われていたのだ。

 兵器開発よりも総合的な発展に力を入れた結果、経済力でこそブロックの一つを引っ張るようになったが、武力の面では質でも量でも衰えてしまった。かつてMSという新機軸で世を席巻したようなジオンではなくなっている。

 

 時はもはやあの戦争から四十年が過ぎ去った。

 

 今からジオンが備えようにも実戦経験のある者の多くは世を去っている。更にパイロットともなればあまりに乏しい。自前の士官学校はあるが、その教官さえ実戦経験がない始末、育成もままならない。

 仮にブッホ・コンツェルンがサイド3を標的として仕掛けてきた場合に退けられるか……

 たぶん無理だろう。

 キシリア閣下は間もなく引退し、長く後見人として自分が鍛えてきたグレミー・トトに後進を譲るつもりであった。巧妙にも表向きはトト家の後継としてグレミー・トトを立てる一方、最大の貴族家であるザビ家自体はミネバ・ザビが受け継ぐ、そういうところが実に上手い。

 世代は代わっていくもの、自分の引き際を自分で決めて幕を引く、そんなキシリア閣下はこの動乱への対処を引退前の最後の仕事と決めた。そして手を打っていくのだが、その一つとして土星圏へ援助の要請を申し込んできたのだ。

 

 

 

 俺への通信自体はドズル閣下が画面に出ている。

 

「コンスコン、元気か? 俺はこんなだが、まだくたばることはない」

 

 俺は目を疑った。

 もちろん最後に会ってから四十年、ドズル閣下が老けているのは当たり前であり、そんなことは俺もそうなのだからお互い様だ。しかし今、画面のドズル閣下は軍服こそ着ているものの、病院のベッドに半身を預けながら語っているではないか!

 あの頑健を絵に描いたようで、殺しても死なないようなドズル閣下が、病院とは。

 

「…… こんな情勢だ。コンスコン、なんとも宇宙は落ち着かんものだな。財閥ごときが軍事力で攻めてこようとは、ちょっと前なら俺がビグザムで叩きのめしてやるところだ」

 

 そしてジオンとして要請するらしい。人的支援、それも実戦経験のある者を欲しいという。

 

 俺は決断した。

 地球圏を出る時、一緒に優秀なパイロットを大量に連れてきている。そう願ったわけでもないが結果的にそうなってしまったから仕方がない。それは皆、コンスコン機動艦隊を支えてきた伝説級のパイロットたちである。

 

 今、ジオンを助けるため彼らを帰そう。

 

 もうMSパイロットの第一線で働ける年齢ではないかもしれないが、後進を育てるのには大いに役に立つ。

 しかもタイミングがいいことに土星圏では新鋭の高速大型輸送艦が完成したところなのだ。それは木星圏の持つジュピトリスよりも大型で、しかも速く、おそらく今までの半分の四年で地球圏に到着できる性能を持っている。

 

 

 今度は別離だ。

 

 俺はガトー、カリウス、シャリア・ブル、クスコ・アル、ツェーン、カヤハワなどとここで別れなくてはならない。

 

「ガトー、頼んだ。再びジオンを助けてくれ」

「はっ、コンスコン閣下も壮健で…… まことに、万感の思いがします」

「俺も同じだ。長いこと世話になった、ガトー。覚えているか、ソロモンの時から本当にエースとしてよくやってくれた。ジオンが負けなかったのはお前のおかげといっても過言じゃない。向こうに帰ったら無理をするな。なにもまたエースとして活躍しろというのではなく、ジオンを守れるような後進を育て上げればいいんだ」

 

 万感の思いなのは俺の方である。幾多の思い出がよぎる中、これがガトーらを見た最後になる。

 

 尚もツェーンが「尻を蹴る人間がいなくなったからといって羽を伸ばしたら承知しないわよ!」などと言っていたのも記憶の一部に変わってしまった。

 

 ちなみにケリィ・レズナーは既にいない。

 ケリィの溢れる冒険精神は土星にも留まらなかったのだ!

 

 高速大型輸送艦の一号艦が完成した時、それに乗って何と天王星探検に出た。

 早急にそれをする必要はなかったのだが、いずれはしなくてはならないことでもある。もちろん植民の可能性を一度は探る必要があるからだ。

 土星より更に遠く、太陽系外縁にある天王星は正直言って植民に適しているとは思えない。

 実は輪を持っているのだが土星のものよりはるか薄い、つまり水と鉱物資源がまばらにしかないと予想される。ヘリウム3だけは天王星から取れるが逆に太陽光はわずかなものだ。

 しかしながら、思いがけなく有用な鉱物が存在するのかもしれず、それは実際探検してみないと分からない。

 ケリィは喜んで夫婦ともども旅立った。

 

 こうして人類は宇宙を探索していくのだろうか。

 いずれは惑星を探索し尽くし、恒星系にまで手を伸ばすほどに。

 まあ、そこまで行くには完璧なコールドスリープ技術と、推進剤を使わない新構造のエンジンが必要になるのだろう。もちろん、俺が届くことのないはるか未来の話である。

 

 

 もう一つ、おまけのことだが、俺は通信後のドズル閣下のことは聞いていない。

 

 たぶんそれはドズル閣下が手を回したせいなのだ。俺のところへ自分の訃報などが届かないようにしたんだろう。そんな悲しい知らせは確かに不要だ。

 俺とドズル閣下、二人で士官学校や戦争の時期を乗り越えた思い出は素晴らしく、色褪せるにはあまりに惜しい。

 時代が移り変わってもこの繋がりは永遠のものだ。そこに終わりがあるはずもない。

 

 

 

 だがしかし時の流れは引き返すことも澱むこともなく、それは前へ向かって流れるだけである。

 俺の考えるべきことは昔のことではなく今の人々のことなのだ。

 

 

 結局のところ、ガトーらがジオンに到着する前にブッホ・コンツェルンの動乱が起きてしまった。

 

 直接的なきっかけは、何とアナハイム・エレクトロニクス社の衰退が原因だった。

 一時期は連邦に深く食い込み、絶大な権勢を誇ったアナハイム社、軍事関連の受注を一手に引き受けて死の商人とまで言われたアナハイム社はもはや形骸と化している。

 乾坤一擲の思いを込め、全社を挙げて新規開発したMSは悲しいことに純粋な性能で劣り、コンペで負ける始末だった。

 それも時の流れだが、もちろんブッホ・コンツェルンの興盛がその理由の一つだろう。そしてアナハイム・エレクトロニクス社は重要な開発拠点であったインダストリアルという事実上の自社コロニーを売り払う決断までしたのだ。もはや最先端技術から脱落し、人類社会のメインプレイヤーの座を放棄、小さくまとまることで延命しようという苦渋の策である。

 

 ところがその売り先もまたブッホ・コンツェルンだった。

 おまけにそのインダストリアルはサイド5にあったのだが、何と連邦軍の秘密開発拠点と近かったのだ。というよりブッホ・コンツェルンはそのことを掴み、連邦軍の開発拠点を叩きたいからこそ買ったというのが本当である。

 

 

 計画的に引き起こされた小競り合いがたちまち燃え上がり、本格的な軍事衝突になる。

 

 ブッホ・コンツェルンのクロスボーン・バンガードがついに解き放たれた。

 宇宙を跋扈し、次々に連邦軍拠点や主要コロニーへ奇襲を仕掛ける。MSも優秀だが、指揮官もまた有能だった。

 多くのコロニーが戦いに巻き込まれ人々が犠牲になってしまう。

 

 

 しかし、結局のところブッホ・コンツェルンの野望はならなかったのだ。サイド3の中枢や地球にまで戦禍が及ぶ前に収束した。

 

 クロスボーン・バンガードはむろん初期には優勢だった。

 それはテロに近い局地戦や民間攻撃だけではなく、驚くべきことに大会戦まで含まれる。慌ててルナツーや月面から出動してきた連邦艦隊総数九十隻をサイド5まで引きつけ、そこで包囲殲滅するという戦いまでしてのけたのだ。

 これは歴史上第四次ルウム会戦と呼ばれることになる。

 クロスボーン・バンガードのエースたち、「黒き死神」ザビーネ・シャルや「紫紺の電光」ドレル・ロナはかつての赤い彗星のような活躍をしてみせ、物量を盾に力押しにしてくる連邦軍を逆に叩き潰す。連邦軍は途中から指揮を引き継いだムバラク少将が活路を開いて逃げたが、それでも半数が宇宙の藻屑と化した。

 

 この戦勝をもとにサイド5を接収し、そこで貴族主義国家の建国を宣言するところまでは順調にいった。

 だがそれがブッホ・コンツェルンのピークとなる。

 戦略の乱れから全てを失うことになった。

 具体的にはクロスボーン・バンガードを統率するカロッゾ・ロナが暴走してしまったのだ。というよりその暴走を止められるだけの人間が周囲にいなかったのが全ての原因である。

 

 貴族主義国家は、まさにその貴族主義がもたらす硬直化した独裁のために滅んだ。

 これは皮肉としか言いようがない結果ではないか。

 

 手堅く建国した後はいったんそれ以上を求めない姿勢を見せ、あとは穏健な政治的折衝に入り味方を増やしていくという戦略であったのにもかかわらず、カロッゾ・ロナは途中から戦略を変えてしまった。ルウムの大勝により軍事力を過信し、戦線を能力以上に広げ過ぎた。

 最大の過ちはコロニー住民に対し無駄に残虐行為をして挑発したことだ。今となっては分からないが恐怖を統治の手段として利用しようとしたのかもしれない。

 

 

 宇宙の各政治ブロックは確かに協調することはなく、結果的に連邦軍は支援も受けられず補充もない有り様になる。しかしながら残虐行為が表に出れば必死で戦わざるを得なくなる。また、さすがに各政治ブロックもいったんは対立を棚上げにして、貴族主義に乗っ取られたサイド5とブッホ・コンツェルンの本拠のあるサイド1に対し、包囲体制を作り出す。

 そうなれば無敵のクロスボーン・バンガードといえども徐々に疲弊していくのは当然である。

 

 

 おまけにクロスボーン・バンガードは一つの重要な局地戦で敗退を余儀なくされてしまった。

 

 サイド5に最も近いことからサイド3ジオンにもまた矛先を向け、一度は侵攻作戦を企てている。

 それに対しジオンは乏しい戦力をア・バオア・クーに固めて防御に専念すると見せかけて罠を張る。そこを陥落させるべきか無視するべきか迷わせ、隙を作り出した瞬間、迂回奇襲を敢行した。

 

 この戦術がうまく嵌り、クロスボーン・バンガードを撤退させることに成功する。

 

 ジオン側の奇襲部隊を率いていたのはレズン・シュナイダーだったが、奮戦の末、命と引き換えに目的を達成した。

 

 ジオンに復帰していた彼女はついにジオンのために死ぬことができて満足だったと伝えられている。

 

 

 

 

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